勇者パーティ、商隊を護衛する
今回は外での依頼を受けることにしました
古代研究施設から戻った翌朝。
俺は宿屋の部屋で、床に置かれた鞄を見下ろしていた。
昨日、ミルドさんの工房で鑑定してもらった戦利品は、売却する物と手元に残す物に分けてある。
それでも、鞄の中には古代の金属片や魔石、透明な結晶などがぎっしり詰まっていた。
特に《七彩の護符》は、珍しい古代魔道具らしい。
複数の属性魔力を安定させる効果があるそうだけど、今のところ使い道が決まっていないので、大切に保管してある。
「……やっぱり重いな」
鞄を持ち上げようとすると、ずっしりとした重さが腕に伝わってきた。
これからも冒険を続けるなら、収納用の魔道具は絶対に必要だ。
昨日、王都の魔道具店で値段を調べてみたけれど、容量の小さい物でも金貨数枚。大きな物になると、さらに値段が跳ね上がるらしい。
便利な物ほど高い。
世の中、なかなかうまくできている。
「よし!今日はお金を稼ごう!」
俺は鞄を置き、仲間たちの待つ食堂へ向かった。
朝食の席で今日の予定を話すと、サキがパンをちぎりながら頷いた。
「別の依頼を受けるのは賛成よ。最近は遺跡に潜ってばかりだったものね」
「そうだな。俺もたまには外で体を動かしたい」
ガイは大きなベーコンを口に運んだ。
「遺跡の中でも十分動いてたじゃない」
「狭い場所で大斧を振るのは気を遣うんだ」
「ああ、それは確かにそうですね」
アステリアが微笑む。
「私は、街の外をゆっくり歩けるような依頼もいいと思います」
「じゃあ、ギルドで探してみましょう!」
俺たちは朝食を済ませ、冒険者ギルドへ向かった。
朝のギルドは相変わらず賑やかだった。
依頼掲示板の前には大勢の冒険者が集まり、討伐や採取の依頼を選んでいる。
俺たちも空いている場所から依頼書を眺めた。
「薬草採取、鉱石の運搬、魔物討伐……いろいろありますね」
「この辺りは報酬が少ないわね」
サキが掲示板の下の方を見ている。
「こっちはどうだ?」
ガイが一枚の依頼書を指差した。
『商隊護衛依頼』
王都から交易都市ベルナードまで、二台の荷馬車を護衛する仕事らしい。
目的地までは半日ほど。
報酬は金貨三枚。
「おおっ!いいじゃないですか!」
「商隊の護衛か。荷馬車を守る仕事なら、戦闘以外にも気を配る必要があるな」
「でも、金貨三枚は魅力的よね」
サキが頷く。
「私もいいと思います。商人の方とお話しする機会もありそうですし」
アステリアも賛成してくれた。
俺は依頼書を剥がし、受付へ向かった。
「リリアさん!この依頼を受けたいんですけど!」
「おはようございます、ユウさん。今日は商隊護衛ですか?」
リリアさんは依頼書を受け取り、内容を確認した。
「ちょうど依頼主の方が、今日中に出発できる冒険者を探していたところなんです」
「それならよかったです!」
「ただし、護衛依頼は魔物を倒せば終わりというものではありません。荷物と商人の安全を守って、目的地まで送り届けることが最優先ですよ」
「はい!」
手続きが終わると、リリアさんは東門の馬車待機所を教えてくれた。
俺たちはさっそく向かうことにした。
東門の近くには何台もの荷馬車が並んでいた。
荷物を積み込む商人や馬の世話をする御者たちが、忙しそうに働いている。
