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変声機で渋い声になった変人技師、麻酔針で自爆した挙句、眠りながら爆音で事件の解説を始めてしまう  作者: あずきまんま


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第1話

「なあルシア、冒険者にとって本当に必要なものとは何だと思う?」


早朝の光が差し込む工房『アルケミア』で、作業着の袖を捲り上げたローランは、真顔でそう問いかけてきた。


彼の目の前にある作業机には、怪しげな赤と黒の金属パーツ、そして巨大なバネと怪しい魔導回路が乱雑に転がっている。


「家賃」


即答したのは、幼馴染でありこの工房の経理兼助手を務める冒険者、ルシアだった。


彼女は手に持った羊皮紙の請求書をパンパンと叩きながら、冷ややかな視線をローランに向ける。


「それと、天井の修理費ね。前回の『快適性を追求したボール』のせいで吹き飛んだ屋根の補修工事、まだ支払いが終わってないんだけど?」


「それについては追々解決するとしてだ!」


ローランはルシアの正論を鮮やかにスルーし、胸を張って人差し指を突き立てた。


「冒険者たるもの、前線での攻撃力と、緊急時における真実の解明……そして何より、ド派手な決め台詞が必要不可欠だと思うんだよ!」


「最後のやつは絶対に要らないわね」


ルシアは深々と溜め息をついた。


ローランは時折、誰も理解できない独特な美学を熱弁し始める。


前世の記憶とやらを持っているらしい彼は、たまに「名探偵」だの「赤い蝶ネクタイ」だの「時計型の何か」だのといった怪しげな単語を呟いては、不敵な笑みを浮かべるのだ。


「いいかいルシア。君は前線で戦う前衛冒険者だ。しかし、時に強大な魔獣と対峙した際、脚力の限界を感じることはないか? あるいは、声が出せない状況で仲間に指示を出したいと思ったことは?」


「……まあ、脚力はあればあるほど助かるし、遠距離への伝達手段はあるに越したことはないけど……」


ルシアが素直に肯くと、ローランは「待ってました」と言わんばかりにニヤリと笑った。


「だろ!? そこで俺は開発したんだ! 冒険者ルシア専用・決戦用魔導アーティファクトセット!」


ローランがバッと布を払うと、そこには二つのアイテムが鎮座していた。


一つは、胸元に装着するような小さな赤い宝石付きのブローチ。


そしてもう一つは、なぜか赤と白の派手なツートンカラーで塗られた、ゴツい真鍮製のブーツだった。


「じゃーん! 『変声のブローチ』と『脚力解放のブーツ』だ!」


「……見た目が異常に派手なんだけど。特にブーツの方、なんでそんなにピカピカしてるの?」


「ロマンだよ」


ローランは当然のように言い切った。


「まず、こちらの『脚力解放のブーツ』だが、内部の魔導コンデンサに魔力を充填することで、着用者の脚力を一時的に数百倍まで引き上げる! 衝撃波とともに蹴り出した小物は、城壁すら穿つ質量兵器と化すのだ!」


「ちょっと待って、数百倍ってそれ、私の足の骨が折れない?」


「安心しろ! 脚部全体を保護する衝撃吸収フィールドが展開される! ただし、起動時には激しい電撃が足裏を走るから、ちょっと痛いぞ!」


「痛いのは嫌なんだけど!?」


ルシアが即座にツッコミを入れるが、ローランの暴走は止まらない。


「そしてこちらの『変声のブローチ』! ダイヤモンドのダイヤルを回すことで、あらゆる音域の声へと変声可能! さらに緊急防衛機能として、超小型の麻酔針魔法が内蔵されている!」


「麻酔針……? なんで変声機にそんな物騒なものがついてるのよ」


「決まっているだろう! 犯人……じゃなかった、敵を眠らせて安全に推理……じゃなかった、撤退するためだ!」


ローランは誇らしげにブローチを手に取ると、自分の襟元に装着してみせた。


「さあ、まずはこのブローチの性能を試してみよう! ダイヤルをカチッと回して……っと」


ローランがブローチのダイヤルを操作し、喉元に手を当てる。


「あー、あー。本日は晴天ナリ——」


彼の口から発せられたのは、ローランの若々しい声ではなく、地響きのような低音と渋みを帯びた、熟練のダンディなおじ様の声だった。


「……え?」


ルシアは思わずフリーズした。


見た目は二十歳前後のひょろっとした青年技師なのに、声だけがまるで数々の死線を潜り抜けてきた50代のベテランダンディ冒険者のそれなのだ。


「ほう……これは実に素晴らしい音響効果だ。ルシア君、今日の夕飯はバーボンとシガーにしようではないか」


渋いおじ様声でキザなポーズを決めるローラン。


「待ちなさい!! なんでそんな渋い声しか出ないのよ!?」


「ん? おかしいな……女性の声や子供の声もプリセットしておいたはずなのだが……あ、ダイヤルが固まって動かない」


「固まってんじゃないわよ! 戻しなさい! 気持ち悪いから早くその声を元に戻して!」


「おいおい落ち着きたまえルシア君。大人の男の魅力というものが分からんのかね?」


「その声で喋るなーーーっ!!」


ルシアの悲鳴のようなツッコミが、朝の工房に虚しく響き渡ったのだった。



お読みいただきありがとうございました!


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