祥子と〈妖精〉の関係
衝撃のひと騒動後。昨日、妖精たちに騙されて、仁が放り出された庭に、玲奈と仁は到着した。
そこには、椅子に座る祥子にまとわりつく〈妖精〉たちの姿があった。玲奈と仁の存在に気がついた祥子が、笑顔で出迎える。
「あら、橘さん。いらっしゃい」
「どうも、野崎さん。お邪魔しています」
にこやかな祥子に挨拶をして、仁は早速本題に入る。
「それで家の調査をしたいので、家の中を見させてもらってもいいですか?」
「ええ、構いませんわ……申し訳ないけど、わたくしでは案内をできませんので。玲奈さん、お願いできるかしら?」
「わかりました。祥子さん」
祥子は申し訳なさそうな顔をして、自分の足をさする。祥子が安心するようにと、玲奈は優しい笑顔で祥子の頼みに応じる。
「わたくしはしばらく庭にいます。何かありましたら言ってください」
「わかりました。調査をさせてもらいます」
「ええ、よろしくお願いします。橘さん」
仁と祥子は、互いに頭を下げる。
玲奈が玄関に戻るのは面倒だ。こっちの方が早いと、庭に面したリビングの窓を開けた。そこで二人は靴を脱ぎ、リビングに上がり、綺麗に掃除された廊下に出る。ついでに、玲奈が自分の靴と仁の靴を玄関に移動させる。
「さて、最初に祥子さんが異変を感じたのは、二階の書斎。亡くなった旦那さんが仕事部屋として使っていた部屋だ。まず、二階の書斎を案内する」
玲奈の先導で、廊下から階段を上がる。階段の上がり途中で、仁は疑問に思ったことを、玲奈に聞く。
「なぁ、野崎さんは」
「祥子さんは幼い頃に負った怪我が原因で脚が弱い。歩くことができない訳ではないが、天気が悪い日には古傷が痛むらしい」
「あ、そうなんだ。で、いや、それじゃなくて」
祥子の様子からもしかしてと思っていたが、依頼者のプライバシーには首を突っ込まないのが、『橘探偵事務所』の方針。仁が聞きたかったのは別の事。
「……野崎さんは〈妖精〉の姿が視えてないよな?」
「ああ、そっちか。確かにお前の言う通りだ」
祥子は〈人ならぬモノ〉たちによる異変が家で起きたと思ったから、〈魔術師〉である玲奈に調査を頼んだ。祥子が〈人ならぬモノ〉の姿が視える人間だと、仁は思っていた。
しかし、庭で〈妖精〉たちといた時、〈妖精〉たちは嬉しそうに祥子の周りにいたが、祥子は〈妖精〉たちの視線があっていなかった。目の前で椅子の取っ手に乗る〈妖精〉が落ちそうになっていたのに、祥子は〈妖精〉を助けなかった。
「祥子さんは〈妖精〉の姿は視えてはないが、〈妖精〉が庭にいることを識っている。祥子さんは小さい頃は英国で育ったから、〈人ならぬモノの〉存在を信じている。なんとなくだが〈彼ら〉の存在を認識している」
英国、イギリスはお国柄、〈人ならぬモノ〉の存在が身近で、〈妖精〉の国が存在するなどの数多くの伝承がある。イギリス人は不思議なものが大好きな国民性を持っている、とテレビか何かで聞いたことあったなぁと、仁は思い出す。
時代と共に〈人ならぬモノ〉たちの存在は忘れられている。しかし、〈人ならぬモノ〉の姿が見えてなくても、存在を信じて認識している人間は少ないが存在する。祥子はその人間の一人なのだろう。