その中で、一人の中年男性が帳簿を片手に荷物を確認していた。
立派な口ひげを蓄え、上等そうな茶色の上着を着ている。
「すみません!ロベルト・ヘルマンさんですか?」
俺が声をかけると、男性が顔を上げた。
「そうだが、君たちは?」
「冒険者ギルドから来ました!護衛依頼を受けたユウ・シャイニングです!」
「おお!待っていたよ!」
ロベルトさんは嬉しそうに笑った。
「いやあ、助かった!急な取引があってね、今日中に出発したかったんだが、護衛がなかなか見つからなかったんだ」
「それは大変でしたね」
「ところで、君たちは四人パーティなのかい?」
「はい!俺が勇者で、こちらが剣聖のサキ、バトルマスターのガイ、聖女のアステリアです!」
ロベルトさんの動きが止まった。
「……勇者?」
「はい!」
「本当かい?剣聖に、バトルマスター、それに聖女?」
「そうです!」
ロベルトさんは俺たちを順番に見つめた。
そして、突然笑い出した。
「はっはっは!これは驚いた!そんな豪華な顔ぶれに護衛してもらえるとは!」
「期待に応えられるよう頑張ります!」
「いやいや、こちらこそよろしく頼むよ!」
握手を交わし、俺たちは荷馬車の周囲を確認した。
荷馬車は二台。
一台目には布や衣類、二台目には薬草や魔道具の材料が積まれている。
御者はそれぞれ一人ずつで、ロベルトさんは先頭の馬車に乗るらしい。
「道中は森の近くを通るんだ。最近、あの辺りで魔物の目撃情報が増えていてね」
「どんな魔物が出るんですか?」
ガイが尋ねた。
「フォレストウルフやグラスボアが多いそうだ。ときどき大型の魔物も出るらしい」
「なるほど」
ガイが頷いた。
「それなら、前と後ろに分かれて護衛した方がよさそうだな」
「そうね。私はユウと先頭を担当するわ」
「では、私とガイさんが後方ですね」
アステリアが言った。
俺たちは配置を決め、荷物の積み込みが終わるのを待った。
やがて、二台の荷馬車がゆっくりと動き始めた。
王都の門を抜けると、目の前には広い草原が広がっていた。
青い空の下、整備された街道が遠くまで続いている。
「いやあ、いい天気ですね!」
俺は気持ちよく伸びをした。
「そうね。遺跡の中とは大違いだわ」
サキも楽しそうに周囲を眺めている。
「でも、油断は禁物よ」
「もちろんです!」
そう答えた直後、サキが俺の肩を軽く叩いた。
「じゃあ、あそこの茂みは?」
「えっ?」
俺は指差された方を見た。
街道脇の草むらが、不自然に揺れている。
次の瞬間。
ブモオオオッ!
大きな猪型の魔物が飛び出してきた。
「うわっ!?」
緑がかった毛並みと、鋭い二本の牙。
グラスボアだ!
「いきなり来ましたね!」
「ユウ、右へ!」
サキの声に従い、俺は横へ跳んだ。
グラスボアは勢いを止められず、街道を横切っていく。
「馬車に近づけさせるな!」
ガイが後方から駆けてきた。
大斧を構え、魔物の進路へ回り込む。
「おおおっ!」
ガイが大斧を振り下ろした。
ドガァンッ!
地面が大きく抉れ、グラスボアが慌てて方向を変えた。
その先にはサキが待ち構えている。
「こっちよ!」
サキは片手剣を振り抜いた。
ザシュッ!
鋭い一撃が魔物の肩を斬り裂く。
グラスボアは悲鳴を上げ、ふらついた。
「今です!」
俺は剣を構え、踏み込んだ。
そして、魔物の首元へ剣を振り下ろす。
ザンッ!
