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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い

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22/32

野崎修の目的

捕縛に失敗し、困っていた時に来た野崎修の情報。ありがたいことだが。


「……いい加減に降りろ、小鉄!重いんだよ!」


仁の肩と頭に戻ってきた小鉄に、仁の怒鳴りが庭に響く。


「(え〜ヤダ)」

「ヤダじゃねぇよ。ちょ!小鉄、痛い!爪を立てるな!」


仁は小鉄を振り払おうとするが、小鉄は爪を立て抵抗。仁の肩と頭から降りようとしない。完全に遊んでいる。


「………………」


そんな一人と一匹を、玲奈は傍観。少しでも〈彼〉の機嫌を損なえば、ただでは済まない。

〈人ならぬモノ〉はそういう存在。

しかし、このままでは話が進まない。なので、玲奈は自分の手をパンパンと叩く。

音に反応した仁と小鉄が、玲奈を見る。


「野崎修について教えていただきますか?小鉄様」

「(あ、そうだったね)」


小鉄は残念そうに、仁の肩と頭から降りる。


「(野崎修なんだけど、その野崎修が経営している会社が倒産の危機のあるんだ)」


思ってもいなかった情報に仁は目を瞬かせ、玲奈は険しい表情。


「野崎修が経営している会社は、祥子さんの父君が経営していた会社のことですね」

「(そうそう、それを野崎祥子の夫となった野崎健太郎が受け継いたんだよね?)」


小鉄の問いに、玲奈が頷く。

祥子の夫、健太郎は祥子の父親が経営する会社の社員として働いていた。そして、先代の社長、祥子の父親に気に入られた健太郎は、祥子の夫となり、会社を受け継いだ。


「(でね、野崎修は健太郎の甥で、野崎祥子とは血縁でもない、赤の他人なんだね?)」

「えっ、そうなのか?」


小鉄と仁の問いに、玲奈が複雑な顔で頷く。

野崎修は亡き祥子の夫、野崎健太郎の妹の子供。祥子とは血のつながりのない甥っ子が、祥子の父親の会社を受け継いでいる。


「(まぁ、これは野崎修の母親のせいかな?)」


健太郎は真面目で優秀だったが、その兄弟は金にだらしなかった。健太郎の兄は、よく健太郎に金の無心に来てので、兄弟仲は険悪だったらしい。

健太郎は兄弟の金の無心には答えなかったが、子供を抱えた未婚の一番下の妹を無下にすることができなかった。その結果、健太郎の一番下の妹、野崎修の母親は、健太郎の血縁者であることを利用して、勝手に会社の経営に口出すようになった。


「(で、野崎祥子が子供のできない身体であることを理由に、母親は息子を野崎家の養子にして、会社の跡取りにさせた)」


野崎修の母親のやり方に、玲奈は不愉快そうに眉を寄せる。仁も同じだ。

そして、野崎修の母親は跡取りである息子は自分が育てると言って、健太郎に多額の養育費を要求した。


「いくらなんでもこれはやりすぎじゃないか」


野崎修の母親の強欲さと横暴に、仁は引いた。玲奈は不愉快さを通りこして無だ。ちょっと怖い。


「(まあ、野崎修と母親が口をだしても、優秀な社長、野崎健太郎がいたから会社は経営していられた)」


先代に抜擢された健太郎は優秀で、兄弟には恵まれなかったが人望には恵まれた。

しかし、野崎健太郎は亡くなり、野崎修が会社を受け継いだ。


「(今ね、会社の社員たちが、野崎修と母親を会社から追い出そうとしているんだ)」


クスクスと楽しそうに小鉄は笑う。

健太郎が亡くなり、自分達の思い通りにできると考えていた野崎修と母親だったが、健太郎が残した優秀な社員のおかげで、会社の金を自由に使うことができない状況だ。


「(でもってね。野崎修には、借金があるんだよ)」

「それが原因か」


わかりやすい、あからさまな理由に、仁は馬鹿馬鹿しくなった。玲奈も同感。

『こちらの世界』の〈チカラ〉を使っていた理由が借金返済。しょぼすぎる。


「(それに、今の野崎修には時間がないし、金額が金額だし)」

「どんぐらい借金をしてるんだよ」

「(こんぐらい)」


仁の耳元に、野崎修の借金の額を囁く。野崎修の借金の額に、仁は唖然。

どんなことをすれば、ここまで借金ができるんだ。おまけに、けっこうやばいところからの借金だった。


「つまり、この家には野崎修の借金が解決できるほどの物があると?」

「(そうだよ。野崎健太郎の遺産、1000万円のダイヤモンドネックレス)」

『はっ?』


仁と玲奈の声が揃う。呆然とした顔の仁が、祥子の家を指さす。


「この家に?」

「(うん?)」

「1000万円のダイヤモンドネックレスがある?」

「(うん)」


頷く小鉄に、仁は祥子の家を見上げる。なんだか家が宝箱のように見えてくる。


「待ってください」


玲奈が声を上げる。


「本当に野崎健太郎さんの遺産、ダイヤモンドネックレスがこの家にあるのですか?」


祥子から異変について相談された時に、玲奈は祥子に詳しい聞き込みをしていた。

特に異変が起きたのは、夫の健太郎が亡くなってからなので、遺産問題のトラブルや恨みをかってしまった心当たりはないかと確認した。

健太郎は祥子が問題なく生活できる資産を残していた。その事に野崎修とその母親がいろいろと言ったらしいが、健太郎の遺言書に、懇意にしている弁護士が野崎修と母親の対応してくれたおかげで解決したらしい。

もっとも、野崎修親子が一番欲しがっていた会社の実権や株など手にいれていたから、引き下がったというところだ。


「健太郎さんの遺産は弁護士の確認の元、分配されたはずです」

「(じゃあ、隠し財産なんじゃない)」


そんなことは知らないよ、と小鉄がどうでもよさそうに言う。

野崎健太郎の遺産、1000万円のダイヤモンドネックレスは、野崎健太郎が亡くなる五年前に購入した物。それを、借金返済のためにお金をかき集めていた野崎修が知った。

生前に健太郎が使っていた貸し金庫や銀行などに、ダイヤモンドのネックレスがあるかを野崎修が確認している。そこに無かったから、野崎修は『こちらの世界』の手を使い、祥子の家を捜索。


「…その可能性が高いですね」


実際にあるかどうかは置いといて、ここまでくれば、疑いの余地はない。なんて面倒な物を健太郎は残してくれたのだと、玲奈は深いため息をつく。


「(ちなみに、これがそのダイヤモンドネックレスの写真ね)」

「あんのかよ」


真っ白の四角の封筒を、小鉄はどこからなく取り出す。どこに出し入れしているのかが未だに謎だ。

小鉄が差し出した封筒を受け取った仁が、中にある写真を取り出す。


「へぇー、立派なネックレスだな」

「ああ、そうだな」


感嘆の声をあげる仁に、玲奈も同意。むしろ、その価値がわかるからこそ、見惚れる。

写真に写るダイヤモンドのネックレスは美術的価値も高く、オークションなどに出せば、それ以上の値段がつく可能性が高い代物。


「……面倒なことになったな」


写真を手に仁が呟く。

異変の原因が亡き夫、健太郎の隠し遺産。祥子になんて伝えたらいいのか。仁は深いため息をついた。


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