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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い

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21/32

一夜明けて

あれから何事もなくむかえた翌朝の庭。


ヒュ!ヒュ!ヒュ!

「はっ!ふっ!やぁ!」


空気を裂く、木刀を振る音に、玲奈の短い呼気。怒りを込めて、玲奈が庭で木刀を振るっていた。

昨日の夜、目の前で何かを逃げられたのが、よっぽど悔しかったのか。玲奈の苛立ちと殺意がちょっと怖い。

〈妖精〉たちも、そんな玲奈を恐れて、庭の花や木の影、庭の椅子に隠れていた。


「ふぅー」


怒りを発散させた玲奈が、ゆっくり息を吐く。汗を掻いた玲奈の肌に、冬の冷たい風が当たる。熱い息を吐き、頰に髪を張り付いた玲奈はどこか艶めかしい。


「どうした?橘」

「……あ、いや。なんでもない」

「そうか」


思わず見惚れていた仁は、玲奈から視線を逸らす。そんな仁に様子に玲奈は気がつかず、用意していたタオルで汗を拭う。

その時。


「(じーん)」

「え、わぁ!」


反射的に名前を呼ばれた方に振り返る仁に、何かが仁に飛び掛かる。


「(ヤッホー、仁。探したよ〜)」


聞き覚えのある声に、仁の頭と肩にかかる重み。


「小鉄!?なんでここに?」


自分に飛びかかってきたのは、『神憑き三家・北原家』の〈妖神〉小鉄。


「(会いにきたよ)」


楽しそうに小鉄は、仁の頭と肩に戯れる。

そんな小鉄の頭を、仁は撫でる。撫でられた小鉄は、もっと撫でろと甘えてくる。


「……橘」


呆然と呟く玲奈の声。


「あ、横山さん、紹介するよ。この猫は……え?」


小鉄から玲奈に、仁は視線を向ける。

そこには、膝をつき、仁に頭を下げる玲奈の姿。いや、正確には、仁の頭と肩に乗っている小鉄に、玲奈は頭を下げていた。

庭にいる〈妖精〉たちも、小鉄を追い出したり、攻撃をしない。恐れるように、庭の花や木の影に鳴りを潜めて隠れていた。


(……そうだ)


仁の頭と肩に乗っている小鉄は〈人ならぬモノ〉の上位に立つ存在、〈妖の神・妖神〉。〈神〉と呼ばれる、時にさえ〈人ならぬモノ〉も畏怖するモノ。


(小鉄はただの〈妖神〉じゃない。()()『神憑き三家』の〈妖神〉だ)


普段何気なく過ごしていると、つい忘れてしまう。

何年か前、小鉄と同じ『神憑き三家・朝宮家』の〈妖神〉が起こした大惨事。『朝宮家』の〈妖神〉が起こした大惨事の爪痕はまだ『こちらの世界』に残っている。

同じ『神憑き三家』の〈妖神〉である小鉄を畏れるのは当然だ。

小鉄は仁から降りて、頭を下げる玲奈の前にたつ。


「…お初にお目にかかります。私は」

「(知ってる。〈火焔の魔女〉でしょ)」


顔と声を硬くする玲奈を、素っ気なく態度の小鉄。そんな一人と一匹に、仁はどうしたらいいかわからない。

すると、そっぽを向いていた小鉄が、じろじろと探るように玲奈を見る。


「(……お前)」


小鉄の眼が、玲奈を鋭く睨む。顔を少し引きつりながらも、小鉄の視線を玲奈は見つめ返す。


「(〈火焔の魔女〉……仁はオイラのお気に入りなんだ……わかってるよね)」

「…………わかっています。〈猫神様〉」


脅しのような小鉄の言葉に、静かに応じる玲奈。不穏な空気が漂っている。


(いったい、何が……)


普段とは違う小鉄の姿に、仁は困惑。小鉄がニンマリと笑う。


「(小鉄でいいよ。〈火焔の魔女〉)」

「!………承知いたしました。小鉄様」


玲奈は驚くが、一瞬で姿勢を正す。

〈人ならぬモノ〉は基本、自分の同族、興味があるモノ以外に対して残酷までにも冷淡だ。その〈人ならぬモノ〉が名を呼ぶことを許す。それはそのモノを気に入った証。


(そういや、俺、初めて湊さんと小鉄に会った時、小鉄に名前を呼ぶことを許されたな)


小鉄は自由気ままな猫だ。縛られることを嫌う。

〈人ならぬモノ〉の名前は人に知られれば、強制的に従わされることもあり、自分の姿を暴かれることにもなる。そのため、〈人ならぬモノ〉は、名前を隠す。

仁には小鉄を従わせる〈チカラ〉はない。だけど、小鉄が名を明かした相手は、上位の〈魔術師〉の〈火焔の魔女〉。


(まぁ、そんな心配ないか)


『こちらの世界』の上位の〈術者〉でも、『神憑き三家』の〈妖神〉の名前を利用しても、従わせることは難しい。それが、どれほどのものか、玲奈はわかっているだろう。

とりあえず、これで小鉄と玲奈の話はついたのだろう。


「それで、小鉄。なんだ?俺に何か用があるんだろ」

「(あ、そうだった)」


今まで成り行きを見守っていた仁が、小鉄に尋ねる。

基本、人に憑いている〈人ならぬモノ〉は、自分が憑いている人から離れることはない。そんな小鉄が湊から離れて仁の元にきた。


「(頼まれていた野崎修について、伝えにきたんだよ)」


頼まれていた野崎修の情報を知らせにきた小鉄は、えっへんと誇らしげに胸を張った。


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