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変声機で渋い声になった変人技師、麻酔針で自爆した挙句、眠りながら爆音で事件の解説を始めてしまう  作者: あずきまんま


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第2話

「とにかく! 声はあとで調整するとして、まずは実験よ実験!」


ルシアは溢れ出そうになる頭痛に耐えながら、強引に話題を切り替えた。


これ以上、前世の何かに毒されたローランの渋い低音ボイスを聞かされ続ければ、こちらの精神が崩壊してしまう。


「やれやれ、若者はせっかちで困るな。まあいい、現場でのフィールドテストと行こうか」


「普通に喋りなさい、普通に!」


眉間を揉みながら吐き捨てたルシアの腕を引っ張り、ローランは意気揚々と工房を飛び出した。


目的地は、街の外れに広がる『黒岩の洞窟』。

初級から中級の冒険者が浅層で鉱石採掘や魔獣退治を行う、極めてスタンダードなダンジョンだ。


今日のルシアのクエスト目標は、洞窟浅層に生息する『テツツノカブト』の角の採取である。


本来ならルシア一人で一時間もあれば終わる簡単な依頼だが、今日の彼女の足元には赤と白の無駄に派手なブーツが輝き、胸元には余計な機能満載のブローチが留められていた。


「よし、まずは『脚力解放のブーツ』の実戦テストだ。ルシア、足元にあるあの岩を蹴ってみてくれ」


ローランが指さしたのは、大人の胴体ほどもある巨大な落石だった。


「ちょっとローラン、あんなの生身で蹴ったら私の足が砕けるわよ?」


「大丈夫だと言っただろう? ブーツに内臓された極小魔導リアクターが、蹴る直前に衝撃波フィールドを展開する。それに、蹴撃と同時に足元の物体に瞬間的な加速魔法が与えられる仕組みだ。さあ、案ずるより産むが易し!」


渋い低音ボイスで親指をグッと立てるローラン。


ルシアは深く溜め息をつくと、意を決して右足を引いた。


(……まあ、ローランの発明品は変な機能さえ除けば、性能自体はいつも無駄に高いのよね)


彼女は魔力を足元に流し込み、ブーツを起動させる。


ジジジッ……と、靴底から小刻みな不穏な電撃音が響いた。


「行くわよ……えいっ!」


ルシアが右足を振り抜き、目の前の大岩を勢いよく蹴り飛ばした。


次の瞬間——。


ドガァァァン!!!!!


洞窟内に、まるで大砲が破裂したかのような爆音が炸裂した。


ルシアの足先から放たれた大岩は、目にも留まらぬ超音速の光弾と化して一直線に飛翔。

はるか先の洞窟の岩壁に激突し、壁面を直径数メートルにわたって粉砕、大量の落石を引き起こした。


ごうごうと土煙が舞い上がり、洞窟全体が激しく揺れ動く。


「……は?」


ルシアは足を持ち上げた姿勢のまま、固まった。


「素晴らしい! 期待通りの運動エネルギー変換率だ! これならドラゴンの鱗すら容易に粉砕できるぞ!」


ローランがおじ様ボイスで満足げに頷く。


しかし、当のルシアは白目を剥きかけていた。


「痛いいいいいいいッ!? 足裏がビリビリする! ていうか何よこの威力!? 洞窟が崩落するかと思ったじゃないの!!」


「だ、だから言ったろう? 起動時にちょっと電撃が走るし、威力も凄まじいと」


「ちょっとのレベルじゃないわよ! 蹴った反動で私の体ごと後ろに吹き飛びそうになったわよ! こんなの狭い場所で使ったら私まで巻き込まれるわ!」


「ふむ……脚部の衝撃吸収性能は、もう少し上方修正が必要のようだな」


あごに手を当てて「ふむ」と渋く唸るローラン。


ルシアが本気で彼を殴り飛ばそうと拳を握りしめた、その時だった。


ゴゴゴゴゴゴ……!


先ほどルシアが大岩で破壊した岩壁の奥から、地鳴りのような不気味な足音が響き始めた。


落石の土煙を割って姿を現したのは——体長五メートルを超える、全身が漆黒の鉱石で覆われた巨大な魔獣だった。


「……嘘でしょ? 『オーガ・ゴーレム』……!?」


ルシアの声が引きつる。


オーガ・ゴーレムは、ダンジョンの深層にしか生息していないはずの危険度Aランクの大型魔獣だ。

先ほどの大岩の激突音と衝撃によって目覚め、壁を壊して浅層まで這い上がってきたらしい。


ゴーレムは赤い単眼を怪しく光らせると、侵入者であるルシアたちを認識し、巨大な岩石の腕を振り上げた。


「ルシア、危ない!」


「きゃっ!?」


ゴーレムが振り下ろした拳が地面を砕き、衝撃波がルシアを襲う。

とっさに身を翻して回避したものの、ルシアはバランスを崩して地面に転がった。


「くっ……! この狭い洞窟で、あんな巨体とやり合うなんて……!」


ルシアはすぐに立ち上がり、剣を構える。

しかし、相手は純粋な硬度を誇る鉱石の塊だ。ルシアの愛用する細身の剣では、傷一つつけることができない。


「ローラン、下がりなさい! 私が引きつける間に、あんたは外へ逃げて!」


「バカを言え! 幼馴染を置いて逃げる男がどこにいる!」


ローランは胸を張り、胸元の『変声のブローチ』に手を当てた。


「よし、ここは俺の『変声のブローチ』に搭載された防衛機能——麻酔針魔法でゴーレムを眠らせる!」


「ゴーレムに麻酔が効くわけないでしょ!? あれ岩なのよ! 生物じゃないの!」


「試してみなければ分からんだろう! 食らえ、超小型麻酔針!」


ローランがブローチの側面に付いている小さなボタンを勢いよく押し込んだ。


カチッ。


ピンッ!


澄んだ金属音とともに、ブローチの先から目に見えないほどの小さな光の針が射出された。


しかし——。


「あっ」


ローランの手が滑った。


ボタンを押した衝撃でブローチの向きが直前で微調整され、射出孔がゴーレムではなく、**ローラン自身の首元**を完璧に捉えていたのだ。


チクッ。


「あぐっ!?」


ローランは首筋を押さえ、白目を剥いた。


「ロ、ローラン!?」


「な、なんて……強力な麻酔魔法なんだ……。視界が……急速に……暗く……」


「自分で喰らってどうすんのよバカ無駄飯食いーーーっ!?」


ルシアの悲鳴が洞窟内に響き渡る中、ローランの膝がガクガクと震え始める。


麻酔針に込められていた強力な睡眠魔法が瞬時に彼の全身を巡り、脳の全機能をシャットダウンさせようとしていた。


ドサッ!


天才魔道具技師ローランは、満足げな(?)顔を浮かべたまま、その場に崩れ落ちるように倒れ伏した。


「ちょっと! 起きなさいよローラン! こんなところで寝たら死ぬわよ!?」


ルシアが駆け寄り、彼の肩を激しく揺さぶる。


しかし、ローランは完全に意識を失っており、規則正しい寝息を立て始めるだけだった。


グオオオオオオオッ!!


すぐ間近で、オーガ・ゴーレムが二人を押し潰さんと巨大な両足を踏み鳴らす。


前線で戦えるのは、ルシアただ一人。

足元には、すやすやと眠りこけるトラブルメーカーの幼馴染。


「最悪……! 今日の運勢、間違いなく最悪だわ!!」


ルシアはローランの首根っこを掴んで必死に引きずりながら、ゴーレムの踏みつけを間一髪で回避したのだった。



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