ミルドの孫娘
今回は戦利品が山のようにあります
古代研究施設の中心部で七色の宝石がついた護符を手に入れた俺たちは、ひとまず王都へ戻ることにした。
まだ調べていない部屋はいくつか残っているものの、これ以上の探索は難しい。
何しろ、鞄の中は戦利品でいっぱいなのだ。
「うう……重たっ、肩が痛いです」
俺は鞄を背負い直しながら、情けない声を漏らした。
中には青い魔石や古代の金属片、透明な結晶、それに正体不明の護符まで入っている。
どれも貴重そうなので捨てるわけにはいかない。
ただただ、重い。
ものすごく重い。
「ユウ、大丈夫?少し持とうか?」
サキが心配そうに声をかけてくれた。
「いえ!これくらい平気ですよ!」
俺は笑顔で答えた。
勇者が仲間の女の子に荷物を持ってもらうなんて、格好がつかないからな。
その直後、背中の鞄がずり落ちた。
「ぐえっ!」
「……本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
慌てて背負い直す。
サキは少し呆れたように笑っていた。
「無理はするなよ。まだ帰り道は長いんだからな」
ガイが言った。
彼は俺の倍くらいありそうな大きな鞄を背負っているのに、平然と歩いている。
さすがバトルマスター。
筋力が違う。
「ガイさんは重くないんですか?」
「まあ、それなりには重いが……このくらいなら問題ない」
「すごいですね!」
「ははは!鍛えているからな!」
ガイは胸を張った。
俺も鍛えれば、あんなふうになれるだろうか。
いや、まずは荷物を背負って普通に歩けるようになるところからだな。
帰り道では、第一階層でアーマーラットに遭遇した。
ただし、今回は二体だけだった。
「ここは俺がやる!」
ガイが大斧を構え、前へ出る。
ところが、アーマーラットは俺たちを見るなり、急に方向を変えて逃げ始めた。
「……あれ?」
俺は首を傾げた。
「逃げちゃいましたね」
「これだけ大人数で武器を持っていたら、警戒するのも当然かもしれませんね」
アステリアが言った。
「まあ、無駄な戦いをせずに済んだならいいだろう」
ガイは大斧を下ろした。
確かに、今は戦うより早く帰りたい。
鞄が重いから。
それからしばらく歩き、ようやく遺跡の入口が見えてきた。
外へ出ると、明るい日差しが俺たちを迎えてくれた。
「はあああ……!」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「気持ちいい〜やっぱり外の空気は最高ですね!」
「ずっと地下にいたものね」
サキが気持ちよさそうに背伸びをする。
「皆さん、お疲れではありませんか?」
アステリアが俺たちを見渡した。
「必要でしたら、回復魔法を使いますよ」
「私は平気よ」
「俺も問題ない」
二人が答える。
俺も大丈夫だと言おうとしたが、肩の痛みが気になった。
「……あの、肩だけお願いしてもいいですか?」
「もちろんです!」
アステリアは優しく微笑み、杖を掲げた。
「《ヒール》!」
柔らかな光が俺の肩を包み込む。
すると、さっきまでの痛みがすっと消えていった。
「おおっ!ありがとうございます!」
「ふふっ。どういたしまして」
やっぱり聖女はすごい。
ただ、荷物そのものが軽くなるわけではないので、王都へ着く頃にはまた肩が痛くなっていた。
今度こそ、絶対に収納用の魔道具を買おう。
毎回こんなにドロップ品があるのに収納用魔導具は絶対に必要だろう。
そう心に誓った。
王都へ戻った俺たちは、冒険者ギルドへ立ち寄った。
受付には、見慣れた銀紫色の髪の女性が座っていた。
「あら、お帰りなさい!」
