新たな仲間
ソフィア(鑑定士見習い)が仲間に入ります
「ソフィアー!ソフィアはおらんかー!」
ミルドの声が工房に響いた。
返事がないただの留守のようじゃ。
「……そうじゃった。買い出しに行かせたんじゃったな」
ミルドは顎ひげを撫でながら、作業台に置かれた銀色の円盤を眺めた。
そこには、先ほど鑑定した三つの魔道具の情報が残っている。
勇者の指輪。
剣聖の首飾り。
バトルマスターの腕輪。
いずれも神話級の職業偽装魔道具であり、装着者の本来の職業は遊び人。
「くっくっく……思い出すだけで笑えてくるわい」
ミルドは肩を震わせた。
しかし、いつまでも笑っているわけにはいかない。
あの三人がどこで神話級の魔道具を手に入れたのか気になるところだが、そんな貴重な物を持ちながら冒険者として活動しているのだ。
しかも、本物の聖女まで一緒にいる。
今後、どんな珍しい物を見つけてくるか分かったものではない。
「……よし。これはソフィアにとっても、よい勉強になるじゃろう」
ミルドは満足そうに頷いた。
それからしばらくして、工房の扉が開いた。
「ただいまー!」
ソフィアが買い物籠を抱えて戻ってきた。
「おお、帰ったか!」
「うん!頼まれてた薬草と魔石、全部買ってきたよ!」
「ご苦労じゃった。それよりソフィア、ちょっと話がある」
「なあに?」
ソフィアは買い物籠を作業台に置いた。
「お前、前から冒険者と一緒に旅をしてみたいと言っておったじゃろう?」
「えっ!?」
ソフィアの顔がぱっと明るくなった。
「うん!言ってた!いろんな魔道具や珍しい素材を、自分の目で見てみたいって!」
「うむ。ならば、ちょうどよい機会がある」
「機会?」
「今日来たユウたちのパーティじゃ」
「ユウさんたち?」
ソフィアは首を傾げた。
「おじいちゃん、もしかして……」
「うむ。あやつらに頼んで、お前をしばらく同行させてもらおうと思っておる」
「えええっ!?」
ソフィアは思わず大きな声を上げた。
「ほ、本当に!?私が冒険者さんたちと一緒に旅をしてもいいの!?」
「もちろん、あやつらが引き受けてくれればの話じゃがな」
「行きたい!絶対に行きたい!」
ソフィアは身を乗り出した。
ミルドはその様子を見て、楽しそうに笑った。
「ただし、遊びに行くわけではないぞ」
「うん!分かってる!」
「旅先で見つけた素材や魔道具を調べ、実際の冒険で鑑定士がどのように役立つか学ぶんじゃ」
「はい!」
「それと、もう一つ」
ミルドは少し声を落とした。
「お前に、特別な課題を与えようと思う」
「特別な課題?」
「うむ。あやつらには、ちょいと面白い秘密がある」
「秘密?」
ソフィアの目が輝いた。
「どんな秘密!?」
「それを自分で見抜くんじゃ」
「ええっ!?教えてくれないの!?」
「教えたら課題にならんじゃろう」
ミルドは笑った。
「お前がその秘密を見抜けたなら、見習いから一人前の鑑定士と認めてやろう」
「い、一人前!?」
ソフィアは驚いて口を開けた。
祖父から一人前と認めてもらうことは、彼女にとって長年の目標だった。
「本当に!?秘密を見つけたら、私を一人前の鑑定士として認めてくれるの!?」
「うむ。約束じゃ」
「やったあ!」
ソフィアは嬉しそうに両手を上げた。
「絶対に見つけてみせる!」
「ほっほっほ。頼もしいのう」
ミルドは満足そうに頷いた。
「ただし、いくつか約束がある」
「約束?」
「何か秘密を知ったら、必ずわしに報告すること」
「うん!」
「そして、わし以外の誰にも言ってはならん。本人たちにもじゃ」
「えっ?本人たちにも?」
「そうじゃ。秘密というものは、軽々しく口にしてはならない。鑑定士の守秘義務も大切なことなんじゃ」
「なるほど……!」
ソフィアは真剣な顔で頷いた。
「分かった!絶対に誰にも言わない!」
「うむ。それでよい」
ミルドは笑みを浮かべた。
ソフィアがあの者たちの秘密に気付ければ一人前と言っていいだろう。
「それじゃあ、さっそくユウさんたちにお願いしに行こうよ!」
「慌てるでない。まずは旅の準備じゃ」
「準備?」
「旅の服に着替え、それから必要な魔道具も選ばんとな。冒険は工房の中みたいに何もかもあるんもんじゃないんじゃぞ」
「そっか!」
ソフィアは勢いよく頷いた。
「じゃあ、すぐ準備してくる!」
「こらこら、買ってきた物を片づけてからにせんか!」
「あっ!そうだった!」
ソフィアは慌てて買い物籠を持ち上げた。
その姿を見ながら、ミルドは楽しそうに笑っていた。
翌朝。
俺たちは王都の冒険者ギルドに来ていた。
「さて、今日はどんな依頼にしましょうか!」
掲示板の前に立ち、俺は依頼書を眺めた。
収納鞄を手に入れたおかげで、これからは遠出の依頼も受けやすくなった。
せっかくなら、今まで行ったことのない場所へ行ってみたい。
「また遺跡探索でもいいんじゃない?」
サキが言った。
