第三話 エリンの家での日々 後編
ワタシたちが庭の掃除を終わらせた頃、みんなもおのおの朝の仕事が終わったみたいで、収穫物を持ってわいわいと家の前に集まってきた。
「さ、エリンに朝ごはんを作ってもらおう。みんなで手伝うよ~」
「メアリー、オレもう動けない」
「そんなこと言ってさぼろうなんて思わないことね、ギリー」
「ケイトは厳しいなあ」
みんなで雑談しながら、収穫物は調理室のエリンの元へ運ばれていく。
「ありがとう、みんな。今朝もおつかれさま。いま朝食の支度をするわね」
エリンは笑顔でみんなを労い、それぞれの収穫物を受け取って朝食の支度を始めた。
作業着から部屋着に着替えると、食材を切ったりお皿や匙を揃えたりご飯をよそったり、自分ができる手伝いをしてみんなで朝食をとるのだ。
「いただきまーす」
食べ盛りが何人もいるので、お鍋にいくらたっぷり作ってもすっからかんになってしまう。たまに取り合いになるくらい。
朝ごはんがすんだら、みんなで家の外の森へ出かける。もちろん使い魔たちも一緒だ。薬草や食材、薪になりそうなものを採取しながら、精霊たちを感じる練習をする。精霊魔法は精霊たちの協力が必要だ。それにはまず精霊たちを感じ取れなければいけない。
「サンドラ、どっちがさきにいいものを見つけられるか競争だよ!」
「ゆっくり行こうよ、ベス~」
ベスは赤毛を二つに分けた三つ編みを揺らし、緑色の瞳をきらきらさせながら、いまにも走りだそうとしている。ワタシも好奇心旺盛だけれど、ベスのほうがより活発的。ワタシはインドア派なのだ。
出かける前にデイジーがワタシの髪を梳いて、右の上だけちょこんと結わえてくれた髪が歩くたび揺れる。
「ベス、サンドラ。はぐれないように一緒に行きましょう」
ベスとワタシを心配したケイトが声をかけてきた。さすがお姉さん。ベスの手をすっと握ると一緒に歩き出した。ケイトの使い魔の黒猫も後からついてくる。
精霊はどこにでもいる。風、水、火、土は基本中の基本。家やかまどにいるのは妖精だったかな。妖精はいたずら好きでおしゃべりで気まぐれ。精霊とは違うと聞いてる。
ベスとワタシはケイトの朝の仕事を手伝っているせいか、最初に風の精霊を感じることが出来た。ほかの精霊は……今後に期待。
「なかなか風と水の精霊以外、感じることが出来ないなあ……」
「リック。コツをつかめば、すぐに他の精霊も感じられるようになるさ」
リックはワタシの2つ上。ライトブラウンの髪に水色の瞳で性格はおとなしく引っ込み思案。知的だしお姉さま受けがとてもいい子。
一緒にいるルカはギリーと同い年で、ブラウンで短髪ストレートにこげ茶色の瞳。さっぱりした性格のせいか、男女問わず好かれている頼れるお兄さん。
リックはそろそろ弟子になる試験を受けるんじゃないかな、ってもっぱらの噂。
昼食の時間までには、森から家へ帰ってくる。採取したものや薪は貯蔵室へ持っていき保管する。
帰ってくる頃には、エリンがだいたい昼食を作って待っていてくれる。
「皆さん、食休みが終わり次第、授業を始めますからね」
昼食後から夕食まで、弟子たちはエリンから魔法の授業を受けて、各自の研究を進める時間になる。
弟子になっていないワタシやベス、リックは、エリンの使い魔のシャロンから基本的な勉強を教えてもらっていた。余った時間は自習になるので、ワタシは書庫で本をよく読んでいた。
「あ~、またここにいたの。サンドラ、夕食の支度の時間だよ~」
「ベス、ありがとう。本を片付けたら一緒に行くよ」
朝食・昼食と違って夕食の支度は、出来る人がやることになっている。
弟子の中には、研究中に作業を途中で止められなかったり、つい没頭して時間を忘れていたりする人が少なくない。
いずれにしても、エリンが主導で支度するので困ることはないけど。
翌日の朝食のこともあるので、夕食はかなり多めに作る。
そのため、たくさんの食材が調理されるのを待っている。人手が足りないときは、使い魔も駆り出される。「猫の手も借りたい」ってこういうことなのかな。
夕食はなるべくみんな揃っていただく。
呼びに行っても、手が離せなかったり、返事がなかったりした人はあとで食べることになっている。
「いただきます」
今日も季節の野菜や香草のたくさん入ったシチューがメインだ。付け合わせに固いパンもある。シチューと一緒に食べるから、固くてもおいしく食べられる。
夕食が終わると、順番に湯あみをしたり、リビングで談笑したり、年少組は寝る準備をする。
「ベスはおねむ……」
「はい、ぷにぷにお肌につやつや髪、出来上がり。ベッドに行こう」
ベスは同室のデイジーに連れられていった。ワタシもメアリーと一緒に自室へ向かった。
「おやすみなさい、メアリー」
「おやすみ、サンドラ。また明日ね」
長かった一日が、あっという間に終わり、ワタシはすやすやと眠りについた。
――当時のワタシはいつまでもこのみんなとの楽しい生活が続くと思っていた。




