運が良すぎるパーティ
またも貴重なアイテムがドロップしたようです
パーティを結成して三日目。
俺たちは朝から冒険者ギルドの掲示板を眺めていた。
「今日はどんな依頼にしましょうか?」
アステリアが楽しそうに依頼書を確認している。
昨日はホーンベアを討伐した。
かなり手強い相手だったが、四人で協力して無事に倒すことができた。
しかもドロップ品から【剛力の腕輪】まで手に入ったのだから、報酬としては十分すぎる。
「これなんてどうかしら?」
サキが一枚の依頼書を指差した。
「アーマーラビット八体の討伐?」
「ええ。王都の北にある森で、最近数が増えているらしいの」
俺は依頼書へ目を通す。
アーマーラビット。
名前の通り、兎に似た魔獣だ。
ただし普通の兎より遥かに大きく、背中から前脚にかけて硬い甲殻で覆われている。
動きが素早く、頭に生えた角を使って突進してくるらしい。
「八体か……」
「数は多いけど、一体一体はホーンベアよりずっと弱いはずよ」
サキが説明してくれる。
さすが剣聖だ。
魔獣の知識もしっかりしている。
「俺もいいと思うぞ」
ガイが背中の大斧へ手を添えた。
「数の多い相手なら、連携の練習にもなるだろう」
「そうですね」
アステリアも頷く。
「私たちはまだパーティを結成したばかりですから、いろいろな魔獣と戦って経験を積むのは大切だと思います」
「じゃあ、これにしましょう!」
俺は依頼書を掲示板から外した。
昨日はホーンベアを倒せたんだ。
今日もきっと大丈夫だろう。
もちろん、俺が余計なことをしなければの話だが。
俺の本当の職業は遊び人。
剣を振ろうとしても、突然歌ったり踊ったりしてしまう事がある。
昨日はどうにか勇者の加護ということにして誤魔化せたが、何度も同じ言い訳が通用するとは限らない。
今日はできるだけ普通に戦いたい。
せっかく剣聖とバトルマスター、それに聖女まで仲間になってくれたんだ。
偽物の俺が足を引っ張るわけには絶対にいかない。
王都を出発して、およそ二時間。
俺たちは目的の森へ到着した。
木々の間から柔らかな日差しが差し込み、地面には草花が広がっている。
遠くから鳥の鳴き声も聞こえてきた。
「気持ちのいい森ですね」
アステリアが微笑む。
「魔獣が出る場所には見えません」
「見た目が穏やかでも油断はできないわよ」
サキが周囲へ目を向ける。
「アーマーラビットは草食だけど、縄張りに入った相手には攻撃してくることがあるの」
「なるほど」
俺は頷いた。
兎だからといって、可愛いだけではないらしい。
「足跡があるぞ」
先頭を歩いていたガイが立ち止まった。
地面には大きな足跡がいくつも残されている。
「こっちへ続いてるな」
「数も多そうですね」
俺たちは足跡を追って森の奥へ進んだ。
しばらくすると、少し開けた場所へ出る。
そこには灰色の毛並みをした大きな兎がいた。
大型犬ほどの身体。
背中を覆う黒っぽい甲殻。
額には短い角が生えている。
「あれがアーマーラビットですか?」
「ええ」
サキが頷く。
「見た目は可愛いですね」
アステリアが小さく笑った。
確かに可愛い。
耳も長いし、丸い尻尾もついている。
普通の兎より少し大きいだけなら、飼ってみたいと思うかもしれない。
だが、その兎がこちらを向いた。
「キュッ!」
鳴き声まで可愛い。
直後、周囲の茂みが一斉に揺れた。
「え?」
次々とアーマーラビットが飛び出してくる。
一体、二体と増え、あっという間に八体になった。
「囲まれたな」
ガイが大斧を構える。
「依頼書通り八体だ」
「皆さん、気をつけてください!」
アステリアが杖を握った。
俺も剣を抜く。
「まずは数を減らしましょう!」
「了解!」
サキが前へ出る。
その瞬間、一体のアーマーラビットが地面を蹴った。
「うわ、速っ!」
灰色の影が一気に距離を詰めてくる。
俺は慌てて横へ飛んだ。
すぐ横を角が通過する。
「危なかった……!」