「そうですね!まだまだ面白い物が眠っていそうです!」
「ただし、古代の遺跡は危険も多い。準備は十分にしておきたいな」
ガイが腕を組んだ。
「そうですね。特に、前回のような仕掛けがある場所では慎重に進まないといけません」
アステリアも頷いた。
「また護衛なんてのもありますよ?」
俺たちは掲示板を眺めながら、次の依頼について相談していた。
すると、背後から声が聞こえた。
「おお、ここにおったか!」
「あれっ?」
振り返ると、ミルドさんが立っていた。
その隣には、ソフィアさんもいる。
「ミルドさん!ソフィアさん!おはようございます!」
「おはようございます!」
ソフィアさんは元気よく頭を下げた。
今日はいつもの服装とは少し違い、動きやすそうな旅装束を着ている。
背中には小さな鞄を背負い、腰にはいくつかの小瓶や道具を下げていた。
「どうしたんですか?お二人でギルドに来るなんて珍しいですね!」
「うむ。実は、頼みがあっての。ちょうどお主らを探しておったのじゃ」
「頼み?」
ミルドさんは隣のソフィアさんへ目を向けた。
「この子を、しばらくお主らのパーティに同行させてもらえんか?」
「…………えっ?」
俺は思わず聞き返した。
「ソフィアさんを?」
「うむ」
「ええええっ!?」
突然の話に、俺たちは揃って驚いた。
「ちょっと待って!どういうこと?」
サキが尋ねた。
「ソフィアは鑑定の仕事を学んでおるが、なんせ客があまりこんのでのー、鑑定する機会を増やしてやりたいんじゃ」
「なるほど……」
ガイが頷いた。
「確かに、現場で素材を調べる経験は大切だろうな」
「そうじゃろう?」
ミルドさんは嬉しそうに笑った。
「もちろん、無理にとは言わん。危険な依頼もあるじゃろうしの」
「私は行きたいです!」
ソフィアさんが勢いよく手を上げた。
「ユウさんたちと一緒に、いろんな場所を冒険してみたいんです!」
その瞳は期待に満ちていた。
「うーん……」
俺は仲間たちを見渡した。
ソフィアさんが同行してくれるなら、珍しい素材や魔道具をその場で調べてもらえる。
前回の遺跡でも、見つけた物の正体が分からなくて困ったことがあった。
鑑定士が一緒にいてくれたら、きっと助かるはずだ。
「皆さんはどう思います?」
「私は賛成よ」
サキが答えた。
「鑑定士が一緒にいてくれたら、探索もずっと楽になるもの」
「俺も異論はない。ただし、危険な場所へ行くときは守る必要があるな」
ガイが言った。
「私も賛成です。鑑定士のソフィアさんが一緒なら、もっといろいろなことを学べそうですし」
アステリアも微笑んだ。
「決まりですね!」
俺はソフィアさんへ向き直った。
「ソフィアさん!よかったら、俺たちと一緒に冒険しませんか?」
「……っ!」
ソフィアさんの顔がぱっと明るくなった。
「はい!よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げた拍子に、長いツインテールがふわりと揺れた。
「やったあ!私、冒険者さんたちと一緒に旅をするのが夢だったんです!」
「それなら、これからよろしくお願いします!」
「はい!」
俺たちは笑顔で握手を交わした。
(ほんとはまだ見習いなんだけどね)
ソフィアはぺろっと舌を出した。
「ほっほっほ。どうやら話がまとまったようじゃな」
ミルドさんも満足そうだった。
「ただし、ソフィアは鑑定が得意とはいえ、戦闘の経験は少ない。そこは十分に気をつけてやってくれ」
「もちろんです!」
俺は胸を張った。
「俺たちがしっかり守ります!」
「うむ。頼んだぞ」
ミルドさんは頷いた。
「それとソフィア、持ってきた物を見せてやりなさい」
「はい!」
ソフィアさんは背負っていた鞄を開いた。
中から、小さな魔石や金属製の道具をいくつも取り出す。
「これが私の鑑定道具です!」
「おおっ!」
俺は興味津々で覗き込んだ。
「小さい物ばかりですね!」
「持ち運びやすいようにしてあるんです!それに、鑑定以外にも使える魔道具をいくつか持ってきました!」
「鑑定以外にも?」
「はい!」
ソフィアさんは赤い魔石のついた小さな杖を取り出した。
「例えば、これです!」
杖の先端に魔力が集まり、小さな火が灯る。
「おおっ!火魔法ですか!?」
「正確には、火属性の魔道具です!魔力を流せば、誰でも簡単な火を出せるんですよ!」
「へえ!」
続いて青い魔石を取り出す。
今度は掌の上に小さな水の球が浮かんだ。
「こっちは水属性です!」
「すごいですね!」
アステリアも感心したように見つめている。
「いろいろな属性の魔道具を使えるんですね」
「はい!ただ、違う属性の魔道具を続けて使うと、魔力の流れを操作するのが難しくて乱れやすいんですけどね……」
「そうなんですか?」
「ええ。魔道具ごとに必要な魔力の性質が違うので、調整が難しいこともあるんです」
ソフィアさんは少し困ったように笑った。
……ん?