リリアさんだ。
「リリアさん!ただいま戻りました!」
「ふふっ。今日はちゃんと名前を覚えていてくれたのね」
「もちろんですよ!」
俺は胸を張った。
前に名前を教えてもらったばかりだからな。
ここで忘れたらなんと言われるか。
「それで、今回はどうだったんですか?第二階層まで行けましたか?」
「はい!実は、その奥にあった古代の研究施設まで入れたんです!」
「……え?」
リリアさんの手が止まった。
「研究施設?」
「そうなんです。三枚の魔導板を揃えたら、大きな扉が開きまして!」
俺が説明すると、リリアさんは驚いた表情で身を乗り出した。
「ちょっと待って下さい。それって、以前ミルドさんに見せた古代の魔導板のこと?」
「はい!」
「まさか、本当に三枚揃えたの?」
「揃えました!」
俺は鞄から三枚の魔導板を取り出して見せた。
リリアさんはしばらくそれを見つめていたが、やがて深く息を吐いた。
「……あなたたち、思っていた以上にすごいことをしているかもしれないわよ」
「そうなんですか?」
「古代の研究施設なんて、そう簡単に見つかるものじゃないもの。詳しいことが分かったら、ギルドにも報告して下さいね」
「分かりました!」
リリアさんは魔導板を返しながら、俺たちの鞄に目を向けた。
「それにしても、ずいぶん荷物が多いわね」
「戦利品がいっぱいで……」
「なるほど。だったら、まずはミルドさんのところね」
「はい!今から行くつもりです!」
「ふふっ。あのおじいさん、また文句を言いながら喜びそうね」
リリアさんは楽しそうに笑った。
確かに。
ミルドさんはいつも不機嫌そうだけれど、珍しい魔道具を見ると急に目が輝くんだよな。
俺たちはギルドを出ると、そのままミルド工房へ向かった。
王都の大通りから細い路地へ入り、見覚えのある古びた建物の前で足を止める。
扉には、相変わらず何枚もの注意書きが貼られていた。
『冷やかしお断り』
『値切り交渉お断り』
『鑑定中の質問お断り』
『店主の機嫌が悪い日は営業しません』
「ははは……相変わらずですね」
俺は苦笑した。
「最後の注意書き、いつ見ても気になるわ」
サキが言った。
「機嫌が悪い日は、どうやって判断するんだろうな」
ガイが首を傾げる。
「入ってみれば分かるんじゃないでしょうか?」
アステリアが真面目な顔で答えた。
「……それ、判断する頃には手遅れじゃないですか?」
「ぶっ、わっはっは」
俺が言うと、サキが吹き出した。
まあ、今日は珍しい戦利品がある。
きっと大丈夫だろう。
俺は扉を叩いた。
「ミルドさーん!こんにちはー!」
しばらく待つ。
返事がない。
もう一度叩こうとしたとき、扉の向こうから声が聞こえた。
「はーい!今開けます!」
……ん?
若い女の子の声だ。
ミルドさんの声じゃない。
俺たちが顔を見合わせていると、扉が開いた。
そこに立っていたのは、俺たちより少し年下に見える少女だった。
銀青色の長い髪を左右で結び、淡いラベンダー色を帯びたツインテールが肩の前へ流れている。
大きな瞳が印象的な、可愛らしい女の子だ。
白いブラウスの上に紺色のベストを着て、腰には小さな道具袋を下げていた。
「あっ、お客さんですね!いらっしゃいませ!」
少女は明るく微笑んだ。
「……あれ?」
俺は思わず店の看板を見直した。
間違いなくミルド工房だ。
「あの、ミルドさんはいらっしゃいますか?」
「はい!おじいちゃんなら奥にいますよ!」
「おじいちゃん?」
俺たちが驚いていると、少女は自分の胸に手を当てた。
「申し遅れました!私、ソフィア・クラウゼルといいます。ミルド・クラウゼルの孫です!」
