目覚めと聖女、そして少しだけおかしい世界
僕は、夢の中で思い出していた。
あの日はいつも通りゲームして、お菓子を食べて、ベッドに入ったはずだ。
明日は体育の授業があるから面倒だなって記憶がある。
そうだ。
夢の中で、綺麗なお姉さんに会ったんだ。
そして僕は、異世界に来た。
思い出せ僕、彼女と何を話したんだっけ。
「ふふ、温かそうなマフラーちゃんですね。」
綺麗なお姉さんの言葉に僕は頬を緩ませる。
「僕は勇者になれますか?」
そこから先は覚えていない。
夢の続きなんて、だいたいそんなものだ。
だけど、彼女は確かにこう言った。
あなたは唯一無二の勇者です、と。
◇◇◇
目が覚めると目の前は知らない天井でした。
この構文を使う日が来るとは夢にも思わなかった。
おはようございます。天野湊です。ちなみに高校生です。
身体を起こすと節々が痛む。ノドがカラカラだ。
とりあえず起きて人を探そう。そしてお水をもらおう。
このままだと干からびて死ぬ。
もぞもぞとベッドから降りようとしたとき、誰かが部屋に入ってきた。
「あら…もう起きて大丈夫ですか?」
白いローブをまとった女性が立っていた。
足元まで伸びる衣は無駄な装飾がなく、ただ胸元にだけ金の刺繍が入っている。
まるで光をまとっているようだった。
一言で言うと、すんごい美少女だ!
シスターさんみたいな神聖さがあり、目を奪われる。
「あの、その…そんなにまじまじと見つめないでください…照れてしまいます…」
頬を赤らめ目を伏せる。
可愛いな、すごく可愛い、可愛いな。
おっと一句詠んでしまった。失敬失敬。
まだ僕が夢見心地で浮いていると、もう一度扉が開く。
今度は豪快に音を立てて一人入ってくる。
「あんれま!起きれたの?若いっていいねぇ!」
活発そうなおばさまがずかずかと入ってきてベッドの脇に置かれたテーブルに水差しを置く。
空いた手で僕の背中をバシバシと叩いた。
ベッドから転げ落ちると思ったが、何とか踏ん張る。
「起きたんならシャキッとしんさい!聖女様にお礼言ったん?はよう言いなさい!ありがとうございますね聖女様!」
「いえ、私は何も…」
「聖女様がいなかったらビートもこの子も瘴気でやられてましたよ!さすが聖女様の浄化能力!」
あっはっは!と笑いながらおばさまは部屋から出ていく。
小さな竜巻でも来たのかと思った。
「君が助けてくれたの?」
「言いにくいのですが…私は何もしてません。というよりも、何もできませんでした…」
彼女は顔を伏せる。耐えるように手を握るのが見えた。
しかしハッした後、顔をあげ笑顔を作る。
「すみません、自己紹介が遅れましたね。私の名前はエリシア。聖女みなら…いえ、今は聖女です。」
「僕は天野湊、ミナトって呼んでください。勇者です。」
一瞬聖女見習いって言おうとしてたってことは、最近聖女として認められたってことかな?
それにしても綺麗だなぁ、夢で見た人も美人だったけどこの子もすごく美人だ。
なんか、向かい合っているとドキドキする。
「私は、瘴気人の被害が多発するこの村に派遣されてきました。しかし、私が到着する前に瘴気人の襲来があったようですね…本当に申し訳ないです。」
「エリシアさんのせいじゃないですよ!」
思った以上に大きな声が出てしまった。
目の前でエリシアさんが肩をピクリと震わせる。
「エリシアさんの浄化能力がなければ今頃僕は死んでましたよ!本当にありがとうございます!」
「いえ、違うんです。私が浄化したわけではないのです。」
「じゃあ誰が?」
エリシアさんは首を傾げている。本当にわからないようだ。
「他に聖女様がいた、とか?」
「可能性はゼロじゃないけど…低いと思います…」
「それじゃあ…僕が聖女だった!?」
確かにそれなら納得がいく。
僕が勇者だと仮定しよう。浄化能力を持っていてもおかしくない!
つまり!僕が聖女だ!
くすくすと笑いだすエリシアさん。
「ミナトさんって面白い人なんですね。冗談がお上手。」
冗談のつもりじゃなかったんだけどな。
「腕、見てみてください。火傷みたいな跡があるでしょ?それが瘴気の影響を受けた傷跡みたいなものです。」
腕には見慣れない黒ずんだ火傷のあとのようなものがある。
痛みはない。火傷ならばかなり痛んだろうな。
「聖女ならそういった傷はできないんですよ。」
そうか、なら聖なる勇者路線は無理か。
やっぱり選ばれしものにしか抜けない剣を探す旅に出ないとダメかな。
「聖女がいないのに浄化された報告があり、私も混乱しております。」
「悪いことじゃないでしょ?そんなに気にすることはないよ。」
眉間にしわを寄せたエリシアさんは一度目を見開く。すぐに穏やかな表情になり大きく息を吐く。
「そうでしたね、少し神経質になりすぎていました。自然現象で浄化されたかもしれない事象です。喜ぶべきでしたね。」
「そうそう、助からないと思った人間が二人も助かってる。素直に喜んでいいでしょ?」
二人でフフフ、と笑いあう。穏やかな空気。これが幸せ。
このまま連絡先を聞いても大丈夫かな?
あ!異世界だからスマホないか!どうやって連絡とればいいんだ!矢で手紙届けるのか!?
「実は私はまだ正式に聖女として認めてもらえてないのです。」
「え!?なんで!?」
「一人前の聖女として務めるためには、王都にて正式に認めていただく必要があります。道中、この村で瘴気人が多発すると耳にしたので立ち寄りました。ですが、見習いと言うと皆さんが不安になると思い…省かせていただきました。」
だからさっき聖女見習いって言いそうになったのか。
嘘つきなれていない真面目な人なんだろうな。
「決して悪意があったから嘘をついた!とかではありませんよ?皆さんの安心のためです。」
「大丈夫ですよ、見習いと名乗ってもエリシアさんの人柄なら不安なんて吹っ飛びますって!」
慌てて訂正したり、照れたり忙しそうにしているエリシアさんの表情。
すごく可愛らしくて親近感がわいてくる。
聖女様に親近感がわくって失礼かな?口に出さないようにしよ。
…そんなことより気になるワードが聞こえたような。
「王都がある…?」
「え?はい、ここから数日歩いたところに王都があります。馬車を使えば一日で行けますが…私は徒歩で行く予定です。」
思い出した!ここはオリジア王国だってビート君が言ってた!
王国ってことは、つまり、王様がいる!
王様に話を聞けば僕の倒すべき敵、指針を示してくれるのでは!?
僕はエリシアさんの手を強く握った。
「エリシアさん!」
「え!え?…はい!」
「僕を王都に連れて行ってくれないか!」
「ふ!二人っきりでですか!?」
エリシアは顔をうつむかせてしまった。
僕と二人で行くのはそんなに嫌だったかな…。
顔を赤くするぐらい怒ってるのかな…申し訳ないこと言ってしまったかもしれない。
間が空き、気まずい空気が流れる。
「あのぉ、エリシアさん。」
エリシアは静かに膝を折り、三つ指をついて頭を下げた。
「…不束物ですがよろしくお願いします。」
異世界の人が丁寧なのかな?それとも聖女だから礼節を重んじるのかな?
僕も彼女に習って膝を折り、勢いよく地面に頭をこすりつけた。
「こちらこそよろしくお願いします!」