違う属性の魔道具を続けて使うと、魔力の流れが乱れる?
それって、もしかして……。
「あっ!」
俺は思わず声を上げた。
「どうしたの、ユウ?」
サキが首を傾げた。
「ちょっと待っててください!」
俺は収納鞄を開き、中を探った。
古代遺跡で手に入れた魔道具の中に、ちょうどいい物があったはずだ。
「ええと……確か、この辺に……」
しばらく探していると、小さな護符が見つかった。
「あった!」
俺はそれを取り出し、ソフィアさんへ見せた。
「これ、使えませんか?」
「えっ?」
ソフィアさんが護符を覗き込む。
「……あれ?これって……」
「《七彩の護符》っていう魔道具!」
俺は以前ミルドさんに鑑定してもらったときの説明を思い出した。
「複数の属性を扱うとき、魔力の流れを安定させる効果があるんですよね?」
「……っ!」
ソフィアさんの目が大きく見開かれた。
「七彩の護符!?」
「はい!」
「えええっ!?そんな珍しい物、私が使っちゃっていいんですか!?」
「ええ!今のところ複数の属性を扱うのってソフィアさんだけですから」
「七彩の護符……」
ソフィアさんは驚いたように護符を見つめた。
「これ、本当にすごい魔道具なんですよ!複数の属性を扱う人にとっては、ものすごく便利なんです!」
「それなら、ソフィアさんにぴったりですね!」
俺は護符を差し出した。
「使ってください!」
ソフィアさんが一瞬固まった。
「ほ、本当に、いいんですか!?」
「もちろんです!」
「こんな貴重な物を……」
「俺たちのパーティの道具ですから!ソフィアさんも仲間になったんですし!」
俺が笑うと、ソフィアさんは護符と俺の顔を交互に見つめた。
「……ありがとうございます!」
そして、両手で大切そうに護符を受け取った。
「絶対に大事にします!」
「はい!」
ソフィアさんはさっそく護符を身につけた。
それから赤い魔石の杖と青い魔石を交互に使ってみる。
「……あっ!」
ソフィアさんが驚いたように声を上げた。
「すごい!びっくりするほど魔力の切り替えが楽です!」
「本当ですか!?」
「はい!これなら、いろんな属性の魔道具をもっと安定して使えそうです!」
ソフィアさんは嬉しそうに笑った。
その様子を見て、俺も嬉しくなった。
せっかく手に入れた魔道具が、仲間の役に立つなら何よりだ。
「ほっほっほ。よかったのう、ソフィア」
ミルドさんが微笑んだ。
「うん!おじいちゃん!」
「ただし、便利だからといって無茶をするんじゃないぞ」
「分かってる!」
ソフィアさんは元気よく頷いた。
それから、ミルドさんは俺たちへ向き直った。
「では、ソフィアをよろしく頼むぞ」
「はい!」
俺たちは揃って返事をした。
「さて、それじゃあ次の依頼を決めましょうか!」
俺は掲示板へ向き直った。
「ソフィアさんも一緒ですし、最初はあまり危険じゃない依頼がいいですね!」
「そうね。まずは五人での行動に慣れないと」
サキが頷いた。
「採集依頼あたりがよいのではないか?」
ガイが提案した。
「いいですね。薬草や鉱石を集める依頼なら、ソフィアさんの知識も役立ちそうです」
アステリアも賛成した。
「私、頑張ります!」
ソフィアさんが嬉しそうに手を上げた。
こうして、俺たちのパーティに新しい仲間が加わった。
勇者の俺。
剣聖のサキ。
バトルマスターのガイ。
聖女のアステリア。
そして、鑑定士のソフィア。
これで五人だ。
……本当は俺だけ遊び人なんだけど。
その秘密は、もちろん誰にも秘密だ。
そう信じている俺の隣で、ソフィアさんが小さく拳を握っていた。
(よーし!絶対に秘密を見つけて、おじいちゃんに見習いから一人前って認めてもらうんだから!)
彼女がそんな決意をしていることなど、俺たちは知る由もなかった。
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