第1部8
「やっぱりそうだったのね」
今まで黙っていたクラリスが口を開いた。
「あなたが酒場でハルトと話していた時に、騎士団の人間と聞こえてしばらく様子を見ていたの」
「そうだったの?」
「ええ、ごめんなさいね」
クラリスは謝りながら、長いまつ毛を伏せながらにこちらを向いた。ちょっとドキッとする。
「私はあの酒場で神の使い――あの災いを知る人を探していた」
今度はクラリスが真剣なまなざしで語り始めた。
「昔、私の里がまるまる光に覆われて私以外の全ての人が消え去った。
私は呆然として、今の彼と同じように原因を調べたの。
各地に知る人や情報がないか、大陸中を廻った。
でも、知ることが出来たのは、神々が遣わし災いをもたらす者という情報だけだった。
神が存在するのか、私たちの里でどうして災いが起きたのか。
それは私も知りたいの」
バッシュとクラリス。
2人の目的は同じだったらしい。
「じゃあ3人で協力して災いの地を目指そうよ」
「目的を果たすだけだ。それまでお前たちに死なれては困る」
「魔法の腕は確かだから、任せて」
不思議だ。
昨日までは知らない人間だったのに、こうして目的が一緒で結束して旅ができる。
何か奇妙な縁で結ばれているような気がした。
仲間が出来て嬉しい。俺は素直にそう思った。
3時間ほど車で進み徐々に荒れてきた。
流石にここまでは道の整備が行き届いていないのだろう。
「ふう、ようやく半分くらいかな」
「どうしたハルト。もう音を上げたか?」
バッシュはガハハハと笑いながら聞いてきた。
「ちょっと休憩しようよ。ここらの山岳地帯には珍しい果物があるんだ」
「お、では……そうするか」
どうやら、というか予想通りバッシュは食べ物の話になると乗ってくる。
珍しい果実というのは、ナッタと呼ばれる激辛果物だ。
見た目は薄黄色で丸くて柔らかそうに見えるが、口に入れると顔が真っ赤になるほど辛いらしい。
俺は果実のままでは食べたことが無いが、スパイスとして主にスープやシチューに入れるが多い。
「じゃあここでちょっと休憩ということで」
俺はそう言って散策へ向かった。
本では高所の木になっていると読んだ記憶があるので見上げてみる。
突き出ている崖の先に小ぶりのナッタが大量に生えている木があった。
「取れるかな…?試してみるか」
俺は両足に風の魔力を集めた。
攻撃魔法のように単発で放つものとは違い、特定の場所に魔法を使い続けるのはかなりの集中力がいる。
「よし!」
俺は風を纏いながら崖を蹴り上がる。
一歩目。
ぐわっと俺の体は3メートルほど空を舞った。
「うわ…怖いなこれ」
二歩目。
崖を蹴りさらに上昇する。集中しろ。魔力が途切れたらかなり痛い事になるぞ。
よし、三歩――。
「ハルトー?なにしてるの?」
「うわ!クラリス!」
突然クラリスが現れ、俺の集中は途切れた。
三歩目を崖に着けた途端に魔法が分散し、俺は吹っ飛ばされてしまった。
このままじゃ頭から落ちてしまう。
「ちょ、ちょっと! ティ・ファイ!」
クラリスがすばやく風の魔法ティ・ファイを使うと、俺はふわっと風に抱きかかえられ、ゆっくりと着地した。
「ありがとうクラリス」
「ハルト、何してたの?」
「あそこのナッタを取ろうと思って…」
「どうして魔法を使わないのよ…ほら!」
クラリスは再び風魔法を放ち、崖上の木から枝を切断した。
実のついた枝がそのまま落ちてきたので俺はキャッチした。
「どうも風と火の呪文が苦手で……練習を…」
「あれ?じゃあハルトは何属性が使えるの?」
「一応、全部…」
「はあ。アナタはそうつまらない冗談を言うタイプだとは思ってなかったけど?」
俺は素早く水魔法と火魔法を組み合わせ、小さな水蒸気爆発を起こした。
ぼん。
と爆発音がかわいらしく響いた。
「今のは…水と火? まさか本当にマルチユーティリティなの…?」
「そうだよ。だからついたあだ名が、便利屋」
「ハルト…あなた一体…」
「そろそろ行こう。バッシュが待ってるよ」
戻って来て早々、バッシュはナッタにかじりつき辛すぎて文字通り火を噴いた。
ファイアブレスもつかえる竜人族であると判明。
バッシュの強さと間抜けさのギャップがまた開いたのだった。