「ユウ、攻殻の部分を避けて腹側を狙って!」
サキが言った。
「ああ、分かった!」
俺は剣を構え直した。
次の一体が飛びかかってくる。
今度は落ち着いて動きを見る。
角を避け、身体が通り過ぎる瞬間に剣を振った。
「はあっ!」
刃が腹へ入る。
「キュッ!」
アーマーラビットが地面へ転がった。
「よし!」
普通に攻撃できた。
この調子だ。
サキも素早く動いている。
飛びかかってきた一体を軽やかに避け、その側面へ回り込んだ。
「はっ!」
剣が閃く。
アーマーラビットが倒れる。
「さすがサキさんだね!」
「これくらいなら問題ないわ!」
続いてガイが大斧を振るった。
「おおっ!」
重い刃が一体の甲殻へ直撃する。
硬い音が響いたが、ガイの一撃は甲殻ごと魔獣を吹き飛ばした。
「すごい威力ですね!」
アステリアが驚く。
「昨日手に入れた腕輪のおかげもあるな」
ガイが右腕を軽く動かす。
【剛力の腕輪】
装備者の腕力を上げる魔道具だ。
バトルマスターのガイにはぴったりだろう。
俺も負けていられない。
「次!」
残ったアーマーラビットがこちらへ向かってくる。
俺は剣を構えた。
今度も普通に攻撃する。
そう考えた瞬間だった。
左手が勝手に腰へ伸びた。
(……ん?)
小さな革袋を開く。
中から取り出したのは一枚の銅貨だった。
(おい)
嫌な予感がする。
俺は剣を持ったまま、銅貨を親指の上へ乗せた。
(何で今なんだよ!)
身体が勝手に動いている。
遊び人の行動だ。
よりによって戦闘中に銅貨を投げるなんて。
「ユウさん?」
アステリアがこちらを見た。
「何をしているんですか?」
「……この戦いの」
俺は必死で言い訳を考える。
「運命を確かめています」
「運命?」
「はい、このまま無事に勝利する事ができるか……」
自分でも何を言っているのか分からない。
だが、もう止められなかった。
親指が動く。
銅貨が宙へ舞った。
くるくると回転し、手の甲へ落ちる。
反対の手で覆う。
そして俺は、なぜか確信を持って口を開いた。
「表」
手をどける。
銅貨は表だった。
その瞬間、身体がふっと軽くなった。
「……あれ?」
足が軽い。
剣も扱いやすい。
さっきまでとは明らかに違う。
「皆さん!」
アステリアが驚いた声を上げる。
「身体が軽くなっていませんか?」
「本当ね」
サキがその場で軽く跳ぶ。
「動きやすくなってるわ」
「俺もだ」
ガイが大斧を振る。
先ほどより速い。
どうやら今回の銅貨には、仲間全員の素早さを上げる効果があったらしい。
「ユウさん、今のは……?」
アステリアが期待に満ちた目で俺を見る。
俺は銅貨を握りしめた。
「はい《運命選択》です」
「運命選択?」
「戦場で運命を選び取る、勇者の加護のひとつです。成功すれば仲間の能力を高めることができます」
「そんな技があるんですね!」
アステリアが感心する。
「勇者ならではの力なのね」
サキも頷いた。
「運まで味方につけるとは、さすがだな」
ガイが笑う。
三人とも素直に褒めてくれた。
胸が痛い。
ただ銅貨を投げただけなのに。
「ただ、いつでも使えるわけではありません」
俺は慌てて付け加えた。
「味方全員のステータスが上昇する分、条件が難しく、なかなか発動できないんです」
「なるほど。強力な技には制約があるものね」
サキが納得してくれた。
くぅーありがたい。
これで次に銅貨を投げてほしいと言われても、何とか断れるだろう。
「さぁ、来るぞ!」
ガイの声で我に返る。
残ったアーマーラビットたちが再び動き始めた。
「行きましょう!」
アステリアの声に俺たちは一斉に走り出した。
素早さが上がったおかげで、さっきまでより遥かに戦いやすい。
アーマーラビットが飛びかかってくる。
俺は余裕を持って避け、その腹へ剣を振った。
「はあっ!」
一体が倒れる。
「いいぞ!」
ガイも大斧を振る。
強化された動きで敵へ踏み込み、甲殻ごと叩き飛ばした。
