捜査
そう話しているうちに、目的の部屋にたどり着く。
「ここが書斎だ」
玲奈が、書斎のドアを開ける。
書斎は、丈夫で立派な机にソファー、壁一面に書架の殺風景な部屋。書斎を使っていた旦那が亡くなったせいか、寂しく感じる。
空気を入れ替えようと、仁は書斎の窓を開けた。書斎の窓は庭に面していて、窓の下には花壇が並んでいる。もし、犯人が窓から飛び降りたなら、花壇に飛び降りたあとが残るだろう。
「確認なんだが、異変の原因は庭にいた〈妖精〉たちのいたずらとかじゃないんだな」
「ああ、〈妖精〉たちの縄張りは庭だけだ。〈彼ら〉は家の中には入らない」
すでに、〈妖精〉達に確認している玲奈が答える。
縄張りを持つ〈人ならぬモノ〉は基本自分の縄張り以外に干渉しない。縄張りに入ってきた者に対して、〈人ならぬモノ〉は容赦なく、〈人ならぬモノ〉によって対応が変わる。
庭を縄張りにする〈妖精〉は、子供のいたずら程度のことはするが、一その時だけで長続きはしない。
祥子の話では、最初に異変が起きた書斎を調べた時、窓の鍵はかかっており、書斎が荒らされた形跡はなかった。
「書斎で無くなったモノや増えているモノはあったりしたか?」
「亡くなった旦那さんの仕事部屋であった書斎に、祥子さんはもともと何が置いてあったのかも知らないそうだ」
亡くなった旦那は書斎の掃除も自分でするなど、書斎に自分以外の人間、妻であった祥子まで入れなかったらしい。亡くなった旦那は、仕事部屋に他人を入れることが嫌な人だったのだろうか。まぁ、その気持ちはわかるが、これには、困った。
大抵、普通に暮らしていて突然、異変が起こるのは『こちらの世界』関連する訳ありの骨董品や美術品などを手に入れたのが原因などよくある。
仁と同じく、その可能性を考えていた玲奈も、書斎だけではなく、玄関やリビング、廊下に置かれている骨董品や美術品などを確認した。
「残念だが、この家にはそのような物などに関わる物はなかった」
「まじか」
眉を寄せて、仁は書斎を見渡す。
〈火焔の魔女〉の異名をもつ、上位の〈魔術師〉である玲奈でも、原因を見つけることができなかった。そうなると原因は、持ち込みではないかもしれない。何か手がかりがあるかもしれないと書斎を調べながら、仁はもう一つの可能性を考える。
(もしかして、旦那さんが化けて出てきているとか?)
異変が起きたのは、旦那が亡くなってからだ。旦那が書斎に他人の出入りを嫌がっていたのは、書斎に他人には見られたくなかった物があったかもしれない。それを旦那が回収しようとしているかもしれない。前に、愁一郎から、依頼でそういったことがあったと、話を聞いたことがある。
それにしては、異変が起きている範囲が、二階の書斎から他の部屋に移動しているのが、謎だ。
(今回は時間がかかりそうだな)
書斎の窓側に置かれている立派な机を調べていた仁は、そこで気がつく。
他の机の引き出しはしっかりとしまっている。それなのに、一番下の引き出しには何かが挟まって、布と思われるものが引き出しから飛び出ている。
「どうかしたか?」
書斎を調べる仁を見守っていた玲奈が声をかける。
「なんか挟まっているみたいで」
念のために一番下の引き出しを確認しようと、仁は引き出しの取っ手に触れた。
その時。
「つっ!」
ぐらりと仁の頭の中心が痺れる。そして、押し付けられたように、仁の頭の中に何かが流れてくる。
「橘?」
玲奈の声が遠ざかっていく。目の前の光景が消えていく。自分の意識が飲み込まれていく。
(ひさびさに来た……!)
この感覚を仁は知っている。だから、仁はそれを拒むことをせずに意識を委ねた。




