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勇者パーティ、聖女様以外ぜんぶ偽物でした~自分だけが偽物だと思っている遊び人たちの最強パーティ~  作者: 黒華レン


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18/26

秘密を知ってしまった鑑定士

ミルドは気になりすぎて密かに……

 交易都市ベルナードから王都へ戻ってきたのは、翌日の昼過ぎだった。


 昨日の商隊護衛では何度も魔物に襲われたけれど、ロベルトさんの荷物を無事に届けることができたし、報酬の金貨三枚も受け取った。


 それだけでも十分な成果なのに、今回はさらに大きな収穫があった。


 そう、収納鞄だ。


「いやあ、本当に便利ですね!」


 俺は肩から提げた革鞄を嬉しそうに叩いた。


 見た目は普通の鞄なのに、中には大量の戦利品が入っている。昨日までのように重たい荷物を抱えて歩く必要もない。


「ユウ、王都に戻ってから何回それを言ったの?」


 隣を歩くサキが呆れたように笑った。


「えっ?そんなに言ってました?」


「少なくとも十回は聞いたわ」


「十回も!?」


「数えていたわけじゃないけどね」


 なんだ、適当か。


 でも、嬉しいものは仕方ない。


「これで次に遺跡へ行くときも、荷物の心配をしなくて済みますね」


 アステリアも収納鞄を見て微笑んだ。


「そうですね!もっと奥まで探索できそうです!」


「それでも、入るからといって何でも持ち帰るのは考えものだぞ、後で仕分けに手間がかかるし処分も困る」


 ガイが言った。


「……なるほど、そうですよね」


 確かに。


 今までは持ち帰れる量が限られていたから、自然と必要な物だけを選んでいた。


 これからは気をつけないと、収納鞄の中がよく分からない物でいっぱいになってしまうかもしれない。


「それじゃあ、今日はミルドさんの工房に行きましょう!」


「今回も珍しい物がいくつか出たものね」


 サキが頷いた。


 商隊護衛で手に入れた戦利品の中には、ロベルトさんが驚いていた物がいくつもある。


 炎熱結晶、氷結結晶、それに金色の牙。


 銀輝結晶は収納鞄と交換したけれど、ほかにも鑑定してもらいたい素材が残っていた。


「ミルドさんなら詳しいことが分かりそうですね」


 アステリアの言葉に、俺たちは揃って頷いた。


 そして、そのまま王都の商業区へ向かった。


 ミルド工房の扉を開けると、いつものように金属と薬品が混ざった独特の匂いがした。


 店内には魔石や古い装飾品、用途の分からない魔道具が所狭しと並んでいる。


「こんにちはー!」


 俺が声をかけると、奥から可愛らしい声が返ってきた。


「はーい!いらっしゃいませ!」


 現れたのは、銀青色の長いツインテールを揺らした少女だった。


「あっ!ユウさんたち!」


「ソフィアさん!こんにちは!」


 ミルドさんの孫娘、ソフィア・クラウゼルだ。


 前回ここへ来たときに初めて会ったけれど、明るくて話しやすい女の子だった。


「今日はどうされたんですか?」


「新しい戦利品が手に入ったので、鑑定をお願いしようと思って!」


「そうなんですね!おじいちゃんなら奥にいますよ!」


 ソフィアさんは嬉しそうに奥へ向かって声をかけた。


「おじいちゃーん!ユウさんたちが来たよー!」


「聞こえとるわい!そんな大声を出さんでもよい!」


 奥から聞き覚えのある声が返ってきた。


 しばらくすると、白髪をぼさぼさにした老人が姿を現した。


「それで、何を鑑定してほしいんじゃ?」


「今回手に入れたドロップ品です!」


 俺は収納鞄を開き、作業台の上に戦利品を並べ始めた。


 グラスボアの牙や毛皮、フォレストウルフの銀牙、ロックリザードの硬質な鱗。


 さらに、赤い炎熱結晶と青白い氷結結晶、金色に輝く珍しい牙も取り出す。


「……ほう」


 ミルドさんの目つきが変わった。


「これはまた、随分と持ってきたのう」


「商隊を護衛している途中で魔物に襲われたんです!」


「それで、これだけの素材が手に入ったのか?」


「はい!」


「……ふーむ、相変わらず妙な連中じゃのう」


 ミルドさんは顎ひげを撫でながら、作業台に並んだ素材を見渡した。


 ソフィアさんも興味津々といった様子で近づいてくる。


「わあ!こんなにたくさん!」