「お孫さんだったんですね!」
「はい!」
ソフィアさんは元気よく頷いた。
「この工房でおじいちゃんと住んでるんです!」
少し恥ずかしそうにそう言うとアステリアが微笑んだ。
すると、工房の奥から聞き覚えのある声が響いた。
「ソフィア!誰が来たんじゃ!」
「あっ、おじいちゃん!お客さんだよ!」
「客じゃと?今日は予約など……」
奥から姿を現したミルドさんは、俺たちを見るなり眉をひそめた。
「……なんじゃ。またお前さんたちか」
「こんにちは、ミルドさん!」
「でー?今度は何を持ってきたんじゃ」
「実は、すごい物を見つけまして!」
「お前さんはいつもそれじゃな」
ミルドさんは呆れたように言った。
けれど、俺が三枚の魔導板を取り出した途端、その目つきが変わった。
「……む?」
ミルドさんが近づいてくる。
「うそじゃろ、おい。その三枚目はどうした」
「見つけました!」
「それは見れば分かるわい!どこで見つけたと聞いとるんじゃ!」
俺は遺跡の第二階層で起きた出来事を説明した。
休憩していた部屋の天井から魔導板が落ちてきたこと。
三枚を揃えると大扉が開いたこと。
その先に、古代の研究施設が残されていたこと。
ミルドさんは途中から一言も口を挟まず、真剣に聞いていた。
「……なるほどのう」
説明が終わると、ミルドさんは顎ひげを撫でた。
「三枚揃えば開くとは考えておったが、まさか本当に研究施設まで辿り着くとはな」
「おじいちゃん、古代の研究施設って?」
ソフィアさんが興味津々で尋ねた。
「以前話した、あの魔導板に記録されておった施設じゃ」
「ええっ!?あの魔導板の!?」
ソフィアさんが俺たちを見た。
「すごいです!本当に見つけたんですね!」
「はい!それで、いろいろ持って帰ってきたんです!」
俺は鞄を床へ下ろした。
ドスンッ!
重い音が響く。
「……なんじゃ、その荷物は」
「戦利品です!」
続いてガイが大きな鞄を下ろした。
サキとアステリアも、それぞれ荷物を置く。
ミルドさんは四つの鞄を見比べ、嫌そうな顔をした。
「……まさか、この量を全部鑑定しろと言うんじゃなかろうな」
「お願いします!」
「断る!」
「ええっ!?」
即答だった。
「こんな量、何時間かかると思っとるんじゃ!」
「そこを何とか!」
「嫌じゃ!」
「ミルドさんしか頼れる人がいないんです!」
「……む」
ミルドさんの眉がぴくりと動いた。
俺はさらに続けた。
「古代の研究施設から持ち帰った物なんですよ!ほかの鑑定士さんに頼んでも、分からないかもしれませんし!」
「……ふん」
ミルドさんは腕を組んだ。
「まあ、確かにその可能性はあるがのう」
「お願いします!」
しばらく黙っていたミルドさんは、やがて大きなため息をついた。
「……仕方ない。まずは見せてみい」
「ありがとうございます!」
「ただし、鑑定料はきっちりもらうぞ!」
「もちろんです!」
俺たちは早速、鞄の中身を机の上へ並べ始めた。
青い魔石。
銀色の金属片。
古代文字が刻まれた部品。
透明な結晶。
さらに、ガーディアンの残骸から取り出した特殊な魔石もある。
並べていくうちに、机がどんどん埋まっていった。
「……おい」
ミルドさんが低い声を出した。
「はい?」
「まだあるのか?」
「あります!」
「…………」
ミルドさんは額を押さえた。
「ソフィア。そこの棚から仕分け用の箱を持ってこい」
「はーい!」
ソフィアさんはすぐに棚へ向かい、木箱をいくつか運んできた。
「こちらに種類ごとに分けてください!」
「ありがとうございます!」
俺たちは彼女に教えてもらいながら、戦利品を分類した。
すると、ソフィアさんが青い魔石の一つを手に取った。
