第16話 夕闇の脱出 - バグジロウのパワーアップと新たな仲間
バグジロウのパワーアップ回です(^^)
カフェを出たアキトとリリスは、Javaシティの不安定な空気の中を静かに歩いていた。
頭上では幾何学的な紋様を描くホログラムが不規則に明滅し、エネルギーラインからは時折異常な放電が走る。
「まずは、移動の足を確保しなければ。バグジロウのところへ戻りましょう」
リリスは周囲を警戒しながら、小声で言った。
「でも、このままじゃ目立ちすぎますよね」
アキトは、彼らの姿を追うような監視カメラの動きを気にしていた。
「ピピカチャ!ワタシガ カンシスル!マカセテ!」
ピットが電子音を立てながら、小さな翼でホバリングを始めた。
カイエンから教えられた裏路地を通って、彼らは駐機場に向かう。そこでは、整備士のタナカが待っているはずだった。
「タナカには私からも連絡を入れておいたわ。信頼できる技術者よ。カイエンとも旧知の仲なの」
リリスの言葉に、アキトは小さく頷いた。
薄暗い路地を抜けると、古びた倉庫のような建物が見えてきた。その前には、作業着姿の小柄な女性が、複雑な機械を手際よく操作していた。
「タナカ、久しぶり」
「やあ、リリス。これが噂の転移者かい?」
タナカは工具を片手に、アキトを興味深そうに見つめた。その目は鋭く、技術者特有の観察眼を感じさせる。
「タナカです。メカニカルエンジニア歴……まあ、かれこれ20年ってところかな。」
彼女は軽く会釈すると、すぐにバグジロウの方に視線を向けた。
「さて、こいつがカイエンの言ってた問題児ね。ふむふむ…」
タナカはバグジロウの周囲を歩きながら、あちこちをスキャンしていく。
「おい!誰が問題児だって!?」
バグジロウが反発するような声を上げる。
「あら、なかなか愉快な性格じゃない。でも、このままじゃ街から出るのは難しいわね。監視システムに即座に検知されちゃう」
タナカは片目を瞑りながら、何やら計算をしているような仕草を見せた。
「まずはステルス機能の追加、それから推進システムの最適化……あと、このエネルギー効率も改善の余地ありね」
彼女は作業台から複数の工具を取り出すと、手際よく作業を始めた。バグジロウの装甲の一部を開き、中の配線や機械部品を巧みに操作していく。
「ちょ、ちょっと!そこは触らないでくれよ!くすぐったい!」
「じっとしてなさい。これでアンタも快適になるわよ」
タナカの手つきは確かで、まるで外科手術のような精密さだった。
タナカの作業は、まるで芸術的とも言えるほど流れるように進んでいく。
「へえ、なかなか面白い改造してるじゃないか」
アキトは、タナカの作業を興味深く観察していた。
「わかる?ちなみにこのバグジロウ君、基本設計は素晴らしいのよ。作ったエンジニアが優秀だったんでしょうね。
でも、長年の使用でかなり無理がかかってる。それに、一部の機能が制限されてる形跡もあるわね」
タナカは作業の手を止めることなく説明を続ける。
「ほら、ここの配線。本来なら高度なステルス機能を持っているはずなんだけど、意図的に封じられているように見えるの」
「なに?俺にそんな機能が?そんなの知らんぞ」
バグジロウも驚いた様子で反応する。
「ふむふむ……あっ!」
突然、アキトの目が輝いた。
「それ、意図的な制限というより、バグの影響かもしれません。この配線パターン、さっきカフェで見た異常なエネルギーの流れと似てる」
タナカは感心したように顔を上げた。
「鋭いわね。その通り。これはJavaシティのシステムによく見られる異常なパターンよ。なんでこんなのを仕込まれてるのかしらね。
でも、この程度なら……」
彼女は小さなデバイスを取り出し、バグジロウの制御系統に接続した。複雑なコードが画面上を流れる。
