100⚫️ドン、ドン、ドーン & 101⚫️我が衣手に雪は降りつつ
100⚫️ドン、ドン、ドーン
時に元墨十五年十二月十四日、降り積もる雪を打ち払い、
凍てつく夜風を震わせて、響くは山鹿流儀の陣太鼓。
一打ち、二打ち、三流れ。
四十七士がなだれ込む。
大石は軽石ではなかったのである。
101⚫️我が衣手に雪は降りつつ
「目をさましたか、楓。具合はどうだ。」
九兵衛の声に、楓は飛び起きた。
「若・・・ここは。」
「高宮寺の中だ。よく眠っていた。かなり疲れておったのだな、そなた。」
「・・・我々は負けたのですね。」
「師範はな、勝ち負けなど言うておられぬ。 死人が出なくてよかった、とだけ言うておられる。」
「・・・誰も・・・死んでいない・・・。」
「そうじゃ。お前が手にかけた’質屋’、ヤツは息を吹き返したぞ。一足先に飯を食ろうておるわ。意外にしぶとい男だな。」
「・・・そうか。不思議なことですね。」
「そうだ、父上から書状が届いておる。吾とそなたに、だ。吾のものは目を通した。同文であろうな。ほれ、そなたのものだ。」
楓は書状を開けた。
「そうか・・・。高家は討たれたのか。最早、大神を始末する理由はなくなったのか・・・。」
「どうだ、ここで少し静養していかんか。吾はまだまだ、師範に稽古をつけてもらう腹積もりだ。そなたも良い経験になると思うぞ。春になれば、うまい山菜の宝庫だそうだ。」
年が暮れようとする最中に、気の早い春の話をする九兵衛。
幼いころと変わらぬ気性を感じ、楓は初めて微かな笑みを浮かべた。




