新装備の試し斬り
みんな新しい武器を試したいようです
翌朝。
俺は宿屋の部屋で、新しく購入した剣を眺めていた。
昨日、武具店で金貨九枚も払って買った一本だ。
派手な装飾はないけれど、握ってみると手によく馴染む。重心が柄に寄っているおかげで、今までの剣よりも扱いやすそうだった。
「いやあ、早く使ってみたいですね!」
俺は剣を鞘に収め、腰のベルトへ取り付けた。
そして、収納鞄を肩に掛ける。
昨日の盗難事件以来、鞄の扱いには十分気をつけることにしている。
もっとも、ソフィアさんが防犯魔法をかけてくれているから、万が一盗まれても中身を取り出される心配はない。
それでも、また盗っ人を追いかける羽目になるのは御免だ。
「よし!準備完了!」
俺は部屋を出て、一階の食堂へ向かった。
すでにサキたちは朝食を食べていた。
「おはようございます!」
「おはよう、ユウ!今日は早いじゃない!」
サキが手を振った。
その腰には、昨日購入した新しい片手剣が下がっている。
淡い赤色の模様が刻まれた刀身は、鞘に収まっていてもどこか上品な雰囲気があった。
「サキさんも新しい剣ですね!」
「もちろん!せっかく買ったんだから、早く試してみたいもの!」
「俺も同じだ」
ガイは隣に置いた大斧を軽く持ち上げた。
昨日買ったばかりの、頑丈な刃を持つ大斧だ。
「今日は少し手応えのある魔物がいいな」
「ガイさん、あまり危険な依頼は駄目ですよ?」
アステリアが微笑みながら注意した。
彼女も昨日購入した白銀色の胸当てを身につけている。
「分かっている。無茶はしないさ」
「そう言いながら、ガイは強そうな魔物を見つけると喜びそうだけどね」
サキが笑った。
「ははは!否定はできんな!」
……いやあ、みんな頼もしいなあ。
俺も負けていられない。
「おはようございます!」
そこへ、ソフィアさんが元気よく食堂へ入ってきた。
長いツインテールを揺らしながら、俺たちの席へ駆け寄ってくる。
「皆さん、今日はどんな依頼にするんですか?」
「それをこれから決めるところですよ!」
「そうなんですね!それじゃあ、私も一緒に考えます!」
ソフィアさんは嬉しそうに席へ着いた。
彼女の腰には、昨日購入した簡易鑑定板が入った小さな鞄が下がっている。
「今日はこれを使ってみたいんです!」
「いいですね!それなら素材採集の依頼にしましょう!」
「はい!」
俺たちは朝食を終えると、冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの依頼掲示板には、今日もたくさんの依頼書が貼られていた。
薬草採集。
街道の護衛。
魔物討伐。
鉱石の運搬。
どれも冒険者らしい仕事ばかりだ。
「うーん、どれにしましょうか」
俺は依頼書を一枚ずつ確認していった。
「ユウ、これなんてどう?」
サキが指さしたのは、王都の北にある森林地帯での魔物討伐依頼だった。
『鋼牙狼の討伐』
依頼内容は、森に出没する鋼牙狼三体の討伐。
報酬は銀貨二十枚。
「鋼牙狼……ですか」
「フォレストウルフより少し強い魔物らしいわよ」
サキが説明してくれた。
「牙が硬くて、噛みつかれると鎧でも傷がつくことがあるんですって」
「へえ!それは手強そうですね!」
俺は依頼書を眺めた。
討伐対象は三体。
今の俺たちなら、十分に対応できそうだ。
「ソフィアさん、鋼牙狼って珍しい素材を落としたりするんですか?」
俺が尋ねると、ソフィアさんは嬉しそうに頷いた。
「はい!普通は魔石と牙が取れるんですけど、まれに《鋼銀牙》という特殊な牙が手に入ることがあるんです!」
「おおっ!それは高く売れるんですか!?」
「状態がよければ、普通の牙の何倍もの値段になりますよ!」
……何倍!
