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勇者パーティ、聖女様以外ぜんぶ偽物でした~自分だけが偽物だと思っている遊び人たちの最強パーティ~  作者: 黒華レン


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気難しい鑑定士

鑑定じいさんの工房へ行きます

 王都の裏通りには、表通りとは違った雰囲気がある。


 大勢の人が行き交う大通りから一本入るだけで、賑やかな商店の呼び込みは聞こえなくなり、代わりに古びた建物や小さな工房が並んでいた。


「本当にこっちで合ってるのか?」


 ガイが周囲を見回しながら尋ねた。


「ギルドでもらった地図だと、この先のはずです」


 俺は手元の紙を確認した。


 昨日、ダンジョンで見つけた銀色の金属板。


 その正体を調べるため、俺たちは王都でも腕利きだという鑑定士を訪ねることにした。


 受付嬢によれば、鑑定の腕は確かだが、かなり気難しい人物らしい。


「それにしても、変わった場所にお店があるのね」


 サキが並んだ建物を眺める。


「魔道具を扱っているなら、もっと人通りの多い場所に店を構えた方が儲かりそうだけど」


「きっと、商売より研究が好きな方なんですよ」


 アステリアが答えた。


「古代の魔道具に詳しいそうですし」


「なるほど。それなら納得ね」


 そんな話をしていると、道の先に小さな看板が見えてきた。


 木製の看板には、かすれた文字でこう書かれている。


『魔道具鑑定・修理 ミルド工房』


「ここだ!」


 俺は足を止めた。


 建物は二階建てで、外壁には蔦が絡みついている。


 窓からは古い本や奇妙な器具が見えた。


 店というより、研究者の住まいといった雰囲気だ。


「入ってみましょうか」


 アステリアが扉へ手を伸ばす。


 しかし、その前に俺は看板の下に貼られた紙を見つけた。


『冷やかしお断り』


『値切り交渉お断り』


『鑑定中の質問お断り』


『店主の機嫌が悪い日は営業しません』


「……うわー最後の一つ、すごくないですか?」


「ずいぶんと自由な店主だな、わっはっは」


 ガイが笑う。


「今日は営業しているといいですねー」


 アステリアが少し心配そうに扉を見た。


 俺は覚悟を決めてノックした。


 コンコン。


「すみませーん!」


 返事はない。


 もう一度叩く。


「すみませーん!鑑定をお願いしたいんですが!」


 しばらくすると、建物の奥から声が聞こえた。


「うるさい!聞こえとるわ!」


 ……どうやら営業中らしい。


 扉が勢いよく開いた。


 現れたのは、白髪交じりの老人だった。


 背は低く、丸い眼鏡をかけている。


 片手には分厚い本を持ち、もう片方の手には何やら金属製の工具を握っていた。


「何じゃ、お前たちは」


「冒険者ギルドの紹介で来ました!」


「ギルド?」


 老人が眉をひそめる。


「またあそこの連中か。わしを便利な鑑定屋だと思いおって」


「お忙しいところ申し訳ありません」


 アステリアが丁寧に頭を下げた。


「古代の遺跡で見つけた物を調べていただきたくて……」


「古代の遺跡だと?」


 老人の目がわずかに動いた。


「なんじゃ?何を見つけた?」


「これです」


 俺は袋から銀色の金属板を取り出した。


 老人はそれを見るなり、工具を床へ落とした。


 カランッ。


「ほう、これは……おい!」


「はい?」


「それをどこで拾った?」


「王都の北東にある地下遺跡です」


「中のどこじゃ?」


「第一階層の奥にある、壊れた石像の台座です」


 老人は俺の手元を凝視している。


 さっきまで面倒くさそうだったのに、急に目つきが変わった。


「……中へ入れ」


「え?」


「早くせんか!そんな貴重な物を外で持っておるんじゃない!」


 老人は俺たちを店内へ押し込むように招き入れた。


 どうやら、かなり珍しい物だったらしい。


 店内は想像以上に散らかっていた。


 壁一面の本棚には古い書物が詰め込まれ、床には魔石や金属片の入った箱が積み上がっている。


 天井からは用途の分からない魔道具がいくつも吊り下げられていた。


「わあ……!」


 アステリアが目を輝かせる。


「すごい数の魔道具ですね!」


「勝手に触るなよ。半分くらいは壊れとる」


「えっ!?」


 俺は慌てて手を引っ込めた。


 勝手に触って誤作動でも起こしたら大変だ。


 ちょうど近くにあった球体の魔道具が気になっていたところだった。


 危ない、危ない。


「そこの椅子に座れ」


 老人が作業台を指差した。


