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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い

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20/32

起きた異変

生活の明かりが消えた、街灯と玄関灯が照らす静寂な住宅地。蝋燭の灯りだけが照らす客間には、椅子に座った仁が、外の様子を眺めていた。

何かが行動を起こすのは、野崎修が祥子の家に訪れた次の日の真夜中。念のためにと、全員が寝静まったように見せかけるために、家の明かりを全て消した。

大きな欠伸をした仁が、腕時計で時間を確認すると、既に0時過ぎ。日付が変わったら、それぞれの滞在部屋で待機している玲奈と仁は、交代で仮眠をとる予定だ。なので、その連絡のために、通信用の〈魔道具〉に触れる。


(それにしても、いくらなんだ?これ)


一階の滞在部屋で待機する玲奈が渡した、右耳だけのイヤーカフ型の〈魔導具〉。もう片方のイヤーカフ型の〈魔導具〉は玲奈がつけている。



〈魔導具〉


〈霊力〉〈魔力〉などの〈チカラ〉を宿した、道具や武器。電気の代わりに〈魔力〉〈霊力〉などの〈チカラ〉を動力にする〈術式〉が組み込まれた道具や絡繰りの名称。


魔法(マギーア・)機構職人(クラフツパーソン)


特殊な〈チカラ〉を持つ材料を加工したり、材料に〈術式〉を組み込んだりして、〈魔導具〉を創る職人。


魔法(マギーア・)機構職人(クラフツパーソン)組合・工房』


世界各地に『工房』が点在し、『こちらの世界』では中立の立場をとる組織。

『工房』の〈魔法(マギーア・)機構職人(クラフツパーソン)〉たちの〈魔導具〉の取り扱い、販売もしている。『工房』は〈魔導具〉を求めるお客を拒まない。



仁がつけているイヤーカフ型の〈魔道具〉は、はしくれ〈術者〉の仁から見ても、高度な〈術式〉が組み込まれているのがわかる。〈魔導具〉は〈職人〉によって、目玉が飛び出るほどの高額だったりする。


(……なくさないように、壊さないようにしよう)


はずしたくても、外すわけにはいかない。仁が決意したその時だった。


「現れた」


イヤーカフ型の〈魔導具〉から聞こえる玲奈の声。祥子の家に仕掛けた監視の〈魔術〉により、玲奈が見つけた。

仁は立ち上がり、机に向かう。


「場所は?」


机には簡単に書かれた祥子の家の手書きの図面とろうそく。手書きの図面には、家具の場所や罠を設置した場所のバツ印がついていた。


「リビングだ」


仁が手書きの図面、リビングに、現れた何かの場所を表す黒の石を置く。置かれた黒の石は、誰も触れていないのに、ふるふると震えて動き出す。

手書きの図面と石には、追跡の〈魔術〉を仕込んでいる。それが無事に発動した。仁は黒の石の動きを眼で追う。


「物置からではなかったが、作戦通りにいくぞ」


玲奈が力強く言う。

何かが現れたら、玲奈が正体を確かめに行く。仁は玲奈のサポートで、手書きの図面で玲奈と何かの位置を確認し、通信用の〈魔導具〉で伝える。

最初、玲奈は捕縛する気が満々だったが、仁が反対した。そして、話し合いの結果、安全第一に、何かの正体を確認、できることなら捕縛となった。ちょっと大変だった。


「それじゃ、行ってくる」

「わかった。気をつけて」

「ああ、お前は部屋から出るなよ」


仁に念を押した玲奈が何かの元に向かう。

手書きの図面、玲奈の滞在部屋に置かれている赤い石が動く。赤色の石は玲奈の場所を表す石。

リビングから現れた何かは、リビングから廊下、玄関の方に進んでいる。


「橘、あれは玄関の方で間違いないか?」

「ああ。今、玄関についた」


通信用の〈魔導具〉から聞こえる玲奈に、仁は答える。

黒の石は玄関の前でウロウロと動いている。何がしたいのか。何かの行動が読めない。

物置部屋と祥子の寝室近くの廊下には、玲奈が何重の捕縛の罠を仕込んでいた。他にも、現れそうな場所にも捕縛の罠を仕込んでいたが、外れてしまった。


「絶対に、捕まえてやる。逃がしてなるものか。後悔させてやる」

「………………」


最初の作戦はどこにいった。

通信用のイヤーカフ型の〈魔導具〉から聞こえた玲奈の言葉を、仁は聞かなかったことにした。もう捕縛する方向でいこう。

先ほどまでウロウロと動いていた図面の黒い石、何かが電池の切れたおもちゃのように動きを止めている。


(いったい、何してるんだ?)