「アキトくん、ちょっと手伝ってくれない?あなたのデバッグ能力があれば、もっと完璧な調整ができるわ」
「はい、やってみます」
アキトは『コードキャスター』を取り出し、タナカの作業に合わせて、異常なコードの修正を開始した。
(デバッグして、、、コミット、マージ、デプロイ!なんか慣れてきたな)
「おお……これは、心地いいな」
バグジロウの声が、わずかに上機嫌になる。
リリスとピットは、周囲の警戒を続けながら、時折作業の様子を興味深く覗き込んでいた。
「ピピカチャ!バグジロウ パワーアップシテルヨ!」
約30分後、タナカは満足げに手を叩いた。
「よし、これで基本的な改修は完了ね」
バグジロウの外装は以前より艶やかになり、所々に施された新たな装飾が青く光っている。
「ステルス機能の復活に加えて、エネルギー効率を30%ほど改善したわ。それに……」
タナカは声を落として続けた。
「カイエンから聞いた話で、いくつか特別な機能も追加しておいたの。必要になると思うから」
「特別な機能?」
アキトが問いかけると、タナカは小さく微笑んだ。
「シティのセキュリティシステムを一時的に欺く偽装信号発生装置。それと、緊急時用のブースター。ただし、これらの使用は一回限り。タイミングは慎重に選んでね」
そして、タナカはポケットから小さな記憶媒体を取り出した。
「これはカイエンからの情報よ。暗号化されてるから、安全な場所で確認して」
アキトが受け取ろうとした時、突然ピットが警告の電子音を発した。
「ピピピ!キケン!セキュリティボット セッキン!」
「感づかれたかしら、さあ、こっちよ!」
タナカは素早く壁面のパネルを操作し、隠された通路を開いた。
アキトたちが隠れるのと同時に、通路の反対側からセキュリティボットの重い足音が近づいてくる。息を潜めて待つ間も、タナカは黙々と後片付けを続けていた。
【スキル『バグ予測』がLv.7→Lv.8にアップしました!】
【新スキル『機械共鳴』を習得しました!】
(おっ、スキルが…!タナカさんの作業を観察していたおかげかな)
セキュリティボットの足音が遠ざかるのを確認してから、タナカは声を落として言った。
「この辺りの警備はだいぶ強化されてるわ。でも心配いらない。バグジロウの新しいステルス機能があれば、うまく抜けられるはず」
「感謝します、タナカさん」
アキトは新たに得たスキルの感覚を確かめながら、バグジロウに近づいた。
【スキル『機械共鳴』の効果により、機械との相互理解が深まります】
【現在の共鳴対象:バグジロウ】
「おや、アキト。アンタとの繋がりが強くなった気がするぞ」
バグジロウも、新しい感覚に戸惑いながらも、声を上げた。
「ふむ、面白い反応ね」
タナカは二人の様子を見て、満足げに頷いた。
「相性が良さそう。これなら計画通りいけるわ」
リリスが時刻を確認する。
「そろそろ日が暮れ始めるわ。出発の時間ね」
タナカは最後の調整を終えると、アキトたちに向き直った。
「シティの北門が一番警備が薄いわ。でも、20分以内に出なきゃいけない。その後は警備のローテーションが変わるから」
「了解です」
乗り込んだ瞬間、アキトはバグジロウとの一体感を強く感じた。
まるでマシンの動きが自分の体の延長のように感じられる。
「準備はいいかい、相棒?」
バグジロウの声には、これまでにない親密さが感じられた。
「ああ、バッチリだ。行こう」
リリスとピットも後部座席に素早く乗り込む。
「気をつけて。でも、あなたたちなら大丈夫でしょう」
タナカは最後にそう告げ、彼らを送り出した。
夕暮れのJavaシティで、静かな脱出劇が始まろうとしていた。
さて、脱出はうまくいくのか?




