猫使いの能力?①
「……あ、あのガルが……! 私にすら、ただの一度も見せたことのないような蕩けた顔を……!?」
王国の最高戦力と恐れられる騎士団長ガルムが、膝から崩れ落ちんばかりにショックを受けていた。大柄な体躯を震わせ、目の前の光景を信じられないといった様子で見つめている。
彼の愛猫である耳の欠けた貫禄ある猫——ガルは、普段の厳格な主人の前で見せる仏頂面が嘘のように、目を細めて「にゃ〜ん」と甘い声を上げ、優斗の頬を熱心に舐め回していた。
「な、なんだこの状況は……!」
我に返った大賢者エスタフが慌てて杖を構え、優斗と猫たちに向けて鑑定の魔術を展開する。透明な波紋が室内を広がっていったが、エスタフの表情は驚愕によって引きつっていく。
「ば、バカな……! 魔力の波動も、従属や魅了の術式も、何ひとつとして感知されん……!? 契約の印すら存在しないというのに、これはただの『純粋な親愛』と『強烈な惹きつけ』だと……!?」
「……これが、藤宮殿の秘められた力というわけですか」
ギリアム宰相が眼鏡のブリッジを押し上げ、深く頷きながら感心したように呟く。
室内を埋め尽くす猫の山と、呆然と立ち尽くす大人たち。優斗は猫たちの柔らかい肉球やもふもふの毛並みに埋もれながら、苦笑いを浮かべて頭をかいた。
「いや……俺、ただ昔からの癖で口笛を吹いただけなんですけど……」
「口笛、だと……?」
エスタフが大声を上げた。
「魔力を使った痕跡すら残っておらんのだぞ! ということは、これは『猫使い』という職業のスキルではないのではないか!? 単にそなたの個人的な体質か何かで……」
「待ちなさい、エスタフ殿」
ギリアムが即座に反論する。
「魔力の痕跡が残らないことこそが、異界の職業『猫使い』の神髄なのではありませんか? 既存の魔法体系で感知できない力だからこそ、前例のないハズレ職として処理された……そう考えるのが妥当でしょう」
「ぬぬ……しかし、魔法の基礎法則を無視しすぎている! これはどのような術理で成立しているのだ!?」
「それを解明するのが大賢者であるあなたの役目でしょうに!」
「これ、二人とも落ち着かぬか……」
ヒートアップして議論を始める二人を、オスワルド国王が困り顔で止めようとした——まさにその時だった。
「私の猫を返しなさい!!」
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