第八十五話 雹(ヒョウ)が降った日
『ゼトの日誌を手に入れた』
『木のかけらを手に入れた』
「oh!! こんなにすんなりと行くとは……!!」
舞い込んできた思いがけないラッキーを、ノノは受け入れきれずにいた。
「やったね♪ タクヤ!」
「おうよ、セルジュ!」
一方でセルジュとタクヤはパンッと、ハイタッチを交わした。タケヒコはと言うと……
(日誌もかけらも、手に入ったな。運が良かった……アレ? 何か忘れている様な……)
彼は自分が、いの一番にゼトの日誌と木のかけらがある場所に気付いた、自分の手柄を認識できないでいるのだった。
「しかしまぁ……」
「何? タクヤ♪」
ふいーっと、深呼吸した後タクヤが続ける。
「『極悪ばばネコ』って言う割に、日誌やかけらを簡単に見つけさせてくれるなんて、良いヤツだな」
「日誌やかけらも全部奪っちゃうところが、極悪なのかも知れませんけどね」
ノノも会話に入り、否定的な意見を言ってくる。しかしタクヤは晴れやかな表情になって言葉を発するのだった。
「まぁいいじゃねぇか。よし、コイツの墓でも建ててやるか」
((何故!? そこまでする……?))
『性悪ばばネコの墓を建てた』
(なむー)
墓の前で手を合わせるのは、タクヤだけだった。そう、たった一人でタクヤは手を合わせていた。
――、
「よし! 始まりの村の離れに戻るぞ! 結構時間経ってそうだから、セーブしたら今日は終わりだ!」
「え?」
「は!?」
「♪」
タクヤの思いがけない一声に、パーティの三人は虚を突かれる。ポカンと、いった擬音がお似合いな反応を見せた。
「どうした、皆? いくら土日といえども、社会人が夜中まで起きておくのは辛いだろ?」
「タクヤ君が……」
「あのタクヤが……」
「♪」
「何だ? お前ら」
「今日は雪が降りますね」
「いいや、霰あられが降るな」
「何かが降るね♪」
タクヤのパーティが天気の心配をしていたその頃、現実世界では――、
「バラバラバラバラ!!」
大量の雹が降っていた。
タクヤ宅にて――、
「窓ガラスにヒビが入ったぞ! 母さん、タクヤはどうしている!?」
「お父さん! タクヤはゲームをしているわ!!」
「こんな時に! 段ボールとガムテープ用意するぞ!!」
舞台は再び、ゲーム『The battle begins on the farm』の中へ――。
パーティは始まりの村、タクヤの実家(ゲーム内)の離れに集っていた。タクヤがパーティをリードし、声を掛ける。
「じゃあセーブしとくぞ」
『セーブしました』
「ふー、コレで良し、と。何時になってるかな? 明日も13時くらい集合で良いか?」
『異議なーし』
パーティは声を揃えて言った。
「いやー、タクヤも成長したんだな」
「ですね」
「だね♪」
「お前らー、俺をワガママ放題のガキみたいに言うなよー」
タケヒコ、ノノ、セルジュが皮肉を言い、タクヤもたじろいでいた。ここでタクヤがある事実に気付く。
「そうだ! ゼトの、『森の日誌』内容読んでなかったな」
「そう言えばそうですね」
「だろ? ノノ。何時読もうか……? うーん、何か次のマップ行きたくなりそうだから、次集まった時に読むとするか」
『異議なーし!』
「じゃあ、今日は解散!!」
「プツン」
タクヤは、ゲームの電源を切った。ゴトンと、いつものようにVRゴーグルを机に置く。時計に目をやると、針は19時前を示していた。
「おーし、コレでノノにゃ怒られずに済……」
「タクヤぁ!! 降りてきなさい!!」
「!?」
一階から母の声が聞こえてきた。
「どーしたんだろ? はーい! 母さん、今行く!!」
一階に降りると父と母が段ボールを切ったり、ガムテープを適当な長さで切ってその辺に貼っていた。呆然としたタクヤは問うのだった。
「何……してんの?」
「外を見なさい!!」
「?」
「バラバラバラバラ!!」
外を見ると大量の雹が窓ガラスに叩きつけられていた。
「っは!! そういや、ゲームやめてから外がやけにやかましいなと思ったら……」
「タクヤ! ボケーッとしてないで、窓ガラスが割れるかも知れないわよ!? 手伝いなさい!!」
「あっ、ハイー」
その頃タカヒロ(タケヒコ)は自宅で――、
「バラバラバラバラ!!」
「雪でも霰でもなければ、雹かよ!? 恨むぜタクヤー!! 段ボール、段ボール!!」
一方でノノは――、
「バラバラバラバラ!!」
「もー! タクヤ君の馬鹿ぁー!! 段ボール、段ボール!!」
そのまた一方でセルジュは――、
「んー? ヒ・ミ・ツ♪」
……。
舞台はタクヤ宅に戻って――、
「居間のガラスが割れたぞー!!」
「タクヤぁ!! 段ボールだぁ!!」
『突然、関東周辺を雹が襲いました。屋外にいる方は速やかに自動車などの車両に逃げ込むか、建物の中に逃げ込むなどして安全を確保してください』
『しかし、こんな季節に雹とは、まさに近年よく発生する異常気象ですねアンドリューさん』
『雹、トテモ危ナイネ。皆サン、雹ニ当タラナイ様気ヲ付ケテクダサイ。雹ハトッテモ硬イ。頭当タルトトテモ危険。死ンデシマウ事モアルヨ』
遠くでテレビの特報が流れていた。
「段ボール!」
「段ボール!」
「段ボールぅうう!!」