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勇者パーティ、聖女様以外ぜんぶ偽物でした~自分だけが偽物だと思っている遊び人たちの最強パーティ~  作者: 黒華レン


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剣聖サキ・スラッシュ

剣聖サキのお話です

 ホーンベア討伐を終えて王都へ戻ったあと、わたしはユウたちと別れて宿へ向かった。


 大通りを歩いている間は、いつも通りの顔を崩さない。


 背筋を伸ばし、堂々と歩く。


 腰には剣聖らしい上質な剣。


 身に着けている装備だって、王都へ来てからかなり奮発して揃えたものだ。


 今のわたしを見て、遊び人だと思う人はいないだろう。


 たぶん。


 そうであってほしい。


 宿へ入り、階段を上がる。


 自分の部屋へ入ったところで、まず扉を閉めた。


 鍵をかける。


 念のため窓の外を確認する。


 隣の建物の窓にも人影はない。


 廊下から誰かが近づいてくる気配もない。


 そこまで確認して、ようやく肩から力を抜いた。


「……危なかったぁぁぁ」


 そのままベッドへ倒れ込む。


 剣聖として人前にいる時には絶対に出せない声だった。


「昨日も今日も、なんなのよ……」


 枕へ顔を埋める。


 思い出すだけで冷や汗が出てくる。


 昨日はゴブリンを斬ろうとしたら突然歌った。


 今日は普通に戦えたものの、いつ身体が勝手なことを始めるか分からず、ずっと気が抜けなかった。


 しかも仲間は勇者、バトルマスター、聖女。


 どうしてよりによって、こんな立派な人たちとパーティを組んでしまったのだろう。


 いや、自分から応募したのだけれど。


「でも、あんな募集を見たら応募するでしょ……」


 勇者が仲間を募集している。


 しかも求めているのは、剣聖、バトルマスター、聖女。


 その募集を見た時、これ以上ないくらい理想的なパーティだと思った。


 勇者と一緒なら、多少わたしが失敗しても何とかなるかもしれない。


 そう思ったのだ。


 まさか初戦から歌うとは思わなかったけれど。


 わたしは身体を起こすと、胸元へ手を入れた。


 服の下に隠していた細い鎖を引き出す。


 その先についているのは、小さな青い宝石が嵌め込まれた首飾り。


 見た目だけなら、少し高価な装飾品にしか見えない。


 けれど、これこそが今のわたしにとって最も重要な物だった。


 この首飾りを身に着けている限り、普通の鑑定で表示されるわたしの職業は――【剣聖】。


 もちろん、本当に剣聖になったわけではない。


 使えるスキルが変わるわけでもない。


 身体能力が剣聖並みになるわけでもない。


 変わるのは、鑑定した時に表示される職業だけ。


 つまり、わたしは偽物だ。


 サキ・スラッシュという名前すら、本当の名前ではない。


 わたしの本当の名前は――エレナ・フェルティア。


 そして本当の職業は、


「……遊び人」


 誰にも聞かれていないと分かっていても、小声になった。


 できれば口にしたくない。


 それくらい、わたしは自分の職業が嫌だった。


 自分の職業を初めて知った日のことは、今でもよく覚えている。


 あの日のわたしは、かなり期待していた。


 小さい頃から剣を振るのが好きだった。


 父から古い剣を譲ってもらい、暇さえあれば村の外れで素振りをしていた。


 最初は重くて十回振るだけでも腕が痛くなったけれど、毎日続けているうちに百回振っても平気になった。


 だから、職業を授かる日には当然のように剣士系を期待していた。


 剣士。


 戦士。


 もし運がよければ、その上位職。


 そんなことを考えながら鑑定を受けた。


『エレナ・フェルティアさんですね』


『はい!』


 神官が水晶へ手をかざす。


 淡い光が広がった。


 わたしは期待しながら結果を待った。


 ところが、神官の表情が少しだけ曇った。


『職業は……遊び人ですね』


『はい!』


 元気よく返事をした。


 そして数秒後。


『……え?』


『遊び人です』


『剣士じゃなくて?』


『遊び人ですね』


『もう一回お願いします』


『え?』


『たぶん水晶の調子が悪かったんだと思います』


『いえ、この水晶は正常ですが……』


『念のためです』


 困った顔をしながら、神官がもう一度鑑定してくれた。


 結果は変わらなかった。


『遊び人ですね』


