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勇者パーティ、聖女様以外ぜんぶ偽物でした~自分だけが偽物だと思っている遊び人たちの最強パーティ~  作者: 黒華レン


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17/25

勇者パーティ、商隊を護衛する

今回は外での依頼を受けることにしました

 古代研究施設から戻った翌朝。


 俺は宿屋の部屋で、床に置かれた鞄を見下ろしていた。


 昨日、ミルドさんの工房で鑑定してもらった戦利品は、売却する物と手元に残す物に分けてある。


 それでも、鞄の中には古代の金属片や魔石、透明な結晶などがぎっしり詰まっていた。


 特に《七彩の護符》は、珍しい古代魔道具らしい。


 複数の属性魔力を安定させる効果があるそうだけど、今のところ使い道が決まっていないので、大切に保管してある。


「……やっぱり重いな」


 鞄を持ち上げようとすると、ずっしりとした重さが腕に伝わってきた。


 これからも冒険を続けるなら、収納用の魔道具は絶対に必要だ。


 昨日、王都の魔道具店で値段を調べてみたけれど、容量の小さい物でも金貨数枚。大きな物になると、さらに値段が跳ね上がるらしい。


 便利な物ほど高い。


 世の中、なかなかうまくできている。


「よし!今日はお金を稼ごう!」


 俺は鞄を置き、仲間たちの待つ食堂へ向かった。


 朝食の席で今日の予定を話すと、サキがパンをちぎりながら頷いた。


「別の依頼を受けるのは賛成よ。最近は遺跡に潜ってばかりだったものね」


「そうだな。俺もたまには外で体を動かしたい」


 ガイは大きなベーコンを口に運んだ。


「遺跡の中でも十分動いてたじゃない」


「狭い場所で大斧を振るのは気を遣うんだ」


「ああ、それは確かにそうですね」


 アステリアが微笑む。


「私は、街の外をゆっくり歩けるような依頼もいいと思います」


「じゃあ、ギルドで探してみましょう!」


 俺たちは朝食を済ませ、冒険者ギルドへ向かった。


 朝のギルドは相変わらず賑やかだった。


 依頼掲示板の前には大勢の冒険者が集まり、討伐や採取の依頼を選んでいる。


 俺たちも空いている場所から依頼書を眺めた。


「薬草採取、鉱石の運搬、魔物討伐……いろいろありますね」


「この辺りは報酬が少ないわね」


 サキが掲示板の下の方を見ている。


「こっちはどうだ?」


 ガイが一枚の依頼書を指差した。


『商隊護衛依頼』


 王都から交易都市ベルナードまで、二台の荷馬車を護衛する仕事らしい。


 目的地までは半日ほど。


 報酬は金貨三枚。


「おおっ!いいじゃないですか!」


「商隊の護衛か。荷馬車を守る仕事なら、戦闘以外にも気を配る必要があるな」


「でも、金貨三枚は魅力的よね」


 サキが頷く。


「私もいいと思います。商人の方とお話しする機会もありそうですし」


 アステリアも賛成してくれた。


 俺は依頼書を剥がし、受付へ向かった。


「リリアさん!この依頼を受けたいんですけど!」


「おはようございます、ユウさん。今日は商隊護衛ですか?」


 リリアさんは依頼書を受け取り、内容を確認した。


「ちょうど依頼主の方が、今日中に出発できる冒険者を探していたところなんです」


「それならよかったです!」


「ただし、護衛依頼は魔物を倒せば終わりというものではありません。荷物と商人の安全を守って、目的地まで送り届けることが最優先ですよ」


「はい!」


 手続きが終わると、リリアさんは東門の馬車待機所を教えてくれた。


 俺たちはさっそく向かうことにした。


 東門の近くには何台もの荷馬車が並んでいた。