それは魅力的だ。
「よし!これにしましょう!」
「決まりね!」
俺たちは依頼書を持って受付へ向かった。
「おはようございます、リリアさん!」
「あっ、ユウさん!皆さんもおはようございます!」
リリアさんが笑顔で迎えてくれた。
「今日はどちらの依頼を?」
「鋼牙狼の討伐をお願いします!」
「鋼牙狼ですね。少々お待ちください」
リリアさんは依頼書を確認した。
「こちらは三体の討伐依頼です。最近、北の森で目撃情報が増えているそうなので、十分に気をつけてくださいね」
「はい!」
「それと、鋼牙狼は群れで行動することが多い魔物です。依頼の三体以外にも遭遇する可能性があります」
「なるほど……」
それなら、周囲にも注意しておかないといけないな。
「分かりました!気をつけます!」
依頼の受注を済ませ、俺たちは王都の北門へ向かった。
北門を抜けると、緩やかな丘陵地帯が広がっている。
遠くには大きな森が見え、その手前には草原が続いていた。
「いい天気ですね!」
俺は青空を見上げた。
「絶好の冒険日和ね!」
サキも嬉しそうだ。
「新しい装備の試し斬りにはちょうどいいな」
ガイが大斧を担ぎ直した。
「皆さん、張り切るのはいいですけど、無理はしないでくださいね」
アステリアが念を押す。
「もちろんです!」
俺たちは笑いながら森へ向かった。
しばらく歩くと、木々が密集する場所へ入った。
森の中はひんやりとしていて、木漏れ日が地面にまだら模様を作っている。
鳥の鳴き声が聞こえ、時折、茂みの奥で小動物が動く気配がした。
「この辺りから鋼牙狼が出るみたいですね」
俺は依頼書に書かれた地図を確認した。
「そうね。足跡を探してみましょう」
サキが周囲を見渡した。
すると、ソフィアさんがしゃがみ込んだ。
「あっ!皆さん、ちょっと来てください!」
「どうしました?」
俺たちが近づくと、ソフィアさんは地面に残された跡を指さした。
「これ、鋼牙狼の足跡だと思います!」
「へえ!分かるんですか!?」
「はい!普通の狼より少し大きくて、爪の跡が深いんです!」
なるほど。
確かに、地面には大きな足跡がいくつも残されていた。
「しかも、まだ新しいですね」
ソフィアさんが続けた。
「近くにいるかもしれません!」
「よし、慎重に進みましょう!」
俺たちは足跡を追って森の奥へ進んだ。
すると、前方の茂みから低いうなり声が聞こえてきた。
「……グルルルル」
俺は足を止めた。
茂みの向こうに、灰色の大きな狼がいる。
口元からは、銀色に光る鋭い牙が覗いていた。
「鋼牙狼ですね!」
ソフィアさんが小声で言った。
狼は一体だけではなかった。
左右の茂みから、さらに二体が姿を現した。
「ちょうど三体ね!」
サキが剣を抜いた。
「俺は右を相手にする」
ガイが大斧を構えた。
「それじゃあ、俺は正面の一体を!」
「私は左を担当するわ!」
サキが頷いた。
「アステリアさんとソフィアさんは後方でお願いします!」
「はい!」
「任せてください!」
俺たちはそれぞれの相手へ向き直った。
鋼牙狼が低く唸る。
そして、正面の一体が地面を蹴った。
「ガウッ!」
「来ましたね!」
俺は新しい剣を構えた。
鋼牙狼が大きく口を開き、鋭い牙を突き立てようとしてくる。
俺は咄嗟に横へ動き、その攻撃をかわした。
「よっと!」
すれ違いざまに剣を振るう。
銀色の刃が狼の肩をかすめた。
「おおっ!振りやすいですね!」
昨日買った剣は、思っていた以上に扱いやすかった。
腕に余計な負担がかからず、次の動作へ移りやすい。軽くていい剣だ。
これなら、連続で攻撃できそうだ。
鋼牙狼は素早く振り返り、再び飛びかかってきた。
「今度はこっちです!」
俺は剣を振り下ろそうとした。
ところが、その瞬間。
なぜか足が勝手に横へ滑り、くるりと体が回った。
……うわっ!?
俺はそのまま軽やかなステップを踏み、狼の攻撃をかわしてしまった。
鋼牙狼は勢い余って地面に着地し、慌てて振り返る。
俺の足はまだ動いている。
……ちょっと待ってよね!
狼が再び飛びかかってきた。
俺は横へ回り込みながら、偶然にもその攻撃をかわした。
鋼牙狼は俺が避けた先に木の根があり、足が引っかかった。
「ギャンッ!」
狼が転倒する。
その拍子に、俺の足もようやく止まった。
……ふう!
助かった!