 俺たちは椅子を四つ並べて座った。


「まず名乗っておくか。わしの名はミルド。この工房の店主じゃ」


「俺はユウ・シャイニングです!」


「サキ・スラッシュよ」


「ガイ・クラッシュだ」


「アステリア・ルミエールと申します」


 ミルドは適当に頷き、俺から金属板を受け取った。


「ふむ……」


 眼鏡をずらし、表面の文字を確認する。


 続いて引き出しから小さな水晶を取り出した。


 ギルドで使っていた物よりもずっと小さい。


 だが、内部には複雑な魔法陣が浮かんでいた。


「ほう……」


 ミルドが水晶を金属板へ近づける。


 すると、青白い光が広がった。


「おおっ!」


 俺は思わず声を上げた。


 昨日、ギルドでは何の反応もなかったのに。


「やっぱり魔道具なんですか?」


「黙っとれ。今調べとる」


「あ、はい」


 俺は口を閉じた。


 ミルドは金属板を何度も裏返し、文字を一つずつ確認していく。


 その間、俺たちは静かに待っていた。


 ……五分。


 ……十分。


 ……二十分。


「……長いわね」


 サキが小声で呟いた。


「ああ、集中してるんだろう」


 ガイも声を落とす。


 俺は店内を眺めた。


 壁には剣や杖が並び、棚には見たこともない魔石が置かれている。


 色々と気になる物がある。


 目についたのは小さな金色の箱だ。


 箱の蓋には、三つの丸いくぼみが並んでいる。


 何かを嵌め込む仕掛けだろうか。


 俺が眺めていると、突然ミルドが声を上げた。


「……間違いない!」


「分かったんですか!?」


 俺は身を乗り出した。


「これは古代の魔法研究施設で使われていた、記録用の魔導板じゃ」


「記録用?」


「そうじゃ。魔法の研究結果や実験記録を保存するための道具じゃな」


 ミルドは金属板を作業台へ置いた。


「ただし、普通の記録板とは少し違う」


「どう違うんですか?」


 アステリアが尋ねる。


「この文字を見ろ」


 ミルドが表面を指差す。


「古代文字の中でも、かなり特殊な形式じゃ。魔力を流すだけでは記録を読み出せんように暗号化されとる」


「つまり、暗号を解く鍵が必要ってこと?」


 サキが尋ねた。


「その通りじゃ」


 ミルドが頷いた。


「しかも、鍵は一つではない。三つの魔力反応を重ねることで、初めて記録が開く仕組みらしい」


「三つ……」


 俺は金属板を見つめた。


「じゃあ、今は中身を読めないんですか?」


「残念ながらそういうことじゃ」


「そうですか……」


 少し残念だ。


 せっかく珍しい物を見つけたのに。


「ただし、手掛かりはある」


 ミルドが続けた。


「この板が見つかった遺跡には、同じ形式の魔法装置が残されている可能性が高い」


「じゃあ、もう一度ダンジョンへ行けば……!」


「何か見つかるかもしれん、むしろ可能性は高いじゃろう」


 俺はサキたちを見た。


「どうします?」


「もちろん、もう一度行ってみたいわ」


 サキが答えた。


「ただ、今度はしっかり準備してからね」


「俺も賛成だ」


 ガイが頷く。


「第二階層の様子も気になるしな」


「私も行きたいです」


 アステリアが微笑む。


「この魔導板に何が記録されているのか、知りたいですから」


「決まりですね!」


 俺は嬉しくなった。


 またダンジョンへ行ける。


 しかも、今度はただの調査ではなく、古代の秘密を探す冒険だ。


「ただし!」


 ミルドが机を叩いた。


「お前たちだけで勝手に調べるなよ!」


「え?」


「古代の魔法装置は危険な物も多い。下手に触れば、遺跡ごと吹き飛ぶ可能性だってあるんじゃ」


「ええー!遺跡ごと!?」


 俺は驚いた。


「そんなに危険なんですか?」


「当然じゃ。古代の魔法技術を甘く見るな」


 ミルドは腕を組んだ。


「次に何か見つけたら、必ずわしのところへ持ってこい。勝手に起動しようとするなよ」


「分かりました!」


 俺たちは頷いた。


 すると、ミルドが急に俺の右手を見た。


「……ん?」


「どうしました?」


「お前、その指輪……」


 俺の心臓が跳ねた。


 右手には、いつもの指輪が嵌まっている。


「……これですか?」


「ああ。ちょっと見せてみろ」


「えっ!?」


 俺は反射的に手を引っ込めた。


「いや、これは……!」


「何じゃ、そんなに慌てて」


「大切な物なので!」


「ほう?」


 ミルドが目を細める。


「珍しい魔力の流れを感じるんじゃが……」


 まずい。


 非常にまずい。


 この人、もしかして分かっているんじゃないか?