 荷物を積み込む商人や馬の世話をする御者たちが、忙しそうに働いている。


 その中で、一人の中年男性が帳簿を片手に荷物を確認していた。


 立派な口ひげを蓄え、上等そうな茶色の上着を着ている。


「すみません!ロベルト・ヘルマンさんですか?」


 俺が声をかけると、男性が顔を上げた。


「そうだが、君たちは?」


「冒険者ギルドから来ました!護衛依頼を受けたユウ・シャイニングです!」


「おお!待っていたよ!」


 ロベルトさんは嬉しそうに笑った。


「いやあ、助かった!急な取引があってね、今日中に出発したかったんだが、護衛がなかなか見つからなかったんだ」


「それは大変でしたね」


「ところで、君たちは四人パーティなのかい?」


「はい!俺が勇者で、こちらが剣聖のサキ、バトルマスターのガイ、聖女のアステリアです!」


 ロベルトさんの動きが止まった。


「……勇者?」


「はい!」


「本当かい?剣聖に、バトルマスター、それに聖女?」


「そうです!」


 ロベルトさんは俺たちを順番に見つめた。


 そして、突然笑い出した。


「はっはっは!これは驚いた!そんな豪華な顔ぶれに護衛してもらえるとは!」


「期待に応えられるよう頑張ります!」


「いやいや、こちらこそよろしく頼むよ!」


 握手を交わし、俺たちは荷馬車の周囲を確認した。


 荷馬車は二台。


 一台目には布や衣類、二台目には薬草や魔道具の材料が積まれている。


 御者はそれぞれ一人ずつで、ロベルトさんは先頭の馬車に乗るらしい。


「道中は森の近くを通るんだ。最近、あの辺りで魔物の目撃情報が増えていてね」


「どんな魔物が出るんですか?」


 ガイが尋ねた。


「フォレストウルフやグラスボアが多いそうだ。ときどき大型の魔物も出るらしい」


「なるほど」


 ガイが頷いた。


「それなら、前と後ろに分かれて護衛した方がよさそうだな」


「そうね。私はユウと先頭を担当するわ」


「では、私とガイさんが後方ですね」


 アステリアが言った。


 俺たちは配置を決め、荷物の積み込みが終わるのを待った。


 やがて、二台の荷馬車がゆっくりと動き始めた。


 王都の門を抜けると、目の前には広い草原が広がっていた。


 青い空の下、整備された街道が遠くまで続いている。


「いやあ、いい天気ですね!」


 俺は気持ちよく伸びをした。


「そうね。遺跡の中とは大違いだわ」


 サキも楽しそうに周囲を眺めている。


「でも、油断は禁物よ」


「もちろんです!」


 そう答えた直後、サキが俺の肩を軽く叩いた。


「じゃあ、あそこの茂みは?」


「えっ?」


 俺は指差された方を見た。


 街道脇の草むらが、不自然に揺れている。


 次の瞬間。


 ブモオオオッ!


 大きな猪型の魔物が飛び出してきた。


「うわっ!?」


 緑がかった毛並みと、鋭い二本の牙。


 グラスボアだ!


「いきなり来ましたね!」


「ユウ、右へ!」


 サキの声に従い、俺は横へ跳んだ。


 グラスボアは勢いを止められず、街道を横切っていく。


「馬車に近づけさせるな!」


 ガイが後方から駆けてきた。


 大斧を構え、魔物の進路へ回り込む。


「おおおっ!」


 ガイが大斧を振り下ろした。


 ドガァンッ!


 地面が大きく抉れ、グラスボアが慌てて方向を変えた。


 その先にはサキが待ち構えている。


「こっちよ!」


 サキは片手剣を振り抜いた。


 ザシュッ!


 鋭い一撃が魔物の肩を斬り裂く。


 グラスボアは悲鳴を上げ、ふらついた。


「今です!」


 俺は剣を構え、踏み込んだ。


 そして、魔物の首元へ剣を振り下ろす。


 ザンッ!


