第八十八話 正体
「日誌の……表紙……?」
「ん? ああ、タクヤ。今回は、裏表紙と背表紙もついている、この表紙を手に入れる試練になっているみたいでな」
「じゃあ今回マップ、底無しの沼地の試練はこれでクリ……待て……そこっ!」
バッと泥まみれのタクヤはぬかるみの中に手をやり、何かを掴み取った。
「おお!」
「タクヤレーダー発動!」
「♪」
タクヤが掴み取ったものはドロッとした半固形の泥の様なモノだった。
「自分で掴み取っておいてなんだが、何だコレ?」
『泥のかけらを手に入れた!』
「は!? え……?」
「タクヤ」
「タクヤ君」
「タクヤ♪」
泥まみれのタクヤに、(近付ける範囲で)タケヒコとノノ、そしてセルジュが近付いてきた。
そして――、
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとう♪」
母に、ふざけんな。
父に、働けや。
そして――、
全ての引きニートに、おめでとう!
「にへらぁ」
タクヤは、締まりのない顔で、笑った。
「ってちょっと待てー―!!」
『ゑ?』
パーティの三人は口を揃えて一音。
「こんな90年代アニメの展開、お偉いさんに怒られるだろーがよ!」
「タクヤ君の涙ぐましい努力に、心打たれたんですよ」
「え?」
そっと囁いてくるノノに、少々虚を突かれるタクヤ。
「そうだぜタクヤ、こんなに泥まみれになって」
「あ……」
タケヒコも続いて声を掛けてくる。
「良かったね、タクヤ。皆こんなに祝福してくれてるよ♪」
「セルジュ……」
5分後――、
「何だ、この泥のかけらとやら、ベトベトする! 誰が持って帰んだよコレ! しかも臭え!!」
「……」
「……」
「……」
パーティの三人は先程の祝福ムードとは一転、我関せずの姿勢を一心不乱に貫いた。
「さぁてこの、『日誌の表紙』、裏表紙と背表紙もあって、ルーズリーフをセットするみたいに今までの日誌がばらけない様にできるんだ♪」
「俺のコトぁ無視かぁ!? セルジュまで!! このや……」
「うわー便利ですね! 家に一つ欲しいくらい」
「お前らー!俺を無……」
「欲しいか……?」
「あー、いえ。もう学生じゃないので、要りません」
「無視すん……」
「泥を落としてと、読みやすくなったね♪ ゼトの日誌。ね♪ タクヤ」
「チーン」
「モウイイ。オマエラカッテニシロ……」
タクヤはあまりにも無視され続けたため、意気消沈してしまった。
「タクヤぁ♪ ハァ……元気ハァ……だしなって」
「ん?」
タクヤは、声を掛けてきたセルジュの雰囲気に、何か懐かし気な気持ちを思い出した。
「セルジュ、まだ息上がってんのか?」
「うん、ハァハァ……運動は苦手でね♪」
(回想)
「タクヤ君って言うんだね。僕はセイジ。宜しく! 一緒に甲子園に行こうね!!」
――、
「ゼェゼェ……ッは!」
「監督! セイジが気を失いました!!」
「グラウンドの隅に移動させとけ! まるで反応がないのか!?」
「呼吸はしています!」
「なら救急車は呼ばん! 日陰に移動させろ!」
(回想終了)
ハッとタクヤは一つの真実に辿り着いた。
「セルジュ、お前は……セイ……」
(ダメ♪ タカヒロ(タケヒコ)が気付いちゃうでしょ)
セルジュはタクヤの唇を人差し指で塞ぎ、小声で言った。
「タケヒコぉー、ノノちゃーん♪ タクヤの服綺麗にしたいからちょっと向こうに行ってくるねー♪」
「あ、ああ(何で服なんかを……何かあったのか?)」
「はーい! 分かりました!!」
少々の疑問を持つタケヒコだったが、ノノは何の疑念も抱いていない様子だった。
――、
「ここまでくれば、皆に聞こえないかな?」
「ああ、セルジュ。いやセイジ。何で今まで俺やタカヒロ(タケヒコ)に正体を隠していたんだ?」
「……僕さ」
「?」
「運動神経も無くて身体もひ弱だったから、すぐ走りのメニューや食事のノルマをこなす時とかに吐いたりして、みっともなかったじゃん。だから……、そんな奴とパーティ組んでゲームなんて、誰もしてくれないんだろうなって思ってたんだ。タクヤ達とゲーム内で出会えたのは偶然だよ? 今、僕普段何してると思う?」
「何って?」
「正真正銘の引きこもり。引きニートやってるんだよ。みっともなさ過ぎて笑えてくるでしょ?」
「いいや、俺は笑わない」
「!?」
「確かにお前は運動神経も悪くて身体も弱く、練習メニューに付いて行くのがやっとの部員だった。俺やタカヒロみたいにベンチ入りも出来なかった。でも他にも練習メニューがきつくて部活を辞めていくヤツらがいる中、セイジは3年間野球部を続けた。続けるというのは何よりも難しいコトだ。それをセイジは生まれ持ってのハンディキャップがある中、野球部を続けたんだ。皆に誇っていい」
「タクヤ……」
「今働いてないからって何だ? 俺も初めの就職先をドロップアウトして、今はフリーターだ。仕事なんて選ばなければいくらでもある。あの野球部を続けられたセイジだ。きっと立派な社会人になれるさ。何年かかってもな!」
「た……タクヤがそんなコト真面目に……また雹が降っても知らないよ」
セイジはボロボロと瞳に浮かぶ雫をこぼしながら精一杯の軽口を叩く。それに対してタクヤは平然と、且つ自信満々で答えた。
「ダイジョウブだ! 段ボールとガムテープで修繕してある!!」
「ははっ、何それ?」
――、
「おっタクヤ! 服はきれいになったのか?」
「おーう、タケヒコ! この通りよ」
「そうかタクヤ。ん? セルジュ、心なしかスッキリした顔立ちになっていないか?」
「そう? 気のせいだよ♪」