『もう一回』


『変わらないと思いますよ』


『お願いします』


 三回目。


『遊び人です』


『…………』


 現実は残酷だった。


 だけど、その時のわたしはまだ遊び人という職業をよく知らなかった。


 名前は嫌だったけれど、調べてみれば剣も使える。


 体術も使える。


 簡単な魔法だって覚えられる。


 だったら問題ないじゃない。


 そう思った。


 職業が遊び人でも、剣で魔獣を倒せるなら冒険者になれる。


 剣士じゃなかったのは残念だけど、自分で鍛えればいい。


 そんなふうに考えていた。


 自分の職業の本当の恐ろしさを知ったのは、それから間もなくのことだった。


 冒険者として初めて一人で魔獣と戦った日。


 相手はスモールボア。


 名前の通り、小型の猪に似た弱い魔獣だった。


 初心者でも十分に倒せる。


 わたしは剣を構え、突進してくるスモールボアを待った。


「来なさい!」


 スモールボアが地面を蹴る。


 真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる。


 動きは単純。


 横へ避けて斬る。


 練習通りに身体を動かした。


「はあっ!」


 剣がスモールボアの身体を捉える。


「ブギッ!」


 できた。


 ちゃんと戦える。


 スモールボアは倒れなかったが、確実に傷を負っている。


「やっぱり大丈夫じゃない!」


 遊び人でも戦える。


 わたしは嬉しくなった。


 職業なんて関係ない。


 剣を使えるなら、これから鍛えればいい。


 いつかもっと強い魔獣だって倒せるようになる。


 スモールボアが再び突進してきた。


「次で終わりよ!」


 剣を構える。


 横へ避ける。


 踏み込む。


 完璧だった。


 あとは剣を振るだけ。


 なのに。


「…………」


 足が止まった。


「え?」


 右足が横へ動く。


 続いて左足。


「ちょっと?」


 剣を持ったまま、身体がくるりと回転した。


「何してるの、わたし!?」


 止まらない。


 軽快な足取りで左右へ動き、剣を頭上へ掲げ、その場で一回転。


 完全に踊っていた。


「ブギイイッ!」


「待って! 今は踊ってる場合じゃ――きゃっ!」


 スモールボアが突っ込んでくる。


 慌てて横へ転がった。


「危ないじゃない!」


 誰に文句を言っているのか自分でも分からない。


 もう一度剣を構える。


 今度こそ斬る。


 そう思った瞬間――


「…………」


 勝手に息を吸った。


「嫌な予感がする」


 次の瞬間、わたしは歌っていた。


「なんでよ!」


 しかも止められない。


 スモールボアも困惑したのか、少し離れた場所でこちらを見ている。


 わたしは剣を持ったまま歌い続けた。


 やがて一曲歌い終わる。


「…………」


「…………」


 スモールボアと見つめ合う。


「何だったのよ、今の」


 その時だった。


 身体が少し軽くなっていることに気づいた。


 さっきスモールボアの突進を避けた時に擦りむいた腕を見る。


 傷が消えていた。


「……回復した?」


 歌に何らかの効果があったらしい。


「だったら最初から普通に回復魔法を使わせてよ……」


 遊び人は簡単な魔法を覚えられる。


 なのに、使いたい時に使わせてもらえるとは限らない。


 これが遊び人。


 その日、わたしは初めて自分の職業の厄介さを理解した。


 幸い、その後は普通に剣を振ることができた。


 スモールボアを倒すと、その身体が光の粒となって消えていく。


 あとに残されたドロップ品を確認する。


「牙と……小さな魔石ね」


 珍しくもない。


 初心者向けの魔獣ならこんなものだ。


 それでも初めて自分で倒した魔獣から得た戦利品だった。


「まあ、いいか」


 牙と魔石を袋へ入れる。


 その時、草の陰で何かが光った。


「ん?」


 拾い上げてみる。


 小さな瓶だった。


 中には薄い赤色の液体が入っている。


 町へ戻って鑑定してもらうと、普通の回復薬より品質の高い【上質な回復薬】だった。


『スモールボアからこれが出たのか? 運がいいな』


「そうなんですか?」


『かなりな』


 その時は知らなかった。


 遊び人には、他の職業より遥かに高い幸運があることを。


 そして、その幸運こそが、後にわたしの人生を大きく変えることになる。


 それからしばらく、わたしは一人で冒険者を続けた。