 グラスボアは地面へ倒れ、そのまま動かなくなった。


「……ふう!」


 俺は剣を下ろした。


「やりましたね!」


「ええ。思ったよりあっさり倒せたわ」


 サキが頷く。


「馬車も無事だな」


 ガイが確認する。


 アステリアは御者たちの様子を見ていた。


「お怪我はありませんか?」


「だ、大丈夫です!」


 御者が答える。


 ロベルトさんも馬車から顔を出した。


「いやあ、驚いた!本当にあっという間だったね!」


「ありがとうございます!」


 俺は笑顔で答えた。


 そして、倒れたグラスボアへ近づいた。


「それじゃあ、戦利品を確認しましょう!」


 俺たちは魔物の体を調べ始めた。


 すると、魔石のほかに、立派な牙が二本と、艶のある緑色の毛皮が手に入った。


 さらに、首元から小さな赤い結晶が見つかった。


「おっ!これ、何でしょう?」


 俺が結晶を持ち上げると、ロベルトさんが馬車から降りてきた。


「……ちょっと見せてくれるかい?」


「はい!」


 結晶を渡すと、ロベルトさんは目を細めた。


「これは……炎熱結晶じゃないか」


「炎熱結晶?」


「ああ。火属性の魔道具に使われる素材でね。グラスボアからも採れることもあるんだが、滅多に出ないんだよ」


「へえ!」


 俺は感心した。


 なかなか珍しい物らしい。


「しかも、牙も毛皮も状態がいい。君たちは運がいいね」


「そうなんですか?」


「もちろんさ。普通は魔石だけでも十分な戦利品なんだよ」


 ロベルトさんは笑いながら結晶を返してくれた。


 俺たちは戦利品を鞄へしまい、再び出発した。


 しばらく進むと、街道の脇に小さな川が現れた。


 澄んだ水が流れ、木々の間から鳥の鳴き声が聞こえてくる。


「この辺りで昼食にしようか」


 ロベルトさんが提案した。


「いいですね!」


 俺たちは川の近くで休憩することにした。


 御者たちは馬に水を飲ませ、ロベルトさんは荷馬車から昼食用の包みを取り出した。


「護衛の皆さんも、よかったらどうぞ」


「ありがとうございます!」


 包みの中には、肉と野菜を挟んだ大きなパンが入っていた。


 香ばしい匂いに、思わずお腹が鳴る。


「いただきます!」


 一口かじると、甘辛い肉の味が口いっぱいに広がった。


「うまっ!」


「ふふっ。そんなに美味しい?」


 サキが笑った。


「はい!最高です!」


 俺が夢中で食べていると、ガイが街道の向こうを見つめた。


「……ん?」


「どうしました?」


「向こうに馬車が止まっているな」


 ガイが指差した先には、一台の小さな荷馬車があった。


 車輪の近くに二人の男性がしゃがみ込んでいる。


 どうやら何か困っているらしい。


「故障でしょうか?」


 アステリアが尋ねた。


「そうかもしれませんね」


 俺はパンを食べ終え、立ち上がった。


「ちょっと様子を見てきます!」


「私も行くわ」


 サキがついてきた。


 俺たちが近づくと、商人風の男性が顔を上げた。


「ああ、冒険者さんか!助かった!」


「どうしたんですか?」


「車輪の金具が曲がってしまってね。修理しようとしているんだが、うまくいかないんだ」


 俺はしゃがみ込み、壊れた部分を覗いた。


 木製の車輪を支える金具が大きく曲がっている。


「これは大変ですね……」


「そうなんだ。替えの部品もなくて困っている」


 サキが金具を調べた。


「これ、無理に曲げると折れちゃいそうね」


「そうですね……」


 俺たちが考えていると、ガイとアステリアもやってきた。


「何か問題があったか?」


「車輪の金具が曲がってしまったみたいなんです」


「ふむ。どれ」


 ガイは大斧を地面に置き、金具を確認した。


「これなら、曲がった部分を戻せば何とかなるかもしれんな」


「本当ですか!?」


「ああ。ただ、少し力がいる」


 ガイは両手で金具を掴んだ。


 そして、ゆっくりと力を込める。


 ギギギ……。


 金具が少しずつ元の形へ戻っていく。


「おおっ!」


 商人が驚いた声を上げた。


「すごい力だ!」


「もう少しだ……!」


 ガイはさらに力を込めた。


 すると。


 バキンッ!


