はじめてのダンジョン
ダンジョンに挑戦します
冒険者ギルドには、毎日のように新しい依頼が持ち込まれる。
魔獣の討伐、薬草の採取、商人の護衛。
俺たちもパーティを結成してから、いくつかの依頼を無事に達成してきた。
そして今日。
俺は掲示板の前で、一枚の依頼書を手に取っていた。
「……ダンジョン調査?」
そこには、王都の北東にある古い地下遺跡の調査依頼が書かれていた。
どうやら最近、遺跡の入口付近で魔獣の目撃情報が増えているらしい。
ギルドとしては内部の状況を確認したいものの、奥へ進むほど危険になるため、まずは第一階層の調査を依頼したいとのことだった。
「ダンジョンか……」
俺は依頼書を見つめた。
冒険者になったら、一度は挑戦してみたいと思っていた場所だ。
魔獣が徘徊する地下迷宮。
古代の宝物。
まだ誰も見つけていない秘密の部屋。
考えただけで胸が高鳴る。
「ユウ、何を見ているの?」
隣からサキが覗き込んできた。
「ダンジョンの調査依頼です」
「あら、面白そうね」
サキが依頼書へ目を通す。
「第一階層だけなら、今の私たちでも十分に調査できそうだわ」
「俺も賛成だ」
後ろからガイが声をかけてきた。
「森で魔獣を倒すのもいいが、そろそろ違う環境で戦ってみたいからな」
「ダンジョンですか?」
アステリアも興味を示した。
「私、実はまだ入ったことがないんです」
「俺も初めてです!」
「そうなの?」
「はい!じゃーみんなはじめてですね!」
俺は元気よく答えた。
勇者なのにダンジョン未経験というのは、少し頼りなく聞こえるかもしれない。
だが、冒険を始めたばかりなのだから仕方がない。
「そうね、みんなで初挑戦ね」
サキが微笑んだ。
「ただし、無理は禁物よ。今回は調査が目的なんだから」
「そうですね。まずは第一階層だけ確認して戻りましょう」
俺は頷き、依頼書を受付へ持っていった。
「こちらの依頼を受けたいんですが」
受付嬢は依頼書を見ると、少し表情を引き締めた。
「地下遺跡の調査ですね。最近、第一階層の奥で大型の魔獣が目撃されています。危険を感じたら、すぐに引き返してください」
「分かりました」
「それと、遺跡には古い魔法装置が残されていることもあります。むやみに触れないようお願いします」
「魔法装置……!」
俺は思わず身を乗り出した。
「ユウさん、楽しそうですね」
アステリアが笑う。
「もちろんです!ダンジョンって冒険者らしいじゃないですか!」
「ふふっ。確かにそうですね」
受付嬢から遺跡の簡単な地図を受け取り、俺たちは準備を整えることにした。
回復薬。
水。
携帯食料。
それから、暗い場所でも使える魔道具のランタン。
必要な物を揃えたところで、俺たちは王都を出発した。
今日こそ、勇者らしい活躍をしてみせる。
そう意気込んでいたのだが、一つだけ心配があった。
戦闘中に突然、歌ったり踊ったりすることがある。
森なら多少変なことをしても誤魔化せる。
だが、狭いダンジョンで踊り始めたらどうなるだろう。
通路を塞いでしまうかもしれない。
できれば今日は、普通に剣を振らせてほしい。