グラスボアは地面へ倒れ、そのまま動かなくなった。
「……ふう!」
俺は剣を下ろした。
「やりましたね!」
「ええ。思ったよりあっさり倒せたわ」
サキが頷く。
「馬車も無事だな」
ガイが確認する。
アステリアは御者たちの様子を見ていた。
「お怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です!」
御者が答える。
ロベルトさんも馬車から顔を出した。
「いやあ、驚いた!本当にあっという間だったね!」
「ありがとうございます!」
俺は笑顔で答えた。
そして、倒れたグラスボアへ近づいた。
「それじゃあ、戦利品を確認しましょう!」
俺たちは魔物の体を調べ始めた。
すると、魔石のほかに、立派な牙が二本と、艶のある緑色の毛皮が手に入った。
さらに、首元から小さな赤い結晶が見つかった。
「おっ!これ、何でしょう?」
俺が結晶を持ち上げると、ロベルトさんが馬車から降りてきた。
「……ちょっと見せてくれるかい?」
「はい!」
結晶を渡すと、ロベルトさんは目を細めた。
「これは……炎熱結晶じゃないか」
「炎熱結晶?」
「ああ。火属性の魔道具に使われる素材でね。グラスボアからも採れることもあるんだが、滅多に出ないんだよ」
「へえ!」
俺は感心した。
なかなか珍しい物らしい。
「しかも、牙も毛皮も状態がいい。君たちは運がいいね」
「そうなんですか?」
「もちろんさ。普通は魔石だけでも十分な戦利品なんだよ」
ロベルトさんは笑いながら結晶を返してくれた。
俺たちは戦利品を鞄へしまい、再び出発した。
しばらく進むと、街道の脇に小さな川が現れた。
澄んだ水が流れ、木々の間から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「この辺りで昼食にしようか」
ロベルトさんが提案した。
「いいですね!」
俺たちは川の近くで休憩することにした。
御者たちは馬に水を飲ませ、ロベルトさんは荷馬車から昼食用の包みを取り出した。
「護衛の皆さんも、よかったらどうぞ」
「ありがとうございます!」
包みの中には、肉と野菜を挟んだ大きなパンが入っていた。
香ばしい匂いに、思わずお腹が鳴る。
「いただきます!」
一口かじると、甘辛い肉の味が口いっぱいに広がった。
「うまっ!」
「ふふっ。そんなに美味しい?」
サキが笑った。
「はい!最高です!」
俺が夢中で食べていると、ガイが街道の向こうを見つめた。
「……ん?」
「どうしました?」
「向こうに馬車が止まっているな」
ガイが指差した先には、一台の小さな荷馬車があった。
車輪の近くに二人の男性がしゃがみ込んでいる。
どうやら何か困っているらしい。
「故障でしょうか?」
アステリアが尋ねた。
「そうかもしれませんね」
俺はパンを食べ終え、立ち上がった。
「ちょっと様子を見てきます!」
「私も行くわ」
サキがついてきた。
俺たちが近づくと、商人風の男性が顔を上げた。
「ああ、冒険者さんか!助かった!」
「どうしたんですか?」
「車輪の金具が曲がってしまってね。修理しようとしているんだが、うまくいかないんだ」
俺はしゃがみ込み、壊れた部分を覗いた。
木製の車輪を支える金具が大きく曲がっている。
「これは大変ですね……」
「そうなんだ。替えの部品もなくて困っている」
サキが金具を調べた。
「これ、無理に曲げると折れちゃいそうね」
「そうですね……」
俺たちが考えていると、ガイとアステリアもやってきた。
「何か問題があったか?」
「車輪の金具が曲がってしまったみたいなんです」
「ふむ。どれ」
ガイは大斧を地面に置き、金具を確認した。
「これなら、曲がった部分を戻せば何とかなるかもしれんな」
「本当ですか!?」
「ああ。ただ、少し力がいる」
ガイは両手で金具を掴んだ。
そして、ゆっくりと力を込める。
ギギギ……。
金具が少しずつ元の形へ戻っていく。
「おおっ!」
商人が驚いた声を上げた。
「すごい力だ!」
「もう少しだ……!」
ガイはさらに力を込めた。
すると。
バキンッ!
