勇者パーティ結成
パーティを募集します
仲間募集を出した翌日。
俺は冒険者ギルドの一角にあるテーブルで、三人の応募者を待っていた。
「落ち着け。俺は勇者だ」
小さく呟いてから、心の中で訂正する。
違う。
遊び人だ。
今日会う三人が本当に仲間になるなら、これから一緒に依頼を受け、戦うことになる。
当然、俺が戦っている姿も見られる。
普通に剣を振っている間は問題ない。
問題なのは、遊び人という職業の性がいつ顔を出すか分からないことだ。
勇者が魔獣を前に突然踊り始めたらどうする。
歌い始めたら?
その場で寝たら?
「……考えるのやめよう」
考えれば考えるほど不安になる。
「あなたがユウ・シャイニング?」
声をかけられ、俺は顔を上げた。
一人の女性が立っていた。
艶のある長い髪を背中へ流し、白銀を基調とした戦装束を身にまとっている。随所には青い装飾が施され、腰には美しい意匠の長剣が下げられていた。
見るからに普通の剣士とは違う。
「サキ・スラッシュよ。募集を見て来たわ」
「ユウ・シャイニングです。よろしくお願いします」
「ええ。よろしく」
サキが向かいの席へ座る。
格好いい。
これが剣聖か。
装備だけ見ても、俺よりよっぽど勇者っぽい気がする。
いや、俺もこれから揃えればいい。
今の俺は王都へ来たばかりなのだから。
少しして、今度は背の高い男がこちらへ歩いてきた。
こちらも一目で戦士系だと分かる。
重厚な戦装束には金属製の装甲が組み込まれ、背中には黒銀の大斧を背負っていた。刀身には赤い装飾が施され、見るからに高そうな武器だ。
「勇者ユウ・シャイニングはお前か?」
「そうです」
「ガイ・クラッシュだ。バトルマスターをやっている」
「よろしくお願いします」
「ああ。よろしく頼む」
ガイが席につく。
俺はその背中にある大斧をもう一度見た。
十分大きい。
俺が使っている剣と比べれば、明らかに大斧と呼べる大きさだ。
ただ――
「バトルマスターって、もっとバカでかい武器を持ってるイメージだった」
思ったことがそのまま口から出た。
ガイが一瞬だけ止まった。
「確かに大きな武器を持ってる方は多いですよね。だけど、やはり武器にも好みがありますから。自分は実用的にもこのくらいの方が扱いやすいんですよ」
「なるほど」
言われてみれば当然か。
職業が同じだからといって、全員が同じ武器を使う必要はない。
俺だって勇者だから巨大な聖剣を持たなければならないと言われたら困る。
今の剣くらいがちょうどいい。
そんなことを話していると、最後の一人がやってきた。
「すみません。お待たせしました」
柔らかな声に振り向く。
白と金を基調とした華やかな聖衣をまとった女性が立っていた。
純白の生地には金糸で細かな紋様が描かれ、胸元には淡い光を宿した宝石が輝いている。手にした白銀の杖も豪華で、先端には透き通った大きな魔石が取り付けられていた。
なるほど。
これは聖女だ。
俺でも一目で分かる。
「アステリア・ルミエールと申します。職業は聖女です」
「ユウ・シャイニングです。よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
アステリアが微笑み、空いていた席へ座った。
これで全員揃った。
俺は改めて三人を見る。
剣聖、サキ・スラッシュ。
バトルマスター、ガイ・クラッシュ。
聖女、アステリア・ルミエール。
そして勇者、ユウ・シャイニング。
俺だけ偽物だけど。
「まずは、俺がどういうパーティを作りたいか話しておきます」
三人がこちらを見る。
「俺は冒険者として強くなりたいと思っています。いずれは強力な魔獣や魔族とも戦えるようになりたい。そのためにも、自分も戦いながら、強い仲間と一緒に上を目指したいと思って募集しました」
ここに嘘はない。
俺は本当に強くなりたい。
勇者に憧れているのだって本当だ。
職業だけが嘘なだけだ。
「私も似たような考えよ」
最初に答えたのはサキだった。
「せっかく冒険者になるなら上を目指したいもの。もちろん、自分で戦うことが前提だけど、信頼できる仲間と組めるならその方がいいわ」
「俺もだ」
ガイも続く。
「一人で戦える相手には限界があるからな。強い仲間がいるなら、より危険な依頼にも挑戦できる」
二人とも考え方は俺と近いようだ。
「アステリアさんは?」
「私は少し違うかもしれません」
アステリアはそう言ってから、穏やかな表情で続けた。
「私はいろいろな土地を旅してみたいんです。そして魔獣に襲われて困っている方や、怪我や病気で苦しんでいる方がいれば、聖女として力になりたいと思っています」
「人助けのために?」
「はい。それに、私自身まだまだ経験が足りませんから。旅をしながら多くのことを学んで、いつか魔王と戦う時が来たら、その力になれるくらいの聖女になりたいです」
「すごいな……」
思わず本音が漏れた。
「そんな、大したことでは」
アステリアは少し照れたように微笑んだ。
いや、大したことあるだろ。
俺なんて勇者を名乗った理由のかなりの部分が、勇者って格好いいからだぞ。
同じパーティにいていいのか、少し不安になってきた。
「目的は少し違いますけど、目指している方向は同じですね」
「はい」
「じゃあ、俺はこの四人でパーティを組みたいと思っています。皆さんはどうですか?」
「私は構わないわ」
「俺も異論はない」
「私もお願いします」
「決まりですね」
こうして俺たち四人のパーティが結成された。
勇者。
剣聖。
バトルマスター。
聖女。
何度見ても隙がない。
これならきっとやっていける。
「では、最初にお互いの能力を確認しておきませんか?」
アステリアが言った。
「能力?」
「はい。これから一緒に戦うんですから、誰がどんなスキルを使えるのか知っておいた方が連携しやすいと思うんです」
「…………」
まずい。
「ユウさん?」
「…………」
非常にまずい。
俺のスキルを教える?
