第二話 エリンの家での日々 前編
夜も更けてお茶会もお開きとなり、サンドラは自室のベッドに入ると、うとうとしながらあの懐かしいエリンの家での生活を夢の中で思い返していた。
――ワタシはアレクサンドラ。みんなからはサンドラと呼ばれている。
ワタシはまだ赤子の頃、エリンに拾われた孤児だ。両親は戦に巻き込まれて亡くなったらしい。名前はエリンが「アレクサンドラ」とつけてくれた。以来、エリンの家で育てられてきた――。
「サンドラ、起きて~。もう朝だよ~」
「ん~、あともう……5分だけ寝かせて、メアリー……」
「だ~め。起きなさ~い」
朝といっても夜明け前のまだ暗い時間だ。寒いし眠いからぐずぐずしていたら、バサリと、まだ温もりの残る布団を同室のメアリーに容赦なく取り上げられてしまった。
「さ~む~い~。まだ起きたくない~」
「もう~! いうこと聞かない子には、これよ~」
しぶとく布団の上でくるりと丸まっていたら、メアリーお得意のくすぐり攻撃の餌食に。彼女はこの家一番のくすぐり名人だ。動きやすいようにブラウンの髪を三つ編みで一つにまとめている。彼女のブラウンの瞳がワタシの急所を的確に狙ってきた。
「あは、あはははは! やめて! やだ、くすぐったいっ! メアリー、わかったから、やめてっ! きゃはははっ!」
メアリーのくすぐりに耐えられなかったワタシは降参し、布団の温もりに名残を惜しみながら、ようやくのろのろと布団から起きた。
いつもならくすぐり攻撃までは受けないのだけれど、今朝はとても眠かったのだ。
「はいは~い。早く支度しないと、みんなに置いて行かれるわよ~」
「は~い、いまやるから~。待って~」
ワタシは寒さでぶるぶる震えながら、急いで冷たい水で顔を洗い、慌ただしくいつもの作業着に着替えた。明るいブラウンの髪を梳く暇もなく、外で待っているみんなと合流する。使い魔たちも集まっていた。
「サンドラ、また寝坊したの? 髪の毛ぼさぼさじゃない」
「だって寒かったんだもの、デイジー」
「髪は乙女の命よ。あとで梳いてあげるからね」
早速ワタシのぼさぼさの髪が、おしゃれ番長のデイジーに見つかってしまった。デイジーはゆるふわウェーブのダークブラウンの髪を大人っぽくアレンジしたお団子にしている。おしゃれに関しては命を懸けてるようで、よその男子にも受けがいい。
「メアリーも毎朝大変だね」
「ヴィンス~、こんなわたしをもっと褒めて~」
ヴィンスはみんなのお兄さん的存在なのでメアリーもつい甘えてしまう。ヴィンスはストレートショートのダークブラウンの髪に深緑色の瞳でとても理知的。夏至祭や冬至祭では他の魔女の弟子(男女問わず)から大人気という話だ。
これから水汲みや畑仕事、家畜の世話、庭の掃除などの朝の仕事を、弟子や養い子たちで分担して行うのだ。
「寒いから早く朝の仕事、終わらせてしまいましょう」
ケイトはヴィンスと同い年のお姉さん。ストレートロングの金髪の前髪をピンで留めていて素敵。よくみんなのまとめ役になってる。
「それにはオレも大賛成!」
ギリーは赤毛の短髪に青緑の瞳でちょっとお調子者。ムードメーカーでもある。
ここは偉大なる魔女エリンの家。家の主人たるエリンとともに弟子と養い子が一緒に住んでいた。
現在弟子は、年長者からヴィンス、ケイト、ルカ、ギリー、デイジー、メアリーの6人。
養子はリック、ワタシ、ベスの3人。それと使い魔たちに、野良猫たち。
森の奥に建てられたその家は、田舎の領主の屋敷くらいの広さがあった。敷地内には井戸があり、畑も自給自足できるほどの広さがあり、家畜は鶏と山羊を飼っていた。
清らかな空気と健やかな土に育まれた森には、季節ごとの果実がたくさん実り、薬草も豊富に茂り、近くには清流があった。
「すぅ~、はぁ~」
ワタシは森のさわやかな空気の中で深呼吸すると、「よしっ」と気合を入れた。
「じゃ、始めようか」
「おう、ちゃっちゃと片付けて朝食にありつこうぜ」
年長のヴィンスが音頭を取ると、兄貴肌のルカがそれに応えた。それを合図に、みんなそれぞれの担当する仕事を始めた。
朝食はだいたい、朝の仕事で収穫した野菜や香草、山羊の乳や卵を使うので、みんな朝の仕事を早く終わらせたい。
夕食の残りに追加するだけでも、うまみが染みておいしくなるのだ。
「ぐぅ~」
そんなことを考えていたら、あちらこちらでお腹の鳴る音がこっそり聞こえてきた。かくいうワタシもお腹がペコペコだった。
「ベスはお腹がすいた……」
「私もそうよ。だから、さっさとお掃除しましょうね。あなたたちは取りこぼしをお願い」
ワタシの担当はベスと一緒にケイトの庭の掃除の手伝いだ。
ケイトが風の精霊にお願いすると、つむじ風がキュルッと起こり上手にゴミを集めて堆肥場まで持っていってくれる。いつ見てもとても鮮やかなお手並みだ。
ちなみに堆肥場では落ち葉や糞を混ぜて発酵させ、肥料にして畑で使う。
「ケイト、すご~い」
「ワタシもこれくらい軽々できるようになれるかな」
「そうね。それにはエリンの弟子になるための試験に合格しないとね」