「……あ」
金具が折れた。
「…………」
全員が固まった。
ガイは折れた金具を両手に持ったまま、ゆっくりと顔を上げた。
「……すまん」
「ちょっとガイ!?」
サキが叫んだ。
「だから折れるって言ったじゃない!」
「いや、まさか本当に折れるとは……」
ガイは困ったように頭をかいた。
商人は口をぽかんと開けている。
……まずい。
助けるつもりが、余計に壊してしまった。
「す、すみません!」
俺は慌てて頭を下げた。
「まあ、どうせその部品はもうダメでしたし、何とかしますよ」
すると、アステリアが静かに口を開いた。
「あの、ロベルトさんの馬車に予備の金具はありませんか?」
「……あっ!」
俺は顔を上げた。
そうだ。
商隊なら修理用の道具を持っているかもしれない。
ロベルトさんは少し考え、頷いた。
「確か、車輪の補修用にいくつか金具を積んでいたはずだ。大きさが合えば使えるかもしれないね」
「本当ですか!?」
「見てみよう」
ロベルトさんは荷馬車へ戻り、道具箱を持ってきた。
中には釘や金具、縄、それに小さな工具が入っている。
サキが壊れた金具と見比べた。
「……これなら使えそう!」
「よかった!」
俺たちは協力して車輪を修理することにした。
ガイが馬車を持ち上げ、俺が車輪を支える。
サキは新しい金具を取り付け、アステリアは工具を手渡してくれた。
「ユウ、もう少し右に傾けて!」
「はい!」
「ガイ、そのまま支えていて!」
「任せろ!」
しばらくして、ようやく車輪の修理が終わった。
「……よし!」
サキが立ち上がった。
「これで大丈夫だと思うわ!」
御者が馬車を少し動かしてみる。
車輪は問題なく回った。
「おおっ!直った!」
商人が嬉しそうに叫んだ。
「本当にありがとう!助かったよ!」
「いえいえ!」
俺は笑顔で答えた。
途中で余計に壊してしまったけれど、何とか直せてよかった。
商人は何度も頭を下げ、小さな袋を差し出した。
「お礼に、これを受け取ってくれ」
「えっ?いいんですか?」
「ああ。修理を手伝ってくれたお礼だよ」
袋の中には銀貨が数枚入っていた。
「ありがとうございます!」
俺たちは礼を言い、ロベルトさんの商隊へ戻った。
そこで、俺はふと思い出した。
「あっ、そうだ!」
「どうしたんだい?」
ロベルトさんが尋ねる。
「さっきの金具、ロベルトさんの物ですよね?」
「ああ、そうだね」
「だったら、代金をお返ししないと」
俺は先ほど受け取った銀貨の袋を取り出した。
すると、ロベルトさんは笑いながら首を振った。
「ははは!いいんだよ」
「えっ?」
「困ったときはお互い様だからね。あの商人だって、無事に旅を続けられるようになったんだ。それで十分さ」
「でも……」
「それに、君たちは私の商隊を守ってくれている。これからも頼りにしているよ」
ロベルトさんはそう言って、俺の手をそっと押し戻した。
「……ありがとうございます!」
俺は頭を下げた。
なんていい人なんだ。
俺たちは再び馬車に乗り込み、交易都市へ向けて出発した。
午後になると、街道は少しずつ森へ近づいていった。
左右の木々が増え、日差しが枝葉に遮られる。
風が吹くたびに、葉がざわざわと揺れた。
「……この辺りだな」
ガイが周囲を見渡した。
「フォレストウルフが出るという場所は」
「気をつけましょう」
アステリアが杖を握り直した。
俺も剣の柄に手を添える。
しばらく進むと、森の奥から低いうなり声が聞こえてきた。
グルルルル……。
「来たわね」
サキが剣を抜いた。
茂みの中から、灰色の毛並みを持つ狼型の魔物が姿を現す。
鋭い牙。
赤く光る瞳。
その後ろから、さらに四体。
「フォレストウルフが五体!」
ガイが叫んだ。
初めに出てきたのがリーダーか。
「馬車を囲まれないようにしましょう!」
俺は剣を抜き、前へ出た。
「アステリアさん、防御をお願いします!」
「はい!」
アステリアが杖を掲げた。
「《ホーリー・バリア》!」
淡い光の障壁が馬車の周囲に広がる。
その直後、一体のフォレストウルフが飛びかかってきた。
「来た!」
俺は剣を構え、鋭い爪を受け止めた。
ガキンッ!
重い衝撃が腕へ伝わる。
狼はすぐに距離を取り、再び飛びかかろうとした。
その瞬間。
「ユウ!右よ!」
サキの声が響いた。
俺は横へ跳び、狼の攻撃をかわした。
そして、剣を振り抜く。
ザシュッ!
魔物の肩を斬り裂いた。
狼が悲鳴を上げ、地面へ倒れる。
「よし!」
俺が剣を構え直すと、別の一体が馬車へ向かって走り出した。
「させるか!」
ガイが大斧を振るう。
ドガァンッ!
