↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/4

4 湯気の向こうにかすかに見えたもの

KP長筒井3曹に教わりながらだが、二ノ宮は朝食の白米を炊く準備を終えた。

後は炊飯器にセットしてスイッチを押すだけ。


「筒井式喫食用白米(改)二ノ宮型だな」

武器補給係の筒井3曹がつぶやく。

『ちょっと何言ってるかわかりませーん!』

二ノ宮は心で叫んでいた。


さて炊飯器の表示によると、40分後に結果が出るらしい。

二ノ宮は炊飯器に気を取られつつも、食器を揃えたり、テーブルを拭いたり、調理場の清掃とやる事は沢山あったので、40分後はすぐやって来た。

果たして軽やかな電子音を奏で、炊飯器が炊き上がりを告げた。


『そうだ! 炊き上がったらすぐに優しく混ぜなきゃ!』


通知音が終わるとすぐ、気が急いた二ノ宮は勢いよく炊飯器の蓋を開けた。

「アチッ!」

一気に噴き出した真っ白な湯気と甘い香りが、二ノ宮の顔面を直撃する。

「おいっ!気を付けて蓋を開けないかっ!」

直ぐに叱責の声を飛ばしたのは、1年ちょっと先輩の田所士長だ。

「すいませんっ!」

「二ノ宮大丈夫か?」

KP長の筒井3曹の声に二ノ宮は答える。

「はい、大丈夫……っ!光ってる…KP長!光ってますっ!ご飯が光ってツヤツヤですっ!」


釜のなかに踊っていたのは、一粒一粒が真珠のように輝く白飯だった。


昨日のご飯とはまるで見た目が違う。

『ほんの少しの手間と工夫で、素材がここまで劇的に化けるのか。』

二ノ宮は驚き、炊きたての米を見つめる。


「だろっ!混ぜる時は手の火傷に注意しろよ!」

筒井3曹は親指を立てて笑った。

「はいっ!」


しゃもじを入れ、底からふんわりと空気を含ませるように優しく混ぜていく。


作業を終えた時、エンボス手袋の指先に一粒の米粒が付着しているのに気づいた。

二ノ宮はそっとそれを口に運ぶ。


「……あまい……! KP長、甘みが出てます!」

「だろう! 」

「二ノ宮、大成功だな!」

「はいっ!ありがとうございます!」


配膳が始まり、朝食の時間がやってきた。

食堂にやってきたのは、今日の警衛司令を務める中隊唯一の藤田准尉だ。

部隊内でも優秀で知られる厳格な幹部だった。


藤田准尉は検食として、炊きたてのご飯をひとくち口に含む。

もぐもぐと噛み締め、二ノ宮の方を振り返った。


「二ノ宮2士、今朝の米炊きはお前が炊いたのか?」

「はいっ! KP長にご指導いただきました!」

「そうか……美味しいよ。ありがとう」


厳格な藤田准尉の目元が和らぎ、ニッコリと温かい笑みがこぼれた。

「ありがとうございますっ」


残さず食べた藤田准尉は、満足そうにお茶をすすり、食器を片付けて食堂を後にした。

藤田准尉を見送りながら、二ノ宮は最近自分胸の内に漂う、黒く重いモヤモヤがすーっと消えていくのを感じていた。


『美味しかったんだ…ありがとうって言われたんだ…俺、初めて仕事が認められたんだ…』


ただ、米を炊いただけだ。

美味しいと言われ、「ありがとう」と感謝されただけ。

だが、その一言が、不貞腐れていた二ノ宮の心に強烈な光を差し込んだ。


『毎日やっている草刈りも、手入れも、そしてこの一杯のご飯を炊くことも。

どこにどう繋がっているのかは、まだ見えない。

けれど、この手元の仕事は、巡り巡って確実に「誰かの活力」となり、日本の平和を守る国防の最前線へと繋がっている。

自分は24万人のうちのちっぽけな新人だけれど、どんな泥臭い仕事にも、誇りを持って歩むべき「道」が存在するんだ――』


漠然と、だが二ノ宮の心には、一生消えない確かな芯が形成された瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。