そんな願いを胸に、俺は仲間たちの後を追った。
王都から歩くこと、およそ三時間。
俺たちは山の麓にある古い遺跡へ到着した。
「王都からずいぶんと離れましたね。ここがダンジョンですか……!」
崖の一部を削って造られたような石造りの入口が、木々の間から姿を現している。
入口の両脇には風化した石像が並び、壁には見慣れない文字が刻まれていた。
「ずいぶん古そうね」
サキが石壁を見上げる。
「何百年も前の遺跡かもしれないわ」
「崩落の危険もありそうだな」
ガイが入口の天井を確認する。
「中では足元だけじゃなく、頭上にも気をつけよう」
「はい!」
俺たちが入口へ近づくと、警備をしていた二人の冒険者が声をかけてきた。
「お前たち、調査依頼を受けた冒険者か?」
「そうです!」
俺は冒険者カードを見せた。
警備の男はカードを確認し、目を丸くした。
「勇者……?」
「はい!」
「そっちは剣聖にバトルマスター……聖女までいるのか!?」
「ええ。四人でパーティを組んでいます」
アステリアが丁寧に答える。
「すげえ組み合わせだな……」
もう一人の警備員まで驚いていた。
俺は少し誇らしくなった。
やっぱり、このパーティはすごい。
俺の他の三人が上級職なのだから当然だ。
「ただし、職業が何であろうと油断するなよ」
警備員が真剣な顔に戻る。
「第二階層へ続く階段の近くで、妙に硬い魔獣が目撃されている。無理に倒そうとせず、危険なら引き返せ」
「はい、分かりました!」
俺たちは警備員に礼を言い、遺跡の中へ入った。
ランタンの光が石造りの通路を照らす。
壁には古い燭台が並び、床には長い年月を感じさせる亀裂が走っていた。
「わあ……」
アステリアが小さく声を漏らす。
「すごい、本当に地下迷宮みたいですね」
「実際に地下迷宮だからな」
ガイが笑った。
「そうでした」
アステリアも笑う。
そんな会話を交わしながら進んでいると、前方から小さな物音が聞こえてきた。
カリカリ。
何かが石を引っ掻いているような音だ。
「止まって」
サキが片手を上げた。
俺たちは足を止める。
ランタンを前へ向けると、通路の奥に三つの影が見えた。
「ネズミ……?」
いや、普通のネズミにしては大きすぎる。
体長は一メートルほど。
灰色の毛並みをしているが、背中には金属のような甲殻が生えている。
「アーマーラットね」
サキが剣を抜いた。
「硬い背中に気をつけて。腹側は比較的柔らかいはずよ」
「了解!」
俺も剣を構える。
アーマーラットたちがこちらに気づいた。
「ギギッ!」
三体が一斉に走り出す。
「来るぞ!」
ガイが前へ出た。
先頭の一体へ大斧を振り下ろす。
ガキィンッ!
刃が甲殻へ当たり、硬い音が響いた。
「なかなか硬いな!」
「横から行きます!」
俺はガイの脇を抜け、別の一体へ斬りかかった。
アーマーラットが身体をひねる。
剣が甲殻を擦った。
「くっ!」
思った以上に素早い。
だが、相手が向きを変えた瞬間、腹側が見えた。
「そこだ!」
俺は剣を突き出した。
刃が柔らかい部分へ入り、アーマーラットが倒れる。
「よし!」
普通に倒せた!
