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【全年齢版】部長と私の秘め事  作者: 臣 桜
第三回女子会

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やがて、花畑になる事を信じて

 美味しいあなご丼を食べて、パフェまで食べられるなんて幸せだ。


 私はあなごの肝をつまみつつ、「お土産、何を買って行こうかな」と考える。


 その時フワッと脳裏に浮かんだのは、ホテルにいたとき恵が【話なら東京に戻ったあと聞く】と言ってくれた事だ。


(そういえば私たち、凜さんの件で広島に来たんだっけ)


 彼女と会って話したあと、納得はすれどモヤモヤしていたはずなのに、尊さんと一緒に楽しく観光していると、その不安が消えているのに気づいた。


 もしかしたら、今は旅行中だから余計な事を考えずに済んでいるだけで、東京に戻ったらまたモヤモヤするかもしれない。


(でも、一度はこうやって忘れられたぐらいだから、気にせず暮らす事だって全然可能なんだ。……大体、グルグルと考え事をしちゃう時って、疲れた時や夜、体調の悪い時って相場が決まってるし)


 思ってみれば、尊さんに泣き言を言ってしまったのは、凜さんたちと会った夜で、勿論、慣れない土地を旅行して疲れたし、尊さんの元カノに会って色んな感情を抱き、難しい話もしたし、頭もこんがらかっていた。


(あれだと、頭グチャグチャになってもしょうがないな)


 それに尊さんだって同じぐらい、……ううん、それ以上参っていたかもしれないのに、私ばっかり泣いて我が儘を言ってしまった。


(反省しないと)


 そんな事を考えている間に、私たちはお会計を終えてお店を出た。


「尊さん」


 私は通りの脇で彼に向き直ると、バッと両腕を広げる。


「……? 何だよ」


 彼は不思議そうに目を瞬かせ、私を見つめる。


「甘えていいですよ」


 ドヤ顔で言ったけれど、さらに困惑させてしまったようだ。


「……腹一杯になったから甘えるのか?」


 ――前後が繋がってなかった!


 私は両手で頭を抱えて溜め息をついたあと、ゆっくりと商店街のほうに歩きつつ言う。


「私、多分、もう凜さんの事は大丈夫だと思います」


「ん」


 尊さんは黒いキャップを被り、青いサングラスを掛けて頷く。


 大きめの茶色いサングラスを掛けた私は、ハンディファンの風を浴びながら、イエローのワンピースに包まれた脚を動かす。


「昨晩はごめんなさい。尊さんだって思う事は沢山あっただろうに、私だけ嫉妬して我が儘言って、困らせてしまいました」


「昨晩も言ったけど、朱里が謝る必要はない。前向きに捉えようと努めても、女絡みなんて嫌な思いをするに決まってるし、無理しなくていいんだ」


「うん……」


 私は中途半端に頷き、なんと言ったものか考える。


 しばらく歩いたあと、尊さんが言った。


「無理に結論を出さなくていいと思う。世の中にある事柄すべて、綺麗な正解がある訳じゃない。彼女の身に起こった事も刑事事件として片付いていない。関わった人、全員が傷付いて、無理に自分に『大丈夫だ』と言い聞かせて平気なふりをしようとしてる。……今回の〝結論〟は、みんなの我慢の上で成り立っている。……なのに強引に〝答え〟を見つけようとしなくていいんだ」


 尊さんはつばの広いハットの上から、私の頭をポンポンと撫でる。


「スッキリしねぇよな。なんとか納得できる形にして、呑み込んで次にいきたい。……気持ちは分かる。……でも、答えが出ないままってよくあるんだ。……俺だって本当は怜香に土下座させて、心からの謝罪を聞きたい。……でも無理だ。当分は物理的に敵わないし、出所してもあいつとは一生顔を会わさないだろう。母とあかりの墓の前で、地面に額を擦りつけさせて謝れと言いたいが、あいつは速水家の墓前に立つ資格もない。……こういう風に、『望んでるけど無理だ』って事は沢山ある。……世の中、思い通りにいかねぇんだよ」


「……そうですね」


 小さく頷くと、尊さんは手を握ってきた。


「俺らの心は、酷い出来事が起こってボコボコに荒らされた。地面なんて穴だらけだよ。……でも、楽しい思い出を作って、そこに花を植えていく事はできる。大きな爆発があった跡地でも、花は根を張って咲く。一輪だけじゃ寂しくても、沢山楽しい思い出を積み重ねていくうちに花畑になる。そうしたら、そのうちそこにでかい穴が空いていた事なんて忘れるかもしれない」


 そう言ったあと尊さんは立ち止まり、くんっと手を引かれた私は彼の腕の中に収まる。


 思わず見上げると、少し陰のある美形が微笑んでいる。


「俺には朱里って花屋がいるからな。いつでも植え放題だよ」


 尊さんは優しく笑い、一本に纏めた私の髪をスルンと手で梳る。


「…………花屋じゃなくて、フローリストがいいです。そっちのほうが格好いいから」


「華道家、上村崎朱里」


「なんか金髪にしないとならない気がしてきた」


 私たちは顔を見合わせて笑う。

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