1.夜の訪問者
第一章のあとに入るお話。
久しぶりに弟子をとったサンドラの、これから始まるヘーゼルとの生活への期待。そしてエリンの家での生活と彼女の過去に何があったのか……。
※カクヨムにも投稿してます。
――ある夜のこと。
「ククー!」
ヘーゼルとミルクが眠りについたあと、サンドラと手袋がお茶をしていると、ふと窓からバサバサッと一羽の白鳩がサンドラの部屋に飛び込んできました。
「ふふふ、今日もお疲れ様ね、クー」
窓からの来訪者にサンドラが労いました。昼間の監視に疲れた白鳩のクーは大鴉のコーと交代して、サンドラの部屋へ一休みしに来たのです。
クーは主の前でふわりと優雅に一回転すると、人の姿に変わりました。
現れたその姿は、華奢で背丈はそれほど高くなく、ひざ丈のレースとリボンのフリフリした白いワンピース姿。長い白髪は側面から編み込みを入れてひとつにまとめ、少し艶のある草色のリボンで 結ばれていた。瞳は赤く、肌は透き通るほど白く、こぼれる笑みに愛らしい仕草。――だが、男だ。
「サンドラ、すごく疲れたの~。もうくたくた~。お茶と甘いお菓子ちょうだ~い」
クーはサンドラに甘え声でおねだりすると、座り心地の良いソファへポンと体を預け、すでにリラックスしてくつろぎ始めていた。
「手袋、クーにお茶を淹れてちょうだい。それと甘い焼き菓子、あるかしら……」
「ご主人。クーには豆の焼き菓子でよろしいのでは? これ以上太らせると飛べなくなるかもしれません」
「大丈夫よ、手袋。空を飛ぶには体力が必要ですもの。ダイエットの必要はないわ」
猫の使い魔の手袋は手慣れた手つきでお茶を淹れながら、言葉のナイフを投げてきた。が、クーはいつものポジティブシンキング(あまり考えていないとも言います)で、手袋の皮肉もどこ吹く風。自分の髪をすらりとした指でくるくると巻いて遊んでいました。
(あの白鳩にはいつもやれやれDeath……)
クー相手に手袋が苦戦しているな、とサンドラにはわかりましたが、黙って知らんぷりすることに決めました。
すました顔のクーは淹れたてのお茶の優しい香りや味を楽しみながら、何気なくサンドラにこう尋ねた。
「そういえばサンドラ~。迷い込んだ女の子。ヘーゼルだっけ? どうして弟子にしたの~?」
「そうね。彼女には魔法を使える素質があったからかしら。それに、放っておくこともワタシにはできなかったから……」
サンドラはほんの少し首を傾げながら目を瞑り、彼女を弟子にした時を思い出すように返答した。
先日、魔女の森のささやかで穏やかな日常に、突然飛び込んできた春の嵐のような存在。それが一人の少女――ヘーゼルでした。
少女の過去を垣間見たサンドラは、魔女としての勘でその素質に気づき、ためらわずに「魔女の弟子にならないか」と少女に持ち掛けました。
(素質のある者を埋もれさせてしまうのは、あまりにも残酷な話だわ。このまま誰にも理解されず、孤独に人生を終わらせていいはずがないもの……)
また、サンドラには少女を放っておけない理由がありました。
(ワタシも、かつてエリンに助けられていなければ……)
「魔法を使える素質がある」ことは珍しい上に、正しい知識のもとで育てないと不幸を招くことがあるのです。だから、少女を正しく導きたいと思ったのです。
そうして魔女は少女にあのキラキラした小瓶の魔法をかけ、ヘーゼルとして新しい人生を与え、弟子に迎えたのでした。
「ね~、サンドラ。いつ、あの子にボクとコーを紹介してくれるの~?」
「本格的に魔法の勉強を始めてからかしらね。今はここでの生活に慣れてもらうことのほうが先だから」
クーはおしゃべりしながら、甘くてサクッとした焼き菓子をすっかり平らげていました。それでも食べ足りない様子でした。サンドラが追加で出そうとすると、手袋が「それ以上はいけません」と主を睨んで制止しました。
「ふ~ん。それじゃ、これからしばらくは賑やかで騒がしくなるね~」
「クーやコーにも頑張ってもらうことになるかもしれないわ。その時はよろしくね」
「は~い(……コーに頑張ってもらおうっと)」
サンドラが最後に弟子をとったのは、もう十数年前だったか……。時折、結界を抜けてやってくるお客様はいたものの、弟子をとるのは久しぶりでした。
ヘーゼルを弟子にすると決めたものの、少し抜けている(と常に手袋に言われている)自分がちゃんと師匠として導けるのか、そもそもどんなことから教えればいいのか、考えれば考えるほど不安は拭えません。
(久しぶりの弟子だもの……ワタシもちょっと勘を取り戻しておかないと……。エリンはとてもたくさんの弟子をとっていたけれど、こんな時、どんな気持ちだったのかしら……)
これからは騒がしくも楽しく、充実した毎日になる。――嬉しい予感でサンドラの胸はいっぱいでした。師匠である偉大なる魔女エリンのもとで暮らしていた日々が帰ってくるような……。
森の魔女はこれから始まる弟子との生活に、花が咲くような期待を抱いていた。