狼の進路を塞ぐように地面が抉れた。
魔物が足を止めたところへ、アステリアの魔法が飛ぶ。
「《ホーリー・ショット》!」
光の弾が狼の体を貫いた。
残る三体はサキとガイが相手をしている。
「こっちよ!」
サキが素早く踏み込み、片手剣を振り抜く。
ザシュッ!
一体が倒れた。
ガイも大斧を振り回し、二体を牽制している。
「ユウ!一体頼む!」
「はい!」
俺はガイの横へ回り込んだ。
狼がこちらへ飛びかかってくる。
その瞬間、俺の左手が勝手に腰へ伸びた。
……あれ?
まさか。
俺の指先が小さな石を掴んだ。
そして、腕が勝手に振り抜かれる。
「––––流星投擲!」
慌てて俺は叫んだ。
ヒュンッ!
小石が一直線に飛んでいく。
ギャンッ!!
フォレストウルフの横っ腹に命中した。
「ユウ、やったわね!」
サキが感心したように言った。
俺は少し照れながら笑った。
……本当は勝手に体が動いただけなんだけど。
最後の一体はガイが大斧で仕留めた。
「……ふう!」
俺は剣を鞘へ収めた。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
アステリアが尋ねる。
「俺は大丈夫です!」
「私も平気よ」
「俺も問題ない」
三人が答えると、アステリアは安心したように微笑んだ。
「よかったです!」
そして、俺たちは倒れた魔物たちを調べ始めた。
すると。
「……おおっ!」
俺は思わず声を上げた。
「また結構出ましたね!」
五体のフォレストウルフから、小さな魔石が五つ。
さらに、銀色の牙が六本、灰色の毛皮が四枚。
そのうえ、青白く輝く結晶まで見つかった。
「これ、何でしょう?」
俺が結晶を持ち上げると、ロベルトさんが近づいてきた。
「……ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「その結晶、見せてもらってもいいかい?」
「もちろんです!」
ロベルトさんは結晶を受け取ると、目を大きく見開いた。
「こ、これは……氷結結晶じゃないか!」
「氷結結晶?」
「ああ!氷属性の魔道具に使われる珍しい素材だよ!フォレストウルフから採れることもあるが、これも滅多に出ないんだ!」
「へえ!」
俺は感心した。
また珍しい物が出たらしい。
「しかも、銀牙までこんなに……」
ロベルトさんは戦利品を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。
「……さっきもだったけど、君たちはいつもこんなにドロップ品が出るのかい?」
「ええ、まあ。このくらい出ますね!」
「いやいや!普通はこんなに出ないよ!」
ロベルトさんが声を上げた。
「魔石だけでも十分な戦利品なのに、銀牙や毛皮までこんなに!しかもレア素材が混ざっているなんて!」
「そんなに珍しいんですか?」
「珍しいどころじゃないよ!」
ロベルトさんは興奮した様子で説明してくれた。
どうやら、普通の冒険者は魔物を倒しても、必ずしも素材が手に入るわけではないらしい。
まして、珍しい結晶や特殊な牙が出ることはほとんどないという。
「……君たち、本当にすごいパーティなんだね」
「ありがとうございます!」
俺は笑顔で答えた。
その後も、商隊は何度か魔物に襲われた。
森を抜けたところでは、三体のグラスボアが突進してきた。
俺とガイが正面から受け止め、サキが横へ回り込んで一体ずつ仕留めた。
アステリアは馬車の周囲に《ホーリー・プロテクション》をかけ、飛び散った石や枝から御者たちを守ってくれた。
戦闘が終わると、魔石三つに牙四本、さらに上質な毛皮が二枚。
その中には、珍しい金色の牙まで混ざっていた。
「……また出たのかい!?」
ロベルトさんが驚いた声を上げた。
「はい!」
俺は嬉しそうに答えた。
さらに、交易都市が近づいた頃には、街道脇の岩場からロックリザードが二体現れた。
硬い鱗に覆われた魔物だったが、ガイの大斧が一体の足を止め、サキが隙を突いて斬り込む。
俺も剣で応戦し、最後はアステリアの《ホーリー・レイ》がもう一体を倒した。
戦利品は魔石二つ、硬質な鱗が十枚、それに銀色の小さな結晶が一つ。
「……もう何も言わないよ」
ロベルトさんは遠い目をしていた。
「えっ?」
「いや、君たちのドロップ運には驚かされっぱなしだと思ってね」
俺は笑いながら鞄を開けた。
そして、戦利品を詰め込もうとして……手が止まった。
