第1部7
翌朝、隣家からゼルパを買い出発の支度を終え、車に乗り込んだ。
「じゃあ、バッシュ頼むよ」
「任せておけ」
バッシュは力強くそう言うと手綱を取って、出発した。
ここからコルン大洞穴まで車で6時間ほどかかるだろう。
コルン大洞穴を抜けるにはスムーズに行って約5時間。
そこから災いの地、大湿原までは徒歩で4時間とみて移動は合計15時間。
休憩やアクシデントを考慮して大洞穴の中間あたりで一泊するプランだ。
「バッシュ。依頼について少し確認させてくれ。今回の目的とその経緯を聞いておきたい」
「分かった。話そう。そもそも俺たち王都騎士団第三隊が大湿原に向かう事となったのは”神を見た”という一部の噂話から始まった。」
空は雲一つない晴天だったが、バッシュの顔だけが俄かに曇り始めた。
バッシュはこちらに背を向け、語り始めた。
「年端も行かぬ少女が騎士団に”神をみた”と相談に来た。初めは戯言だと取り合うことはなかったが、次々と目撃情報が騎士団に寄せられついに現地に視察を行う事となった。
任命されたのは我らが第三隊だった。
総勢15名の精鋭部隊で動かしやすい部隊とされており、視察や調査の任が多く我らも普段の任務と変わらぬ気持ちで出発した。
初めは目撃情報が一番多かった荒野のあたりを中心に調べていたが2日探しても何の痕跡もなかったので、我らは次に情報が多かった大湿原へと向かった。
日も暮れてキャンプの準備を進めていた頃に、ある隊員が遠方に不思議な光を発見した。
我らは用心しながらその光を凝視していたが、突然、凄まじい勢いで天へと伸びていった。
そして、恐らく我らの頭上に降りてきたのであろう。
覚えているのは辺りが途轍もなくまばゆい光で包まれていた事だけだ。
目を覚ますと俺は商人の荷車に揺られていた。
話を聞いてみるとキャンプの跡と、倒れている俺だけがその場にあり、他には誰もいなかったという。
消滅した、としか言いようがない。
爆撃や転移など魔法の類ではなく、隊員たちだけが消滅したのだ。
騎士団にもこれは伝えられたが、混乱を避けるためこの情報は公にはされなかった。
俺は一時、休暇をもらいハルトへ依頼した。
と、ここまでが経緯だ。
隊員たちは本当に消滅したのか、なぜ我らが狙われたのか、神はいるのか、そもそも起こったことは現実なのか。
俺はそれを確かめたいんだ。」
ある日、大切な仲間が急に消えて呆然として、そして怒りが沸いている。
バッシュは今そんな心境なのではないかと思う。
焦りはあるものの、恐怖もあるだろう。
手練れの隊員が成す術もなく全滅してしまったのだ。
だから、俺を試し、過剰に魔法を拒絶し、どうしようもない怒りが現れてしまったのだろう。
改めて自分の状況と心境を吐露してくれたバッシュと少し距離が縮まった気がした。