「……あれ?」
「どうしました?」
「これ、普通の魔石と少し違いますね」
ソフィアさんは机から小さな虫眼鏡のような道具を取り出した。
銀色の枠に青い水晶が嵌め込まれている。
「それは?」
「鑑定用の魔道具です!」
彼女は魔石を覗き込み、指先からわずかな魔力を流しながら、内部の構造を慎重に確かめていた。
「……うん。やっぱり」
「何か分かったんですか?」
「これは魔石というより、魔力を蓄えるための人工結晶に近いみたいです。普通の魔物から採れる物とは構造が違います」
「へえ!」
俺は感心した。
「すごいですね!」
「えへへ。まだ詳しいことまでは分からないんですけど」
ソフィアさんが照れくさそうに笑う。
すると、ミルドさんが横から手を伸ばした。
「どれ、見せてみい」
魔石を受け取り、別の鑑定器具に載せる。
ミルドさんは結晶の表面を確かめると、目を閉じて内部に残る魔力の流れを探った。
「……ふむ。ソフィアの見立てで合っとるな」
「本当!?」
「うむ。これは魔力蓄積結晶じゃ。古代の警備機構に使われていたものじゃろう」
「やった!」
ソフィアさんは嬉しそうに拳を握った。
ミルドさんは小さく頷いた。
「ただし、まだ魔力の残量と内部構造までは読み取れておらん。そこまで調べられるようになれば、もっと正確な鑑定ができるぞ」
「はい!勉強します!」
なるほど。
鑑定士って、ただ魔道具を見れば何でも分かるわけじゃないんだな。
道具の使い方や知識も必要らしい。
俺たちはその後も、ミルドさんとソフィアさんに戦利品を見てもらった。
古代文字の刻まれた金属片は、研究施設で使われていた装置の部品。
透明な結晶は、魔力の流れを安定させるための素材。
青い魔石のいくつかは、ガーディアンの動力源だったことが分かった。
「こっちは状態がいいのう。魔道具の修理にも使える」
ミルドさんは透明な結晶を光に透かした。
「それって高く売れるんですか?」
「物によるが、欲しがる職人はおるじゃろうな」
「おおっ!」
「ただし、古代の物じゃ。価値が分からん相手に安売りするでないぞ」
「分かりました!」
ソフィアさんは鑑定結果を紙に書き込み、箱ごとに札をつけていった。
おかげで、何が何だか分からなかった戦利品が、少しずつ整理されていく。
「……これ、すごく助かりますね」
俺は思わず呟いた。
「そうね。私たちだけだったら、全部まとめて鞄に入れたままだったもの」
サキが頷いた。
「しかも、どれを売っていいのか判断できないからな」
ガイも感心している。
「鑑定士さんが一緒にいてくれたら、探索もずっと楽になりそうですね」
アステリアが言った。
その言葉に、俺は大きく頷いた。
「そうなんですよ!」
そして、ミルドさんを見た。
「あの、ミルドさん!」
「なんじゃ」
「どなたか、腕のいい鑑定士さんを紹介してもらえませんか?」
「……鑑定士?」
「はい!できれば、冒険者として一緒に探索してくれる人がいいんですけど」
ミルドさんは顎ひげを撫でた。
「ふむ……そう簡単には見つからんぞ。鑑定士は工房や商会に所属している者が多いからのう」
「やっぱりそうですよね……」
「まして、お前さんたちのように危険な遺跡へ潜るとなれば、なおさらじゃ」
俺は肩を落とした。
確かに、鑑定士は前衛で戦う職業じゃない。
わざわざ魔物のいる遺跡へ同行してくれる人は少ないのかもしれない。
「まあ、知り合いに心当たりがないわけでもない。少し考えておいてやる」
「本当ですか!?」
「期待しすぎるでないぞ」
「ありがとうございます!」
俺が頭を下げると、ミルドさんは鼻を鳴らした。