「珍しい物も混ざっているみたいなんです。詳しく調べてもらえますか?」


「もちろんです!おじいちゃん、私も手伝うね!」


「うむ。では、種類ごとに分けておくれ」


「はーい!」


 ソフィアさんが素材を仕分けている間に、ミルドさんは赤い結晶を手に取った。


「まずはこれじゃな。炎熱結晶、それもかなり質のよい物じゃ」


「ロベルトさんも珍しいって言ってました!」


「ほう、ロベルトがそう言ったか。ならば、相当驚いたじゃろうな」


 ミルドさんは結晶を光にかざした。


「火属性の魔道具を作る際に使われる素材じゃ。魔力の濁りが少なく、加工もしやすい。これほど状態がよければ、欲しがる職人も多いじゃろう」


「おおっ!」


「こちらの氷結結晶も同じくらい質がよいのう」


 ミルドさんは青白い結晶を手に取り、専用の鑑定器具に載せた。


 器具に刻まれた魔法陣が淡く光る。


 ミルドさんは結晶に宿る魔力の性質を慎重に確かめ、内部の状態を調べていった。


「ソフィア、こちらの結晶の状態を記録しておくれ」


「はい!」


 ソフィアさんが帳簿を開いた。


 俺も気になって、二人の手元を覗き込む。


「何を調べているんですか?」


「結晶内部の魔力密度じゃよ。魔力の偏りが少なく、安定しているほど、魔道具の材料として扱いやすいんじゃ」


「へえ!そんなことまで分かるんですね!」


 俺が感心していると、ミルドさんは別の小さな鑑定器具を手に取った。


 銀色の円盤に、細かな魔法陣が刻まれている。


「ユウ、そこの鱗をもう少しこちらへ寄せてくれんか?」


「はい!」


 俺は作業台に手を伸ばし、ロックリザードの鱗を集めた。


 そのとき、右手の指輪がミルドさんのすぐ近くを通った。


 ミルドさんは鱗を受け取るふりをしながら、円盤の表面にそっと指を滑らせた。


 小さな魔法陣が、一瞬だけ光った。


「……ふむ」


「どうしました?」


「いや、こちらの鱗もなかなかよい物じゃと思っての」


「そうなんですか!」


「うむ。少し待っておれ」


 ミルドさんは円盤を作業台の陰へ移した。


 そして、先ほど指輪から感じ取った魔力の特徴を、長年の経験と知識に照らし合わせる。


 俺からは何を調べているのか見えなかった。


 だけど、ミルドさんの動きが一瞬止まって眉がぴくりと動いたような気がした。


「……ほう」


「ミルドさん?」


「いや、何でもないわい。さて、次はこの牙じゃな」


 ミルドさんは何事もなかったように金色の牙を持ち上げた。


 ……なんだろう。


 今日はいつもより機嫌がよさそうだ。


「これは金剛牙じゃ。グラスボアが稀に落とす特殊な牙でのう。非常に硬く、魔力を通しても欠けにくい」


「剣にも使えるの?」


 サキが興味深そうに尋ねた。


「もちろんじゃ。武器の補強材として重宝されるぞ」


「それなら、いつか使ってみたいわね」


 サキは金剛牙を手に取り、表面を眺めた。


「今の剣も気に入ってるけど、もっと強い武器が必要になるかもしれないし」


「そのときは腕のよい職人を紹介してやろう」


「本当?ありがとう!」


 サキが嬉しそうに笑った。


 すると、ミルドさんが何気ない口調で言った。


「そういえば、お嬢さん。その首飾りも随分と見事な細工じゃな」


「えっ?」


 サキの手が胸元を隠すように動いた。


 そこには、いつものネックレスがある。


「これ?ええ、すごく気に入ってるのよ」


「ほうほう。飾りの部分に細かな模様が入っておるようじゃが、どこで手に入れたんじゃ?」


「ええと……昔から持っている物よ。そう、おばあちゃんからもらったの」


「そうかそうか。大切な物なんじゃな」


「ええ、まあね」


 サキはネックレスをそわそわと触り続けている。


 ミルドさんはそれ以上尋ねず、金剛牙を作業台に置いた。


 その手元で、先ほどの銀色の円盤が再び淡く光っていたことには、俺もサキも気づかなかった。


 ミルドは首飾りから感じ取った魔力の性質を確かめ、先ほどの指輪とよく似た特徴があることに気づいていた。


「さて、次はそちらの鱗じゃ」


 ミルドさんはロックリザードの鱗を一枚持ち上げた。


「この鱗もこんなにあるのか!?一体何体のロックリザードを倒したらこんなにドロップするんじゃ」


「えっ鱗なんて一体からたくさん落ちるんじゃないんですか?」


「馬鹿言うな鱗も一体に一枚でるかどうかじゃわい、どうなっとるんじゃ」