「……あれ?」
鞄が閉まらない。
無理やり押し込もうとしても、毛皮がはみ出してしまう。
「ユウ、こっちもいっぱいよ」
サキが自分の鞄を見せた。
ガイの鞄も、アステリアの鞄も、すでに戦利品でぎっしりだった。
「……どうしましょう」
俺は困り果てた。
せっかく珍しい物が出たのに、持ち帰れないなんて。
すると、ロベルトさんが不思議そうに尋ねた。
「君たち、そんなにドロップ品があるのに、収納用の魔道具は持っていないのかい?」
「……え?」
俺は顔を上げた。
「持ってないんです。買おうと思ってるんですけど、なかなか高くて……」
「なるほどねえ」
ロベルトさんは腕を組んだ。
「それだけ戦利品が出るなら、確かに必要だろうね」
「そうなんですよ!」
俺は大きく頷いた。
「毎回、鞄がいっぱいになっちゃって!」
ロベルトさんはしばらく考え込んでいた。
そして、何かを思いついたように微笑んだ。
「……ふむ。そういうことなら」
「はい?」
「いや、何でもないよ。まずは街まで行こう」
ロベルトさんはそう言って、馬車へ戻っていった。
俺たちは首を傾げながらも、残りの戦利品を何とか分担して持つことにした。
やがて、夕暮れの空の下、交易都市ベルナードの城壁が見えてきた。
「おおっ!」
俺は目を輝かせた。
「あれがベルナードですか!」
「そうだよ。王都ほど大きくはないけれど、商人が多く集まる街なんだ」
ロベルトさんが説明してくれた。
「魔道具や珍しい素材を扱う店も多い。君たちなら、きっと楽しめると思うよ」
「それは楽しみですね!」
俺たちは門番に通行証を見せ、街の中へ入った。
大通りには商店が立ち並び、あちこちから威勢のいい呼び込みの声が聞こえてくる。
魔石灯が店先を照らし、屋台からは美味しそうな匂いが漂っていた。
「すごい賑わいですね!」
アステリアが楽しそうに辺りを見回した。
「王都とはまた違った雰囲気だな」
ガイも興味深そうに店を眺めている。
「せっかくだし、明日は少し街を見て回りたいわね」
サキが言った。
「賛成です!」
俺は元気よく頷いた。
ロベルトさんの荷物を倉庫まで送り届けると、護衛依頼は無事に完了した。
「本当に助かったよ。これは約束の報酬だ」
ロベルトさんが小さな袋を差し出した。
中には金貨が三枚入っている。
「ありがとうございます!」
俺は受け取り、仲間たちと顔を見合わせた。
これで収納用の魔道具を買う資金が少し増えた。
すると、ロベルトさんが思い出したように口を開いた。
「そうだ。君たちに一つ相談があるんだが」
「相談ですか?」
「ああ。道中で手に入れたドロップ品の中に、珍しい素材があっただろう?」
「はい!」
「実は、その中の一つを譲ってもらえないかと思ってね」
「どれですか?」
俺は鞄を開けた。
ロベルトさんが指差したのは、ロックリザードから手に入れた銀色の結晶だった。
「これですか?」
「ああ。それは銀輝結晶という素材なんだ」
「銀輝結晶?」
「魔力を安定して伝える性質があってね。精密な魔道具の部品に使われるんだよ」
「へえ!」
俺は結晶を眺めた。
小さな銀色の結晶。
確かに綺麗だけれど、そこまで特別な物には見えない。
「実はね、私が今回ベルナードへ来たのも、ある魔道具職人との取引のためなんだ」
「そうだったんですね!」
「その職人が、ちょうどこの銀輝結晶を探していてね。ところが、なかなか手に入らなくて困っていたんだよ」
ロベルトさんは嬉しそうに笑った。
「君たちが持っていると分かったときは、本当に驚いたよ」
「そうだったんですか!」
「そこで、どうだろう。私の持っている収納用の魔道具と交換してもらえないかい?」
「……え?」
俺は思わず聞き返した。
「収納用の魔道具!?」
「ああ。ちょうど一つ、取引先から仕入れた物があるんだ」
ロベルトさんは倉庫の奥へ向かい、小さな革鞄を持って戻ってきた。
茶色の丈夫そうな革で作られた、肩から提げられる鞄だ。
見た目は普通の鞄だけれど、留め具には小さな魔石が埋め込まれている。
「これが収納用の魔道具だよ」
「おおっ!」
俺は思わず身を乗り出した。
「本物ですか!?」
「もちろんさ」
ロベルトさんは笑いながら鞄を開けた。
そして、近くにあった大きな木箱を持ち上げる。
「ちょっと見ていてくれ」
ロベルトさんが木箱を鞄の口へ近づけると、箱が淡い光に包まれた。
次の瞬間。
シュンッ!