今日は調子がいいぞ。
「ユウ、右!」
サキの声が響く。
振り向くと、別のアーマーラットが飛びかかってきていた。
「うわっ!」
俺は慌てて身体をひねる。
直後、サキの剣が閃いた。
アーマーラットが床へ転がる。
「助かりました!」
「どういたしまして!」
最後の一体はガイが大斧で叩き伏せた。
戦闘はあっという間に終わった。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
アステリアが尋ねる。
「大丈夫です!」
「私も平気よ」
「問題ない」
俺たちは周囲の安全を確認してから、ドロップ品を回収した。
甲殻が三枚。
鋭い前歯が二本。
小さな魔石が三つ。
さらに、サキが一つだけ色の違う魔石を見つけた。
「あら?これ、普通の魔石と違うわね」
彼女が拾い上げた魔石は、淡い緑色に輝いていた。
「綺麗ですね」
アステリアが覗き込む。
「風属性の魔力を感じます」
「もしかして、珍しい物ですかね?」
「変異魔石かもしれないわ」
サキが答える。
「通常の魔石とは違う性質を持つことがあるの。ギルドで鑑定してもらいましょう」
「やった!」
俺は思わず喜んだ。
また珍しい物が出たらしい。
このパーティは本当に運がいいと思う。
ドロップ品も気のせいかもしれないけれど多い気がする。
「よし、先へ進もう」
ガイが大斧を担ぎ直した。
俺たちは再び通路を歩き始めた。
遺跡の内部は、思っていた以上に広かった。
通路の途中にはいくつもの小部屋があり、崩れた家具や古い石板が残されている。
壁には魔法陣のような模様も刻まれていたが、ほとんどが風化して読み取れなかった。
「昔は何に使われていた場所なんでしょうね」
アステリアが壁を見つめる。
「研究施設だったのかもしれないわ」
サキが答えた。
「魔法陣も多いし、普通の住居には見えないもの」
「古代の魔法研究所か……」
俺は少し興奮した。
「誰もいなくなった施設に魔物が住み着いてダンジョン化したのね」
サキが言った。
もしかしたら、伝説の魔法や珍しい武器が眠っているかもしれない。
「ユウ、あまり先へ行くなよ」
ガイが声をかけてきた。
「通路の先がどうなっているか分からないからな」
「分かってます!」
俺は慌てて足を止めた。
危ない危ない。
つい冒険心が先走ってしまった。
その後も慎重に進み、俺たちは少し広い部屋へ到着した。
中央には壊れかけた石像があり、周囲には古い台座が並んでいる。
「ここで少し休憩しませんか?」
アステリアが提案した。
「そうしましょう」
俺たちは壁際に腰を下ろし、水を飲んだ。
「思っていたより順調ですね」
俺が言うと、サキが頷いた。
「まだはじめの第一階層だからでしょうね。でも、まだ奥が残っているわ」
「警備員が言っていた硬い魔獣も気になるな」
ガイが地図を広げる。
「この先に第二階層へ続く階段があるらしい。そこまで確認したら戻ろう」
「了解です!」
俺は水筒の蓋を閉めた。
その時だった。
ゴゴゴゴ……。
床が小さく揺れた。
「……ん?」
俺たちは顔を見合わせた。
再び、地面が震える。
今度はさっきより大きい。
「何か来るぞ」
ガイが立ち上がった。
通路の奥から、重い足音が響いてくる。
ドシン。
ドシン。
ランタンの光が揺れた。
「皆さん、気をつけてください!」
アステリアが杖を構える。
そして、通路の奥から巨大な影が現れた。
「……でかっ!」
俺は思わず声を上げた。
現れたのは、岩でできた巨人だった。
身長は三メートル以上。
全身が分厚い岩石で覆われ、胸の中央には赤い魔石が埋め込まれている。
「ストーンゴーレム……!」
サキが目を見開いた。
「これが警備員の言っていた魔獣か!」
ガイが大斧を握り直す。
ストーンゴーレムは俺たちを見下ろし、巨大な腕を振り上げた。
「みんな散れっ!」
ガイの声に合わせ、俺たちは左右へ飛んだ。
直後。
ドゴォォンッ!
巨大な拳が床へ叩きつけられた。
石畳が砕け、破片が飛び散る。
「うわっ!」
俺は転がるように距離を取った。
何だ、あの威力は!
まともに食らったら大怪我じゃ済まない。
「私が引きつけるわ!」
サキが駆け出す。
ストーンゴーレムの側面へ回り込み、剣を振るった。
ガキィンッ!
刃が岩の身体へ当たる。
「硬いわね!」
ほとんど傷がついていない。
「俺も行く!」
ガイが大斧を振り下ろした。
鈍い音とともに岩の表面が欠ける。
だが、ストーンゴーレムは動きを止めなかった。
「くそっ、やっぱ頑丈だな!」
「アステリアさん!」
俺は叫んだ。
「魔法で攻撃できますか!?」
「やってみます!」
アステリアが杖を掲げる。
「《ホーリー・レイ》!」
白い光が放たれ、ストーンゴーレムの胸へ直撃した。
バキィンッ!