残ったアーマーラビットがサキへ向かう。
「私も負けていられないわね!」
サキが剣を構えた。
だが、次の瞬間。
彼女の足が止まった。
サキが剣を持ったまま、ゆっくりと両腕を広げる。
そして軽やかな足取りで回り始めた。
「おお……!」
俺は思わず見入った。
昨日は美しい歌声で魔獣を眠らせていた。
今日は踊りまで披露している。
剣聖という職業には、俺が知らない技がたくさんあるらしい。
きっと剣の型を応用した特殊な舞なのだろう。
「サキさん、綺麗です!」
アステリアも目を輝かせている。
「戦闘中にこんな技まで使えるなんて!」
サキは真剣な表情で舞い続けた。
その間に一体のアーマーラビットが彼女へ飛びかかろうとする。
「危ない!」
俺は前へ出た。
剣で攻撃を受け流し、サキを守る。
その直後、舞が終わった。
俺たちの身体を淡い光が包む。
「これは……!」
アステリアが自分の手を見る。
「力が上がっています!」
俺も剣を握り直した。
確かに腕へ力が満ちている。
「すごい!」
俺はサキへ振り向く。
「今のも剣聖の技なんですか?」
「ええ」
サキが髪をかき上げた。
「剣聖は剣を振るだけじゃないの。仲間の力を引き出すこともできるのよ」
「なるほど!」
俺は素直に感心した。
やっぱり本物の剣聖は違うな。
俺もいつか、あんなふうに堂々と技を使ってみたいものだ。
「ユウの素早さ強化と、サキの腕力強化か」
ガイが大斧を握り直す。
「二つ重なったなら、かなり戦いやすくなるな」
「はい!」
アステリアが杖を掲げた。
「私も援護します!」
「《ホーリー・ショット》!」
白い光が放たれる。
アーマーラビットへ直撃した。
「キュッ!」
魔獣が吹き飛ぶ。
「いつもより威力が高いです!」
「強化のおかげですね!」
俺は嬉しくなった。
勇者の俺が素早さを上げ、剣聖のサキが腕力を上げる。
バトルマスターのガイが前衛で敵を押さえ、聖女のアステリアが魔法で援護する。
理想的な連携じゃないか。
俺の技だけは偶然だけど。
「あと三体だ!」
ガイが大斧を構えた。
その瞬間、動きが止まった。
ガイは大斧を地面へ立て、腕を組んだ。
胸を張り、顎を上げる。
堂々とした姿勢。
まるで歴戦の英雄が戦場を見渡しているようだった。
「おおっ!」
俺は思わず声を上げた。
何だ、あの迫力は。
バトルマスター特有の構えだろうか。
ガイはそのまま微動だにしない。
「ガイさん?」
アステリアが首を傾げる。
「今度は何の技ですか?」
「……戦意を高める構えだ」
ガイが低い声で答えた。
「敵を前にしても動じない精神を、仲間へ伝える」
「なるほど!」
俺は頷いた。
確かにガイの姿を見ていると、何だか頼もしく感じる。
「バトルマスターにはそんな技もあるんですね!」
アステリアも感心していた。
次の瞬間、俺たちの身体が再び光に包まれた。
「また強化です!」
アステリアが声を上げる。
「今度は防御力が上がっています!」
「すげぇ!」
俺はガイを見る。
「すごいですね!」
「……ああ」
ガイが頷く。
「これで多少の攻撃なら耐えられるはずだ」
「頼りになります!」
俺は剣を構え直した。
素早さ。
腕力。
防御力。
三つの強化が重なっている。
これなら残った三体も問題ないだろう。
「行くぞ!」
ガイが走り出す。
大斧が一体の甲殻へ直撃した。
強烈な一撃に、アーマーラビットが吹き飛ぶ。
サキも素早く踏み込み、もう一体を斬り伏せた。
残るは一体。
最後のアーマーラビットが俺へ飛びかかってきた。
「よし!」
俺は剣を構える。
今度こそ普通に倒す。
素早さも腕力も上がっているんだ。
簡単に倒せるはず。
そう思って踏み込んだ瞬間。
左手が勝手に動いた。
地面へ伸びる。
指先が何かを拾う。
小さな石だった。
(おい)
嫌な予感がする。
俺は剣を持ったまま、小石を指先へ乗せた。
(また変な行動か!?)