何かに不審に思った時、赤い石、玲奈が玄関に到着。そして。


「っ!」


黒の石が玄関からもすごいスピードで、玲奈の方へと向かった。通信用の〈魔導具〉から玲奈の短い悲鳴。


ガチャン!


ガラスが割れる音が、通信用の〈魔導具〉と客間の外から二重に響く。黒の石が手書きの図面から弾けた。


「横山さん?横山さん!」


仁が〈魔導具〉を使って、玲奈に呼びかける。しかし、玲奈からの返事がない。

手書きの図面で確認すると、黒と赤の石は手書きの図面の外。つまり、何かと玲奈は、家の外にいるということだ。


「……まさか」


不吉な考えが、仁の頭をよぎる。

玲奈は〈火焔の魔女〉の異名を持つ上位の〈魔術師〉。そのうえ、〈妖刀・緋真〉の使い手。それなのに、胸騒ぎがおさまらない。


「…………あー、もう!」


耐えきれなかった仁が、客間を飛び出す。用意していた懐中電灯を手に、一階の玄関へと急いだ。


ガチャン!


仁が階段を降りたところで、玄関とは別の方向からガラスの割れる音がした。仁は音がした方へと走った。

二度目のガラスの割れる音がしたのは、庭に面した廊下。割れた窓ガラスの向こうの庭、うごめく灰色の塊と〈妖刀・緋真〉を構えた玲奈の姿があった。


「横山さん!」

「馬鹿者!部屋から出るなと言っただろ!」


そのまま玲奈の元に駆け寄ろうとする仁に、玲奈が怒鳴りつける。


「突然、通信が切れたんだ!仕方がないだろうが!」


仁は反射で言い返した。仁は心配したのだ、本当に心配した故にだ。

玲奈の左耳につけていた通信用のイヤーカフ型の〈魔導具〉がない。玲奈の左耳から血が垂れている。


「血が…っ!」

「橘、避けろ!」


玲奈の左耳から垂れる血に気をとられていた仁に、灰色の塊から伸びる鞭が襲い掛かる。


「!」


避けきれないと思った仁は、とっさに腕でガード。玲奈がポケットからあるものを取り出し、仁と灰色の塊との間に投げる。

それは不可思議な記号がついた丸い銀色の金属の塊。それは形を変え、仁を守るように盾となり、灰色の塊の鞭を弾く。


「Deformatio.Anguis……Captis!」


呆然とする仁を守っていた盾が金属の蛇の姿になり、灰色の塊に飛びかかった。灰色の塊の攻撃を避けながら、金属の蛇は灰色の塊との距離を縮めていく。

そして、金属の蛇が灰色の塊に巻きついた。


「とらえた」


玲奈がニヤッと笑う。

金属の蛇に巻きつけられた灰色の塊は抜け出そうともがくが、逆に金属の蛇による拘束が強くなる。


「……今のは…」


驚いている仁を放置。拘束されている灰色の塊の正体を確かめようと、玲奈は近づく。

玲奈が拘束された灰色の塊に触れようとしたその時、灰色の塊がボンと燃え出した。


「!」

「横山さん!」


仁が慌てて、玲奈の元に向かう。玲奈は触れようとしていた手を引っ込める。二人は灰色の塊から距離をとった。


「大丈夫か?横山さん」

「私は大丈夫だ。それより……」


眼を向けると、灰色の塊は金属の蛇を巻き込み、燃えていた。


「……やられた」


玲奈が悔しそうにつぶやく。燃えていく灰色の塊と金属の蛇を、仁は黙ってみていた。

その後、燃え尽きたモノを確認した玲奈と仁は、後片付けに取り掛かった。割れた窓は玲奈の〈魔術〉で直した。現れた獲物を逃してしまった仁と玲奈は終始無言。

後片付けは終わったが、また現れる可能性もある。そのため、仁と玲奈は交代で仮眠をとりながら、見張っていた。しかし、現れることはなかった。


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