「ユウさん、その指輪は特別な物なんですか?」


 アステリアが興味深そうに尋ねた。


「ええ、まあ……」


「勇者に伝わる装備だったりするの?」


 サキも覗き込む。


「そ、そんな感じです!」


 俺は慌てて答えた。


「大切な装備なので、あまり他の人に見せたくないんですよ」


「なるほど」


 ガイが納得したように頷く。


「勇者にとって大切な物なら、無理に外す必要はないだろう」


「そうね」


 サキも頷いた。


「ごめんなさい。気軽に聞いちゃったわ」


「いえいえ!」


 俺は胸を撫で下ろした。


 助かった。


 だが、ミルドだけはまだ俺の指輪を見ている。


「……ふむ」


 老人は何かを考えるように顎を撫でた。


「まあ、本人が嫌がるなら無理に調べる必要もないか」


「ありがとうございます!」


「ただし、妙な魔道具を使うなら扱いには気をつけろよ」


「はい!」


 俺は勢いよく頷いた。


 ミルドはそれ以上、指輪について何も聞いてこなかった。


 ……危なかった。


 本当に危なかった。


 やっぱり腕利きの鑑定士というのは侮れない。


「それで、鑑定料はいくらになりますか?」


 アステリアが尋ねた。


「そうじゃな……」


 ミルドは金属板を見つめた。


「今回はいらん」


「えっ!?」


 俺たちは声を揃えた。


「無料でいいんですか?」


「ああ。久しぶりに面白い物貴重な物を見せてもらったからな」


 ミルドが笑う。


「それに、まだ鑑定が終わったわけではない。中身を読み出せて初めて仕事が完了じゃ」


「ありがとうございます!」


 俺たちは頭を下げた。


「その代わり、次に何か見つけたら必ず持ってくるんじゃぞ」


「もちろんです!」


「約束じゃからな」


 ミルドはそう言うと、棚から小さな紙を取り出した。


「それと、これを持っていけ」


「何ですか?」


「古代魔法文字の簡単な対応表じゃ。完全な物ではないが、遺跡の文字を調べる時に少しは役立つじゃろう」


「おおっ!」


 俺は紙を受け取った。


 そこには見慣れない文字と、その意味が細かく書かれていた。


「これはすごい!ありがとうございます!」


「礼なら、新しい発見をしてから言え」


 ミルドが笑った。


 俺たちはもう一度礼を言い、店を後にした。


 外へ出ると、夕方の光が裏通りを照らしていた。


「面白い人でしたね」


 アステリアが微笑む。


「最初は少し怖かったですけど」


「研究の話になると、ずいぶん楽しそうだったわね」


 サキも笑う。


「腕は確かみたいだし、頼れる人が見つかってよかったな」


 ガイが言った。


「そうですね!」


 俺は銀色の金属板を取り出した。


 三つの魔力反応が揃わなければ開かない、古代の記録。


 いったい何が書かれているのだろう。


 失われた古代の魔法か。


 それとも、誰も知らない秘密の技術か。


 考えるだけで胸が高鳴る。


「次のダンジョン探索が楽しみですね!」


「ええ。でも、今度はもう少し準備してから行きましょう」


 サキが言った。


「昨日のゴーレムみたいな魔獣が、もっと奥にいるかもしれないもの」


「そうだな。装備も確認しておこう」


 ガイが頷く。


「回復薬も補充しておきたいですね」


 アステリアも賛成した。


「じゃあ、明日は準備の日にしましょう!」


 俺たちはそう決め、宿へ向かって歩き始めた。


 すると、ふと気になった。


 ミルドが最後まで俺の指輪を見ていたことだ。


 あの目つき。


 何かを知っているようにも見えた。


 いや、まさか……


 結局何も言われなかった。


 きっと気のせいだろう。


 俺はそう考えることにした。


 その頃、俺たちが去った工房では――


「……ふむ」


 ミルドが一人、作業台の前で腕を組んでいた。


 彼の手元には、先ほどの金属板を写し取った紙が置かれている。


「古代の記録板に、あの妙な指輪……」


 ミルドは眼鏡を外し、布で拭いた。


「まったく、面白い連中が来たものじゃ」


 そう呟くと、老人は机の引き出しを開けた。


 中から取り出したのは、古びた一冊の本だった。


 表紙には、かすれた文字でこう書かれている。


『特殊職業と偽装魔道具の研究』


 ミルドはその本を開き、ある頁で手を止めた。


「……職業偽装、か…本物なら相当珍しいぞ、ははは」


 老人は小さく笑った。


 窓の外では、夕日がゆっくりと沈み始めていた。

いつも読んで頂きありがとうございます!


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よろしくお願い致します。

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