「……あ」


 金具が折れた。


「…………」


 全員が固まった。


 ガイは折れた金具を両手に持ったまま、ゆっくりと顔を上げた。


「……すまん」


「ちょっとガイ!?」


 サキが叫んだ。


「だから折れるって言ったじゃない!」


「いや、まさか本当に折れるとは……」


 ガイは困ったように頭をかいた。


 商人は口をぽかんと開けている。


 ……まずい。


 助けるつもりが、余計に壊してしまった。


「す、すみません!」


 俺は慌てて頭を下げた。


「まあ、どうせその部品はもうダメでしたし、何とかしますよ」


 すると、アステリアが静かに口を開いた。


「あの、ロベルトさんの馬車に予備の金具はありませんか?」


「……あっ!」


 俺は顔を上げた。


 そうだ。


 商隊なら修理用の道具を持っているかもしれない。


 ロベルトさんは少し考え、頷いた。


「確か、車輪の補修用にいくつか金具を積んでいたはずだ。大きさが合えば使えるかもしれないね」


「本当ですか!?」


「見てみよう」


 ロベルトさんは荷馬車へ戻り、道具箱を持ってきた。


 中には釘や金具、縄、それに小さな工具が入っている。


 サキが壊れた金具と見比べた。


「……これなら使えそう!」


「よかった!」


 俺たちは協力して車輪を修理することにした。


 ガイが馬車を持ち上げ、俺が車輪を支える。


 サキは新しい金具を取り付け、アステリアは工具を手渡してくれた。


「ユウ、もう少し右に傾けて!」


「はい!」


「ガイ、そのまま支えていて!」


「任せろ!」


 しばらくして、ようやく車輪の修理が終わった。


「……よし!」


 サキが立ち上がった。


「これで大丈夫だと思うわ!」


 御者が馬車を少し動かしてみる。


 車輪は問題なく回った。


「おおっ!直った!」


 商人が嬉しそうに叫んだ。


「本当にありがとう!助かったよ!」


「いえいえ!」


 俺は笑顔で答えた。


 途中で余計に壊してしまったけれど、何とか直せてよかった。


 商人は何度も頭を下げ、小さな袋を差し出した。


「お礼に、これを受け取ってくれ」


「えっ?いいんですか?」


「ああ。修理を手伝ってくれたお礼だよ」


 袋の中には銀貨が数枚入っていた。


「ありがとうございます!」


 俺たちは礼を言い、ロベルトさんの商隊へ戻った。


 そこで、俺はふと思い出した。


「あっ、そうだ!」


「どうしたんだい?」


 ロベルトさんが尋ねる。


「さっきの金具、ロベルトさんの物ですよね?」


「ああ、そうだね」


「だったら、代金をお返ししないと」


 俺は先ほど受け取った銀貨の袋を取り出した。


 すると、ロベルトさんは笑いながら首を振った。


「ははは!いいんだよ」


「えっ?」


「困ったときはお互い様だからね。あの商人だって、無事に旅を続けられるようになったんだ。それで十分さ」


「でも……」


「それに、君たちは私の商隊を守ってくれている。これからも頼りにしているよ」


 ロベルトさんはそう言って、俺の手をそっと押し戻した。


「……ありがとうございます!」


 俺は頭を下げた。


 なんていい人なんだ。


 俺たちは再び馬車に乗り込み、交易都市へ向けて出発した。


 午後になると、街道は少しずつ森へ近づいていった。


 左右の木々が増え、日差しが枝葉に遮られる。


 風が吹くたびに、葉がざわざわと揺れた。


「……この辺りだな」


 ガイが周囲を見渡した。


「フォレストウルフが出るという場所は」


「気をつけましょう」


 アステリアが杖を握り直した。


 俺も剣の柄に手を添える。


 しばらく進むと、森の奥から低いうなり声が聞こえてきた。


 グルルルル……。


「来たわね」


 サキが剣を抜いた。


 茂みの中から、灰色の毛並みを持つ狼型の魔物が姿を現す。


 鋭い牙。


 赤く光る瞳。


 その後ろから、さらに四体。


「フォレストウルフが五体!」


 ガイが叫んだ。


 初めに出てきたのがリーダーか。


「馬車を囲まれないようにしましょう!」


 俺は剣を抜き、前へ出た。


「アステリアさん、防御をお願いします!」


「はい!」


 アステリアが杖を掲げた。


「《ホーリー・バリア》!」


 淡い光の障壁が馬車の周囲に広がる。


 その直後、一体のフォレストウルフが飛びかかってきた。


「来た!」


 俺は剣を構え、鋭い爪を受け止めた。


 ガキンッ!


 重い衝撃が腕へ伝わる。


 狼はすぐに距離を取り、再び飛びかかろうとした。


 その瞬間。


「ユウ!右よ!」


 サキの声が響いた。


 俺は横へ跳び、狼の攻撃をかわした。


 そして、剣を振り抜く。


 ザシュッ!