その横で、ソフィアさんが俺たちをじっと見つめていた。
「……冒険者さんって、いろんな場所へ行くんですね」
「そうですね!」
「古代の遺跡とか、魔物のいる洞窟とか……」
「ええ。危険なこともありますけど、珍しい物が見つかると嬉しいですよ!」
「いいなあ……」
ソフィアさんは小さく呟いた。
その目は、机に並んだ戦利品を見ているときよりも輝いているように見えた。
「ソフィア」
ミルドさんが声をかける。
「はい!」
「そこの記録帳を持ってきてくれ。残りの部品も調べるぞ」
「あっ、はーい!」
ソフィアさんは慌てて奥の棚へ向かった。
俺はその後ろ姿を見送りながら、少し笑った。
きっと、鑑定の仕事が本当に好きなんだろうな。
それからしばらくして、ようやく大半の戦利品の鑑定が終わった。
「ふう……」
ミルドさんが椅子に腰を下ろした。
「まったく。久しぶりに骨の折れる仕事じゃったわい」
「ありがとうございました!」
「まだ終わっとらん」
「え?」
ミルドさんが俺の鞄を指差した。
「お前さん、さっきから大事そうにしまっておる物があるじゃろう」
「……あっ!」
そうだった。
一番気になっていた物を、まだ見せていなかった。
「実は、これなんです!」
俺は鞄の奥から小さな布袋を取り出した。
袋を開くと、銀色の細い鎖が姿を現す。
その先には、七色に輝く宝石が嵌め込まれた護符がついていた。
「……ほう?」
ミルドさんが身を乗り出した。
「これは……」
「研究施設の中心部にあった、水晶の箱に入っていたんです!」
俺は護符を机の上へ置いた。
七色の宝石が、室内の明かりを受けて淡く輝く。
ソフィアさんも興味津々で覗き込んだ。
「綺麗……!」
「じゃろう?」
ミルドさんは護符を手に取り、裏側を確かめた。
そして、表情を引き締める。
「……妙じゃな」
「妙?」
「なんだか普通の魔道具とは、魔力の流れ方が違うのう」
ミルドさんは護符を鑑定器具の上へ載せた。
水晶を通じて魔力を流し込み、内部の術式を調べ始める。
しかし、次の瞬間。
パチッ!
小さな火花が散った。
「わっ!?」
ソフィアさんが驚いて飛び退いた。
「おじいちゃん!?」
「騒ぐでない。故障ではないわい」
ミルドさんは目を細め、鑑定器具を調整した。
今度は慎重に魔力を流し、護符の内部に宿る複数の魔力の性質を確かめていく。
七色の宝石が、赤、緑、青、黄色と次々に輝きを変えた。
「……なんじゃ、これは」
ミルドさんが呟いた。
俺たちは顔を見合わせた。
「何か分かったんですか?」
「まだじゃ。少し黙っておれ」
ミルドさんは机の引き出しから古びた紙を取り出し、護符に刻まれた小さな文字と見比べ始めた。
しばらくして、何かに気づいたように目を見開く。
「……まさか」
「ミルドさん?」
「お前さんたち、本当にこれを研究施設の中心部で見つけたんじゃな?」
「はい!」
「ふむ……」
ミルドさんは護符を持ち上げた。
「これは《七彩の護符》と呼ばれる、古代の魔道具の一種じゃ」
「七彩の護符……?」
俺は思わず繰り返した。
「聞いたことのない名前ですね」
「無理もない。現存する物は極めて少ないからのう」
ミルドさんは護符を机へ戻した。
「この護符には、複数の属性魔力を調整し、使用者の魔力の流れを安定させる機能があるらしい」
「複数の属性……?」
アステリアが興味深そうに尋ねた。
「つまり、いろいろな魔法を使いやすくなるということですか?」
「簡単に言えば、そうじゃ。ただし、魔力そのものを増やすわけではない。属性の異なる魔法を扱う際に、魔力の乱れを抑えるための補助具じゃな」
「なるほど……」
アステリアは真剣に頷いた。