「それよりガイよ、お主のように大きな武器を扱う者なら、こうした硬質な素材にも興味があるんじゃないか?」


「そうだな。大斧の補強に使えるならありがたい」


 ガイが近づいてきた。


「この鱗は、普通の鉄より硬いのか?」


「単純な硬さだけなら、そこまでではない。しかし魔力を含ませると強度が増すんじゃ」


「なるほど。面白い素材だな」


 ガイは鱗を受け取り、表面を指でなぞった。


 その腕には、いつもの腕輪がはまっている。


「ん?お主もなにやら珍しそうな腕輪を着けておるのう」


 ミルドさんが感心したように言った。


「これか?」


 ガイが腕を持ち上げた。


「ああ。随分と丈夫そうじゃ。大斧を振り回しても邪魔にならんのか?」


「ああ、問題ない。俺の腕に馴染んでいるからな」


「なるほどのう。少し腕をこちらへ向けてくれんか。細工を見せてもらえんか?」


「あ、ああ。細工くらいなら、こうか?」


「うむ、そうじゃ」


 ミルドさんは満足そうに頷いた。


 ガイが腕を下ろすと、老人は何事もなかったように鱗の説明へ戻った。


「この素材は、武器の柄や防具の補強にも使える。なかなかよい物を手に入れたのう」


「それなら、取っておくとしよう」


「そうするがよい」


 ミルドさんは頷きながら、銀色の円盤を作業台の引き出しへ滑り込ませた。


 その瞬間、ミルドは先ほどまでに調べた三つの装飾品について、ある確信を抱いていた。


 勇者の指輪。


 剣聖のネックレス。


 バトルマスターの腕輪。


 そのいずれもが、通常の魔道具とは比較にならないほど高度な術式を備えていた。


 長年の経験から判断しても、神話級に分類されるほどの品だ。


(な、なんじゃ!?……神話級じゃとー!?それも三つ!?)


 ミルドは思わず声を上げそうになった。


 しかし、ギリギリで声を上げるのを止めることができた。


 長年鑑定士を続けてきたが、神話級の魔道具などそれは滅多にお目にかかれるものではない。


 それが目の前に三つもある。


 しかも、目の前にいるパーティの冒険者たちが、それぞれ一つずつ身につけている。


(……なんちゅう連中じゃ)


 さらに、三つの魔道具に組み込まれた術式には、共通する特徴があった。


 装着者の職業を偽装するための、極めて特殊な魔法構造だ。


 ミルドは表情を崩さないよう、必死に口元へ力を込めた。


「おじいちゃん?」


 ソフィアが首を傾げた。


「どうしたの?さっきから変な顔してるよ?」


「な、な、何もないぞ!わしはいつもと同じ顔しとるわい」


「本当?」


「ちょっと珍しい物を見て驚いただけじゃ!」


「そんなに珍しい素材があったの?」


「うむ!それはもう、とびきり珍しい物じゃ!」


 ミルドは勢いよく頷きあわてて口を押さえた。


「珍しいものたくさんあったけど、おじいちゃんがそこまで喜びそうなものあったかなー」


 ソフィアは不思議そうな顔をしていたけれど、すぐに帳簿へ視線を戻した。


 俺はそんな二人のやり取りを眺めながら、思わず笑ってしまった。


「ミルドさんでも驚くような物があったんですね!」


「……そうじゃな。わしもまだまだ知らんことが多いようじゃ」


 ミルドさんは鑑定用のレンズを外し顎ひげを撫でた。


「それにしても、お主らは本当に面白い物を持ってくるのう」


「えへへ!また何か見つけたら持ってきますね!」


「うむ。ぜひそうしてくれ」


 ミルドさんは妙に嬉しそうだった。


 その後も鑑定は続き、銀牙や毛皮、魔石などの価値を一つずつ教えてもらった。


 ソフィアさんは種類ごとに素材をまとめ、鑑定結果を書いた札を添えてくれる。


「これで全部ですね!」


「ありがとうございます!」


 俺は鑑定済みの戦利品を収納鞄へ戻した。


「やっぱり便利ですね、この鞄!」


「ほっほっほ。そんなに気に入ったか」


「はい!もう手放せません!」


「そうかそうか。大事にするんじゃぞ」


 ミルドさんは笑いながら頷いた。


「それで、鑑定料はいくらですか?」


「今回は素材の確認が中心じゃからの。銀貨五枚でよい」


「ありがとうございます!」


 俺は銀貨を支払った。


「ミルドさん、ソフィアさん、今日もありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 サキたちも頭を下げる。