アーマーラビットが飛びかかってくる。
身体は勝手に狙いを定めた。
「ユウさん?」
アステリアがこちらを見る。
「どうして石を……?」
「これも勇者の技ですよ!」
先に言っておく。
そうしないと説明が間に合わない。
「小石が?」
「はい!」
自分でも無茶苦茶な説明だと思う。
だが、もう止められない。
指先が小石を弾く。
バシュッ––––!!
小石が弾丸の様に弾ける。
ドゴォォォンッ!!
「えっ!?」
凄まじい音が森に響いた。
小石がアーマーラビットへ直撃した。
魔獣はそのまま後方へ吹き飛び、太い木の幹へ激突する。
それだけでは終わらなかった。
木の幹を貫いた小石が、さらに奥の岩へ衝突した。
衝突した木が数本折れる。
バキィィンッ!
そして岩には大きな亀裂が走った。
周囲の木々が激しく揺れた。
俺たちは全員、動きを止めた。
「……えっ」
しばらくして、森に静けさが戻る。
俺は自分の指先を見た。
小石を指で弾いた。
それだけのことだ。
なのに、木を貫いて岩まで割れた。
「……すごい」
アステリアが呟いた。
「ユウさん、今のは何ですか!?」
「勇者の……投石技です」
「投石技!?」
「はい」
「勇者って石を投げる技まであるんですか!?」
「え、ええ、あるんですよ」
今できたことになった。
「何ていう技なんですか?」
「……流星投擲です」
「流星投擲……!」
アステリアが目を輝かせる。
「名前まで格好いいですね!」
「ありがとうございます」
胸が痛い。
名前なんて今考えたばかりだ。
「しかし、凄まじい威力だったな」
ガイが砕けた岩を見る。
「さすが勇者だ。普通の小石さえあそこまでの武器に変えるとは」
「三つの強化が重なっていたものね」
サキも頷いた。
「もともと強力な技なんでしょうけど、今は特に威力が上がっていたんじゃないかしら」
「なるほど!」
アステリアが納得する。
「確かに、あれだけ強化されていれば威力が上がっても不思議ではありませんね」
「そう、普段は出せませんが、あれだけの強化が重なってこそ出せる必殺技なんです!」
俺は勢いよく頷いた。
助かった。
サキのおかげで説明がついた。
それにしても、三人の強化が重なるとここまで強くなるのか。
俺自身の技は偶然発動したものだが、サキとガイの力は本物だ。
やっぱり頼もしい仲間に恵まれた。
「これで八体ですね」
アステリアが周囲を確認する。
「依頼達成です!」
「やった!」
俺は剣を鞘へ戻した。
無事に終わってよかった。
できれば次は、小石を投げずに済むといいのだが。
「それでは、ドロップ品を回収しましょう」
アステリアの言葉で、俺たちは手分けして素材を集め始めた。
アーマーラビットの甲殻は防具の素材になるらしい。
額の角も武器の加工に使われるという。
魔石も八体分あれば、それなりの報酬になるだろう。
「こっちは甲殻が二つね」
サキが袋へ素材を入れる。
「俺の方は角が三本だ。状態も悪くない」
ガイも回収した素材を確認している。
俺は最後のアーマーラビットが倒れた場所へ向かった。
さっきの小石で吹き飛ばした一体だ。
木の幹には大きな穴が開き、その奥の岩には亀裂が走っている。
「……これは、やりすぎたかな」
思わず呟いた。
まさか小石一つでここまでの威力が出るとは思わなかった。
今後もあの技を使うことがあるなら、周囲には十分注意しないといけない。
まあ、偶然にも俺の強化が重なっただけで使おうと思って使える技ではないのだ。
「ユウさん、何か見つかりましたか?」
アステリアが近づいてくる。
「まだ探してるところです」
俺は足元の草を掻き分けた。
