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第16話 静寂のJavaシティ、裏通りの密会(続き)

裏通りの密会の続きです。

アップルパイの描写も入れようと思っていたのですが入らなかった(^^;

 店主の予期せぬ申し出に、カイエンは少し驚いた表情を見せた。


「アップルパイですか?お気持ちはありがたいけど、ロクリアさん。ちょっと今はそれどころではなくて……」


 リリスはカイエンの言葉をさえぎり、優しくほほえんだ。


「カイエン、せっかくのご厚意だわ。いただくことにしましょう。アキトもいいわね?」


(まあこのおばあさんの言うとおりだよな。それに焼きたてのアップルパイにアイスクリームなんて、俺の大好物じゃないか、大・賛・成!)


「そうですね、長くなりそうだし」


「では、ぜひお願いします」


 リリスは店主に礼を言った。


 店主は静かにほほえみ、奥の厨房へと消えていった。


 カイエンはまだ少しばかりためらっているようだったが、リリスの 落ち着き払った様子に、少し落ち着きを取り戻したようだ。


「……申し訳ありません、取り乱しました」


 カイエンは再びリリスに向き直った。


「グローバル・ソリューションズの連中は、まさに言葉巧みに上層部を丸め込んでいったのです。彼らは、最新のオブジェクト指向の手法だとか、クラウドベースのセキュリティだと、もっともらしい専門用語を並べ立てた、うわべっつらのプレゼンテーション資料を作成し、時代遅れな上層部をすっかり信用させてしまったのです」


 カイエンは苦々しく続けた。


「彼らは、 都市 のエンジニアたちの警告にも耳を傾けず、ろくに調査もせずに、自分たちの形式的な知識と、色彩豊かなパワポイントの資料だけを信じて、上層部を説得し続けたのです。

そして、その結果が、この 都市 全体の機能不全というわけです」


 リリスは腕を組み、興味深そうにカイエンの言葉に耳を傾けた。


「オブジェクト指向は、Javaシティの基礎とも言える概念でしょう。多少いじったところでそうそうゆらぐはずがない。それがなぜ、問題を引き起こしたの?」


「ええ、おっしゃる通りです。Javaという言語自体が、オブジェクト指向の パラダイム を根本的に取り入れた、堅牢性と汎用性を誇る偉大な遺産です。

 Javaシティのシステムも、その 原理 に基づいて構築され、長年にわたり、丁寧に保守されてきました。私も、その初期からこのシステムの構築に深く関わり、誰よりもその構造を理解している一人であると自負していました。


 しかし、グローバル・ソリューションズの連中は、その表面的な知識で、 都市 の深遠な構造を理解しようともせず、表面的な最新の手法を無理やり導入しようとしたのです」


 カイエンの声には、長年 都市 のシステムを守ってきたエンジニアとしての怒りと 悲しみ が滲んでいた。


「アキトさん、信じられないかもしれませんが、私は以前、このJavaシティのシステム部門でリードエンジニアを務めていました。長年にわたり、この 都市の心臓であるシステムを支えてきたのです」


「そう、不思議に思っていたわ、そんなあなたが、なぜ今、警備隊に……?」


 カイエンは苦い表情で答えた。


「それも、今回の事態と深く関わっているのです……実は、グローバル・ソリューションズのやり方に強い懸念を抱いた私は、以前から付き合いのあった暁の傭兵団に密かに調査を依頼していたのです」


 カイエンは少し身を乗り出した。


「彼らは、さすがプロの傭兵団です。すぐに 、この異変の問題点と、さらに、グローバル・ソリューションズが単なる無能なコンサルタント集団ではない可能性を示唆する、いくつかの証拠を掴みかけていたのです」


 カイエン の表情はぎゅっとゆがんだ。


「しかし……その動きをグローバル・ソリューションズ側が感知したのでしょう。彼らは、暁の傭兵団を使って私がハッキングをしようとしている、私こそが問題であるという報告書を上層部に提出し、私の権限剥奪を強く進言してきたのです」


「上層部の中には私の技術力を理解し、グローバル・ソリューションズの報告を鵜呑みにせず、正式な調査を提案してくれた人物がいたのです。しかし、私は、暁の傭兵団をこれ以上この事件に巻き込んではいけないと判断しました。彼らに危険が及ぶ可能性があったからです。ですから、私は彼らとの 接触を強制的に断つことにしました。彼らが掴みかけていた情報も、権限を取り上げ、意図的にシャットアウトしてしまったのです。本当に……申し訳ないことをしてしまったと思っています」


 カイエンは深いため息をついた。


「上層部の配慮で、私は警備隊に異動になりました。それで私は別の立場で情報を見られる立場になった。そして私は、暁の傭兵団をこれ以上この事件に巻き込んではいけないと判断し、 接触を断ってしまったのですが……あいつらではこの問題は解決できない、もう一度、彼らと接触し、解決に向けて行動したいと考えています。」


 カイエンはわずかに希望を込めた目でリリスたちを見つめた。


「私は監視されていて動けない。もし、可能であれば……あなたたちに、もう一度彼らと 接触を取ってもらえないでしょうか?彼らがつかみかけていた内容を確認したい」


 リリスは腕を組み、小さく考え込むように顎に手を当てた。


「ちょうどよかったわね、ちょうど暁の傭兵団の創設者と知り合いになったところだったの。アキト、『バグと肴亭』に行ってみましょう」


「あそこをご存じなんですね。創設者のリカルドさんにはお世話になりました。ぜひ、行けそうなら行っていただきたい」


 アキトはきっぱりと頷いた。


「わかりました。この状況を解決するためには、俺たちが行くしかなさそうです」


「ええ、 私たちが行くしかないわね。何か、彼らに伝えるべきことはある?」


 カイエンは深く息を吸い込み、言葉を選びながら言った。


「リカルドさんに……いや、団長に伝えてください。『数ヶ月前からJavaシティのシステムに深刻な問題が発生しており、グローバル・ソリューションズというコンサルティング会社が事態を悪化させている』と。そして、『以前、彼らが掴みかけていた情報に、この問題を解決するカギがあるかもしれない』と」


 アキトは腕を組み、以前「バグと肴亭」を訪れた際の会話を思い出していた。


(リカルドさんはもう最前線には立っていないと言っていたけれど、メンバーもくるって言っていたし、調査にも携わっていたし、まずは相談してみよう)


 リリスは立ち上がった。


「わかりました、 カイエン。必ず、何らかの手がかりを見つけてきます」


 アキトも立ち上がり、「行ってきます」と 短く告げた


 カイエン は不安そうに


「面倒なことに巻き込んでしまって済まない。よろしくお願いします」

と小さく頭を下げた。


 リリスとアキトは、店主にアップルパイのお礼を伝えて静かなカフェを後にし、シティ の喧騒の中へと再び足を踏み出した。


 「バグと肴亭」で彼らを待つであろう再会と、そこで得られるかもしれない情報に、二人の胸には小さな希望と、隠された緊張が入り混じっていた。

このまま続きます。

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