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森の魔女の徒然日記 ~魔女の家へようこそ~  作者: 広岡 千拾
第三章 森の魔女の弟子 ~初めてのおつかい~
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3.初めてのおつかい

「ふふんっ」


 ヘーゼルはすこし得意げに鼻を鳴らし、ペンを置きました。そして、書き終えたばかりの日記を読み返します。


「魔女の弟子としての一日を書いたら、なかなかの大作になっちゃった。これは日々成長している証だよね、私」


 自分に言い聞かせるように呟いたそのとき、「誰かに読んでもらいたいな……」という気持ちがふと心に浮かびました。


 恥ずかしさをこらえながらも、この大作をサンドラに読んでもらうことに決めました。


「ふむふむ……なるほど、読ませてもらったわ。なかなか良くまとめてあるわね。ヘーゼルの成長のはやさには、ワタシが驚いてしまうわ。これならそろそろ初歩的な魔法の練習や、森へ行ったときに精霊たちを感じる練習も出来そうね」


 サンドラからの言葉に、ヘーゼルは嬉しくて、思わず「やった!」と声をあげてしまいました。


 やっとサンドラから魔法を教えてもらえると聞いて、ヘーゼルは心の中でウキウキです。今までお手伝いや勉強を頑張ってきた甲斐があったというものです。


 手袋も、サンドラと一緒に読んだようで、こう言いました。


「ミルクは毎朝、運動と狩りの特訓をやっているのです。無駄に走り回っているのではないのですよ、ヘーゼル」


 手袋はいつも「秘密です」とか「内緒です」と言って、なかなか教えてくれなかったのですが、とりあえず朝の特訓内容についてはわかりました。


 「ミルクが頑張っているのだから、私ももっと頑張ろう」


 少しだけミルクのことを知ることができたヘーゼルは、そう誓いました。


 ――その日の晩。


「ねえ、手袋。そろそろヘーゼルにおつかいを頼もうと思うのだけれど、どうかしら?」


 サンドラは手袋に、ヘーゼルへの試験について相談してみました。


「ミルクはまだ使い魔として、外へ出せる段階ではありません。ですので、ヘーゼルひとりでのおつかいになりますね。いかがなされますかご主人?」


 おつかいとは、いわゆる試験なのです。一人で生きていくための試験でもありますし、魔女の弟子としての試験でもあります。これまで何人もの人間が通った道でもあります。


 ヘーゼルがこの試験に無事合格出来たら、サンドラは街の魔女組合(ギルド)へヘーゼルを弟子として紹介しに行くつもりなのでしょう。


「それなら、今度村へ出かけた時にナタリーと相談しておこうかしら」

「それが良いかと。ご心配でしたら、クーとコーに見守らせては?」

「そうね、そうするわ。ありがとう、手袋」


 ちなみにクーとコーは白鳩と大鴉で、普段は森で暮らしているサンドラの使い魔たちです。普段は森やこの家の監視をしています。

 ヘーゼルが村へ行き帰りするのを見守るくらいは出来るようです。


 ――ある日の昼ごはん後。


 ヘーゼルが午後に向けて一休みしようとしていたとき、突然サンドラからお願いをされました。


「ヘーゼル。今日はワタシの代わりに村まで行ってくれないかしら」

「はい。でも、どうして?」


 ヘーゼルは村へミルクをもらいに行った後、サンドラと一緒に何度か行っているので、村への道はわかります。

 なのに、「どうして?」と、疑問が口に出てしまいました。


「実はワタシの研究がちょっと大詰めを迎えていて、今ちょっと手を離せない状態なの。そういうわけで、おつかいをお願いしてもいいかしら?」

「はい……」


(我ながらかなり無理な設定だったけど、大丈夫……よね?)


 と、サンドラは心の中で汗をだらだら流していましたが、どうやらヘーゼルは納得してくれたようです。


 サンドラはいま研究で手が離せなくて村へは行けない。だから代わりとしてヘーゼルに行ってもらいたい――。「そういうことなら仕方ない」と、ヘーゼルはサンドラの代わりに村へ行くことになりました。


「ナタリーのところへ薬と保存食を届けて、牛乳とパンに交換してくるだけだから。ヘーゼルなら大丈夫よ」

「わかりました、サンドラ。さっそく出かける支度をしてきます」

「ありがとう、ヘーゼル」


 サンドラにおつかいをお願いされたヘーゼルは自室に行って外出着に着替え、薬と保存食を籠に入れ、空になった牛乳缶を持ち、村へ出かける支度をしました。


「ミルクはまだ修行中だから今回は一緒に行けないの。ヘーゼルひとりでおつかいをお願いすることになるわ。だから、魔除けにこのナナカマドの枝を渡しておくわね。使わないに越したことはないのだけれど……。万が一、妖精に出会ってしまったら、いつも教えている通りにこれを使うのよ」


 サンドラからそう言われたヘーゼルは、すこし緊張しながらナナカマドの枝を受け取って自分の肩掛け鞄にしまいました。正直なところ、ひとりでのおつかいはやはり不安です。


「それでは、行ってきます」

「ヘーゼルに精霊の加護がありますように。気をつけていってらっしゃい」


 サンドラと手袋、ミルクに見送られて、ヘーゼルは村へと出発しました。


「気をつけていってらっしゃい、ヘーゼル」

「ヘーゼル、はやく帰って来いよ」

「そこは『ご主人様』ですよ、ミルク」


 ヘーゼルは不安ながらもひとり村へと歩みだしました。しかし、今日は晴れてとてもよい天気で、歩いているうちに緊張もすこしずつ和らいで、いつの間にか鼻歌まじりに村へと向かっていました。


 この時、ヘーゼルは自分の後をこっそり追いかけている白い鳩と大鴉に気が付いていませんでした。この白い鳩と大鴉はサンドラの使い魔のクーとコーで、サンドラはこの二羽の目を借りてヘーゼルを見守っていました。


 ちなみに、クーはちょっと軽めで陽気な男の娘です。大鴉のコーはあまりおしゃべりしない性格ですが、頼れる渋いおじさん系です。


 ヘーゼルが街道を歩いていると、やがて村が見えてきました。黄金色の麦の波は刈り取られた後で、秋の気配を感じられる景色になっていました。


 ヘーゼルが村に着くと、ちょうどナタリーは休憩に入るところだったようで、ヘーゼルを見つけると笑顔で迎えてくれました。


「こんにちは、ヘーゼルちゃん。今日、サンドラは一緒じゃないの? ひとりで来たの?」

「はい、先生はちょっと手の離せない用事があって、私が代わりに来ました!」

「そうなの、えらいわね! ミルクは元気にしてる?」

「暴れん坊で毎日引っ掻かれたりしてます。でもすごくかわいいんです」


 ヘーゼルはナタリーに、「えらいわー」と頭をぐりぐり撫でられてしまいました。

 

 ちなみにミルクの兄姉は三匹ほど引き取り手があって、いまは三毛と母猫だけになってしまいました。ナタリー曰く、「また恋の季節が来れば増えるから」と笑っていました。

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