猫使いの能力?➁
ドカバキッ! と勢いよくドアが叩きつけられるように開き、一人の少女が肩を怒らせて怒鳴り込んできた。
金髪のツインテールを揺らし、豪華なドレスを翻して入ってきたのは、オスワルド国王の娘である王女テレシアだった。
「城中の猫がいなくなったと思ったら、こんなところに……って、な、なにこれ!?」
テレシア王女は、優斗の全身に群がる無数の猫たちを見て絶句した。
「な、なんで……! 私がいくら上質なミルクをあげても、抱っこすらさせてくれない愛猫のシロが……なんで私よりそんな男に懐いてるのよー!?」
「ひ、姫様まで……」
ガルム騎士団長とテレシア王女が、それぞれの愛猫に盛大に浮気されたようなショックを受けてガックリと肩を落とす。一方で、エスタフとギリアムは「やはりこの力は……」「実に興味深い……」と顎に手を当てて議論を続けている。室内のカオスさは増すばかりだった。
事態を収拾しようと、オスワルド国王が優斗に向かって咳払いをしてみせた。
「……藤宮殿。カオスな状況で申し訳ないが、先ほどの続きの話をしても良いだろうか?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
優斗は姿勢を正そうとしたが、身体の上にドッシリと乗っかった猫たちは一向に離れようとしない。それどころか、お腹の上に乗り直したり、首筋に顔を擦り付けたりと、さらに密着度を増してくる。
「みんな、ちょっと退いてくれないか? 国王様と大事な話をするからさ」
優斗が猫たちに向かって優しく語りかけた。
その瞬間——
「「「「にゃ〜〜〜〜〜〜ん!!」」」」
一斉に猫たちが声を上げて泣き叫び始めた。
大人たちの耳には、ただの「猫の鳴き声の大合唱」にしか聞こえない。しかし、優斗の耳に届いたのは——
『嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ!』
『離れたくないニャ!』
『もっと撫でて! 遊ぼう!』
『このお兄ちゃん、すっごい良い匂いする!』
『ここ気持ちいいから動きたくないニャー』
『お腹すいたけど、ここ離れる方が嫌! 眠たい!』
——はっきりと脳内に響く、猫たちの感情豊かな「言葉」だった。
優斗は思わず頭を抱え、目の前の猫たちに向かって普通に会話を始めてしまった。
「『嫌だ』じゃないでしょ! 大事なお話なんだってば! 後で絶対に遊んであげるから、約束するからさ!」
『本当に!? 絶対に撫でてくれる!?』
『嘘ついたら引っかいちゃうニャ!』
『あごの下、最低十分は揉んでよね!』
「はいはい、分かったから! ちゃんとみんな撫でてあげるから、一回どいて!」
優斗と猫たちの軽快なやり取りが繰り広げられる中、部屋の空気はピタリと静まり返っていた。
国王も、宰相も、大賢者も、騎士団長も、王女も。全員が目を丸くして、口を半開きにしたまま完全に唖然としている。
真っ先に沈黙を破ったのは、目を限界まで見開いた大賢者エスタフだった。
「……そ、そなた……今、猫と……会話をしていたのか……!?」
「え? あ、はい。なぜか急に……ただの鳴き声じゃなくて、言いたいことが言葉として頭の中に直接聞こえてくるようになりまして……」
「なんということだ……っ!!」
エスタフの目が怪しく輝いた。両手を突き出し、大興奮で優斗に詰め寄る。
「『猫使い』とは! 単に猫を引き寄せるのみならず、異種族間における完璧な言語意思疎通を可能とする能力だったのか! 素晴らしい……古代の聖獣使いの記述にもない、まさに未知の領域だ……!」
「ふむ……」
ギリアム宰相も深く顎を引いた。
「動物との意思疎通……これは情報収集や索敵において、破格の価値を持つ能力かもしれませぬな。街中の野良猫すべてが、藤宮殿の『耳』となるわけですから」
大大人たちが再び考察を深める中、ずっと黙って思い悩んでいたガルム騎士団長が、意を決したように重い口を開いた。
「……藤宮殿」
「は、はい?」
ガルムは重厚な鎧を鳴らしながら優斗に歩み寄ると、ひどく言いづらそうに、しかし切実な眼差しで尋ねた。
「……少し、お聞きしたいことがあるのだが……よろしいだろうか?」
「あ、はい、構いませんよ」
ガルムはチラリと、優斗の膝の上で今なお幸せそうに丸くなっている自分の愛猫——耳の欠けた貫禄ある猫を見つめた。そして、恥ずかしそうに頬を赤らめながら絞り出した。
「そ、そこの耳の欠けている猫は……私が長年、陰で大切に飼っている『ガル』という猫なのだが……その……何か、言っていなかっただろうか……?」
優斗は膝の上のガルに視線を落とした。ガルは「ふん」と鼻を鳴らし、優斗に伝えてくる。
「えーっと……『ガルムの野郎、いつも俺のことを大切にしてくれて感謝してるぞ』って言ってます。あと、『毎回、新鮮で美味い肉をご飯に出してくれるのもすっごく嬉しい』だそうです」
「ガ、ガル……っ!!」
ガルム騎士団長の目が潤んだ。あの強面で知られる最強の騎士が、感極まって胸に手を当て、咽び泣きそうになっている。
「そうか……私の愛情は届いていたのだな……! 毎朝、精肉店で一番良い肉を仕込んできた甲斐があった……!」
それを見ていたテレシア王女が、我慢できなくなったように優斗の前に踏み出してきた。
「ちょっと! わた、私の愛猫……そのシロは!? シロは私のこと、なんて言ってるの!?」
優斗の肩の上に乗っている気品ある白猫——シロに耳を傾ける。シロは毛づくろいをしながら、素っ気なく、けれどどこか嬉しそうに言葉を紡いだ。
優斗はそのまま通訳した。
「『いつも毛並みをキレイにブラッシングしてくれてありがとう。美味しい高級キャットフードも感謝してるニャ』……だそうです」
「ほ、本当!? シロ……私に感謝してくれてたのね……!」
テレシア王女がパッと顔を輝かせた。しかし、優斗は少し困ったような顔で言葉を付け加えた。
「あ、あと……『王女様はピンク色の下着ばかり穿いてるから、たまには違う色の下着も持っていた方がいいと思うニャ』って言ってますけど……」
「〜〜〜〜〜〜っ!??!?」
一瞬の静寂。
次の瞬間、テレシア王女の顔は髪の毛の先まで真っ赤に染まった。
「な、な、な……っ! なに余計なことまで通訳してるのよこのバカーーッ!!」
湯気を立てそうなほど顔を赤くした王女の叫び声が、猫たちの満足げな「にゃ〜ん」という合唱とともに、豪奢な客室の中に響き渡るのだった。
(=^ェ^=)




