湖の獣退治、のはずが平和すぎる件
「本当はすぐにでもここを発ちたいのですが…困りごとを片付けるまで待ってていただけませんか?」
「困りごと?」
「はい…この村の方は少し離れた湖で魚を釣って生計を立てているのです。しかし、最近獣のようなものに魚が強奪される事件が多発しているらしいのです。怪我人も出ているらしく、早く解決しないといけません。」
「そんなことも聖女様がやらないといけないの!?危ないよ!?」
「ご心配ありがとうございます。私には聖女様の加護がございますので大丈夫ですよ。」
聖女様の加護は獣にも効くのか?
さすがに女の子一人でそんな危険なところに行かせられない。
「僕も一緒に行くよ!」
「ミナトさんがですか?」
「僕じゃ頼りないかもしれないけど、囮ぐらいならできるよ!」
異世界だから狼男とか来られたら僕じゃ勝てない。
正直怖い。
「二人きりで…湖…湖畔で…男女が…つまりそれって…」
エリシアさんは一人でぼそぼそと何かつぶやいている。
そして何かを決意すると僕の目を見据えて言い放った。
「よろしくお願いします!けど危なかったら逃げてくださいね!」
なんだかものすごく覚悟を決めた顔だった。
湖に行くだけだよね?
僕たちは湖へ向かう準備を始めた。
というか、エリシアさんが始めた。
気合を入れてお弁当を作っていたけど、食いしん坊なのかな?
湖の獣退治よりピクニックの準備みたいだ。
獣退治ってもっとこう…武器とか持っていくものじゃないの?
◇◇◇
準備は万端!いざゆかん!獣退治!
人生初の魔物退治だ。
正直めちゃくちゃ怖いけど、ちょっとワクワクしている自分もいる。
「エリシアさん、レディーファーストって言うべきなんだろうけど危ないから僕が先に行くね。」
「レディーファースト?よくわかりませんが気を付けてくださいね。」
村の近くの森は人がよく通るのか、道が踏み固められていた。
木の枝も払われていて、思ったより歩きやすい。
村人がよく通う湖らしく、思ったより近かった。
足が疲れる前にたどり着くことができた。
「獣の姿はありませんね。水面も穏やかですごく気持ちが良いですね。」
湖のほとりで大きく背伸びをするエリシアさん。
獣が出るのにのんびりしてるなぁ。
けど無理もないか。こんな景色のいい湖畔に獣なんて出るわけないよ。
「ミナトさん、今のうちに腹ごしらえしておきませんか?」
「本当?嬉しいな。」
僕はいそいそと座れる場所を準備した。
並んで座れるようにしちゃった。
湖畔でエリシアさんの手作りお弁当かぁ、最高のデートだな。
彼女にそんなつもりはなくても僕の下心はざわついてしまう。
「それじゃあミナトさん、急いで作ったので味に自信はありませんが…召し上がってください。」
「わー!すごく美味しそう!」
開かれたお弁当は急いで作ったとは思えないぐらい美味しそうだった。
骨付き肉とか葉っぱでトマトみたいな綺麗な野菜を巻いたお花みたいなサラダ。
すごくそそられる!
「早速いただきます!」
フォークを勢いよく突き刺そうとする前に、エリシアに声をかけられた。
「あ、すみません。ミナトさんのカバンに水を入れておいたのでとっていただけませんか?」
「うん、いいよ。」
僕は身体をひねり背後に置いたカバンをのぞき込む。
あったあった。カバンの底の方に押し込まれている。
それを引っ張り出してエリシアに渡す。
「あら、お弁当箱がもう空っぽ。ふふ、ミナトさんったら急いで食べて大丈夫ですか?」
「え?」
もう一度お弁当箱に目を落とす。見事にすっからかんだった。