 遊び人だと知られるのが嫌で、なるべく誰ともパーティを組まなかった。


 剣の腕は少しずつ上がった。


 普通に戦える時間も長くなった。


 だけど、遊び人の性《さが》だけはどうにもならない。


 剣を振ろうとして踊る。


 魔法を使おうとして歌う。


 敵へ飛びかかろうとして、なぜか格好をつけて剣を構えるだけで終わる。


 それでも不思議なことに、妙な行動のほとんどには何かしらの効果があった。


 踊れば身体能力が上がる。


 歌えば傷や魔力が回復する。


 敵が眠ったこともある。


 何の効果もなかったこともあるけれど、それはむしろ珍しかった。


 役に立たない職業ではない。


 ただ、あまりにも扱いにくい。


 そして何より、格好悪い。


 そんな生活を続けていたある日、わたしは森で一体のフォレストリザードと戦っていた。


「はあっ!」


 剣を横薙ぎに振るう。


 今度は普通に攻撃できた。


 フォレストリザードの鱗に傷が入る。


「シャアアッ!」


 長い尾が飛んでくる。


 身体を低くして避ける。


 そのまま懐へ入り、剣を突き出そうとした。


「…………」


 身体が止まった。


「また!?」


 今度は剣を高く掲げ、なぜか片足で立った。


「こんな時に何のポーズよ!」


 フォレストリザードが飛びかかってくる。


「シャアッ!」


「危なっ!」


 慌てて避ける。


 直後、身体に力が満ちてきた。


「……これにも効果あるの?」


 どうやら攻撃力が上がったらしい。


「だったら最初から普通に発動しなさいよ!」


 文句を言っても職業は答えてくれない。


 もう一度踏み込む。


 今度は剣を振れた。


 強化された一撃がフォレストリザードを捉える。


 魔獣の身体が地面へ倒れ、そのまま光の粒となって消えていった。


「まったく……」


 息を整えてから、ドロップ品を確認する。


 鱗。


 牙。


 魔石。


「今日は普通ね」


 どれも売れる素材だが、特別珍しいものではない。


 回収して袋へ入れようとした時、魔石の下から細い鎖が見えた。


「何これ?」


 引っ張り出す。


 青い宝石が嵌め込まれた、小さな首飾りだった。


「装備品?」


 魔獣から装備品が落ちること自体が珍しい。


 しかも見たことのない品だった。


 わたしはすぐに町へ戻り、鑑定を頼んだ。


 そして――


『これは……珍しいな』


 鑑定士が首飾りを何度も確認する。


「何なんですか?」


『装備者の職業表示を偽装する魔道具らしい』


「……え?」


『職業そのものが変わるわけじゃないぞ。鑑定した時に表示される職業を別のものに見せるだけだ。それでも相当珍しい品だな』


 わたしは首飾りを見つめた。


「好きな職業に?」


『設定できるようだな。ただし一度設定した後に変更するには、少し手間がかかるらしい』


 頭の中に、いくつもの職業が浮かんだ。


 魔法使い。


 無理。


 まともな攻撃魔法なんてほとんど使えない。


 僧侶。


 もっと無理。


 聖女なんて論外。


 戦士なら誤魔化せる。


 でも、どうせなら――


「剣聖……」


 剣士系の上位職。


 剣を使うこと自体はできる。


 長い間練習してきたから、剣の扱いにもそれなりの自信はある。


 遊び人の奇行さえ起こらなければ、一番誤魔化しやすい。


 そして何より、


「……格好いい」


 どうせ偽るなら、格好いい方がいい。


 こうしてわたしは職業を【剣聖】に設定した。


 名前も変えた。


 エレナ・フェルティアのままでは、わたしが遊び人だと知っている人に見つかるかもしれない。


 しばらく考えて決めた名前が――サキ・スラッシュ。


 少し格好をつけすぎた気もする。


 でも剣聖なら、このくらいの名前でもいいだろう。


 王都へ来て、初めて冒険者ギルドで鑑定を受けた時は緊張した。


『お名前をお願いします』


「サキ・スラッシュよ」


『では、こちらへ手を』


 鑑定用の水晶へ触れる。


 頼む。


 お願いだから成功して。


 光が広がる。


 受付嬢が結果を確認した。


『職業……剣聖!?』


 周囲がざわめいた。


 わたしは必死で平静を装う。


「何か?」


『い、いえ! 失礼しました。剣聖の方が登録に来られるのは珍しいので……!』


「そう」


 短く答える。


 表情は崩さない。


 だけど心の中では、


(通ったぁぁぁぁ!)


