発覚
昼食後。仁と玲奈は、今後の話し合いを書斎で行っていた。
「〈妖精〉たちは外の物置ドアを何度も開けている人間を見ていた。それは、甥の野崎修だった」
〈妖精〉達か確認してきたことを、玲奈は真っ先に告げる。
驚きはなく、やっぱりそうかと仁は納得。なにせ、仁の〈時読みの異能〉で視た書斎の男は、野崎修の特徴と一致していたのだ。
「それにしても、いったい何を探していたんだ?」
「野崎修の目的が気になるな」
〈時読みの異能〉で視えた、気になる仁の疑問に、玲奈は眉を寄せる。
野崎修は『こちらの世界』の手を使って、何かを見つけようとしている。そこまでして、探すものは何か。
「……異変がおこったのは祥子さんの旦那さんが亡くなって、一ヵ月ぐらいたってからだ」
「じゃあ、旦那さんが持っていた物を探しているのか」
その可能性が一番高そうだと玲奈が頷く。
最初、野崎修は『こちらの世界』の手を使わず、自分一人で探していたのかもしれない。仁の〈時読みの異能〉で視た、野崎修が書斎で探す姿はその時の過去かもしれない。
しかし、それでも見つからなかった。
「だから、この手を使ったのか」
野崎修の行動に、玲奈は呆れる。
生粋の『こちらの世界』の〈魔術師〉である玲奈にとって、〈常人〉である祥子の生活を脅かすなどは、許し難い行為だ。
「よっぽど、価値がある物か?」
「その可能性は高いな。だから、独り占めをしようとしているのかもしれない」
「あ~」
野崎修の恰好と態度から、仁は納得。野崎修は金遣いが荒そうだ。
だから、野崎修はこそこそと隠れて、『こちらの世界』の手を使ってまで探していた。だが、まだ見つかっていない。
「……野崎修が手荒な真似を起こす前に、私たちで見つけたほうがよさそうだな」
玲奈の言葉に、仁の眼が鋭く険しくなる。
目的のために、野崎修は『こちらの世界』の手を使った。なら、その手も使う可能性もある。
しかし、野崎修が犯人だと証明する物証の証拠はない。流石に〈妖精〉たちの証言は使えない。
「そうなると、俺たちには不利だな」
「……そうだな」
玲奈が顔をしかめる。仁の言う通りだ。
唇に手を当て、深く考え込むように玲奈は黙り込む。書斎には沈黙が流れる。
「あ~、そういえば、野崎さんから聞いたんだけど」
暗い雰囲気を変えたくて、祥子から聞いた話を仁は持ち出した。
「横山さんはイギリス出身なんだよな。家族はどうしているんだ?」
唇をなぞっていた玲奈の指がピタッと止まる。
玲奈は一瞬だけ眼を閉じ、静かに告げる。
「私の家族、お祖父様と両親は二年前に亡くなった」
深い意味はなかった。興味本位で聞いたことを、仁は後悔した。
「……すまなかった」
仁は玲奈に頭を下げる。
祥子が言っていた二年前の出来事はこのことだったのだ。なんで、思いつかなかったのだろうか。
「謝ることではないだろう」
頭を深く下げる仁に、玲奈は苦笑する。
「私は大丈夫だ」
何事もないように玲奈は告げる。でも。
「横山さん。寄りかかられても、支えられないほどやわじゃない」
玲奈の頭にポンっと仁は手をのせる。子供をなだめるように、甘やかすように撫でる。
仁は育ての親、愁一郎が亡くなった時、不安でたまらなかった。自分一人で頑張らなくては、周りに甘えるわけにはいかないと、仁は思っていた。
そんな仁に、愁一郎の友人が言ってくれた。初対面で根拠のない人の言葉。それなのに、仁は呼吸がしやすくなった。
だから、仁は玲奈に伝える。
「こっちは大丈夫だ」
玲奈が眼を見開く。仁は自分のしていることに我に返る。
「悪い。勝手に」
「待って」
離れていく仁の手を玲奈は止める。そして、仁の手に玲奈は頭を摺り寄せる。
「……少しだけ、このままで」
「ああ」
玲奈の気がすむまで、仁は玲奈の頭を撫で続けた。