木箱が消えた。
「……ええっ!?」
俺は目を丸くした。
「消えた!?」
「ははは!中に収納されたんだよ」
ロベルトさんは鞄へ手を入れた。
すると、先ほどの木箱が再び現れた。
「この鞄は、見た目よりずっと多くの荷物を収納できるんだ」
「す、すごい……!」
俺は感動した。
これさえあれば、あの大量の戦利品を持ち歩かなくて済む!
「ただし、容量には限界があるし、生き物は入れられない。それでも、君たちの冒険には十分役立つと思うよ」
「ほ、本当にこれと交換してくれるんですか!?」
「ああ」
ロベルトさんが頷いた。
俺は手の中の銀輝結晶を見た。
そして、もう一度収納鞄を見る。
「……えっ!?でもこんな結晶一つと交換なんて……」
思わず声が大きくなった。
ロベルトさんは穏やかに笑った。
「ああ、ちょうどこれが必要だったんだけどね、なかなか手に入らなかったんだよ。これで取引も間違いなくうまくいく。だから、私にとっては十分その価値があるんだよ」
「……ロベルトさん!」
俺は感激した。
なんていい人なんだ!
「ありがとうございます!」
「いやいや、こちらこそ助かるよ」
俺は銀輝結晶をロベルトさんへ渡した。
代わりに、収納用の革鞄を受け取る。
サキが嬉しそうに覗き込んだ。
「やったじゃない、ユウ!」
「はい!」
「これで荷物の心配が減るな」
ガイも満足そうに頷いた。
「本当によかったですね!」
アステリアが微笑む。
俺はさっそく鞄を開け、今まで持っていた戦利品を入れてみた。
魔石、牙、毛皮、古代の金属片。
次々と収納されていく。
「おおおっ!」
俺は思わず歓声を上げた。
「すごい!全部入りますよ!」
「これなら、次の冒険も安心ね」
サキが笑った。
俺は収納鞄を肩から提げた。
さっきまで重たい荷物を抱えていたのが嘘みたいだ。
「……軽い!」
思わずその場でくるりと回ってしまった。
「ユウ、嬉しいのは分かるけど、転ばないでよ?」
「大丈夫です!」
俺は笑顔で答えた。
ロベルトさんも楽しそうに笑っている。
「いやあ、喜んでもらえてよかったよ」
「本当にありがとうございました!」
俺たちは改めて頭を下げた。
こうして、初めての商隊護衛依頼は無事に終了した。
報酬の金貨三枚に加え、大量の戦利品。
そして、念願だった収納用の魔道具まで手に入れることができた。
俺は肩に提げた革鞄を見下ろし、思わず笑みを浮かべた。
これからの冒険が、ますます楽しみになってきた。
いつも読んで頂きありがとうございます!
面白いと思って頂けたらコメント、評価や⭐︎を頂けると、とても喜びます。
よろしくお願い致します。