岩の表面に亀裂が走る。
「割れた!効いてる!」
すると割れたところから少し魔石が覗いているのが見えた。
俺は声を上げた。
「胸の魔石を狙えば倒せるかもしれません!」
「でも、あの高さでは簡単に届かないわ!」
サキが叫ぶ。
確かに、魔石は胸の中央にある。
俺の剣では届きにくい。
ガイの大斧でも、正面から攻撃するのは難しそうだ。
「だったら、足を狙って動きを止めましょう!」
俺は剣を構えた。
まずは足元を崩す。
そう考えて走り出そうとした瞬間。
身体が勝手に止まった。
(……え?)
嫌な予感がした。
右足が横へ滑る。
左足が反対へ動く。
そして俺は、剣を持ったまま軽やかに回転し始めた。
(またかぁぁぁ!)
よりによって、この状況で!
目の前には巨大なゴーレム。
仲間たちは必死に戦っている。
なのに俺は踊っている。
「ユウさん!?」
アステリアが驚いた声を上げた。
「今度は何を!?」
「勇者の……戦闘舞踏です!」
俺は必死に答えた。
「戦闘舞踏!?」
「はい!仲間の力を高める技です!」
言った直後、少し後悔した。
効果なんて分からないのに、何でまた適当なことを言ってしまったんだろう。
もし何も起きなかったらどうするんだ。
今までが順調だったからつい言ってしまったんだ。
だが、そんな心配は必要なかった。
踊りが終わった瞬間、俺たちの身体を淡い光が包んだ。
「……あら?」
サキが自分の手を見た。
「身体が軽いわ」
「力も増している気がするな」
ガイが大斧を振る。
「ユウ、助かる!」
「はい!」
俺は元気よく返事をした。
よかった。
額にかいた汗を拭う。
どうやら今回も強化効果が出たらしい。
しかも、身体が軽くなるだけではなく、力まで増しているようだ。
遊び人の行動は本当に何が起こるか分からない。
だが、今はありがたい。
「行くぞ!」
ガイが走り出した。
ストーンゴーレムの拳が振り下ろされる。
ガイは大斧を構えた。
しかし、その直前。
彼は突然、足を止めた。
「……む?」
ガイが大斧を肩へ担ぎ、胸を張った。
そして、片手を腰へ当てる。
まるで勝利した英雄のような堂々たる姿勢だった。
「ガイさん!?」
アステリアが驚く。
「今は危険です!」
「……心配するな!」
ガイが低い声で答えた。
「これも俺の戦闘技術の一つだ!」
「そうだったんですね!」
俺は納得した。
バトルマスターには、敵の攻撃を受ける直前に構えを変える技もあるのだろう。
きっと防御を高める特殊な姿勢なのだ。
次の瞬間、ガイの身体から光が広がった。
俺たち全員が淡い光に包まれる。
「防御力が上がっています!」
アステリアが叫んだ。
「これなら多少の攻撃にも耐えられそうです!」
「さすがガイさん!」
さすがバトルマスター!俺は感心した。
あんな堂々とした構えで仲間を守るなんてさすが戦闘のプロ!
「さぁ、次は攻撃だ!」
ガイが大斧を振り上げる。
ストーンゴーレムの拳を避け、その膝へ刃を叩きつけた。
ガキィンッ!
岩に亀裂が走る。
「よし!」
俺も反対側から斬りかかった。
剣が岩の隙間へ入り、さらに亀裂を広げる。
「サキさん!」
「任せて!」
サキが踏み込んだ。
剣を構え、ゴーレムの脚へ狙いを定めたと思った瞬間。
彼女の口から、美しい歌声が響き始めた。
「……え?」
俺は思わず振り向いた。
サキが歌っている。
しかも、こんな危険な状況で。
しかし、彼女の表情は真剣だった。
剣を握って狙いを定めたまま、澄んだ声で歌い続けている。
「剣聖の歌……!」
俺は思わず呟いた。
以前もサキの歌で魔獣が眠ったことがある。
ストーンゴーレムをも眠らせるだろうか?