「でも、どうして七色なんでしょう?」
ソフィアさんが尋ねる。
「七つの魔力系統に対応しているからじゃろう。もっとも、今の時代の属性分類とは少し異なるようじゃがな」
ミルドさんは顎ひげを撫でた。
「詳しいことは、さらに調べてみんと分からん」
「それでも、すごい魔道具なんですね!」
俺は目を輝かせた。
「うむ。しかも、保存状態が非常によい」
ミルドさんは護符を慎重に布の上へ置いた。
「下手に売るより、持っておいた方がよいかもしれんな」
「分かりました!」
俺は頷いた。
こんな珍しい物、簡単に手放すのはもったいない。
それに、誰かの役に立つかもしれないしな。
「……ところで」
ミルドさんが俺を見た。
「お前さんたち、今後もあの遺跡へ行くつもりか?」
「はい!まだ調べていない場所もありますから!」
「そうか……」
ミルドさんは少し考え込んだ。
そして、隣で鑑定記録を整理しているソフィアさんへ視線を向ける。
「…………」
「おじいちゃん?」
「いや、何でもない」
ミルドさんは首を振った。
「今日はもう十分じゃ。鑑定結果は全部まとめておいたから、持って帰るがよい」
「ありがとうございます!」
俺たちは鑑定料を支払い、戦利品を整理し直した。
売却してもよさそうな素材と、手元に残しておく魔道具。
それぞれ別の袋へ分けてもらったおかげで、ずいぶん扱いやすくなった。
ただし、荷物が軽くなったわけではない。
「……やっぱり重いですね」
俺が鞄を持ち上げると、ソフィアさんが笑った。
「大変そうですね。気をつけて帰ってください!」
「はい!今日はありがとうございました!」
「また来てくださいね!」
「もちろんです!」
俺たちはソフィアさんに見送られ、工房をあとにした。
外へ出ると、すっかり夕方になっていた。
「いやあ、今日は収穫が多かったですね!」
俺は満足そうに笑った。
「ええ。護符の正体も分かったし、ほかの戦利品も整理できたものね」
サキが頷いた。
「それに、鑑定士の仕事がどれほど重要なのかも分かったな」
ガイが言った。
「ソフィアさんも、とても熱心な方でしたね」
アステリアが微笑んだ。
「そうですね!」
俺は頷いた。
あんなに楽しそうに鑑定する人がいるなんて、少し意外だった。
俺たちも、いつか一緒に冒険してくれる鑑定士を見つけたいものだ。
「さて!それじゃあ、今日はゆっくり休みましょう!」
「賛成!」
サキが笑った。
俺たちは宿へ向かって歩き始めた。
その頃、ミルド工房では。
「おじいちゃん、今日は珍しい物がいっぱいだったね!」
ソフィアが机を片づけながら言った。
「うむ。なかなか面白い品ばかりじゃった」
「私、もっと鑑定の勉強を頑張るね!」
「そうせい。知識だけでなく、実物を見て経験を積むことも大事じゃからな」
「うん!」
ソフィアは嬉しそうに頷いた。
ミルドはそんな孫娘を見つめ、しばらく考え込んだ。
そして、机の上に残された鑑定記録へ目を落とす。
そこには、ユウたちが持ち込んだ古代の魔道具や素材について、細かく書き込まれていた。
「……ふむ」
ミルドは小さく呟いた。
ソフィアは気づかず、楽しそうに道具を片づけている。
「おじいちゃん、明日は何を教えてくれるの?」
「そうじゃな。明日は少し難しい鑑定を教えてやろうかのう」
「本当!?やった!」
ソフィアは嬉しそうに笑った。
ミルドも小さく笑みを浮かべ、古びた鑑定書を棚へ戻した。
工房の窓から、夕日の光が差し込んでいた。
いつも読んで頂きありがとうございます!
面白いと思って頂けたらコメント、評価や⭐︎を頂けると、とても喜びます。
よろしくお願い致します。




