069●突然の別れはいやや
日が暮れてきた。
帰ろ。うちの寝床・・・お寺と神社が一緒になった場所。
ほかにも、うちみたいな子が何人もおる。
神主さんと住職さんが同じ人で、軒下借りるだけのつもりが、
いつの間にか納屋を使わしてくれはるようになった。
ほんま、大助かりや。
今日の‘稼ぎ’を持ち寄る。
スリやら、泥棒やら、そんなことした子も混ざってる。
・・・うちほど罪深いこと、してへんやろけど。
それでも、みんなで食べもんを出し合って、
夕飯を囲む時間は、ちょっとだけあったかい。
「失礼、少し、いいかな。」
納屋の外から神主さんの声がした。なんやろ。
「イロハ、お客さんだよ。寺子屋の四郎次郎と言えばわかる、って言っておられる。」
えっ、先生・・・。
なんで、ここに。
「かたじけない、アカト殿。」
「なんのこれしき。どうぞ、ふたりでお話を。食事も持ってこさせますし、泊まっていってくださっても。」
円幽寺。小さいけど、どこか気品のあるお寺や。
派手さはないが、細かい造りが丁寧や。
なんやろ、この神主さん、どこか不思議なお人や。
・・・イロハにちゃんと言わなあかん。
「イロハ、すまん。」
先生はうちを見ると、絞り出すように言う。
「先生、どないしたん。もう日ぃ暮れてるで。」
「すまん。・・・ちょっと、用事ができてな。わし、この町を出なあかんねん。」
えっ。先生がおれへんなるん。
胸の奥がぎゅっと縮んだ。言葉が出ぇへん。
「ここの神主さんに頼んでおいた。これからは字も、ここで教えてくれはる。本当はな・・・もっと、イロハに教えたかったんや。せやけど・・・ほんま、ごめんな。」
その‘ごめんな’の声が震えていた。
うちは堪えられへんかった。
涙が、勝手に落ちていく。
先生・・・なんで急に・・・。
急に、旅に出るんや。なんか、よっぽどのことがあったんか。
お願いや。置いていかんといて。
うちも、連れてってやあ。




