第1部5
俺は従者と合流し出発を一時間ほど遅らせるよう連絡した。
ここから災いの地、大湿原までは早くとも二日はかかる。
大事に備えて一週間分の準備をしておきたい。
「ほら、食料だ」
「はい、野宿用の魔具よ」
再びバザー通りへ戻りバッシュとクラリスと合流し、それぞれ依頼していた荷物を見せてくれた。
「ちょっと、脳筋。クロコの干し肉なんて食べられないわよ」
「ワニ肉は腹持ちも良く、栄養価も高い。長旅には最適だ。文句があるなら空気中の魔力でも食ってな、魔法使い様」
あ、また喧嘩ですか。
「いいわ、私はこっちを食べるから」
そういいながらクラリスは胸元から乾パンを取り出した。
「それ美味しいですよね」
俺も旅のお供は基本的にこの乾パンだ。見た目は細長いブロック状で手のひらサイズだが、腹も膨れ、それなりに栄養も補給できる優れモノだ。
俺とクラリスのやりとりをみてバッシュは、
軟弱者どもめ、とか、いざとなった時に踏ん張れるのはワニ…、などとぶつぶつ言っていた。
一方、クラリスが買い集めた魔具は、火の魔力が宿った焚き火を維持する火石、風の魔力が宿った寝床を守る防風布、光の魔力が宿り飲み水を確保する浄水瓶の三つだった。
旅慣れているのか、非常に実用性の高い魔具が多かった。
「ありがとうクラリス。まさか1万ソルでここまで揃えられるとは…」
「どういたしまして。余った分は私が貰うわよ」
そう言ってクラリスはひらひらと手を振った。
寧ろ1万ソルでこれだけそろえてくれるなら安すぎる買い物だ。もちろん返してもらおうとは思わない。
「そういえば、バッシュ。騎士団ってキャンプでも魔具は使わないの?」
バッシュはうつむいて黙っている。
しまった!騎士団は禁句だった!
軽率な俺の質問がバッシュの思い出を傷つけてしまった。
「ごめん。バッシュ」
「…っていた」
「え?」
「若い奴らは魔具を使っていたんだあああ!」
突然、空を仰ぎ大声でバッシュは叫んだ。
なんでこの人感情がすぐに昂るの? 竜人族ってみんなそうなの?
「俺が入団したての頃は、魔具なんぞには一切頼らず、信じられるのは己の剣とその腕のみ…そんな世界だったのに最近の若い者から『え?魔具なしっすか~?マグ信じらんねえ~』というクレームが年々増えて続け、団長も『う~ん、魔具おっけえ~』という軽いノリで許可を下した。その時、一体どれほどの騎士たちが悲しみ嘆き苦悩したことか…!」
「いや、嘆いたのは多分バッシュだけだったと思うぞ。それにバッシュだってまだ若く見えるけど…」
「今年でもう28だ。若くはない。嘆かわしい俺が若い頃は…」
「あら、まだ赤子のようなお年だったのですね」
バッシュの愚痴にクラリスが割って入った。そうだエルフ族は長寿の種族としても知られている。平均寿命は300~500歳、と聞いたことがある。
「そうか、じゃあクラリスはいくつなんだ?」
「あら、女性に年を聞くのは失礼、という文化がヒューマンにはあるのではなかったの?」
「ご、ごめん…」
「では、そろそろ行きましょうか」
上手くはぐらかされた気がするが、ともあれこうして災いの地へ向かうことになった。