歌声が部屋へ広がる。
すると、アステリアが驚いたように顔を上げた。
「……あれ?」
「どうしました!?」
「魔力が回復しています!」
「えっ!?」
「さっき魔法を使って減ったはずなのに、少しずつ戻っているんです!」
「すごい!」
俺はサキを見る。
なんてことだ、歌で魔力まで回復できるのか!
剣聖って本当に何でもできるんだな。
「サキさん、ありがとうございます!」
歌が終わると、サキが小さく息を吐いた。
「ええ。役に立てたならよかったわ」
「十分すぎるくらいです!」
俺は剣を構え直した。
身体能力の強化。
防御力の上昇。
魔力の回復。
これだけの支援が揃えば、あのゴーレムにも勝てるはずだ。
「皆さん、胸の魔石を狙います!」
アステリアが杖を掲げた。
「そのために、まずは足を崩しましょう!」
「了解!」
ガイが大斧を振るう。
膝の亀裂へ刃が叩き込まれた。
バキィンッ!
岩の一部が砕ける。
ストーンゴーレムの巨体が傾いた。
「今だ!」
俺は反対側の脚へ斬りかかった。
強化された身体で踏み込み、亀裂へ剣を突き入れる。
ガガガッ!
岩が崩れた。
ストーンゴーレムが片膝をつく。
「サキさん!」
「任せて!」
サキが地面を蹴った。
倒れかけたゴーレムの腕を足場にして跳び上がり、胸元へ迫る。
「はあっ!」
剣が赤い魔石の周囲へ突き刺さった。
バキィンッ!
岩の装甲が割れ、魔石が露出する。
「アステリア!」
「はい!」
アステリアが杖を掲げた。
白い光が集まっていく。
「《ホーリー・レイ》!」
眩い光が一直線に放たれた。
露出した魔石へ直撃する。
パキィィンッ!
赤い魔石に亀裂が走った。
次の瞬間、ゴゴゴと音を立て、ストーンゴーレムの全身が崩れ始める。
巨大な腕が落ち、脚が砕け、岩の身体が床へ崩れ落ちた。
ドゴォォンッ!
凄まじい音が響いた。
砂埃が舞い上がる。
しばらくして、ようやく静かになった。
「……倒した?」
俺は剣を握ったまま呟いた。
「ええ!」
アステリアが笑顔を見せる。
「倒しました!」
「やったぁ!」
俺は思わず両手を上げた。
初めてのダンジョンで、あんな巨大なゴーレムまで倒せるなんて!
「みんな、よくやった!」
ガイが大斧を担ぎ直す。
「特にアステリアの魔法は見事だったな」
「いえ、皆さんが魔石を露出させてくださったおかげです」
「連携がうまくいったわね」
サキも微笑んだ。
俺は三人を見回した。
やっぱりすごい。
剣聖、バトルマスター、聖女。
この三人と一緒なら、どんな強敵にも立ち向かえる気がする。
俺ももっと頑張らないとな。
そう思って剣を鞘へ戻そうとした瞬間。
指先が勝手に動いた。
「……ん?」
俺は足元の小石を拾い上げていた。
(……え?)