 叫んでいた。


 その日から、わたしは剣聖サキ・スラッシュになった。


「……それなのに、いきなり歌うんだもの」


 現在へ意識を戻し、わたしはベッドの上で頭を抱えた。


 昨日のゴブリン戦。


 ユウが勇者らしく指示を出し、戦闘が始まった。


 最初に驚いたのは、ユウが突然踊り始めたことだった。


 剣を振ると思ったら、軽快な足取りで動き始めたのだ。


(勇者って踊るの!?)


 本気で驚いた。


 でもユウ本人が説明した。


『勇者には敵に遭遇した時に昂ってしまう事があるんです』


 そういうものらしい。


 実際、その後にユウの能力が上がっていた。


『勇者の加護が発動しました』


 勇者なんて滅多に見かけない。


 わたしが知らないだけで、特殊な能力がたくさんあるのだろう。


 さすが勇者。


 そう思っていた直後――今度はわたしの身体が止まった。


(ちょっと待って)


 勝手に息を吸う。


(嫌)


 何が起きるかすぐに分かった。


(ここではやめて!)


 無駄だった。


 歌声が出た。


 勇者の前で。


 バトルマスターの前で。


 聖女の前で。


 剣聖を名乗っているわたしが突然歌い始めた。


(終わった)


 そう思った。


 でも、途中で止めることもできない。


 歌い続けるしかなかった。


 やがてゴブリンたちが次々と倒れた。


 寝息が聞こえる。


(眠った!?)


 今回は敵を眠らせる効果だった。


 助かった。


 これなら技として誤魔化せる。


『すごいです、サキさん!』


 アステリアが目を輝かせる。


 よかった。


 疑われていない。


 そう安心した直後だった。


『それなら毎回使ってくれれば、戦闘がかなり楽になりそうです』


(無理に決まってるでしょ!)


 危うく口に出すところだった。


 そもそも歌うかどうかすら選べない。


 次は踊るかもしれない。


 妙なポーズを取るかもしれない。


 普通に剣を振れるかもしれない。


 仮に歌えたとしても、敵が眠る保証はない。


 そこで必死に考えた。


『今の技はいつでも使えるものじゃないの。相手の呼吸や動き、それに周囲の状況まで見極めて、歌声が噛み合う瞬間を作る必要があるのよ。条件が揃わなければ成立しないわ』


「……我ながら、よく思いついたわね」


 今後も使える言い訳だ。


 もしまた睡眠効果を求められても、条件が揃っていないと言えばいい。


 ユウもガイも何も追及してこなかった。


 特にユウは自分からスキルを秘密にしようと言ってくれたくらいだ。


 わたしにとって、これほどありがたい勇者はいない。


 今日のホーンベア戦でも、わたしは何とか普通に剣を使えた。


 そして戦闘後には珍しい剛力の腕輪まで手に入った。


 このパーティに入ってから、妙にドロップ運までいい。


 ユウが勇者だからだろうか。


「……勇者ってすごいのね」


 わたしは素直に感心する。


 ユウ・シャイニング。


 少し変わったところはあるけれど、戦闘ではちゃんと指示を出してくれる。


 剣だって使える。


 勇者特有らしい不思議な踊りも、実際に強化効果があった。


 ガイ・クラッシュ。


 頼りになるバトルマスター。


 武器は想像していたものより少し小さいけれど、大剣を使った戦い方は力強い。


 そしてアステリア・ルミエール。


 本物の聖女。


 回復だけではなく、攻撃魔法まで強い。


「……いいパーティに入れたかも」


 わたしは首飾りを握る。


 だからこそ、遊び人だからといって三人に頼りきりになるつもりはない。


 普通に剣を振れる時は、自分で戦う。


 もっと剣の腕も磨く。


 この三人と一緒に強くなりたい。


 いつか剣聖と呼ばれても恥ずかしくないくらい、剣だけでも強くなってみせる。


 そのためにも――


「絶対にバレないようにしないと」


 勇者ユウ・シャイニング。


 バトルマスター、ガイ・クラッシュ。


 聖女、アステリア・ルミエール。


 みんな本物だ。


 偽物なのは、わたしだけ。


 幸い、三人ともわたしを疑っている様子はない。


 このまま剣聖サキ・スラッシュとして振る舞っていれば大丈夫。


 そう信じながら、わたしは職業を偽る首飾りを服の下へ戻した。

いつも読んで頂きありがとうございます!


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よろしくお願い致します。

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