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第八十九話 将来


始まりの村、離れにて――、


セルジュが今まで集めた『日誌』類のアイテムを手に持っている。


「さーて♪ 『ゼトの日誌の表紙』が見つかったというコトで、早速今までの『日誌』をセットしていきまーす♪」


『おー!』


「するとなんと……」


ゴクリと、タクヤは思わず息を呑んだ。


「日誌が読みやすくなりまーす♪」




「それだけかぃぃいいいい!!!!」




タクヤは思ってもみない事実が発覚したため豪快にツッコミを入れていった。




――、


「さて……、と。残る日誌は5つ。全体の半分くらいか。あと週末の2週間くらいで全部集まりそうだな」


タクヤがポリポリと頭を掻きながら言い、パーティをまとめ上げる。


「で――、だ。明日は月曜日だし、今日は早めに切り上げようと思う。皆社会人だし、俺もフリーターだが明日はバイトのシフトだ。疲れを明日に残しちゃいけないだろう……と言うのが俺の意見なんだが、皆はどう思う?」




「ん? あ、ああ……」


「あ……またタクヤ君が、リーダー風吹かせてきたのかと……いつもは『もっと進むぞー』とか『絶対クリアするぞー』とか言ってる感じだから……」


「言えてる♪」




タケヒコ、ノノ、セルジュは、タクヤの発言が前回の様に、普段と違うコトに違和感を感じた様子だった。


「だからだよ! 前回は柄にもなくパーティの皆のリアルを心配して自分で日程組んで、その結果現実世界で大変な目に遭ったからな。


※第八十五話参照 


それだから今回は皆の意見聞いてから、多数決みたいにして日程組もうと思ってな」




「あったまいいー♪」


「それなら、いいか」


「私も、それだと助かります……」




セルジュ、タケヒコ、ノノはタクヤの提案に全会一致で賛成する様だった。


「よし! それじゃあ、今回はこれで解散がいい人!」




『ハイ!!』




賛成3、反対0。




「決まり、だな。じゃあ今回はここで解散!」


『ラジャー!』




「プツン」




タクヤはゲームの電源を切った。そしていつもの様にVRゴーグルをゴトリと机の上に置いた。時計を確認する。時計の針は18時頃を指していた。


「ふー、久しぶりに早めに寝られる日曜日になりそうだな。……待てよ?」


タクヤに一抹の不安がよぎる。タクヤは不意に窓のカーテンを開け、耳を澄ましてみる。


「……?」




「……」




外からは少し風の吹く音がする以外、何も聞こえなかった。


「ふいぃー、とりま一安心だな。俺が皆の都合を聞く度に天変地異が起きるわけじゃなくて安心したぜ」


なんつーセリフだ?


「るせっ!」


…………。


すると一階から母の声が聞こえてきた。


「タクヤぁー! 今日はもう終わったのー? 晩御飯そろそろできそうだから降りてきなさーい!」


「はーい! かーさん、今行く」


タクヤはそう言うと、自室のある二階から食事をとる居間のある一階へと降りていった。居間に着くと、母が少し暗い様子でタクヤに目をやった。


「どしたの? ……かーさん」


タクヤが軽く声を掛けると、母ははぁーと、溜め息をつきながら言うのだった。


「あんた、今の生活を何時まで続ける気?」


「はうっ!」


母の鋭い言葉が、胸に突き刺さる。


「平日は働いているって言ってもアルバイト」


「はうっ!」


「時間があってもお金が無いわけでもなく、時間も無くてお金も無い」


「はうっ!」


「週末はゲーム三昧」


「はうっ!」


「このままじゃあ到底家庭も持てないだろうし」


「はうっ!」


「はぁー、私達の老後、どうする気なの?」


「はうっ!」


「まぁ、これからについて、ちょっとは考えておいてね。あ、今日はカレーだから」


「……」


タクヤはゲームで言うところの、HP0付近まで体力を削られたと、いう具合だろうか。


(こ……今晩の飯がカレーというのが唯一の救いだな)




――、


『ごちそうさまでした!』


「いやー、母さんの作るカレーはいつも天下一品だな、タクヤ」


「あ……、ああ。オヤジ」


「どうした? タクヤ」


「お父さん、ちょっと……」


母は父にひそひそと耳打ちした。そのスキにタクヤは自室のある二階へ上がっていった。自室に着き、ボフッとベッドに寝転んでみる。




(回想)


「あんた、今の生活を何時まで続ける気?」


「週末はゲーム三昧」


「このままじゃあ到底家庭も持てないだろうし」


「はぁー、私達の老後、どうする気なの?」


(回想終了)




「はぁー。かーさん、痛いトコ突いてくるなー。これから、将来かぁ……。今の暮らし、結構気に入ってるし、甘えちゃってる感があるんだよなー」


ふと、携帯に目をやる。


「……」


「ブーブーブー……ガチャ」


「はい。こんばんは、タカヒロです……タクヤぁ!? どうした?」


「タカヒロぉ(ゲーム内ではタケヒコ)……」




――、


「成る程な。将来に不安がある、と」


「そーなんだよぉ。お前はホワイト企業の正社員で、何一つ不安なんて無いだろーけど、こっちはタダのフリーターなんだよぉ!!」


「はぁー。そうか、タクヤ」


タカヒロはポリポリと頭を掻いた後、言う。


「まだそんなに焦る必要はねーと思うぜ?」


「!?」


「タクヤ、歳も二十歳になるくらいだろ? 25までならいくらでもやり直し利くとか言うし、大丈夫だろ。仕事なんて、選ばない限りいくらでもある」


「それで今フリーターなんだよぉ!!」


「それも一つの道だろ? 最悪、この国には生保って方法もあるんだからあんまり焦り過ぎるな。じゃあな」


「ピッ」


通話は途切れた。


「……生保」




タクヤは夜空を見上げるのだった。

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