すると、倒れた木の根元に何かが光っているのを見つけた。
「ん?」
拾い上げる。
小さな銀色の箱だった。
「何だこれ?」
「どうしました?」
「こんな物が落ちてました」
箱を開けると、中には青い宝石が嵌め込まれた指輪が入っていた。
「指輪?」
アステリアが驚く。
「魔道具でしょうか?」
「たぶん」
俺は指輪を光へ透かしてみた。
青い宝石の奥で、淡い光が揺れている。
「サキさん!ガイさん!」
二人を呼ぶ。
「どうしたの?」
「装備品らしき物が出ました!」
「またか?」
ガイが驚いた顔で近づいてくる。
「昨日も腕輪が出たばかりだぞ」
「そうなんですよ」
サキが指輪を覗き込んだ。
「綺麗な宝石ね。何か効果がありそうだけど、ここでは分からないわ」
「ギルドで鑑定してもらいましょう」
アステリアが提案する。
「そうですね」
俺は指輪を箱へ戻した。
これだけでも十分な収穫だ。
だが、アステリアがまだ周囲を探している。
「……あら?」
「どうしました?」
「こちらにも何かあります」
アステリアが草むらから取り出したのは、小さな革袋だった。
中には透明な液体が入った小瓶が三本入っている。
「回復薬でしょうか?」
「あら、色が少し違うわね」
サキが一本を確認する。
「普通のポーションより透明度が高い気がする」
「これも鑑定してもらった方がよさそうですね」
俺は袋を受け取った。
指輪に小瓶が三本。
しかも通常の素材も十分にある。
「……俺たち、運がよすぎません?」
思わず口にすると、ガイが笑った。
「いいことじゃないか。珍しい装備品が手に入るなら、それだけ戦力も上がる」
「そうね」
サキも頷く。
「冒険者にとって運は大切だもの。せっかく手に入ったんだから、ありがたく使わせてもらいましょう」
「確かに!」
俺は笑った。
そうだ。
運がいいことに文句を言う必要なんてない。
むしろ、勇者パーティとしては幸先がいい。
「では、王都へ戻りましょう!」
アステリアの言葉に、俺たちは頷いた。
王都へ戻った頃には、太陽が少し傾き始めていた。
冒険者ギルドへ入ると、受付嬢が俺たちに気づいた。
「お帰りなさい。アーマーラビットの討伐はいかがでしたか?」
「無事に八体倒しました!」
俺は冒険者カードと依頼書を差し出した。
「それと、ドロップ品の確認もお願いします」
「かしこまりました」
受付嬢が素材を確認していく。
甲殻。
角。
魔石。
どれも状態がよく、問題なく買い取ってもらえるらしい。
「八体分、しっかり揃っていますね。依頼達成です」
「ありがとうございます!」
「それから、こちらの指輪と小瓶なんですが」
俺は銀色の箱と革袋を取り出した。
「鑑定してもらえますか?」
「はい。少々お待ちください」
受付嬢はまず小瓶を一本取り出し、鑑定用の水晶へ近づけた。
水晶が淡く光る。
「……あら」
「どうしました?」
「こちらは【魔力回復薬】ですね」
「魔力回復薬?」
「はい。通常の回復薬とは違い、消費した魔力を回復させる薬です。一般的なポーションより少し高価な品になります」
「三本ともですか?」
「確認しますね」
残りの二本も鑑定する。
「はい。すべて同じ物です」
「やった!」
俺は思わず喜んだ。
魔力回復薬なら、アステリアが使える。
聖女の回復魔法は俺たちにとって重要だから、魔力を回復できる道具はありがたい。
「これはアステリアさんが持っていた方がいいですね」
「私ですか?」
「はい。回復魔法を使えるのはアステリアさんですし」
「ありがとうございます。でも、皆さんも魔法を使うことがあるでしょうから、一人で全部持つのは……」
「必要になったら分けてもらえばいいわ」
