第六十四話 堕天使・ルシファ
「!? 堕天使……?」
タクヤがその言葉に驚愕したが、マリン族の二人は淡々と話す。
「そうだ。堕天使の正体はルシファだと思われる。魔将軍ゼトの手下だ」
「俺達は洞窟を追い出された。ルシファから逃げ出す時に、僅かに見えたのは、奴がマリンの宝玉を片手に持っていたことだ。アレは間違いない。アレはマリンの宝玉だ」
「確かに、マリン族大聖堂に祀ってあったハズの秘宝、マリンの宝玉は最近無くなっている……」
タケヒコが顎に手をやり、少し下に顔を向け考え事をする。そこでタクヤは声を上げた。
「これはビンゴだろ!? マリンのオッサン達、その洞窟の場所を案内してくれ!!」
マリン族の二人は顔を見合わせ、コクリとうなずいた後、口を開く。
「オッサンは余計じゃが……カノン様にその紋章を渡される程の者なら仕方ない。案内しよう」
「っし! サンキュな」
「……」
タケヒコは未だに何かを心配する様子で考え事をしていた。
「どうしたのですか? タケヒコ君」
「ん? ああ、ノノ。少し懸念材料があってな。敵があのル……」
「よーし、早速行くぞ! 洞窟」
タクヤは大声でタケヒコの言葉を遮った。
「敵が、どうしたのですか?」
「うーん、まあいい。洞窟に向かうとしよう」
「? はい……」
タクヤ達一行は、タケヒコが一抹の不安を持ちながらではあったが、マリン族の住処とされる洞窟に向かうコトとなった。
マリン族の洞窟入り口――、
「ここだ。ここが我らの住処だ」
「我らはルシファに対抗する術がないので、ここまでとさせてもらう」
「おう、サンキュな。船頭さんもあざーっした!」
「ああ」
ここまでは、これまでと同じく舟での移動だった。水の都の南西の海を、マリン族が泳ぎ、それをタクヤ達が、船頭が漕ぐ舟で追う形となっていた。
「またここで待っているぞ」
「おなしゃす! さあ、中に入るぞ!」
『おー!』
――、
洞窟内――、
そこは外壁と天井が氷に覆われており、凍てつく様な様相を醸し出していた。その寒々とした様子に、タクヤとノノが思わず声を漏らす。
「中はひんやりとしてて冷たそうだな……」
「うう……、見てるだけで寒気が伝わってきます」
と、ここで――、
「しっ! あそこ、居るぞ……」
タケヒコが人差し指を立て、他の三人に注意を促した。
「おっ」
タクヤは視線を洞窟の奥にやる。そこは洞窟の最深部で、黒いドラゴンに乗った、甲冑を付けた女が佇んでいた。女の手には、まんまるとした透き通った色の宝玉が、乱雑に抱えられていた。
(アレがルシファか……行くぞ、皆!)
と――、
そこでタケヒコがタクヤを引き止める。
(待てタクヤ! バックアタックからの先制攻撃ができるチャンスをうかがおう)
(そんなに上手くいくのか、タケヒコ?)
(じゃあ40秒だけ、試させてくれ)
(OK、40秒だけだからな)
――、
(37、38、39……、くっ! アイツ……毛ほどの油断も、微塵の余裕もかましてねえ)
(行くぞタケヒコ。正面突破しかなさそうだ)
(ふー、どうやらその様だな、タクヤ)
「(よし!)行くぞ! 皆!!」
『おー!!』
「!」
パーティの大声で、ルシファがタクヤ達の気配に気付いた。
『堕天使ルシファが現れた』
「早速ステータス見て、HP拝ませてもらうぜ」
タクヤはゲームの機能であるステータス表示を行い、敵、ルシファのHPを確認した。
『ルシファHP:500/500』
「……」
タクヤは真顔で黙り込んだ。
「ご……、500!?」
「そうだノノ。さっき考え事をしていたのは、相手が相当な強敵だというコトだ。倒しきれないかも知れない」
敵のHPに驚愕するノノに、タケヒコは冷静に言う。
「タ、タケヒコサン。コレモキット負ケイベントノ一種デスヨネ? 負ケテイインデスヨネ?」
タクヤはネコを前にした、絶体絶命のネズミのような心境になり、急に片言になりながらタケヒコに問う。だが、タケヒコは首を横に振った。
「ダメだ……。ここで全滅すると、ゲームオーバー。セーブポイントからやり直しになる」
「NOOOOOOO!!!!」
タクヤは頭を抱え悶絶する。
「仕方ありません。倒せはしなくとも、マリン族の秘宝を取り返す目的だけは達成しましょう!」
「ん♪」
ノノとセルジュは臨戦態勢に入った。その様子を見たルシファ。敵対心を強めるように刺す様な鋭い眼光で睨み付けてきた
「誰じゃ貴様らは? 私は堕天使ルシファ。ゼト様の右腕として世界の調和を乱し、混沌をもたらす者。その邪魔をするのなら、ここで葬られてもらおうぞ」
ルシファは槍を構えた。タケヒコは身構える。
「攻撃……来るぞ……!」
『ルシファのターン:龍の牙!!』
「ひっ!」
ルシファの乗っていた黒いドラゴンはノノに噛み付いてきた!
「ガブリッ」
「ぎゃ!」
『ノノにヒット! ノノ、HP:38/151』
「うぇー、やられましたぁー」
ノノに致命傷が――。それでもタケヒコは冷静だった。
「流石に速いな! ノノ、大丈夫か!?」
「初めて100以上食らいましたー」
「2ターンあれば相手に倒されるな、タケヒコ。よし、お前のターンだ! 行け!!」
「タクヤ……お前……」
「?」
「敵のHPの高さと、さっきのノノへの攻撃で、ビビってんな?」
「――!!」
タクヤのプライドは粉々に砕け散った。そしてわめき散らす。
「ビビってねーし!! 寧ろビビってんのはてめーだろーが!! さっさとやってこい!」
「んな滅茶苦茶な……まあいい。やれるだけやってやる」
タケヒコは剣を構える。




