第1部3
バッシュに連れられて近場の森へ来た。
近頃、ダークハウンドという犬型のモンスターが出現したと噂の森だ。
「貴様も冒険者と名乗るのであればダークハウンドくらいは狩ったことがあるだろう」
「はあ、まあ……」
ぶらぶらと30分程度、森を散策したもののダークハウンドは現れなかった。
「日が悪い……か」
バッシュは腕を組み空を仰いでいた。
「あのー……ダークハウンド呼びます? それとも剣の腕比べ始めます?」
俺がそういうとバッシュは目を丸くしたまま固まった。
そして
「ウァハハハハハハ!」
と、大笑いした。
「面白い小僧!相手してやろう」
「じゃあ、この木刀でやりましょう」
俺はバッシュに木刀を渡し、二メートルほど離れた。
「どこからでもいいぞ」
バッシュは余裕そうに切っ先を揺らしながら中段に構えた。
「じゃあ遠慮なく」
俺はやや不意打ち気味で手元を目掛けて突きを放った――が――
バッシュの木刀が目にもとまらぬ速さで振り上げられ、俺の手から木刀が飛んでいった。
「あはは……」
「口だけは大したものだったな!」
バッシュは振り上げた木刀をそのまま叩きつけてくる――が――
宙を舞った俺の木刀が魔力の力でブーメランのように舞い戻り、バッシュの後頭部をたたきつけ俺の手元に戻ってくる。
不意打ちで相当なダメージが入ったように見えたが
やはりタフな竜人族だからなのか、団長故の強さなのか、バッシュはふらつきながらも意識を保っていた。
「貴様……魔法使いか!」
「どっちとも言えないかなあ。コ:ル!」
バッシュの足元に氷が張りつき動きを封じた。
チャンスだ。
すぐさま俺は渾身の力を込めて袈裟切りを打ち込んだ。
かーん、とぶつかりあった木刀が小高い音を奏でた。
「良い打ち込みだ。やはり剣士か!」
「剣士でもないんですが……」
直後にバッシュはなぎ払い――俺はそれを避けて距離が出てきた。
「この程度で腕をみてもらえたと思うので……」
「なかなか楽しませてくれる……ハァッ!」
バッシュは体に赤いオーラをまとっている。ある程度の魔力があれば誰でも見えるだろう。
ここから目視はできないが、恐らくバッシュの鱗はすべて逆立っているはずだ。
これは竜人族特有の「逆鱗」と呼ばれる能力で、自我を失い体が動き続ける限り暴れ狂う。
これは――マズい。
と考えるとほぼ同時に、バッシュの切っ先が頬をかすった。なんて速さだ。
「なにか考え事か? この時代に逆鱗を知っているとは貴様ただ者ではないな」
「え!?」
おかしい。竜人族が逆鱗状態では、会話などとてもできるわけがない。
「不思議か? この状態で平常心を保てるからこそ、俺は竜人族にして第三隊の隊長を務めることが出来たのだ。といっても今は元、だがな」
「元……ということは、例の神の使いで壊滅したという……今回の依頼はそれに関係しているのでは?」
俺がそういうとバッシュは逆鱗状態を解いた。
それからしばらく黙って、そうだ、とつぶやいた。




