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森の魔女の徒然日記 ~魔女の家へようこそ~  作者: 広岡 千拾
第三章 森の魔女の弟子 ~初めてのおつかい~
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6.ただいま

 ――ヘーゼルが森の入り口へ着いた頃。


 すでに日は落ちてしまっていて、辺りはすっかり暗くなっていました。

 クーとコーはヘーゼルが森に入るのを確認した後、森と魔女の家の監視の仕事に戻りました。


「さて、ワタシはヘーゼルを迎える準備をしなくてわね……」


 ヘーゼルが急いで森へ入ると、ふわふわと光る精霊たちが魔女の家までを点々と誘導するように照らしていました。きっとサンドラが道に迷わないよう、ヘーゼルのために用意してくれたのでしょう。

 ゆらゆらとした精霊たちの光に安堵したヘーゼルは、森の中で迷うことなく家に帰ることが出来ました。


「ただいま帰りました。遅くなってしまってごめんなさい」


 ヘーゼルが家の中に入ると、真っ先にミルクが飛びついてきました。


「ヘーゼル、なかなか帰ってこないから、オレ心配したぞ」

「だから、そこは『ご主人様』でしょう、ミルク。おかえりなさい、ヘーゼル。荷物はわたくしが持ちましょう」

「遅くなってごめんね、ミルク。心配してくれてありがとう。手袋、荷物重たいけど大丈夫?」


 ふわふわの毛玉ミルクに突撃されたヘーゼルは、手袋へ籠と牛乳缶を渡しました。そして、「ごめんね」とミルクを優しく抱き上げ、ふわふわな毛並みをそっと撫でてあげました。

 ヘーゼルに撫でられると、ミルクはスルッと腕からすり抜けて、足元でスリスリしてその場でお座りしています。

 すると今度はサンドラがしゃがみ込んでヘーゼルをぎゅっと抱きしめました。


「おかえりなさい、ヘーゼル。無事に帰ってきてくれてありがとう……。怖い思いをさせてしまって、こちらこそごめんなさいね」


 サンドラは涙を浮かべながらヘーゼルの無事を喜び、謝りました。

 帰るのが遅くなってしまったので、サンドラから叱られると思っていたヘーゼルには、何故サンドラが謝るのかわかりません。


「通いなれた村までだったから”危険なことは起こらない”と、ワタシが油断したせいで怖い目に合わせてしまってごめんなさい。あなたが無事に戻ってきてくれて、本当に良かった……」


 サンドラの言葉を聞いたヘーゼルは、突然大粒の涙が溢れてきて、思わずサンドラを抱きしめ返しました。ヘーゼルは怖かったのです。あの緑色の変な生き物に襲われて、本当はとても怖かったのです。


「私……とても怖かったの。帰り道に変な生き物が出てきて……」

「ええ、ええ。怖かったわね。でも、ヘーゼルが私の教えたとおりに、勇敢に小鬼に立ち向かったのを、ちゃんとワタシは見ていたわ……」


 サンドラは少し体を離し、ヘーゼルの涙をやさしく拭ってあげます。安心したのか、ヘーゼルのお腹が、「ぐぅ」と鳴りました。


「こんな時間ですもの。お腹が空いちゃったわね。まずは湯あみをして、夕ごはんを頂きましょう。詳しいお話はそのあとで」


 いつもながらのお手並みで、手袋が湯あみの支度をしてくれていました。心配そうにミルクも一緒にきて、たらいの周りでうろうろしています。

 ヘーゼルは、疲れとともに”怖かった思い”と”涙の跡”をお湯で流し、滴を布で良く拭きとって部屋着に着替えました。そして、ミルクと一緒に食事室へ向かいました。


 食事室から、おいしそうな匂いが漂ってきます。サンドラが温かな夕ごはんを用意して待っていました。


「今日の夕ごはんは、キノコのグラタンにしてみたわ。熱いから気を付けてね」

「はい。いただきます!」


 いつもより遅い夕ごはんでしたが、みんなで揃って頂きました。


 ヘーゼルは、サンドラから注意されていたのに、熱々のグラタンで舌を火傷してしまいました。さすがにサンドラの塗り薬も、口の中には塗れません。

 でも火傷の痛みとごはんのおいしさが、ヘーゼルに生きている実感を与えてくれました。彼女は涙ぐみながら夕ごはんをぺろりと完食して思いました。


(お腹いっぱいになることが、こんなに幸せなことだなんて!)


 夕ごはんが終わると、みんなはリビングに集まりました。暖炉の火が赤くちろちろと燃えて、適度な温もりが眠気を誘ってきます。ミルクはさっさと自分の籠に入って丸まっています。


「ご主人、ヘーゼル。お茶を淹れましたので、どうぞ」

「ありがとうね」

「ありがとうございます、手袋」


 お茶で一息ついたところに、サンドラが話しかけました。


「実はね、ヘーゼル。今日のおつかいは、試験だったの」

「何の試験だったんですか?」


 ヘーゼルが率直に尋ねると、サンドラは一呼吸おいて答えました。


「ヘーゼルがこれから先、一人でも生きていけるか、魔女としてやっていけるかの試験よ。村の人々と良好な隣人関係が築けるなら、余所で暮らしても生きていけるでしょうから」


 サンドラは、そう答えると一口お茶を飲みました。そしてヘーゼルに優しく尋ねました。


「今日はナタリーの家でどんなことがあったのか、お話してもらえるかしら?」


 ヘーゼルは、ナタリー一家と一緒にお茶をしたこと、村の人々がサンドラの薬や保存食にとても感謝していること、ナタリーに将来の夢を聞かれたことを話しました。

 ヘーゼルの話に静かに耳を傾けていたサンドラの顔が、だんだん真っ赤に染まっていきました。


(そんなに感謝されてたなんて、知らなかったわ……は、恥ずかしい……)


 ヘーゼルはそんなサンドラに気づかず話を続け、自分がどれだけサンドラの事を知らなかったのか、自分がなりたい将来の夢についても話しました。


「私もサンドラみたいに人の役に立つ大人になりたいです」


 ヘーゼルの言葉に、サンドラはふと真面目な顔になり訊ねました。


「それは『人間として』かしら? 『魔女として』かしら?」


 ヘーゼルは困った顔をしています。『人間として』と『魔女として』の違いがわからないからです。


「わかりません、サンドラ……」

「いまはまだわからなくてもいいの。いずれヘーゼルが選択しなければならない時がくるわ。その時のために、ヘーゼルを魔女組合(ギルド)へ紹介しておきたいの。そのための試験でもあったから。いいかしら?」

「はい、サンドラ」


(さっそくルカに連絡して、街の魔女組合(ギルド)へヘーゼルを連れて行こう)


 と、サンドラは忘れないよう、心に念押ししました。

 ルカことルーカス・ローズウッドは、街にある魔女組合(ギルド)の組合長をしていて、サンドラの兄弟子にあたります。


「ヘーゼル。今日はこの家では学べないことをたくさん学べましたね。自分の将来について気づくことも出来ました。――試験は合格よ」

「合格! やったぁ!」


 サンドラの出した試験に合格したヘーゼルは心躍るほど喜んでいました。しかし、明日から家事と勉強と訓練に追われる忙しい日々が始まることには、まだ気づいていませんでした。

無事、試験に合格できたので、ヘーゼルの魔法の修行が本格的に始まります。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次のお話も読んでいただけると嬉しいです。


一度、サンドラの閑話を挟んでから、次のお話になりそうです。

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