「また来てくださいね!」


 ソフィアさんが笑顔で手を振った。


「うむ。次はどんな物を持ってくるか楽しみにしておるぞ」


 ミルドさんも笑って見送ってくれた。


 俺たちは工房を出て、宿屋へ向かうことにした。


「いやあ、今回もいろいろ分かりましたね!」


「そうね。金剛牙はちょっと気になるわ」


 サキが言った。


「今度、武器職人に相談してみようかしら」


「いいと思います!」


 俺は頷いた。


「俺も、もっと強い装備が欲しくなってきました!」


「その前に、今ある装備を使いこなすことも大切だぞ」


 ガイが言った。


「うっ……確かに」


 俺は苦笑した。


 勇者らしく強くなるには、まだまだ努力が必要だ。


 ……まあ、本当は遊び人なんだけど。


 そんなことを考えながら、俺たちは賑やかな王都の通りを歩いていった。


 ミルド工房では、ユウたちが帰ったあと、ミルドが一人で作業台の前に座っていた。


 ソフィアは買い出しに出かけており、工房にはほかに誰もいない。


「……さて」


 ミルドは引き出しから銀色の円盤を取り出した。


 先ほど三人の装飾品を調べた際に感じ取った魔力の特徴を思い返し、古い文献を開く。


 以前から調べていた、職業偽装の魔道具について記された本だ。


 最初はユウの指輪。


 ミルドは指輪に組み込まれた術式の構造を思い出し、文献の記述と照らし合わせた。


 あれほど複雑な術式を持つ品は、神話級の魔道具と考えて間違いない。


 しかも、職業を偽装するための魔法が組み込まれていた。


 勇者として登録されているユウだが、その指輪が隠している本来の職業は――遊び人。


「……ほうほう」


 続いてサキのネックレス。


 こちらも神話級の魔道具であり、職業偽装のための術式が施されていた。


 剣聖として振る舞っているサキの本来の職業も、遊び人。


「……ふむふむ」


 そして、ガイの腕輪。


 これもまた神話級の職業偽装魔道具。


 バトルマスターとして登録されているガイの本来の職業も、遊び人だった。


「…………」


 ミルドはしばらく三つの魔道具について考えていた。


 勇者。


 剣聖。


 バトルマスター。


 誰もが憧れる、強力な職業。


 その三人が、揃いも揃って遊び人。


 しかも、一緒にいる聖女だけは本物。


「……はぁー……まじか」


 ミルドはぽつりと呟いた。


 そして、とうとう我慢できなくなった。


「ぶわっはっはっはっはっはっは!」


 工房に大きな笑い声が響いた。


「なんじゃこれは!勇者も剣聖もバトルマスターも、全員遊び人じゃと!?しかも神話級の偽装魔道具を一人一つずつ持っておるとは!」


 ミルドは腹を抱えて笑い続けた。


「わっはっはっは!こんな面白いもの、何十年鑑定士をやっておっても見たことがないわい!」


 笑いすぎて、目尻に涙まで浮かんでいる。


 やがて少し落ち着くと、ミルドは顎ひげを撫でた。


「しかし……あの感じ、お互いの正体は知らんのじゃろうな」


 ユウは勇者として振る舞い、サキは剣聖として振る舞い、ガイはバトルマスターとして振る舞っていた。


 それぞれが、ほかの二人を本物だと信じているように見えた。


「全員、自分だけが偽物だと思っておるわけか……」


 ミルドは再び肩を震わせた。


「くっくっく……それで、あれだけ息の合ったパーティになっておるとはのう!」


 さらに、作業台に残された鑑定記録へ目を向ける。


「それにしても、ドロップ品が異常に多いのはそういう事じゃったか、くっくっく」


 笑いが止まらない。


 普通なら滅多に手に入らない素材が、あの四人の周囲では次々と見つかっている。


 遊び人には、時折、常識では説明のつかない幸運が訪れることがある。


 三人も揃っていれば、普通の冒険者とは違った結果になるのも不思議ではない。


「なんて面白いやつらじゃ!」


 ミルドはまた笑い始めた。


「わっはっはっはっは!……げほっ!げほげほっ!」


 笑いすぎて、とうとう咳き込んでしまった。


 ミルドは胸を押さえ、椅子の背もたれに体を預けた。


「あー……笑いすぎたわい」


 目尻の涙を拭い、しばらく天井を眺める。


 そして、ふと何かを思いついたように顔を上げた。


「……ん、そうじゃ!いい事を思いついたぞ」

いつも読んで頂きありがとうございます!


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よろしくお願い致します。

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