 魔物の肩を斬り裂いた。


 狼が悲鳴を上げ、地面へ倒れる。


「よし!」


 俺が剣を構え直すと、別の一体が馬車へ向かって走り出した。


「させるか!」


 ガイが大斧を振るう。


 ドガァンッ!


 狼の進路を塞ぐように地面が抉れた。


 魔物が足を止めたところへ、アステリアの魔法が飛ぶ。


「《ホーリー・ショット》!」


 光の弾が狼の体を貫いた。


 残る三体はサキとガイが相手をしている。


「こっちよ!」


 サキが素早く踏み込み、片手剣を振り抜く。


 ザシュッ!


 一体が倒れた。


 ガイも大斧を振り回し、二体を牽制している。


「ユウ!一体頼む!」


「はい!」


 俺はガイの横へ回り込んだ。


 狼がこちらへ飛びかかってくる。


 その瞬間、俺の左手が勝手に腰へ伸びた。


 ……あれ?


 まさか。


 俺の指先が小さな石を掴んだ。


 そして、腕が勝手に振り抜かれる。


「––––流星投擲《りゅうせいとうてき》!」


 慌てて俺は叫んだ。


 ヒュンッ!


 小石が一直線に飛んでいく。


 ギャンッ!!


 フォレストウルフの横っ腹に命中した。


「ユウ、やったわね!」


 サキが感心したように言った。


 俺は少し照れながら笑った。


 ……本当は勝手に体が動いただけなんだけど。


 最後の一体はガイが大斧で仕留めた。


「……ふう!」


 俺は剣を鞘へ収めた。


「皆さん、お怪我はありませんか?」


 アステリアが尋ねる。


「俺は大丈夫です!」


「私も平気よ」


「俺も問題ない」


 三人が答えると、アステリアは安心したように微笑んだ。


「よかったです!」


 そして、俺たちは倒れた魔物たちを調べ始めた。


 すると。


「……おおっ!」


 俺は思わず声を上げた。


「また結構出ましたね!」


 五体のフォレストウルフから、小さな魔石が五つ。


 さらに、銀色の牙が六本、灰色の毛皮が四枚。


 そのうえ、青白く輝く結晶まで見つかった。


「これ、何でしょう?」


 俺が結晶を持ち上げると、ロベルトさんが近づいてきた。


「……ちょっと待ってくれ」


「はい?」


「その結晶、見せてもらってもいいかい?」


「もちろんです!」


 ロベルトさんは結晶を受け取ると、目を大きく見開いた。


「こ、これは……氷結結晶じゃないか!」


「氷結結晶?」


「ああ!氷属性の魔道具に使われる珍しい素材だよ!フォレストウルフから採れることもあるが、これも滅多に出ないんだ!」


「へえ!」


 俺は感心した。


 また珍しい物が出たらしい。


「しかも、銀牙までこんなに……」


 ロベルトさんは戦利品を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。


「……さっきもだったけど、君たちはいつもこんなにドロップ品が出るのかい?」


「ええ、まあ。このくらい出ますね!」


「いやいや!普通はこんなに出ないよ!」


 ロベルトさんが声を上げた。


「魔石だけでも十分な戦利品なのに、銀牙や毛皮までこんなに!しかもレア素材が混ざっているなんて!」


「そんなに珍しいんですか?」


「珍しいどころじゃないよ!」


 ロベルトさんは興奮した様子で説明してくれた。


 どうやら、普通の冒険者は魔物を倒しても、必ずしも素材が手に入るわけではないらしい。


 まして、珍しい結晶や特殊な牙が出ることはほとんどないという。


「……君たち、本当にすごいパーティなんだね」


「ありがとうございます!」


 俺は笑顔で答えた。


 その後も、商隊は何度か魔物に襲われた。


 森を抜けたところでは、三体のグラスボアが突進してきた。


 俺とガイが正面から受け止め、サキが横へ回り込んで一体ずつ仕留めた。


 アステリアは馬車の周囲に《ホーリー・プロテクション》をかけ、飛び散った石や枝から御者たちを守ってくれた。


 戦闘が終わると、魔石三つに牙四本、さらに上質な毛皮が二枚。


 その中には、珍しい金色の牙まで混ざっていた。


「……また出たのかい!?」