そして、何の前触れもなく指先で弾いた。
コツン。
小石が近くの壁へ当たり、床へ転がった。
「…………」
俺は小石を見つめた。
何も起きない。
ただの小石だった。
「ユウさん?」
アステリアが首を傾げる。
「今のは……?」
「あ、いや……」
俺は慌てて答えた。
「流星投擲が発動するか試してみたんですけど、条件が揃わなかったみたいです」
「そうなんですね」
アステリアが納得する。
「やっぱり強力な技には発動条件があるんですね」
「ええ、そうなんです」
俺は頷いた。
よかった。
今回は誰も気にしていないようだ。
それにしても、昨日は木を貫いて岩まで割ったのに、今日は壁へ当たって落ちただけ。
遊び人の行動は本当に予測できない。
できれば、もう少し安定してほしいものだ。
「それじゃあ、ドロップ品を回収しましょう」
アステリアの言葉で、俺たちは崩れたゴーレムへ近づいた。
岩の残骸の中には、大きな魔石が残されていた。
「おおっ!」
俺は拾い上げる。
「結構大きいですね!」
「ストーンゴーレムの魔石なら、それなりの値段になるはずだ」
ガイが言った。
「こっちには鉱石もあるわ」
サキが岩の破片を調べている。
そこには、淡く光る鉱石がいくつか混ざっていた。
「魔力を含んだ鉱石かもしれないわね」
「それも持ち帰りましょう!」
俺たちは魔石と鉱石を袋へしまった。
これで調査依頼の報酬に加えて、ドロップ品まで手に入った。
十分な成果だろう。
「……あら?」
その時、アステリアが部屋の中央にある石像へ近づいた。
「どうしました?」
「ここに何か挟まっています」
俺たちも近づいてみる。
壊れた石像の台座。
その隙間に、銀色の板のような物が挟まっていた。
「何だろう?」
俺は慎重に引き抜いた。
手のひらほどの大きさの金属板だった。
表面には細かな文字が刻まれている。
「読めますか?」
俺が尋ねると、アステリアが顔を近づけた。
「……古代魔法文字に似ていますね」
「古代魔法文字?」
「はい。でも、私の知っている文字とは少し違います」
サキも覗き込む。
「何かの魔道具かもしれないわね」
「ギルドで鑑定してもらおう」
ガイが提案した。
「そうですね!」
俺は金属板を袋へしまった。
警備員からは古い魔法装置にむやみに触れないよう注意されていたので、石像の台座にはそれ以上手を出さないことにした。
俺たちは地図を確認し、第二階層へ続く階段の手前まで進んだ。
階段の周囲には、ゴーレムが通ったと思われる大きな足跡が残されている。
「どうやら、あいつはここから来たみたいだな」
ガイが言った。
「第一階層の調査としては十分でしょう」
アステリアが頷く。
「これ以上進むのは危険かもしれません」
「そうね。今回はここまでにしましょう」
サキも賛成した。
俺は階段の奥を少しだけ覗き込んだ。
暗闇の向こうへ、石段がどこまでも続いているように見える。
その先には、どんな魔獣や宝物が待っているのだろう。
気になる。
ものすごく気になる。
だが、今は無理をする時じゃない。
「よし、戻りましょう!」
俺たちは来た道を引き返した。
王都へ戻った頃には、夕方になっていた。
冒険者ギルドへ入ると、受付嬢が俺たちに気づいた。
「お帰りなさい。地下遺跡の調査はいかがでしたか?」
「無事に終わりました!」
俺は依頼書と調査内容をまとめたメモを差し出した。
「第一階層でアーマーラット三体と、ストーンゴーレム一体を確認しました」
「ストーンゴーレムですか!?」
受付嬢が驚く。
「はい。第二階層へ続く階段の近くにいました」
「それで、皆さんは無事だったんですか?」
「はい、倒しました!」
「……倒したんですか?」
受付嬢が目を丸くする。
「はい!」
「さすが勇者パーティですね……」
俺は少し照れくさくなった。
実際に倒したのは、ほとんど仲間たちのおかげなんだけど。
「それと、ドロップ品の鑑定をお願いします」
俺は袋から魔石と鉱石を取り出した。
受付嬢は鑑定用の水晶を使い、一つずつ確認していく。
