米も味も光らせる【KP長の一手間】
中隊のKP勤務に入った新隊員が、最初にたたき込まれる基本中の基本。それが【飯炊き】だ。
決められた量の米を研ぎ、決められた量の水を入れ、縦型ガス炊飯器のスイッチを入れる。
工程自体は単純だが、主食であるご飯の出来は部隊の士気に直結する。
ベチャベチャだったり芯が残っていたりすれば、過酷な訓練に耐える隊員たちから文句が飛び、残飯もドッサリ残していくのだ。
二ノ宮は、初めての勤務の説明を聞きメモしながら、教育隊の過酷な野営訓練を思い出していた。
初めての二夜三日の訓練は、ろくに眠る事も出来ずに、汗と泥に塗れ、更に朝露が迷彩服を濡らし、体温を容赦無く奪っていった。
疲れと眠気と班長達の怒声に埋もれながら迎えた夜明け。
【状況終了!】
隊員の点呼と身に付けた装備品の確認を終えて、何だか分からない意識で教育隊区隊長の声が耳に入った。
装備品を置いて朝食となった。
温かいご飯と、何か肉の副食、そして忘れられないのが【豚汁】だった。
あの朝食は単なる栄養補給ではない。折れかけた心に灯をともす「何か」があったのである。
しかし疲れ果てた二ノ宮の泥のような記憶は豚汁だけしか残らなかった。
そして先輩達の教えを昼食準備で受けた後の初日の夕食。
教わった通り丁寧に米を研ぎ、規定の水量でセットした。
果たして、KP長の点検でも合格をもらったはずだった。
しかし、いざ炊き上がったご飯を食べてみると、昼に先輩が炊いたご飯のような感動的な旨さがない。
「うーん……」 首をひねる二ノ宮に、KP長筒井3曹が優しく声をかけた。
「おそらく、ちょっと力を入れ過ぎて米を研いでたからだな。ほら見てみろ、割れてる米がちょこちょこあるだろ? 自衛隊に納入されてるお米は、古米や古古米のちょっと古い物なんだ。力加減を間違えると割れやすい。優しく研ぐのがコツなんだよ」
「そうなんですか……知りませんでした。次から注意します」
「よし。じゃあ明日の朝食の時に、俺のとっておきの技を伝授してやるよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
翌朝…
KP長筒井3曹が伝授してくれた「技」は、驚くべき理屈と情熱に満ちていた。
まず第一にスピード。
一番はじめに注いだ水は素早く米全体を洗い、素早く切る。
米がヌカの臭みを含んだ初期の水を吸い込まないようにするためだ。
次に、掌で優しく包むように研いでいく。
米の表面を滑らかにするイメージだ。
研ぐのは1回。
その後は、水の白っぽさが抜けるまで水を何度も入れ替えたら、規定量の水を入れる。
そして…
ここからがKP長筒井3曹のオリジナルだった。
透明になった規定量の水の中で、KP長はもう一度、優しく米を研ぎ始めたのだ。せっかく澄んでいた水が、再びうっすらと白く濁っていく。
「KP長、せっかく綺麗になったのに濁っちゃいましたけど……?」
「でも、最初の濁り水と比べたら真っ白に近いだろ? これはな、綺麗な米の表面を削って、粉で全体をコーティングさせてるんだよ」
「コーティング……ですか?」
「そう。粉になった米は、沸騰したときに溶けて米の表面をコーティングし、ツヤを出してくれる。そして舌の上に乗った瞬間、直感的に甘みを感じやすくさせるのさ」
中隊では武器補給係をしている筒井3曹は、コツと理屈と教えてくれた。
「だって、飯は美味けりゃ良いじゃん!」と笑って親指を立てたのだった。




