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森の魔女の徒然日記 ~魔女の家へようこそ~  作者: 広岡 千拾
第三章 森の魔女の弟子 ~初めてのおつかい~
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4.将来の夢

「それじゃ、ちょっと家の中に入って頂戴。いま準備するからね」

「はい、お邪魔します」


 ナタリーの家に入ると、中は様々な色の布や花で飾られていて、魔女の家とはまた違った、どこか懐かしい雰囲気が漂っていました。


「ちょっと散らかってるけど、そこの椅子に座って待っていて。いま牛乳を缶に入れてくるからね。少ししたら家族が一旦休みに帰ってくるから、一緒にお茶の時間にしましょう」

「はい、ナタリーさん」


 ナタリーはさっさと奥へ行ってしまったので、ヘーゼルは言われた通り籠をテーブルに置き、椅子に腰かけました。


(貴重なお茶の時間にお邪魔してしまって良かったのかな……)


 そんなことを考えていると、「ただいま」という声が聞こえました。

 どうやら誰かが帰ってきたようです。


「おかえり、父さん兄さん、それに母さん。お疲れ様」

「おお、ナタリー。ただいま、だ」

「ただいま、ナタリー。あら、小さなお客様がいるね。サンドラのところの子かしら?」

「そうなのよー。サンドラは今日来られなくて、代わりにひとりでここまで来たのよ。小さいのにえらいのよ」


 ナタリーの両親と兄が、仕事の合間の休憩をしに家へ帰ってきたようです。さっきまで静かだった家の中が、一気に賑やかであたたかな空気に包まれました。


「初めまして、サンドラ先生の弟子のヘーゼルです」


 ヘーゼルは立ち上がって、丁寧に挨拶しました。


「あなたがヘーゼルちゃんね。話はナタリーから聞いているわ」

「ヘーゼルちゃんか。サンドラにはいつも世話になっているんだよ」


 ナタリーの両親も、彼女と同じく朗らかで優しそうな人たちでした。


「立ち話もなんだからお茶にしましょう、父さん母さん。兄さんもお茶、飲むわよね?」

「うん、頼むよ」


 ナタリーは手際よく調理室へ行き、お湯を沸かしお茶の準備を始めました。その間に、ナタリーの父が籠の中の薬や保存食をひとつひとつ手に取り、確認していきます。確認が終わったものを、母が丁寧に箱へと収めていきました。


 以前はサンドラが村の家々を訪ねて薬を届けていましたが、今ではナタリーの家で一括して預かり、後日村の集会所へ届けるようになっているそうです。


「ヘーゼルちゃん。実はね、この村には医者がいないんだ。だからサンドラの薬はとても貴重なものなんだよ」

「ナタリーも、小さい頃ひどい熱が出た時に、サンドラの熱さましのおかげで助かったの」


 サンドラが村へ行くとき、薬や保存食を用意しているのは知っていましたが、生活のための物々交換くらいにしか思っていなかったヘーゼルは、村人たちがこんなにも感謝していることに驚きました。


「僕らは仕事でよく怪我をするから、あの傷薬は良く効いて本当に助かってるね」


(いつもお世話になっているサンドラの傷薬も?!)


 ナタリーの兄の言葉に、ヘーゼルは胸がじんわりと温かくなるのを感じました。


「おまたせー。お湯が沸いたから、お茶を淹れるわね。おやつは焼き菓子でいいかしら」


 ナタリーが戻ってきて、みんなにお茶を淹れてくれました。


 淹れてもらったお茶もサンドラお手製のもので、味わいはスッキリ。疲労回復の効果があるので、農家のお茶の時間にぴったりです。ほかにも寝る前にリラックスするためのお茶もあるそうです。


(森の魔女の家ではそんな効果なんて気にせず飲んでたな……)


 と思い返すと、いままで何気なく過ごしていた自分が急に恥ずかしくなりました。


「こないだの不作の時には、サンドラの保存食にも助けられたわねぇ……」

「本当に感謝、感謝なのよね、サンドラには。父さん、薬と保存食の確認終わった? じゃあ、こっちから渡すもの詰めてくるから籠を貸して」


 ナタリーは父から籠を受け取り、食糧庫へと向かいました。


 ヘーゼルは、サンドラがこの村でどれほど大きな存在なのかを知り、驚きと尊敬の気持ちで胸がいっぱいになって、しばらく言葉が出ませんでした。


「じゃあ、そろそろお茶の時間も終いね。私たちはまた仕事に戻るわ」

「ヘーゼルちゃん、気をつけて帰るんだよ。サンドラによろしく」

「はい、今日はごちそうさまでした。先生に皆さんのこと伝えておきます」


 挨拶を済ませると、ナタリーの両親たちは再び仕事に出かけていきました。ナタリーはヘーゼルが持ち帰るための籠と牛乳缶を手に戻ってきました。


「あー、ごめんね、ヘーゼルちゃん。うちの両親、ちょっと騒がしかったでしょ。これでも姉さんが居ない分、静かなほうなんだけどね。姉さんは去年、隣村へ嫁いでいったから……」


 ナタリーには、兄のほかに姉もいたようです。


「兄さんが結婚するまでは両親のことが気になるし、私が嫁ぐのはもう少し先かなあ……」

「ナタリーさんは、結婚したらどこかへ行っちゃうんですか?」

「結婚したらこの家からは出て、嫁ぎ先へ行くことになると思う。まあ野良仕事しか出来ないから、きっと相手も農家よ……」


 ナタリーはどこか寂しげに空を見上げ、ぽつりと呟きました。そして、ふとヘーゼルの方を見て、やさしく問いかけます。


「ヘーゼルちゃんは将来どんな大人になりたい? どんな夢がある?」


(将来……、夢……。そんな事、考えたことなかった。ただサンドラから魔法を教えてもらうということだけを目標にして、毎日を過ごしてた……)


 ヘーゼルは少しだけ黙り込み、考え込みました。そして、ゆっくりと答えます。


「やっぱり、先生みたいに人の役に立つ、人に感謝される、そんな大人になりたい……かなあ」

「うんうん、いい夢だね。ヘーゼルちゃんなら、きっとなれると思うよ。なんなら目指せサンドラ超え! とか。目標は大きく、ね」

「ナタリーさん……」


 ナタリーの言葉に、ヘーゼルは胸がじんわりと熱くなりました。いままで漠然と毎日を過ごしていた日々の中で、初めて“自分の夢”というものを意識した瞬間でした。


「さて、遅くまで引き止めちゃってごめんね。日が落ちる前に帰らないと」

「こちらこそ、今日はありがとうございました」

「じゃあ、これ籠と缶ね。重たいから気を付けて持って帰ってね」

「はい。ありがとうございます。それではお邪魔しました」

「またね、ヘーゼルちゃん。サンドラによろしく」


 ナタリーに見送られて、ヘーゼルは急ぎ家路につきました。

 歩きながら今日のナタリー一家とのやりとりを思い出すと、ふわふわと心が弾んでスキップしたくなるような気持ちになり、足取りも軽くなりました。

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