第18話(上) バグと肴亭での密談 - 真実への糸口
会議が始まりました。
おしゃれなバーでコンソメスープってあこがれるんですが、経験したことがないですw
階下の座敷に案内されると、そこには亭主のリカルドが、小さな鍋で良い香りのスープらしきものを混ぜ合わせていた。
「よく来たな。大体の事情は聞いているぞ」
リカルドは話しながらも、手元の作業を続けている。
「まずはこれを飲んでくれ。うちのオリジナル『コンパイラー・コンソメ』だ。頭をクリアにする効果がある」
小さな磁器のカップに、透明な琥珀色の液体が注がれる。湯気と共に、香辛料の芳醇な香りが立ち上る。カップの表面には、パセリのような青緑色の葉っぱが数枚浮いていた。かじるとミントのような味がした。
「これは『デバッグハーブ』だ。プログラマーの思考を整理すると言われている。おまえさんがたのたくらみを応援させてもらうと思ってな。特別に取り寄せたやつをだしてやろう」
アキトが一口すすると、温かさが体の芯まで広がる。
シンプルながら深みのある味わいと、ハーブの爽やかな余韻が、疲れた頭をリセットしてくれるようだ。
「少し物足りないかもしれんが、成分が強めでな。これくらいがちょうどいい。」
アキトはゆっくりとあたたかいスープを飲み干す。
(不思議だな。心はすっきりし、かつ、リラックスしてきた。これは良いコードがかけそうだ。。。)
「さらに、本題に入る前に…」
リカルドは複数の小瓶を手元に揃え、カクテルの調合を始めた。彼の手つきは流れるように滑らか。まるで舞うように、液体を計量し、シャカシャカと軽快な音を立てて混ぜ合わせていく。
「これを飲んでくれ。『デバッガーズ・モヒート』だ。ノンアルコールだから安心してくれよ」
透明なグラスに注がれた薄緑色の液体からは、ミントの爽やかな香りが漂う。氷がキラキラと輝いている。
「疲れた頭をリフレッシュさせる効果がある。暁の傭兵団の連中も、難しい解析の後によく飲んでいたよ。お前さんが甘党って聞いたんでな、少しだけR統計連合産のハチミツを入れてある。」
一口飲むと、ミントの清涼感と柑橘系の甘酸っぱさが広がる。先ほどのコンソメと相まって、頭がすっきりとしてくる。
(これはいいな…ふんわりした甘さがまた、たまらない)
【スキル『集中力』がLv.5→Lv.6にアップしました!】
【一時効果『思考クリア』が発動しました!分析能力が15分間アップします】
「さて…、」
リカルドは自分の分も注ぎながら続けた。
「Javaシティの件だが……おっと来たな」
その時、入り口の方で物音がした。
「失礼します」
落ち着いた声と共に、一人の女性が入ってきた。黒いスーツに身を包み、知的な雰囲気を漂わせている。引き締まった体型と凛とした目線が、その存在感を際立たせていた。
「彼女が暁の傭兵団の団長だ。協力が必要不可欠なのでな、こちらの判断でさっき呼んでおいた。」
リカルドが軽くうなずく。
「初めまして。暁のクラウド傭兵団、現団長のリリカという」
彼女はアキトたちの前に腰を下ろした。その動作は洗練されていながら、どこか男性的な力強さも感じさせる。
「カイエンの件、聞いています。実は、私たちも調査を進めていたんです」
リリカは座る間も惜しいように、タブレットを取り出し、複雑なデータを表示させた。指先の動きは正確で洗練されており、プロフェッショナルな印象を与える。
「グローバル・ソリューションズは、セキュリティ診断を装って、システムの深部に不審なコードを埋め込んでいったようだな」
「そのコードが、どんな種類のものだったのか、俺たちは突き止めかけていた」
リカルドが続ける。
「従来のJavaシティのシステムは、厳格なオブジェクト指向の原則に従って設計されていた。カプセル化、継承、ポリモーフィズムといった基本概念が、セキュリティの基盤となっていたんだ」
「しかし」リリカが言葉を継ぐ。「グローバル・ソリューションズは、その原則の『例外処理』の部分に着目した。彼らは、正当な例外処理に見せかけて、実は深刻な脆弱性を持つコードを注入していったのです」
「なるほど……」
アキトは考え込む。
「例外処理なら、システムの正常な挙動の『例外』として認識されるから、通常の監視では検知されにくい」