俺は素早く剣を構え直し、立ち上がろうとする狼へ斬りかかった。
「これで終わりだ!」
剣が鋼牙狼の胴を捉える。
狼は短く鳴くと、その場に倒れた。
「よし!一体目!」
俺は息を整えた。
新しい剣の切れ味は申し分ない。
……途中ちょっと危なかったけど。
一方、サキも左の鋼牙狼を追い詰めていた。
「はあっ!」
サキの剣が淡い赤色の光を帯びる。
鋼牙狼が飛びかかると、サキは素早く横へかわし、剣を振り抜いた。
刃が狼の脇腹を捉え、わずかに炎が弾ける。
「おおっ!ちゃんと炎が出たわ!」
サキは嬉しそうに笑った。
鋼牙狼が再び襲いかかるが、サキは落ち着いて剣を構え直した。
「これで!」
鋭い一撃が狼を捉え、そのまま倒れ込んだ。
「二体目!」
続いてガイ。
「ふんっ!」
新しい大斧が大きく振り下ろされる。
鋼牙狼は素早く横へ飛んでかわした。
しかし、ガイはそのまま斧を引き戻し、次の攻撃へつなげた。
「逃がさん!」
重い一撃が狼の肩を捉える。
「ギャウッ!」
鋼牙狼は大きく吹き飛び、木の根元へ転がった。
そのまま動かなくなる。
「よし、終わったな」
ガイが大斧を肩へ担ぎ直した。
「お疲れさまでした!」
アステリアが駆け寄ってきた。
「皆さん、怪我はありませんか?」
「大丈夫ですよ!」
「私も平気!」
「問題ない」
俺たちはそれぞれ答えた。
「それじゃあ、素材を回収しましょう!」
ソフィアさんが嬉しそうに近づいてきた。
彼女はさっそく、昨日購入した簡易鑑定板を取り出した。
「まずは魔石と牙ですね!」
俺たちは三体の鋼牙狼から素材を回収した。
魔石が三個。
鋭い牙が六本。
そして、毛皮も状態のいいものが二枚取れた。
「よし!これで依頼達成ですね!」
俺が満足していると、ソフィアさんが一体の鋼牙狼の口元をじっと見つめていた。
「……あれ?」
「どうしました?」
「この牙……ちょっと変ですね」
ソフィアさんは一本の牙を取り出した。
ほかの牙よりも、わずかに銀色が濃い。
「もしかして……」
ソフィアさんは鑑定板の上に牙を置いた。
すると、板の表面に淡い青色の光が浮かび上がった。
「……あっ!」
ソフィアさんの目が輝いた。
「皆さん!これ、鋼銀牙です!」
「ええっ!?」
俺たちは驚いて顔を見合わせた。
「本当に!?」
「はい!間違いありません!」
ソフィアさんは嬉しそうに牙を掲げた。
「普通の鋼牙狼からは、なかなか手に入らない珍しい素材なんですよ!」
「おおおっ!」
俺は思わず拍手した。
「また珍しい素材が手に入りましたね!」
「すごいじゃない、ソフィア!」
サキも嬉しそうだ。
「鑑定板を買って正解だったな」
ガイが頷いた。
「はい!さっそく役に立ちました!」
ソフィアさんは満面の笑みを浮かべた。
いやあ、今日は幸先がいいなあ!
新しい装備も試せたし、珍しい素材まで手に入った。
「それじゃあ、王都へ戻りましょうか!」
俺がそう言うと、みんなが頷いた。
しかし、そのとき。
森の奥から、何かが地面を踏みしめる音が聞こえてきた。
ドスン。
ドスン。
……ん?
「……何でしょう?」
俺が首を傾げると、サキが剣を構え直した。
「何か来るわね」
木々の向こうから、さらに大きな足音が響く。
そして。
バキバキバキッ!
太い枝をへし折りながら、巨大な影が姿を現した。
「……えっ?」
俺たちは思わず見上げた。
そこにいたのは、普通の鋼牙狼とは比べものにならないほど大きな狼だった。
「うそでしょ?」
サキが思わず言った。
全身の毛は黒銀色に輝き、口元には長く鋭い牙が生えている。
その体は、先ほど倒した鋼牙狼の三倍以上はありそうだった。
「……な、なんですか、あれ!?」
俺が声を上げると、ソフィアさんが慌てて鑑定板を取り出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!すぐに調べます!」
彼女が鑑定板を向けると、表面に青い光が走った。
しかし、次の瞬間。
パチッ!
小さな火花が散り、光が消えた。
「……えっ?」
ソフィアさんが目を丸くした。
「ど、どうしたんですか!?」
「……鑑定できません」
「えっ!?」
ソフィアさんは震える声で続けた。
「この魔物……簡易鑑定板の測定範囲を超えてます!」
……ええええっ!?
俺は目の前の巨大な狼を見上げた。
狼は低く唸りながら、こちらを睨みつけている。
……ちょっと待ってよ。
今日は新しい装備を試しに来ただけなんですけど!?
どうして、こんな大物が出てくるんですか!?
巨大な狼が、大きく口を開いた。
「グオオオオオッ!」
森全体を震わせるような咆哮が響き渡る。
俺たちは慌てて武器を構え直した。
……いやー
やっぱり、俺たちの冒険って、なかなか予定通りにはいかないなあ!
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