この三人に?
頭の中に、これまで覚えてきた遊び人のスキルが次々と浮かんでくる。
踊る。
歌う。
小石を拾って投げる。
妙なポーズを決める。
寝る。
他にもある。
だが、どれも勇者が堂々と説明していいものではない。
『俺の得意技は踊ることです』
そんなことを言った瞬間、何かがおかしいと思われるに決まっている。
「スキルについては……秘密にしておきませんか?」
「秘密ですか?」
アステリアが不思議そうに首を傾げる。
「スキルは冒険者にとって切り札です。どこから情報が漏れるか分かりません。だから簡単に明かさない方がいいと思うんです」
言えた。
それっぽい。
我ながらかなり勇者らしい理由を思いついた。
「でも、同じパーティの仲間ですよね?」
「…………」
「仲間が何をできるのか分からない方が危険ではありませんか?」
正論だ。
「例えばユウさんが攻撃力を大きく上げるスキルをお持ちなら、私は防御や速度を補助できます。反対に、どんなスキルを使うのか知らなければ、同じ効果の魔法を重ねて無駄にしてしまうかもしれません」
「…………」
ものすごく正しい。
どうしよう。
「俺はユウに賛成だ」
「え?」
助け舟を出したのはガイだった。
「確かに連携も大切だが、切り札を簡単に明かさないという考えも分かる。冒険者なら、自分にしか分からない手札を残しておくことも必要だろう」
「そうでしょうか?」
「私もユウに賛成ね」
今度はサキまで口を開いた。
「最初から全部教え合う必要はないんじゃない?一緒に戦っていれば、得意なことは自然に分かってくるでしょうし」
「そう!それです!」
思わず声が大きくなった。
この二人、話が分かる。
「戦いながら知っていけばいいんです。最初から全部明かす必要はありません」
「なるほど……」
アステリアは考え込んでいる。
俺はちらりとサキを見る。
「…………」
サキと目が合った。
すぐにガイを見る。
「…………」
ガイもこちらを見ていた。
何となく気まずい沈黙が流れる。
「分かりました」
やがてアステリアが頷いた。
「三人ともそうお考えなら、無理に聞くことではありませんね」
「ありがとうございます」
助かった。
本当に助かった。
「では、私のスキルだけ簡単に説明しておきますね」
「え?」
「私は隠す必要がありませんから」
アステリアは何でもないことのように言った。
「治癒魔法と浄化魔法、それから補助魔法が使えます。攻撃では光属性魔法が得意です。特にアンデッドや魔族に対しては有効だと思います」
「なるほど」
本物だ。
説明の内容からして本物感がすごい。
「強力な魔法は魔力消費も大きいので、普段は状況を見ながら使うことになると思います。皆さんの動きに合わせて支援しますね」
「お願いします」
アステリアが話し終える。
「…………」
サキは何も言わない。
「…………」
ガイも何も言わない。
俺も当然、何も言わない。
アステリアが俺たち三人を順番に見る。
「……皆さんは?」
「…………」
「…………」
「…………」
「本当に秘密なんですね」
「切り札ですから」
俺が答える。
「そうね」
「ああ」
サキとガイも頷いた。
「分かりました」
アステリアはそれ以上聞かなかった。
よかった。
どうやら俺は、とても理解のある仲間たちに出会えたらしい。
翌日。
俺たちはパーティとして最初の依頼を受けるため、冒険者ギルドへ集まった。
「最初ですし、あまり危険ではない依頼から始めませんか?」
アステリアの提案に、俺はすぐ頷いた。
「賛成です。まずはお互いの戦い方を知るところから始めましょう」
俺の戦い方については、できればあまり深く知られたくないけど。
「これなんてどうかしら?」
サキが一枚の依頼書を指差した。
王都近郊の森に現れたゴブリン五体の討伐。
駆け出しの冒険者でも受けられる依頼だ。
「いいんじゃないか」
ガイが言う。
「私もいいと思います」
アステリアも賛成した。
俺は依頼書を見る。
相手はゴブリン五体。
こちらは勇者、剣聖、バトルマスター、聖女。
このパーティでどう考えても負ける要素がない。
「じゃあ、これにしましょう」
俺は自信を持って依頼書を手に取った。
まずは簡単な依頼から。
普通に戦って、普通に倒す。
それだけだ。
できれば一度も踊らず、一度も歌わず、一度も寝ずに終わらせたい。
そんな俺の願いが叶うかどうかは――
遊び人という職業の性だけが知っていた。
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