2.弟子の一日 後編
朝の仕事が終わってちょっと一息ついたら、サンドラと薪になりそうな枝や薬の調合に使う薬草を取りに森へ出かけます。
「さて、今日は何が見つかるかしらね。そろそろ行ってみましょうか、ヘーゼル」
「はい、サンドラ! おいで、ミルク!」
森へ行くのは大好きです。森の空気は澄んでいて、思わず深呼吸してしまうくらい。ミルクもしっぽをピンと立てて、散歩がてらついてきます。
サンドラから食べられる草や実、薬草の種類を教えてもらえる大切な機会だから、森へは絶対に行きたいのです。
たまに「生き残ることはとても大切ですからね」と、森で迷った時に使える生活の知恵も教えてもらえます。
雨の日は森の入り口くらいまでで薪拾い中心になります。とても残念。
森から帰ってきたら、作業着から部屋着に着替えてお昼ごはんの支度です。
お昼ごはんは、みんな一緒にとります。だいたい、朝採りたての卵と香草を入れたお粥に、ちょっと塩味をきかせたものですが、たまに黒パンに乾燥した果物や蜂蜜とナッツの時もあります。
ミルクは子猫用のご飯を遊んだ分、もりもり食べます。
お腹いっぱいになったミルクは、「ねむねむ~」と早くもひと眠りし始めます。私もうとうとと瞼が重くなって、ひと眠りします。サンドラと手袋も午後に備えて一休みします。
午後になると、まずはサンドラに教わりながら、読み書きの練習をします。最初は文字の練習から、単語、文章と日々難しくなっていきます。ほかにも数を数える練習もあります。
サンドラ曰く、「魔法を使わなくても一人でも暮らしていけるように、まずは基本的な事を学ぶのが先です(にっこり)」。
魔女に弟子入りしても、すぐに魔法を教えてもらえるわけではないのでした。
「ヘーゼルは覚えるのが早いから、教え甲斐があっていいわね」
「私は早く魔法が習いたいです、サンドラ」
「大丈夫よ、ヘーゼル。魔法は逃げていかないわ」
ミルクはミルクで、手袋から使い魔としての勉強を叩き込まれています。まずは言葉遣いから、主人に対する態度をみっちり――。やってるはずなんだけどなあ。私、ミルクからすごく舐められてる気がする……。
まだ子猫だから仕方ないのかな。「そんなことはありません」と手袋は言っているのだけれど。
サンドラはたまに村や街へ必要なものを仕入れに出かけます。
サンドラが出かけている間に、手袋からご近所とのお付き合いの仕方などを教わります。サンドラは村や街では一応薬屋として生計を立てているという事になっているので、魔女である事は内緒なのだそうです。
なので、私が魔女の弟子である事も内緒です。手袋とミルクが使い魔であることも内緒です。
日が落ちる前に干してふかふかになった洗濯物を取り込んで、鶏小屋に鶏を追い込んだら、サンドラが精霊にお願いして家の中を明るくしてもらいます。
家じゅうのランプに灯りがともり、何とも言えないあたたかな気持ちになります。
「サンドラ、灯りがともると、なんだかいつも安心出来ます」
「そうね、ヘーゼル。灯りは人間が暗闇を克服するための道具ですもの。安心出来るのは至極当然の事なのよ」
家の中が明るくなったところで、夕ごはんの支度です。
朝収穫しておいた野菜、例えば人参や蕪をナイフで切って鍋に入れ、コトコト煮込み、香草と塩で味を整えてスープの完成です。
「きょうは蕪のスープだけど、味はどうかしら?」
「ん~。いい感じです!」
「じゃあ、お皿に盛り付けていただきましょう」
スープが完成したら皿に盛り付けて、パンやサラダを添えてみんなで集まって夕ごはんを頂きます。ミルクはやっぱり子猫用の食事です。
夕ごはん後は、サンドラからいろんなお話を聞きます。臨場感あふれる語り口に、手に汗握るお話だったり悲しいお話だったり、様々なお話でいつもぐいぐいと聞き入ってしまいます。
サンドラから、「そろそろ練習がてら、日記を書いてみましょう。最初は思いついたことを書きとめる事から始めましょうね」。
ということで、寝る前に日記を書くことになりました。一日をふり返って、今日はこんな事を習った、こんな事があったと、思いつくまま日記帳に書きとめています。
ミルクはお腹いっぱいになって、暖炉前の籠の中で先に寝ちゃってます。寝ている間はいつ見ても、かわいいふわふわのまんまるさんです。
日記を書き終わると、寝る支度です。
サンドラと手袋に「おやすみなさい」を告げて、先に寝ているミルクを起こさないようにそっと連れて自室へ行き、ふかふかの専用ベッドに寝かせます。
「おやすみミルク。また明日ね」と声をかけて、私も寝間着に着替えてベッドに潜り込みます。
一日の疲れがドッと出て、すぅっと眠りについてしまいます。
サンドラと手袋は、もう少しあとに寝るみたいです。日記をつけたり、書物を読んだり、魔法や薬の研究をしたりするそうです。
こうして魔女の弟子の一日が終わります――。