サキが微笑んだ。
「今はアステリアが管理してくれた方が安心よ」
「分かりました。大切に使わせてもらいますね」
アステリアが嬉しそうに小瓶を受け取った。
「それから、こちらの指輪ですが……」
受付嬢が青い宝石の嵌め込まれた指輪を水晶へ近づける。
光が広がる。
すると、受付嬢の表情が変わった。
「……えっ?」
「どうしました?」
「これは……【疾風の指輪】ですね」
「疾風の指輪?」
「装備者の素早さを上昇させる魔道具です。アーマーラビットからドロップする可能性はありますが、かなり珍しい品ですよ」
「また当たりですか!?」
「はい。めったに出るものではありませんから相当運がいいですね」
受付嬢が驚いたように笑った。
「昨日はホーンベアから剛力の腕輪を持ち帰られましたよね?」
「そうです」
「二日続けてこういった装備品を入手するなんて、普通はなかなかありませんよ」
「へえ……」
俺は指輪を見つめた。
どうやら、想像以上に珍しい物らしい。
「素早さが上がるなら、サキにちょうどいいんじゃないか?」
ガイが言った。
「俺は昨日、剛力の腕輪をもらったからな」
「確かに」
俺も頷く。
「剣聖のサキさんなら、素早さが上がればさらに戦いやすくなりそうですね」
「私でいいの?」
サキが少し驚いた顔をする。
「もちろん!パーティが強くなるに越したことはないです」
俺は指輪を差し出した。
「いつも前衛で戦ってくれてますし、ぜひ使ってください」
「ありがとう。じゃあ、ありがたくもらうわね」
サキが指輪を装着する。
何度か手を動かし、その場で軽く足を踏み替えた。
「……いい感じね。少し身体が軽くなった気がする」
「似合ってますよ!」
アステリアが微笑む。
「ありがとう」
サキも嬉しそうだった。
これでガイは剛力の腕輪。
サキは疾風の指輪。
アステリアは魔力回復薬を三本。
パーティの装備が少しずつ充実してきた。
「次はユウさんですね」
アステリアが俺を見る。
「え?」
「皆さんにいい物が手に入っていますから、次はユウさんにも何か出るといいですね」
「そうですね!」
俺は笑った。
実際、何かいい装備が欲しい。
できれば勇者らしい剣なんかがいい。
いや、遊び人の俺に扱える程度の物でお願いしたい。
さすがにそんなに上手いこといくわけないか。
「それにしても、本当に運がいいパーティですね」
受付嬢が感心したように言った。
「この調子なら、これからも珍しい物を持ち帰ってきそうです」
「そうだと嬉しいですね!」
俺は冗談まじりに笑いながら答えた。
こうして今日の依頼も無事に終わった。
報酬も十分。
装備品まで手に入った。
何より、四人で協力して魔獣を倒せたことが嬉しい。
俺は勇者ではない。
本当はただの遊び人だ。
それでも、こうして仲間と一緒に冒険できている。
剣聖のサキ。
バトルマスターのガイ。
聖女のアステリア。
三人とも本当に頼りになる、本物の仲間たちだ。
だからこそ、俺ももっと強くならなければならない。
いつか本物の勇者に負けないくらい、立派な冒険者になってみせる。
そう心に決めながら、俺たちはギルドを後にした。
もっとも、この時の俺はまだ知らなかった。
俺たちのパーティがこれほど運に恵まれている、本当の理由を。
勇者の加護でもなければ、聖女の祝福でもない。
ただ単純に、幸運だけは異常に高い遊び人が三人も集まっているからだった。
そして、その事実を知っている者は――まだ誰もいなかった。
いつも読んで頂きありがとうございます!
面白いと思って頂けたらコメント、評価や⭐︎を頂けると、とても喜びます。
よろしくお願い致します。