 ロベルトさんが驚いた声を上げた。


「はい!」


 俺は嬉しそうに答えた。


 さらに、交易都市が近づいた頃には、街道脇の岩場からロックリザードが二体現れた。


 硬い鱗に覆われた魔物だったが、ガイの大斧が一体の足を止め、サキが隙を突いて斬り込む。


 俺も剣で応戦し、最後はアステリアの《ホーリー・レイ》がもう一体を倒した。


 戦利品は魔石二つ、硬質な鱗が十枚、それに銀色の小さな結晶が一つ。


「……もう何も言わないよ」


 ロベルトさんは遠い目をしていた。


「えっ?」


「いや、君たちのドロップ運には驚かされっぱなしだと思ってね」


 俺は笑いながら鞄を開けた。


 そして、戦利品を詰め込もうとして……手が止まった。


「……あれ?」


 鞄が閉まらない。


 無理やり押し込もうとしても、毛皮がはみ出してしまう。


「ユウ、こっちもいっぱいよ」


 サキが自分の鞄を見せた。


 ガイの鞄も、アステリアの鞄も、すでに戦利品でぎっしりだった。


「……どうしましょう」


 俺は困り果てた。


 せっかく珍しい物が出たのに、持ち帰れないなんて。


 すると、ロベルトさんが不思議そうに尋ねた。


「君たち、そんなにドロップ品があるのに、収納用の魔道具は持っていないのかい?」


「……え?」


 俺は顔を上げた。


「持ってないんです。買おうと思ってるんですけど、なかなか高くて……」


「なるほどねえ」


 ロベルトさんは腕を組んだ。


「それだけ戦利品が出るなら、確かに必要だろうね」


「そうなんですよ!」


 俺は大きく頷いた。


「毎回、鞄がいっぱいになっちゃって!」


 ロベルトさんはしばらく考え込んでいた。


 そして、何かを思いついたように微笑んだ。


「……ふむ。そういうことなら」


「はい?」


「いや、何でもないよ。まずは街まで行こう」


 ロベルトさんはそう言って、馬車へ戻っていった。


 俺たちは首を傾げながらも、残りの戦利品を何とか分担して持つことにした。


 やがて、夕暮れの空の下、交易都市ベルナードの城壁が見えてきた。


「おおっ!」


 俺は目を輝かせた。


「あれがベルナードですか!」


「そうだよ。王都ほど大きくはないけれど、商人が多く集まる街なんだ」


 ロベルトさんが説明してくれた。


「魔道具や珍しい素材を扱う店も多い。君たちなら、きっと楽しめると思うよ」


「それは楽しみですね!」


 俺たちは門番に通行証を見せ、街の中へ入った。


 大通りには商店が立ち並び、あちこちから威勢のいい呼び込みの声が聞こえてくる。


 魔石灯が店先を照らし、屋台からは美味しそうな匂いが漂っていた。


「すごい賑わいですね!」


 アステリアが楽しそうに辺りを見回した。


「王都とはまた違った雰囲気だな」


 ガイも興味深そうに店を眺めている。


「せっかくだし、明日は少し街を見て回りたいわね」


 サキが言った。


「賛成です!」


 俺は元気よく頷いた。


 ロベルトさんの荷物を倉庫まで送り届けると、護衛依頼は無事に完了した。


「本当に助かったよ。これは約束の報酬だ」


 ロベルトさんが小さな袋を差し出した。


 中には金貨が三枚入っている。


「ありがとうございます!」


 俺は受け取り、仲間たちと顔を見合わせた。


 これで収納用の魔道具を買う資金が少し増えた。


 すると、ロベルトさんが思い出したように口を開いた。


「そうだ。君たちに一つ相談があるんだが」


「相談ですか?」


「ああ。道中で手に入れたドロップ品の中に、珍しい素材があっただろう?」


「はい!」


「実は、その中の一つを譲ってもらえないかと思ってね」


「どれですか?」


 俺は鞄を開けた。


 ロベルトさんが指差したのは、ロックリザードから手に入れた銀色の結晶だった。


「これですか?」


「ああ。それは銀輝《ぎんき》結晶という素材なんだ」


「銀輝結晶?」


「魔力を安定して伝える性質があってね。精密な魔道具の部品に使われるんだよ」


「へえ!」


 俺は結晶を眺めた。


 小さな銀色の結晶。


 確かに綺麗だけれど、そこまで特別な物には見えない。


