第15話 静寂のJavaシティ、裏通りの密会
「さて、カイエン、いったい何があったの?」
リリスがカイエンに短く問いかけるのをさえぎり、カイエンは町はずれのカフェまで歩き始めた。
途中で何度も後ろを振り返り、周囲を気にする様子を見せる。
表通りを抜けたJavaシティの内部は、外から見た印象とは異なり、活気も人通りもまばらだった。
普段は秩序正しいホログラフィック広告はノイズ混じりの砂嵐のようになっており、行き交うホバーカーやスクーターの姿も少ない。時折見かけるのは、どこか緊張したおももちの警備員ばかりだ。
街中に張り巡らされたエネルギーラインは、所々で青白い光が弱く点滅しており、全体的に不安定な流れを示唆していた。
高い空に向かって伸びる金属製な建物に設置されたホログラフィックなサイネージは、本来であれば広告や案内などが出ていたはずだが、奇妙な幾何学的な模様を表示していたり、エラーコードや妙な画像が ちらついていたりする。
(これは明らかにおかしい。シティ 全体がまるで、重い機能不全に陥っているようだ…)。
見まわそうとするアキトをさえぎり、カイエンは、すばやくアキトたちを都市の 中央通り から逸れさせ、人気のない裏通りへと足を進める。
彼の焦燥感が伝わってくる。
「 現在、 Jaraシティの状況はたいへんにデリケートなのです」
カイエンは声を潜めて言った。
「道ばたであっても誰に聞かれているかわからない。公共の場所で話すのは危険すぎます」
彼に導かれたのは、都市の喧騒から遠く離れた、埃っぽいような古い本の匂いがかすかにただよう、小さな裏通りにひっそりと佇む、木製の ドアの小さなカフェだった。
飾り気のない茶色の看板は、無機質な金属のJavaシティの中で異質な温かみを醸し出していた。
古びた木製なカウンターと、ところどころに 古びたソファが置かれた店内には、 この店の店主であろう高齢の女性が一人、静かに椅子に座って分厚い技術書を読んでいた。カイエンは彼女に軽くあいさつし、だけで、奥のよりプライベートなテーブル席へとアキトたちを案内した。
(あの技術書、〇ライリー社のやつじゃないか?もしかしてあの女性もエンジニアなのか?)
カフェの窓からは、以前リリスが言及した、高い塔が見えた。
鋭いアンテナを空に突き刺すように伸ばしたその塔は、無機質な金属の近代的な都市の中で、その塔だけが石でできており、シティの長い歴史を語るように重厚な存在感を放っていた。
「あれは『クラスタータワー』よ」
リリスは単調な都市の景色の中で、その塔を見つめながら言った。
「Javaシティ創立当初から存在する、エネルギー制御の中枢を担う塔の一つで、この街のエネルギーを蓄積し供給する、巨大なコンデンサのような役割を果たしているの。『ポリモーフィズム・スパイク』や『カプセル化・オベリスク』なんて名前の塔もあったはずよ。優秀なエンジニアが多い街だし、こんなバグだらけになっても自分たちで対処できそうなものだけれどね……」
注文した飲みものが届くと同時に、リリスは再びカイエンに向き直った。
「さて、カイエン、ゲートの時の 奇妙な 対応といい、シティのこの静けさといい……一体何があったの?隠さずに教えてちょうだい」
カイエンは深いため息を吐き出し、不安な表情で声を低く落とした。
「実は……数ヶ月前から、 この都市では深刻な事態が起こっているのです」
彼はそう切り出した。
「セキュリティシステムに脆弱性が発見され、それを外部のコンサルティング会社に依頼して対策を講じようとしたのですが……それが、完全に裏目に出てしまったのです」
「外部のコンサルティング会社 ……?暁のクラウド傭兵団ではないわね?」
リリスはカイエンの言葉に小さな引っかかりを感じた。
「いいえ、彼らではありません。 より大きな 、 最近各大規模に宣伝している『グローバル・ソリューションズ』というコンサルティング会社です」
カイエンは苦々しい表情で答えた。
「彼らは、最新のセキュリティ技術で都市 を守るといって売り込んできました。しかし……」
彼は言葉を小さく詰まらせた。
「彼らが シティのシステムに深く侵入した結果、逆に脆弱性を突かれて、システムの中枢を乗っ取られてしまったのです」
「乗っ取られた……?」
アキトは思わず声を出した。
「そんなことがあり得るのか?」
「信じられないことですが、実際に起きてしまったのです」
カイエンは深いため息をついた。
「それまでシティの保守運用を長い年月担当してきたエンジニアたちは、その コンサルティング会社のやり方に反発し、暁の傭兵団に頼んで解決しようとして、結果として……ほとんど全員追い出されてしまったのです」
リリスの目が鋭くなった。
「それが、 シティのエンジニアたちがバグに対処できていない理由なのね?」
「その通りです」
カイエンは頷いた。
「 グローバル・ソリューションズの連中は、表面的な知識しか持たず、シティの複雑な古いシステムをまったく 理解していません。バグ は 広がっていく 一方で、私たち は手も足も出せない状態なのです」
彼の言葉は重い。堅牢な論理で築かれたはずの「Javaシティ」は、外部からの侵入者によって、静かに、そして確実にむしばまれている。
緊迫した空気になったところで、静かに店主が近づいてくる。
「長くなりそうだね。良ければアップルパイを焼いたのだけれどどうだい?今日は特別にアイスクリームもつけてやろう。大事な話のときには、甘いものを食べながらがいい。糖分をチャージして頭をひねるもんさね…。」