(捨て牌を使った相撲の一番を見るようなものだな…相手に気づかれにくい、絶妙な隙を突いている)
リリカは頷く。
「私たちが作成しようとしていた報告書には、その証拠が含まれていた。例外処理を通じて、彼らは徐々にシステムの制御を奪取していった」
「前回はカイエンに何かあってはいけないから、権限を奪わせておいたが、もうやり方はわかったから、私たちのスキル『ゴーストダイブ』を使って侵入と対応はできると思う」
「確かに、『ゴーストダイブ』を使えば、システムの奥深くまで、まるで幽霊のように潜入できるからな」
リカルドは慎重に言葉を選ぶ。
「それでも、システムへの潜入には大きなリスクが伴う。グローバル・ソリューションズは、すでに私たちの存在を警戒している」
「でも、やるしかない」
リリカは決意を込めて言う。
「それに」
リカルドがグラスを回しながら続ける。
「アキト君の『バグ予測』と『機械共鳴』のスキルがあれば、私たちの調査に大きな助けになるはずだ。システムの異常を直感的に感知できる能力は、貴重な武器になる」
この時、リリスが口を開いた。
「でも、どうしてグローバル・ソリューションズは、これほどまでにJavaシティのシステムを支配しようとしているのかしら?」
リリカは一瞬、リリスを見つめ、それから慎重に言葉を選んだ。
「グローバル・ソリューションズの背後には、別の存在がいる可能性が高い。そこでは『クロスコンパイル・シンジケート』と呼ばれる組織の名前が浮上している」
「クロスコンパイル・シンジケート…?」リリスが眉をひそめる。「聞いたことはあるわ。複数の言語国家を横断する謎の組織よね。でも、具体的な活動はあまり…」
「詳細は今は話せない」
リリカはきっぱりと言った。
「情報が断片的すぎるし、この場で話すのは危険だ。ただ、彼らが各都市のレガシーシステムを狙っているのは確かなようだ」
「ピピカチャ!ナニカ ウラガアルッポイ!」ピットが警告を発する。
リカルドは小さくため息をついた。
「いずれにせよ、Javaシティのシステムには、他の都市にはない特殊な機能が隠されているようだ。『レガシーコード』と呼ばれる、創設時代からの厄介な機能群がな」
リリカが続ける。
「グローバル・ソリューションズは、そのレガシーコードを利用して何かを企んでいるはずだ。隙を突かれたとはいえ、相当に計画されているよ」
「ああ、その通りだ」
リカルドは頷く。
「だからこそ、私たちは慎重に行動しなければならない。一歩間違えば、システム全体が崩壊する可能性もある」
「我々は、どう動けばいいんでしょうか?」
アキトが尋ねる。
リリカは少し疲れた表情で、コンソメの残りに手を伸ばした。
一口すすり、少し表情が和らぐ。
「うん、美味いな」
彼女はリラックスした様子で言った。
「リカルド、相変わらず見事だ。こういうシンプルな味わいが、長時間の作戦会議では重要なんだよな」
アキトも自分のモヒートを飲み干す。体の中で、さらに強い清涼感が広がる。
【スキル『洞察力』がLv.4→Lv.5にアップしました!】
【一時効果『思考加速』が発動しました!思考速度が10分間アップします】
リリカは手元のタブレットを操作し、複雑な図面を表示させた。
「まず、クラスタータワーへの潜入を計画している。そこには、レガシーコードへのアクセスポイントがあるはずだ。私たちのゴーストダイブと、アキトさんのスキルを組み合わせれば……」
「待ってください」
リリスが遮る。
「その前に、カイエンから受け取った暗号化された情報を確認しませんか?」
「そうだな」リカルドはカウンターの下から古い端末を取り出した。
「これを使ってくれ。この店には特殊な遮断システムが施されているが、それでも万が一ということがあるからな。完全にスタンドアロンで、どこからも侵入できない」
「では、見てみましょう」
リリカが端末を操作し始める。暗号化された情報が、徐々に解読されていく。彼女の指先は、複雑なセキュリティプロトコルを次々と突破していく。その手際の良さには、長年のセキュリティ分野での経験がうかがえる。
全員の緊張が高まる中、スクリーンには重要な情報が表示され始めた……
【スキル『情報解析』がLv.3→Lv.4にアップしました!】
【新スキル『コード追跡』を習得しました!】
続きます。