「こちらは通常のアーマーラットの魔石ですね。甲殻と牙も買い取り可能です」
「はい!」
「それから、この緑色の魔石は……」
水晶が淡く輝いた。
「風属性の変異魔石ですね」
「やっぱり!」
サキが嬉しそうに声を上げた。
「珍しい物なんですか?」
「ええ。通常の魔石より高価です。風属性の魔道具を作る際に使われることがあります」
「やった!」
俺は喜んだ。
また当たりだ。
「こちらの大きな魔石はストーンゴーレムのものですね。品質も良好です」
受付嬢は続いて鉱石を調べた。
「こちらは魔力を含んだ鉱石です。武器や防具の加工に利用できますよ」
「よかったですね!」
アステリアが微笑んだ。
俺たちは顔を見合わせた。
今日も十分な収穫だ。
「それから、もう一つあるんです」
俺は銀色の金属板を取り出した。
「遺跡の中で見つけたんですが、何なのか分からなくて」
「拝見しますね」
受付嬢が金属板を受け取り、水晶へ近づけた。
しかし、今度は何も起きなかった。
「……あら?」
「どうしました?」
「反応がありませんね」
受付嬢が首を傾げる。
角度を変えて、もう一度調べる。
それでも水晶は光らなかった。
「ただの金属板ですか?」
「いえ……」
受付嬢は表面の文字を確認した。
「古代魔法文字が刻まれているようですし、何らかの魔道具である可能性はあります。ただ、ギルドの鑑定水晶では詳しいことが分かりません」
「そうなんですか……」
俺は少し残念に思った。
せっかく見つけたのに、正体不明とは。
「ですが、詳しく調べられる方に心当たりがあります」
「本当ですか!?」
「はい。王都の裏通りに、小さな魔道具店を営んでいる鑑定士がいるんです」
「魔道具店?」
「ええ。少し変わった方ですが、鑑定の腕は王都でも指折りです。古代の魔道具にも詳しいので、その方なら何か分かるかもしれません」
「へえ……!」
俺は興味を持った。
古代の魔道具に詳しい鑑定士。
いかにも冒険者らしい出会いじゃないか。
「ただし、誰でも鑑定してくれるわけではないんです」
受付嬢が苦笑した。
「気に入らない相手は、すぐに追い返してしまうこともあるそうで……」
「気難しい人なんですね」
アステリアが言った。
「そうですね。でも、腕は確かです」
「じゃあ、明日行ってみましょう!」
俺が提案すると、サキが頷いた。
「そうね。せっかく見つけた物だし、正体を知りたいわ」
「俺も賛成だ」
ガイが笑う。
「古代の魔道具なら、面白い効果があるかもしれないからな」
「私も楽しみです!」
アステリアも嬉しそうだった。
こうして、明日の予定が決まった。
俺は銀色の金属板を袋へ戻した。
何が書かれているのか。
どんな効果があるのか。
考えるだけでわくわくする。
ただ、一つだけ気になることがあった。
王都でも指折りの鑑定士。
そんな人なら、もしかして俺の職業偽装の指輪まで見抜いてしまうのではないだろうか。
俺は右手の指輪へ視線を落とした。
……いや、大丈夫だろう。
これまで誰にも見破られていないんだ。
ギルドの鑑定でさえわからないんだ。
きっと問題ない。
それに、今回は金属板を鑑定してもらうだけだ。
俺自身を調べてもらうわけじゃない。
「ユウさん?」
アステリアが俺の顔を覗き込んだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません!」
俺は慌てて笑った。
「明日が楽しみだなって思って!」
「ふふっ。私もです!」
アステリアが微笑む。
サキとガイも、明日の鑑定を楽しみにしているようだった。
俺たちはギルドを後にし、宿へ向かって歩き始めた。
初めてのダンジョン探索は大成功。
珍しい魔石も手に入ったし、謎の金属板まで見つかった。
そして明日は、腕利きの鑑定士に会いに行く。
きっとまた、新しい冒険が待っているはずだ。
……できれば、俺の正体だけは見抜かれませんように。
いつも読んで頂きありがとうございます!
面白いと思って頂けたらコメント、評価や⭐︎を頂けると、とても喜びます。
よろしくお願い致します。