「実はね、私が今回ベルナードへ来たのも、ある魔道具職人との取引のためなんだ」


「そうだったんですね!」


「その職人が、ちょうどこの銀輝結晶を探していてね。ところが、なかなか手に入らなくて困っていたんだよ」


 ロベルトさんは嬉しそうに笑った。


「君たちが持っていると分かったときは、本当に驚いたよ」


「そうだったんですか!」


「そこで、どうだろう。私の持っている収納用の魔道具と交換してもらえないかい?」


「……え?」


 俺は思わず聞き返した。


「収納用の魔道具!?」


「ああ。ちょうど一つ、取引先から仕入れた物があるんだ」


 ロベルトさんは倉庫の奥へ向かい、小さな革鞄を持って戻ってきた。


 茶色の丈夫そうな革で作られた、肩から提げられる鞄だ。


 見た目は普通の鞄だけれど、留め具には小さな魔石が埋め込まれている。


「これが収納用の魔道具だよ」


「おおっ!」


 俺は思わず身を乗り出した。


「本物ですか!?」


「もちろんさ」


 ロベルトさんは笑いながら鞄を開けた。


 そして、近くにあった大きな木箱を持ち上げる。


「ちょっと見ていてくれ」


 ロベルトさんが木箱を鞄の口へ近づけると、箱が淡い光に包まれた。


 次の瞬間。


 シュンッ!


 木箱が消えた。


「……ええっ!?」


 俺は目を丸くした。


「消えた!?」


「ははは!中に収納されたんだよ」


 ロベルトさんは鞄へ手を入れた。


 すると、先ほどの木箱が再び現れた。


「この鞄は、見た目よりずっと多くの荷物を収納できるんだ」


「す、すごい……!」


 俺は感動した。


 これさえあれば、あの大量の戦利品を持ち歩かなくて済む!


「ただし、容量には限界があるし、生き物は入れられない。それでも、君たちの冒険には十分役立つと思うよ」


「ほ、本当にこれと交換してくれるんですか!?」


「ああ」


 ロベルトさんが頷いた。


 俺は手の中の銀輝結晶を見た。


 そして、もう一度収納鞄を見る。


「……えっ!?でもこんな結晶一つと交換なんて……」


 思わず声が大きくなった。


 ロベルトさんは穏やかに笑った。


「ああ、ちょうどこれが必要だったんだけどね、なかなか手に入らなかったんだよ。これで取引も間違いなくうまくいく。だから、私にとっては十分その価値があるんだよ」


「……ロベルトさん!」


 俺は感激した。


 なんていい人なんだ!


「ありがとうございます!」


「いやいや、こちらこそ助かるよ」


 俺は銀輝結晶をロベルトさんへ渡した。


 代わりに、収納用の革鞄を受け取る。


 サキが嬉しそうに覗き込んだ。


「やったじゃない、ユウ!」


「はい!」


「これで荷物の心配が減るな」


 ガイも満足そうに頷いた。


「本当によかったですね!」


 アステリアが微笑む。


 俺はさっそく鞄を開け、今まで持っていた戦利品を入れてみた。


 魔石、牙、毛皮、古代の金属片。


 次々と収納されていく。


「おおおっ!」


 俺は思わず歓声を上げた。


「すごい!全部入りますよ!」


「これなら、次の冒険も安心ね」


 サキが笑った。


 俺は収納鞄を肩から提げた。


 さっきまで重たい荷物を抱えていたのが嘘みたいだ。


「……軽い!」


 思わずその場でくるりと回ってしまった。


「ユウ、嬉しいのは分かるけど、転ばないでよ?」


「大丈夫です!」


 俺は笑顔で答えた。


 ロベルトさんも楽しそうに笑っている。


「いやあ、喜んでもらえてよかったよ」


「本当にありがとうございました!」


 俺たちは改めて頭を下げた。


 こうして、初めての商隊護衛依頼は無事に終了した。


 報酬の金貨三枚に加え、大量の戦利品。


 そして、念願だった収納用の魔道具まで手に入れることができた。


 俺は肩に提げた革鞄を見下ろし、思わず笑みを浮かべた。


 これからの冒険が、ますます楽しみになってきた。

いつも読んで頂きありがとうございます!


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