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怪異探偵事務所   作者: 夜乃桜
置き忘れた想い

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15/32

気になる関係

仁が物置部屋から廊下に出ると、そこには祥子がいた。


「あらあら」


埃まみれの仁に、祥子は小さく笑う。何だかいたたまれない気持ちになった。

そんな仁を、風呂場に祥子は案内する。向かった風呂場には、すでにタオルと亡くなった旦那の着替えが置かれていた。


「ありがとうございます。祥子さん」

「どういたしまして。服はそこのカゴに入れてくださいね」


案内と説明を終えた祥子は、風呂場から出て行く。

脱いだ服を指示されたカゴの中に入れて、仁はシャワーを浴びて、埃を落とす。

15分後、さっぱりした仁はリビングに向かった。リビングでは、祥子がお茶の準備をしていた。


「すみません。野崎さん。シャワーありがとうございます」

「いいのですよ。調査のためでしたから」


仁が感謝を伝えると、祥子が上品に笑って答える。仁に椅子に座るようにと進めた。


「あ、そうだったわ。橘さん、今晩からうちに泊まって、調査を始めるのよね?」


祥子が紅茶の入ったカップとお茶菓子のクッキーを、仁に差し出す。

自分の家での異変の調査なのに、祥子は何故か楽しそうに聞いてくる。


「はい、そのつもりです。滞在の許可をしていただき、ありがとうございます」

「あらあら、いいのよ。わたくしと玲奈さんの二人だけでも不安だったの。男の方がいてくださると心強いもの」


ほっと安心するように祥子は、仁の向かいの席に座る。

落ち着いているように見えた祥子だが、実際は思っていた以上に不安を感じていたみたいだ。


「いくら、玲奈さんがこのようなことには慣れていると言ってもね。仁さんが、我が家に来てくださって本当に良かったわ」


その言葉に紅茶を飲もうとしていた仁の手が止まる。祥子は玲奈の、『こちらの世界』の事情を知っている。だから、思わず聞いてしまった。


「横山さんは長い付き合いなんですか?」


アラっと眼を瞬かせる祥子に、仁はしまったと我に返る。関係ない、依頼人のプライベートに首を突っ込むのはマナー違反だ。


「あ、あのすいません。今の聞かなかったことに…」

「玲奈さんのお爺様、レスターとわたくしは幼馴染だったのよ」


含み笑いで話す祥子には、別の意図が感じられる。それでも、仁は祥子を止めようとはしなかった。


「わたくしの父は日本人の貿易商人で、母はイギリス人。小さい頃は英国で育ったの」


昔を懐かしむようにしみじみと祥子は語る。

イギリス人の母親と玲奈の祖父、レスターの母親は親しい友人同士。その縁で、幼少期に祥子はレスターと知り合った。


「レスターとは家族ぐるみのお付き合いをしていたわ」


玲奈の祖父、レスターは祥子の3歳年下。祥子はレスターを弟のように可愛がっていた。


「わたくしが14歳の時に母が亡くなり、父の母国の日本に移り住んだの」


祥子が日本に居住してからも、レスターとは手紙のやり取りをしていた。慣れない日本の生活に苦労していたから、イギリスから届く玲奈の祖父、レスターとの手紙が心の支えだった。

そして、時は流れて、祥子もレスターも結婚した。その後、レスターに息子が産まれた。


「レスターの息子さんは日本文化に興味を持っていて、日本に留学して来たの」


初めて会った、レスターの息子は18歳の大学生。懐かしい幼馴染の面影を感じさせる、レスターが成長したらこんな風なのか思わせる若者だった。

レスターからの手紙で息子の事を頼まれていた祥子は、初めての異国の地で戸惑うレスターの息子の手助けをしていた。


「そのまま、息子さんは日本で暮らして、日本人の女性と結婚したの。そして、玲奈さんが産まれたわ」


赤ん坊の頃の玲奈は、とても綺麗な子だったのと、祥子は頬を緩ませて語る。今の玲奈の容姿を見れば、納得できる。


「玲奈さんが5歳頃だったかしら、玲奈さんの祖母が倒れたのを機に、レスターの息子家族は英国に移り住んだわ」


レスターの妻、玲奈の祖母である女性は、レスターの息子の結婚式の時に知り合った。

息子が世話になったと感謝する玲奈の祖母と祥子は気が合った。何十年ぶりに再会した幼馴染のレスターをほったらかしで、玲奈の祖母とで盛り上がっていた。

なので、玲奈の祖母が倒れたと聞いた時は心配したが、残念な事に玲奈の祖母は亡くなった。


「その後も、レスターと息子夫婦とは手紙の交流をしていたわ…………二年前まで」


悲しみを抑えるように耐えるように、祥子は眼を伏せる。

二年前、玲奈の家族達に何があったのか。疑問に思った仁が祥子に問いかる前に、祥子が言った。


「橘さん」

「はい」


真っ直ぐに眼を合わせ、名前を呼ばれた仁が居ずまいを正す。


「ここからは先は、あなたが知りたいと思うなら、玲奈さんに聞いてくださいな」


静かで優しい笑みに期待するような様子の祥子に、応えるように仁は頷いた。


ガチャ


その時、リビングのドアが開く。現れたのは、庭にいる〈妖精〉達から話を聞き終わった玲奈。


「あら、玲奈さんも戻ってきたことですし、お昼にしましょう」


リビングに飾っている時計を見れば、時間はすでにお昼を過ぎていた。


「お昼にサンドイッチを作ったの。持ってきますね」

「手伝います」

「ありがとう、玲奈さん。仁さんは待っていてください」


立ち上がり、台所にむかう祥子に玲奈が手伝う。


「えっ、すいません。俺いいんですか?」


依頼調査のために、家に泊めてもらうのだ。そこまで、依頼人である祥子に甘える訳にはいかない。食事は、コンビニなどで調達しようと仁は考えていた。


「あら、これくらいはさせてくださいな」


気にしないでとお昼の用意をする祥子に玲奈が便乗。


「せっかくだから甘えておけ…………むしろ、手伝え」

「えっ?」


何をと仁が問う前に、祥子が大皿に乗せたサンドイッチを持って来た。

サンドイッチが多すぎないか、玲奈も大皿で二枚目を持ってくる。玲奈の手伝えの意味を仁は理解した。


「作りすぎちゃって、召し上がってくださいな」


せっかく、祥子が用意してくれたサンドイッチ。しかも、大量。

それを無下にする訳にはいかない。それにお腹も減っていたのもあり、仁はサンドイッチを頂くことにした。


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