にゃーは全部食べるにゃ
待ってくれ、僕はまだ一口も食べてないぞ。
デザートのリンゴなんかシャリシャリしてて美味しかったろうに…食べたかった!
シャリ…シャリ…
ああ、リンゴ食べた過ぎてシャリシャリって齧る幻聴まで聞こえてきた。
「あら、村の子…ではなさそうですね。お嬢さんはどちらから来たのかしら?」
エリシアさんの視線の先へと、僕もゆっくりと振り向いた。
小柄で可愛らしいが、どこか野生の気配というか警戒心の強い女の子が立っていた。
リンゴをシャリシャリと齧りこちらの様子を伺っているように見える。
「返せと言われても返さないにゃ、これはにゃーの物にゃ。」
しゃりしゃりと小憎たらしく齧る少女。
もしかして…
「もしかして、僕たちのお弁当を食べたのは君?」
「え!?食べたのミナトさんじゃないんですか!?」
少しシュンとするエリシアさん。
まだ誰かの胃袋に入っているのが救いだ。
「にゃーが食べたいものを食べて何が悪いにゃ。嫌ならちゃんと守るにゃ。」
最後の一口をシャリっと齧り飲み込むと、少女は手を丸め毛づくろいするかのように顔を撫で始めた。
「ミナトは弱いにゃ。だからいつもにゃーに食べ物とられるにゃ。」
「確かに僕は弱いけど…それでも…というかなんで僕の名前知ってるの?」
少女の顔を見るが知り合いにいない。
エリシアさんが美人系ならこの子は可愛い系。
エリシアさんとは違うベクトルの美少女だ。
こんな可愛い知り合いがいたら絶対に忘れない自信がある。
…だけど、どこか見覚えがある気もする。
「にゃーが誰だかわからないにゃ?」
服装から推理しよう。僕と同じ現代日本から来た人間ということがわかる。
歳は僕とエリシアさんと同じぐらい、多分高校生ぐらいかな。
同じクラスなら知らないわけがない。
そうか…わかった!
「君は隣のクラスの女の子だな!」
「ミケだにゃ。バカミナト。」
バカと言いながら殴りかかってくるミケ。
寸前で拳を避けた。危ないなこの子。
ミケ?ミケなんて知り合いはいないぞ。
飼い猫の名前はミケだが…こんな彼女にしたい系の女の子は知らない。
「ミナト、かかってこいにゃ!弱肉強食を叩きこむにゃ。」
そういいながらミケは襲い掛かってくる。
右パンチ!Hit!左パンチ!Hit!
右パンチ!Hit!左フック!Hit!
「痛い痛い!全部的確に急所に当たってる!」
可愛い女の子でもここまでぼこぼこにされたら反撃するしかない…
手加減は無用だ!
右パンチ!空振り!左パンチ!空振り!
右パンチ!空振り!左フック!空振り!
「さ、さすがに女の子相手に本気になれないよね?」
「ミナトはいつも言い訳するにゃ。」
ミケは身体を低くして攻撃態勢をとる。
完全に獲物を狙う獣の目だ。
「にゃーのことを忘れるなんてひどいにゃ。ぶっ飛ばすにゃ。謝っても許さんにゃ。」
彼女はしなやかに跳ね僕の懐に飛び込んできた。
僕の鳩尾に彼女の頭が突き刺さる。
エリシアさんのお弁当食べてなくてよかった。
食べてたら絶対吐いてた。
蹲り、痛みと苦しみで悶える僕をミケは見下ろす。
「とどめにゃ。」
まずい。さすがにマズい。僕はどうなってもいい。けどエリシアさんは守らないと。
僕は息絶え絶えに声を絞り出す。
「エリシアさん、ここは僕に任せて逃げるんだ…僕がなんとかする!」
とにかくミケを遠ざけないと。
僕は手が届く石や枝などをミケに投げつける。
ミケにはかすりもしない。
それでも、僕は投げ続ける。
けど、蹲ったままじゃ投げる物も限られてくる。すぐに弾切れになった。
やけくそになり、その辺にある草を引っこ抜き振り回す。
そこそこ長さがあり振り回し甲斐がある。
「うおおおおおお!」
「うにゃ?にゃあん!」
必死な僕の声に甘えた猫のような声がかぶさる。
甘えた猫のような声…?
動きを止めミケに目を向ける。
キラキラした目で手の草を見つめているようだ。
試しに草を右にやる。右を見る
左にやる。左を見る。
この動き…もしかして…
「お前、ミケなのか?」
「ミケはミケだにゃ。」
もう一度、手の草を見る。猫じゃらしみたいな形状をしている。
ミケは猫じゃらしで遊ぶのが大好きだった。
だからこの子はミケなのかもしれない。
かもしれない…が…
「ミケは猫だよ。君はどう見ても人間じゃないか。」
「人間にしてもらったにゃ。」
当たり前のようにミケを名乗る少女は言い放つが、すぐに受け入れられるわけがないだろう。
けど瘴気が存在するような世界だし猫が人間になる魔法があってもおかしくないのか?
動きもミケっぽいし、本人がミケって名乗ってるしミケなのかもしれない。
「わかった。君はミケなんだね。こんな世界で会えてうれしいよ。」
「そんなに早く受け入れられるミナトさん…懐が深いんですね…」
少し離れた場所から様子を見ていたエリシアさんが恐る恐る僕の横に立つ。
「ミケさん、私はエリシアです。よろしくお願いします。」
「エリシア、くるしゅうないにゃ。」
ミケはエリシアの手を掴むと自分の頭に押し付ける。
撫でろ撫でろと言わんばかりにぐりぐりと。
エリシアは言われるがままおっかなびっくり撫でている。
ミケはとても満足そうだ。
「僕は飼い猫?に会えて満足したけど…結局魚を強奪する獣は片付いてないような。」
「確かにそうですね…困りました…ミケさんは何かご存じありませんか?」
「にゃー以外に魚を食ってるやつがいるのかにゃ?許せんにゃ!魚は全部にゃーのにゃ!」
獲物を狙う獣の目。そんな目で湖のほとりを見渡すミケ。
僕とエリシアさんは顔を合わせ確信した。
「獣の方も解決したみたいだね…」
「平和的に解決してよかったですね。」




