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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い

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17/32

変化

しばらくして、仁からそっと、玲奈が離れる。


「……迷惑をかけた」

「あ、うん。気にするな」


視線を逸らし、恥ずかしそうな玲奈に、仁もつられる。互いに無言。なんだが気まずい。


「と、とりあえず、これからどうしようか?」


このまま、黙っているわけにはいかない。


「そ、そうだな」


仁の意図に、玲奈もたどたどしく応える。

今のところは問題ないが、野崎修が祥子に危害を加える可能性はある。祥子には、玲奈特製の護身の〈お守り〉を持たせることにした。すごく効果がありそうで、安心だ。

野崎修の探し物については、今のところ検討がつかない。野崎修については、湊が調査中。野崎修の情報がわかってからのほうがいいだろう。なので、今出来ることは一つ。


「今晩から、野崎修が使役している何かを捕まえよう」


力強く玲奈が言った。ちょっと私怨がこもっているように聞こえた。

犯人は野崎修と間違いないが、物証証拠はない。その物証証拠になる何かを捕まえることが出来れば、野崎修を追及できる。


「絶対に捕まえてやる」


小声で呟いた玲奈の決意。玲奈の本気に、何と言うか、気迫を感じた。


「あ、じゃ、俺、荷物取ってくるから」


野崎修が仕掛けた何かが行動するのは0時過ぎ。それまで時間はある。

昨日の今日で滞在の許可をもらえない可能性があったので、仁はお泊りセットを駅のロッカーに置いてきた。

余談だが、その可能性に気がついたのは、仁が駅に到着した時である。


「わかった。それにしても、電車3時間は大変だっただろう。交通費は報酬と共に出させてもらう」

「まあなぁ。とりあえず、交通費とかの話は解決してからにしよう」


労わる玲奈に、仁は何でもないように返す。

そういえば、依頼の報酬などの話をしていなかった。まぁ、玲奈の性格から報酬をケチるような真似はしないだろう。報酬に関しての心配はないと考えて、あることに引っかかった。


「なんで、俺が電車で3時間もかけて来たことを知っているんだ」


仁がほんの僅かに鋭くさせた眼で、玲奈をみる。


「それは、……見せたほうが早いか」

「はぁ?」

「ついてこい」


困惑する仁を置いて、玲奈が玄関に向う。訳がわからない仁は、素直に玲奈の後を追った。

そして、玲奈と仁は家の外に出る。


ピュウ


空に向かって、玲奈が指笛を鳴らす。


「いったい何をし……!」


バサバサと翼の音に、仁の言葉が途切れる。玲奈の頭上に立派な一匹の鷹。

閑静な住宅街に現れた鷹に呆然としていると、鷹は黒い皮手袋をはめた玲奈の右手にとまる。

玲奈と鷹に、仁は視線を交互に動かす。


(………片手だけ手袋だったのは、このためだったんだ)


突然の鷹の登場よりも、どうでもいいことを仁は思う。


「紹介しよう。私の〈使い魔(ファミリア)〉、鷹のキールだ」


鷹は挨拶するかのように、仁に向かって一声鳴いた。



使い魔(ファミリア)


契約により、人間の契約者と繋がり結ばれたモノ。契約者の〈魔力〉や〈霊力〉、〈チカラ〉を使い、契約者の手足として働くモノ。

動物を〈使い魔(ファミリア)〉と使う契約者もいるが、〈妖〉や〈妖精〉と呼ばれる〈人ならぬモノ〉を〈使い魔(ファミリア)〉にする契約者もいる。

〈人ならぬモノ〉を〈使い魔(ファミリア)〉とした契約者は、〈人ならぬモノ〉と深い繋がりを持つため、〈使い魔(ファミリア)〉が傷つけば、契約者に痛みが伝わり、痛みの分の血を吐く。契約者によって、痛みを避ける術に長けている者もいる。

契約したモノは、契約者の力量次第で決まる。



「昨日、帰るお前をキールに尾行させていた」


隠すことなく、玲奈は告げる。


「………今度は鷹に尾行されるなんてな」


遠い眼で仁は呟く。

仁は過去に『神憑き三家・北原家』の〈猫神〉小鉄の支配下の猫たちに、尾行させられたことがあった。今回は〈火焔の魔女〉の〈使い魔(ファミリア)〉の鷹に尾行させられた。


「二度ある事は三度ある。次は何の動物に尾行されるんだろな」

「何を言っている」


明後日の方向で呟く仁に、玲奈が首をかしげる。


「なんでもないよ。それにしても、なんで俺を〈使い魔(ファミリア)〉に尾行させた?」


尾行、自分を調べるにしては、順序が逆だと、疑問に思った。

考えてみれば、仁は異変の最中に現れた部外者。なので、仁のことを調べるのはわかる。まぁ大丈夫かと、仁は玲奈のことを調べたりしなかったが。

唐突に現れた、『橘探偵事務所』にきた老人の依頼を引き受けた仁に、何か納得した玲奈は仁を雇った。巻き込んだが正しいが。

祥子の安全を考えるなら、仁を家に招き入れず、先に仁の素性などを調べてから雇うべきだったのではないか。


「……なんとなく?」

「はぁ?」


玲奈の答えに、仁は間抜けな声がでる。


「なんとなく、キールに尾行させた」

「……おい」


いくらなんでもそれはないだろう。頬をひきつらせる仁をほっといて、玲奈は考える。


(………あの時、逃してはいけないと思って、だから)


キールに尾行させた。それが、玲奈の答え。

そんな自分に玲奈は驚く。何故なのかわからない。あって間も無い相手、仁が目の前にいる事実に、嬉しいような、期待に似た、初めて感じる感情が玲奈の心の中に広がる。


「フフフッ」


抑え耐えきれず、つい玲奈は声を漏らす。不快感はない。むしろ心地よい。


(………なんだ?いきなり?)


そんな玲奈の変化は、仁にはわからない。ただ困惑するだけだった。



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