6.使い魔ミルク誕生
「ヘーゼル、起きてください。子猫を使い魔にする契約の儀式を行います」
すっかり寝入ってしまったヘーゼルを、わたくしが部屋まで起こしに来ました。ヘーゼルは、「うーん」と伸びをして、わたくしと一緒にリビングへ急ぎます。
(ワクワクすると同時に、やはり緊張もする……。だって私の使い魔が出来るんだもの)
それはそうでしょうねぇ。わたくしは使い魔の力で、ヘーゼルの心の声を受け取りました。ご主人とわたくしのときは、ご主人はワクワクしていたものの緊張はしてませんでした。むしろ緊張していたのは……わたくしのほうでしたか?
「しっかり休めたかしら、ヘーゼル?」
「はい、すっかり元気です、サンドラ」
「では、始めましょうか。子猫と一緒にこちらへ」
ご主人が指し示した先には、わたくしの用意した魔法陣が描かれており、ほのかに青白く光を放っていました。ヘーゼルは籠から子猫をそっと抱き上げ、魔法陣の中央へと進みます。
すると、魔法陣の光が眩しいほどにキラキラと輝き、ヘーゼルと子猫をやさしく包み込みました。
「相性はとても良いようね。それでは、ヘーゼル。その子に名前をつけてあげなさい」
「えっ、名前!? 名前、名前……」
えぇ~! このファッ〇ン小娘、まさか名前を決めてなかったのですか? わたくしとしたことが、事前に確認を取っておくべきでした……とんだ失態です。
「ヘーゼル、その子をよく見て。そうすれば、その子が教えてくれるわ」
「子猫をよく見る? うーん……白いからミルク? ミルク……そう、あなたはミルク!」
ヘーゼルが子猫の名前を叫んだ瞬間、魔法陣の青白いキラキラがいっそう強く輝き、渦を巻くようにヘーゼルとミルクを包み込みました。そして、光がすっと二人の体に染み込むように流れ込んだかと思うと、魔法陣はふっと消えました。
どうやら契約の儀式は成功したようです。
ミルクと名付けられた子猫は、琥珀色の瞳でじぃっとヘーゼルを見つめ、一言――。
「おまえ、ごしゅじん、さま?」
「ふえぇ? 子猫がしゃべった!」
ヘーゼルは驚いて、抱き上げた子猫をじっくりと見返しました。
まあ、そうでしょうね。普通の猫は人語を話せませんから。
「ミルク……いい名前ね。ヘーゼル、ミルクに応えてあげなさい」
「私、ヘーゼルがミルクの主です。これからよろしくね」
「ヘーゼル、ごしゅじんさま。おれ、ミルク」
こうしてヘーゼルの使い魔――『ミルク』が誕生しました。
(白くてふわふわで、琥珀色の瞳で私を見返してくれる……なんてかわいい子なんでしょう! 私だけの使い魔!)
ヘーゼルは嬉しそうにミルクを抱き上げながら、その場でくるくる回っています。……まあ、ミルクが”かわいい”のは今のうちだけだと思いますけれど。生意気な口の利き方といい、先達の感として、そんな予感がいたします。
「こんにちはミルク。ワタシはサンドラ。ヘーゼルの師匠になるわ。こちらはワタシの使い魔の手袋。あなたの先輩になるわね。よろしくね」
「ご主人。無事、契約の儀式は終えたようですし、そろそろ夕餉といたしましょう」
「そうね、ワタシもお腹が空いたわ。今夜はナタリーから頂いたチーズで、少し豪勢なグラタンを作ったの。ヘーゼルの記念すべき第一歩を、それでお祝いしましょう」
――こうして、森の魔女の家に小さな使い魔が一匹加わることになりました。
そして、わたくしの仕事に、”ミルクの特訓”が加わることになり、どうやら明日から忙しくなりそうです。……はぁ。
ヘーゼルの使い魔、ミルク爆誕です。
手袋の苦労、いえ仕事が増えました……。
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